カタクリとシドが結婚式をしている夢を見た   作:アルビノ鮫

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水平と垂直の水面

 「カタクリ今までどこに行っていたんだ? オレは一刻も早くゾーラの里に戻りたいのだが……!」

 「何も言わずおれらがただ居なくなると問題になるだろう、だが事実を伝えた所で問題になるのは変わらないからな」

 「ゾ……それは確かにそうだな。君達にも面子があるのだろうし」

 「だからそこらを諸々お前らでフォローしろとダイフクとオーブンに頼み脅しに連絡をしてきた。面倒な奴らではあるがそこらは信頼出来る」

 「なるほど、君達は三つ子だものな」

 「後は必要な物……まァ武器とかだな。体内に入れて持ってきた、現地に着いたら渡す」

 「そ、うか。そうだな……頭に血が上っていて槍すら持っていない……そんな単純な事も想像出来ていなかった、すまない……ん、体内? そんな不可思議な事も出来るのだな。流石だゾ!」

 「………フン」

 

 

 

 *

 

 

 

 ゾーラの里からの衝撃の連絡と救済を求める声を受けて、オレら……つまり、オレとカタクリはつい先日と同じようにオクタロックの墨に染まったかのような暗がりを二人で少々急ぎながら歩いていた。

 カタクリがどれほど前に食事を終えたのかはわからない、だがオレはつい先程に食べ終えた。

 

 だからあまりに激しい運動は出来ないかもしれない……なんて弱気な事は言ってられない!

 こうしている今にもオレの大切な民達は、家臣達は、家族は苦しんでいるのかもしれないのだから!

 

 

 彼が治める島の島民達が眠りにつくのはまだ早い。家々に灯る明かりに照らされぬよう避け、人々に見付からないようにしながら裏道を進んでいく。

 オレもそれなりの体格ではあるがカタクリは更に大きい。下手な動きをすればすぐに見付かってしまい、騒ぎになってしまう。……なのに意識して立てないようにしているのだろう、足音すらろくに聞こえない。

 

 「ところでシド」

 

 夜道を進む足を心に思った衝動のままに、それでも誰にも気付かれないようにとしながら力強く一歩一歩進めていれば少し先の隣から小さな声で呼び掛けられる。

 なんだか随分久し振りに呼ばれる気がするオレの、名を。

 

 

 「お前"エターナルポース"は持ってるのか」

 「ゾ?」

 

 遥か高い位置にあるカタクリの顔を暗がりの中見上げていれば、その最中に不可思議な事を言われて疑問のままに首を傾ける。

 えた……何だって?

 

 「永久指針(エターナルポース)だ。島に戻るなら必要だろう。それともその服やアクセサリーのどれかにビブルカードでもいれてるのか」

 「………えっ、と……?」

 

 ……何を言われているのかよくわからない。オレの知らない単語ばかりだ。

 

 

 カタクリの言っている意味が解らず、言葉も返せずオレはただポカンと口を開けるしか出来なかった。それはきっとあまりにも間抜けな顔だったに違いない。

 訊ねたというのに返事のないオレに苛立ったのか、不機嫌な顔でオレを見下ろしてきたカタクリの顔がなんとも言えない表情で固まり追撃の言葉を掛けられなかったのだから。

 

 見合い立ち止まること十数秒、その間彼から言われた事を考え続けていたが結論は出なかった。

 とりあえず……うむ、何を言われたのか解らないが何となく、本当に何となくだが本当に帰省出来るのかを訊ねられた事だけは解ったから答えよう。

 

 「島に戻るのは普通に出来るゾ?」

 「……どうやって解るんだ」

 「どう……と言われても。普通にあっちにあるなーと解るから……ただ泳いで戻れば良いだけじゃないか?」

 

 カタクリが眉を寄せ訊ねて来たそれに当たり前にゾーラの里がある方向を指差しながら答える。

 

 それは胸の奥底、心臓でも浮き袋でもないもっと奥底に感じるもの。水の中では到底感じれないフツフツと沸き立つような熱い衝動を。その方向に我が故郷、ゾーラの里はある。

 ……それは……そう、理屈ではない本能で感じるとしか言いようがない。確実に言えるのは彼の言う……島に戻る必要なモノは、オレには必要ない。

 

 「ふむ、帰巣本能みたいなものか?……鮭みてェだな」

 「サーモンではない、ゾーラだゾ!」

 

 ヒトサマを随分な言い分で吐き捨て再び歩きだした彼の背を追い掛けその背に呼び掛ける。

 カタクリとて本気でオレの事をサーモンと思っている訳ではないだろう、オレは赤身に見せ掛けた白身の魚ではない。ゾーラなのだから。

 ……そうだ。サーモン……サーモンか。あの大きく立派なサーモンを、食べたい。それはオレ一人ではなく。

 

 

 「カタクリ!」

 「ん」

 「ウチの里近くの川にはマックスサーモンという魚がいるのだゾ、それは美しく澄んだ川にしかいない魚なんだ」

 「……ん?」

 

 前を歩いていた彼の前に飛び出し脳内に浮かぶその情景の衝動のままに語る。鮮やかな紅色を持つそのマックスサーモンが脳の奥底から勢い良く泳ぐように浮かんでくる。

 

 語っている内にその景色が脳内に浮かんでくる。川底の砂粒すらも見えるほど澄んだ清流。そのなめらかな水が岩粒に張り付いた苔を撫でるように流れ続き、その源流がある場所には塗れて輝く石で作られた場所。

 滑らかな石。鮮やかに彫られた造形。夜の闇を薄らと照らす淡い翠色。

 

 ……それはどんなものにも何にも決して変わりにならずかえがたい、我が愛しき故郷。

 それを守る為なら、オレは。

 

 

 「とても美味しいアレを君にも食べて欲しい、その為にも……改めてお願いだゾ。力を、貸して欲しい」

 

 その故郷を滅ぼさんとした海賊の身内にだって頭を下げるのを躊躇しない。あの愛しき場所を守り抜けるなら高々オレの体一つ、命一つで守り抜けるならいくらでもなんでも、どんな事でもしてやる。

 

 夜が更け島民達の家々を照らす灯りがあるとはいえ離れてしまえば彼の顔の細かな変化を見るのは難しい。

 元々身長はそれなりに離れていて、何より今のオレは腰を折り曲げ映す視界には整備された地面だけしかないのだから。

 

 だから、彼が今どんな表情をしているのかは解らなかった。軽蔑なのか無なのか、はたまた少しくらい持ってくれていただろう友情を壊す程の失望なのか。

 

 

 「……。……いいから行くぞ、半日くらいかかるんだろう」

 

 なのに彼は数秒の沈黙の後あっさりと、オレの脇をすり抜けるよう歩き出した。

 下げたオレの頭を、愚か者を嘲るよう押さえ付けるように触れる事もせずすれ違いざまに軽く肩ヒレを押してきただけ。

 

 ……それはまるで"頭を下げる"……そんな事をする暇があるなら、ただただ前に進めと言わんばかりの……

 

 

 ……、……これは良いのに、良くない気がする。仲良くなれているように感じる、それは良い事だ。良い事の筈だ。

 だがこの反応すらも彼らの計算の内だとしたら……いや、考えるのは後にしよう。とにかく今は。

 

 

 「そうだな! 早く行かねばな!」

 

 再び彼の背を追いかけ、そのまま横に並び歩き始める。

 そうして数日前に全く同じような事をしたように、闇の中を彼に導かれるまま進み磯の香りを全身に纏いながら海を固める水飴の上を渡り案外緩やかな波打ち際へと辿り着いた。

 

 一寸先(イチヒレさき)すら録に見えない人工の灯りが何も無い空間。パチパチと音を鳴らし熱さを感じる薪も松明も、心を安らげる夜光石の淡い光も何も無く空から照らす無数の瞬きが辺りを照らしただただザザン、ザザン、と波が水飴の縁を打ち付ける音だけが響いている。

 

 

 里にいれば滅多に聞く事の無い海特有の音を耳に馴染ませながら、服に手を掛ける。

 今からラネール島まで泳いで帰るんだ、邪魔でしかないそれを脱ぎ捨て畳む事はしなくとも軽くまとめそこらに置く。隣でカタクリが何事かと驚いているような気配がする。

 

 そのまま足を踏み込み勢いを付け墨を溶かしたような空と海に飛び込もうと構えて……僅かにしゃがんだその体勢のまま固まる。

 ……そういえば彼、カタクリは泳げないと言っていた。泳げない彼をオレの背に乗せるのは確定として……どうやって乗せれば良いのだろう?

 

 「……カタクリ、今から少し先に飛び込んで海の中で待つからオレの所まで泳いでこれるか?」

 「無理だ」

 「あ、海の中と言っても海面で待つゾ? 何も海中に泳いで来いという訳ではなく少しの水面を……」

 「無理だ。おれら能力者は一定の水量に触れた途端瞬時に力が抜ける、そして醜く足掻いた後沈むだけだ」

 「ゾ!? ……そ、そこまでなのか……」

 

 勢い良く飛び込んで多少そこら一帯を体をほぐす為に泳いで待とうかと思っていたが、どうやらそれは無理なようだ。

 彼の持つ不思議な力、泳げなくなる変わりに手にしたそれは想定以上に辛い誓約をかけられているらしい。ほんの少しすらも泳げないなんて……ああ、父上本当に申し訳ない。

 同情をするなと言われた言葉を守れそうにない。

 

 

 恨みと恐慌と狡猾さの認識しかない彼の母親と違い、何日も共に過ごし対話を重ねてオレは彼を深く知ってしまった彼に対し……到底フラットな目線で見る事が出来なくなっている。

 

 

 泳げない彼が、それなのにオレの背に乗り海を渡る事を決めオレを全面的に信頼する彼を……今さらどうやって突き放せというのか。

 

 

 「ふむ、了解したゾ! では少し泳いで体をほぐしてくる、そしてまたここに戻ってくるから背に乗ってくれ!」

 「ああ、解った」

 

 彼にそう告げてから、止めていた体勢を動かし身体中の筋肉を動かしバネを跳ねさせるように伸ばしてまるで羽根が生えたかの如く高くに飛び上がる。

 

 

 そして重さと重力に任せ頭から水面に飛び込み、勢いのまま音もなく深くまで潜り込む。

 

 真っ暗な水中は何も見えず、耳の奥にまで響くのはコポポポと飛び込んだ事で産まれた細かな泡沫が弾ける音だけしかない静かな世界。

 口から、脇腹のエラから体に残っていた空気の泡を吐き出しそのまま深く深く星の光が届かない深さまで体をしならせながら泳ぎ潜っていく。

 

 海底近くの深くまで潜れば身体全体を包む込むような冷たさが襲ってくる。その冷ややかさに細かく震える鮫肌が全身を走ったのを感じた後、何よりも勢い良く上を目指して泳ぎ出す。

 勢いを止める事なく走り抜け、海面へと飛び出して表面の鱗に付いていた水を飛ばす。そして再び水面へと飛び込み、軽くターンをしてカタクリがいる場所へと戻る。

 

 

 「すまない待たせたな!」

 

 飴の縁に立つカタクリを見上げて声をかける。背の高い彼と、水面と水平に重なるオレからの目線を目を合わせれる角度まで上げるのは本当に一苦労だった。

 ……そういえばヒトは服を着るのが礼儀なのだから、なにも着ていない今のオレに触れるのは嫌なのではないだろうか。だから先程脱いだ時彼は驚いていた? もしやそれが理由で乗るのを躊躇したり……

 

 なのにカタクリはオレのそんな頑張りを杞憂や露知らずとばかりに一蹴し、腕を白くモチモチとした物に変化させオレの体の数ヵ所を決して離さないよう掴んできた後。

 

 「行くぞ」

 

 ぐるりと巻き付けるように絡ませ、飴の地を蹴りオレの背に跨がるよう飛び乗ってくる。

 一瞬衝撃と体重の負荷に僅かに沈むも、すぐに浮上する。沈んだと言ってもカタクリの腰から胸辺りまでだろう、対した深さじゃない……筈。今は膝下辺りだろうし……でも気を付けねばならないな。

 

 「ん……では! 行くゾ!」

 

 ズシリと感じる彼の重さに改めて気を引き締め、気合いを入れて大声を出して水面を蹴り暗闇へと勢いを付け泳ぎ始める。

 

 

 さて、行こう。戻ろう。我が故郷を守る為に。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 周りに何もない海のど真ん中を割るように。

 ざざざ、ざざざとオレとカタクリに打ち付ける規則的な波の音が響く中泳いで泳いで、ただひたすらに泳ぎ続けて進んでいた。

 

 夜空一面を埋め尽くすような輝き美しい満点の星空しかない夜空を時折見上げながらラネール島に向かってオレは泳ぎ続ける、こちらの方向で間違いないという説明の出来ない確信を何よりも力の限りに。

 少し前に故郷を出てから徐々に弱りボロボロになった体に鞭を打ち、この後の事など何も考えず全速力で全てを置き去りにする速さで泳ぐ。

 

 船も人も何者でもどんなものでも引き剥がし追い付けない程の速さで進む存在にオレはなっていた、それでもオレらを餌として狙ってくる海洋生物もいる。

 進む進路の先で大口を開け待ち構えるような大胆な奴も、偶然に近くに通りすがり者を襲わんとする奴も……オレは泳ぎ進む事だけに集中するように全てカタクリが対処してくれていた。

 

 

 ぱぁん、と通り過ぎた遥か後ろで爽快な音が鳴る。

 遅れる音のそれはオレの泳ぎにも彼の動きにも追い付いていないのだろう。

 

 背負ぎ泳ぎ続けているから具体的に彼が何をしているのかは解っていない。見えていないのだから。

 

 

 オレに解るのは襲いかかってくる海洋生物達が一瞬にして弾け、吹き飛び、障害物としての体を成さなくなる事。

 そしてただひたすら泳ぎ続けたその航海が彼の行動により何事も無く進めて来れた事だけ。

 

 

 それでも産まれ育った場所の清水から離れて衰弱していたオレの体は、猛スピードで数時間夜通し泳ぎ続けるだけで更にボロボロになっていった。

 

 それでもオレの体は動き、進んでいた。それはひとえに里を、一族を、家族を思う精神力だけだったのかもしれない。

 

 

 

 そうして彼の統治する島を出て、全てを飲み込むような暗闇に飛び込みかき分け続けて数時間。

 海を割り一面を輝かせ夜光を散りばめたように辺りを、水平線を一文字に照らす朝日が顔を覗かせ始めた宵の時、オレは辿り着いた。

 

 

 我が故郷、ゾーラの里があるラネール島へ。

 

 眩しくて堪らないほどの灯りを持つ太陽を背に纏い、陽光に照らされこの上ない美しさを持つ島へ。

 

 

 

 「……何だこの島は……いや、島なのかここは……?」

 

 島の全景が太陽光で照らされ、カタクリにも見えたのだろう。困惑しているかのような小さな声が聞こえた。

 

 

 それは波打つ海の上に降り注ぐ滝のように膨大な柱にしか見えない程の水の量、それが遥か上空の空からひたすらに降り注いでいる。

 高所から落ちてきた筈の水は海面に落ちた瞬間弾け爆発するような反応をしてもおかしくはないというのに、その水はまるで海に溶け込むかのように当たり前のように静かに馴染んでいる。

 

 

 彼が不思議に思うのも無理はない、見える限りの高さに土地はなく今いる下からでは流るる膨大な水だけしか見えないだろう。

 

 

 この数時間で背にいる事にすっかり慣れてしまった彼が発した言葉に何の違和感も無くオレは聞き入れ頷いた。

 

 「そうだ! ここがオレの故郷、ラネール島だゾ」

 「これが島?……いやそうか、どう見ても水柱にしか見えないがこの上に島があるんだな。確かにそうだ、この流れ落ちる水の量が湧く理由など不可思議でしかないが……そう言うなら、そうなのだろうな」

 

 背で彼が遥か上を見上げて戸惑いつつ事実を飲み込んでいるのを身動ぎでの僅かな感覚で感じる。確かに今現在見えるのは、遥か上空からただひたすらに流れる水の流れだけで島の姿の影形も無い。

 そんな訳がないと吐き捨てる事も出来るのに信じてくれるらしい。

 

 オレの発言は全て信頼するとの事なのか、数時間泳ぎ続けて辿り着いた場所についてワザワザ嘘をつく訳がないという色んな可能性を考えた上での発言なのかはわからないが……

 

 「ん! そうだ! この流れる水の沸き出る場所にオレの故郷、ゾーラの里があるのだゾ!」

 「どうやって上がるんだ」

 「オレらゾーラ族ならただ泳いで上がれるな、ただそれは子供ゾーラにはちょっと厳しい。だから外海へ出て一人で戻ってこれたら、一人前の大人になったと島に認められた証だと言われているのだゾ」

 「島に、ねェ……まァウチみてェなやり方で入るのがイレギュラーな訳だ」

 「そういえば君たちは奇妙なやり方で出て行ったな。あれは入る時も同じなのか」

 

 今の問題が入ってきた方法も謎だが、カタクリ達が島に入って来たのも同様に謎ではあったがたった今あっさりと明かされた。

 あの不思議なオクタロックのような生き物がナニモノなのかはペロスペローは教えてくれなかったが……彼が言っていたように、オレが疑問を聞くに相応しい相手であるカタクリに後で聞いてみよう。

 全て終わった、後で。

 

 そしてオレもまだ今の膝元くらいしか身長がなく小さかった時、姉さんと共にこうして外海に出て島へと戻れるか挑戦したものだ。結果はまぁ……言わずもがなというやつだな。

 幾度となく姉さんの背に持つ槍に捕まり連れて帰って貰った思い出がある。

 

 

 今は、違う。

 

 あの頃の自分を肩に軽々乗せれる程オレは大きく成長した。オレより遥かに大きなカタクリを背に乗せたまま滝登りが出来る程に。

 

 「ではカタクリ、今からオレはこの水の流れに逆らい、時には乗り頂上まで一気に登る。君は決してオレから離れ落ちないよう掴まっててくれ」

 「あァ、わかった。力は抜けるだろうが……精励する」

 「勿論オレも振り落とさないようにするゾ! では……」

 

 弱った体で泳ぎ続けて数時間、これから一番の難所といえる場所を登らねばならない。

 それもオレ一人ではなく多量の水に触れるだけでアウトというカタクリを背負ったまま。だがこれで最後ではない、登って終わりではなく寧ろ登ってからが本番と言っても良い。

 

 気合いを入れるため一度深くまで潜り、全身どっぷりと海水に浸けて潜水して休憩したいがそれは駄目だ。

 泳げないのは当然としてもカタクリはエラ呼吸が出来ない。せめてゾーラの衣服を身に付けていたなら、水中での……まぁそれでも泳げないという彼にとっては苦痛になってしまうか。少しは楽ではあるんじゃないかと思うが。

 

 「力を込めろ! 行くゾッ!!」

 

 まあ無いものを嘆いても仕方ない、水面を蹴り飛び跳ねた後、頭から水中に潜り息を思い切り吸い込む。そして水中を固い岩盤のように思いっきり蹴りあげて勢いをつけ、上から落ちてくる水に飛び込み駆け登っていく。

 

 バチャンバチャンと水を掻き分け、跳び跳ねさせて進む。

 

 落ちる水を登るにはオレがほぼ全身を水に浸かるしかない。だから必然的に背にいるカタクリの触れる水の量も増える。

 今まで膝下だけだった触れる量が格段に増えているが、だが頑張って耐えてくれとしか言えない。途中で止めて戻れば辛いのはオレではなくカタクリなのだから。

 

 まともに受け止めれば遥か上空から落ちてくる強烈な水圧に体が軋むような痛みや衝撃を感じ、例え自走型の船で無理矢理に上がろうとしてもバラバラに崩れ壊れるだろう。

 それをオレらゾーラ族は水の流れに逆らわず流れに身を任せ、それと同時に水を掻き分ける事で突き進める。

 当然だ、我らは水の民であるゾーラ族! 水を生み出し操り、切っても切り離せない絆を作る種族!この程度の水に負けはしない!

 

 

 「お、い……まだ、か」

 「もう少しだ!  頑張れ、もうすぐだゾ!!」

 

 だが背に乗るカタクリはゾーラではない、ニンゲンだ。声が震えているように聞こえるのは気のせいではない筈だ。

 それもそうだろう、ひんやり冷たく心地良いこれは彼にとっては劇物にもなり得るもの。不思議な力を得た代償に多量の水に長時間触れるのは駄目だというのだから。

 

 滝のような水の流れに抗う事無く、むしろその水に乗って滑るように泳ぎ続けてはいるがそれでも彼にとっては負担なのだろう。

 落ちないようにと言った時からガッチリとオレの胴に絡まり掴んでいた力強い腕から力が抜けていくのがわかる。時折跳び跳ねて、水面から離れはするもののその短い時間では足りないのだろう。

 

 「この先にある難関さえ抜ければもうすぐだ、堪えてくれ! 大丈夫、必ずオレは君を里に連れて行く!」

 「……あ、あ。わかっ……難関?」

 「返しがあるんだゾ! 水が流れ落ちてるこの先に、下からの侵入者を阻むかのようなものがッ!!」

 「な……」

 

 今のオレの全力のスピードで進んでいればそれは案外早くに見えてきた。霧のような細かな水とボタボタと落ちる多量の水が増えてきたから近いだろうとは思っていたが。

 

 

 大量に降り注ぐ水柱の途中、本当に何が合図というわけでもない場所にそれはある。

 

 それはウォーターカッターのように勢いよく外側に吹き出し反り返っている返しの水、表面は上向きでも中は混沌と渦巻くそれは好奇心で登ってくる生き物をここで全て脱落させんとばかりのもの。

 水の流れはここで一旦外へと吹き出し途切れるものと下に降り注ぐものと分かれる。だからこそ今までのただ水の流れに乗り逆らう単純な技術だけで来た者ではここで弾き出される。

 

 そしてこれがあるから水を登らずに上がるには何もない所から空を飛んでくるぐらいしか思い付かない……正直あのオクタロックも結構怪しいと思っている。

 降りるならともかく上がるには下から吹き上げる風も無く、時折上から吹き付ける風などをどう対処しているのだろう。

 

 今ゾーラの里を攻めてきたという敵はどうやって侵入してきたのだろう。

 

 

 ……まぁ良い。それはこんな状況で考える事ではない。とにかくその厄介なそれが、もう、目の前に迫っているのだから。

 

 「……!!」

 「カタクリ、大きく息を吸ってしっかりオレにしがみついているんだゾ!! 絶対に離すな!!!」

 

 困惑なのか呆気に取られているのかそれとも力が抜けきり声を出す余裕も無いのか、後ろでカタクリが返事もなく体を固くさせていた。それでもオレの声に答えるようにここ数時間で一番強く体を掴まれた。

 

 

 更に加速し今のオレの全速力で水面へと突っ込む。勿論どこでも良い訳ではなくちゃんと入り込める流れを見極めて。

 

 殴られたような強い衝撃と体を切りつけてくるような鋭さの流れに乗り、外側へと向かう水流の下面の表面をなぞるかのように泳ぐ。

 もし今外から誰かに見られるなら水で出来た天井を泳いでいるように見えるかもしれない。

 

 「…………」

 

 水の流れに完全に乗る為、オレだけでなくカタクリの頭まで完全に水中の中に潜った為だろう。カタクリの体から完全に力が抜けて、掴んでいる感触すらもはや無くなりかけている。

 オレの背から離れそうになる前に腕を伸ばし掴み、胸元の方へ抱え込むように移動させる。

 

 正直背に乗せていた時と水の流れが変わり、抱え泳ぐのは辛いものがある。

 だが不得意な場で、水の中で呼吸さえも出来ないというのに極限まで頑張ってくれたカタクリの頑張りに応えるようにオレも頑張らねば。

 

 

 そしてカタクリを抱えた体勢のまま外側へと弾き出される前、水流の流れが弱く薄くなったウォーターカッターの内部に突入し……そのまま突き抜け通り過ぎた。

 

 ざぱぁん、と空中へと跳び跳ねて水飛沫を辺り一面へと飛ばす。

 ああ、朝日に照らされキラキラと反射するラネールの透き通る水はなんて美しいのだろう。

 

 

 背に乗せていた時と違い、胸元に抱えたままではずっと水の中に浸けてしまう事になる。そうならないように何度も何度も流れ落ちる水柱を登りながら跳び跳ねて、空中へと飛び出す。

 その一瞬で呼吸が出来ていたかはわからないが、何もしないよりはマシだろうと。

 

 

 そうする事時間にして一分と少し、そうしてようやく。

 水面を蹴り飛ばし弾けるような水音と共に。

 

 

 「抜けた!! 到着したゾ!」

 「………ぐ、ぅ……」

 

 垂直へと流れ始める為にか相当の速さの流れの水を飛び出し、高々と空に向かって飛び上がったあと水面でない場所へと着地する。流るる水面近くにある短めの草と小さな小石が転がる地面へと。

 

 そうしてオレ達……オレとカタクリはやっとの事で辿り着いた。

 我が故郷、何よりも大切である家族や一族、そしてゾーラの里があるラネール島へ。

 

 

 「……、…はぁっ、はぁ……は、ぁ……!」

 

 胸元に抱えていたカタクリの頭を離し、そこら辺の地面に転がす。

 当初転がしたままの体勢の横向きで咳き込んでいたカタクリが大きく息を吸った後、一瞬動きを止め、そして口元の布地を乱雑に剥ぎ取った後仰向けに寝転がり上を向いた体勢で大きく何度も咳き込んだ。

 

 ……背を、地面につけたまま。………。

 

 

 「……カタクリ、着いたゾ。お疲れ様だ」

 「……ああ。お前、こそ……」

 

 頭によぎったそれを口に出さず、オレは彼へと言葉をかけた。

 膝立ち状態だった体を起こそうと足を持ち上げようとするがぷるぷると痙攣しているかのようで上手く動かない。どうやら弱った体に鞭を打ち一晩中泳ぎ動かし続けた挙げ句、この遥か上空まで泳いだ疲れのツケは歩く力を振り絞る事さえ出来ない程奪ってしまったようだ。

 

 仕方なくペタンと地面に座り込んだまま腕を使ってズリズリとカタクリに近付く。近寄ってきたオレの気配か音か、彼は片目だけを開きオレの姿を確認した後目を閉じ返事を返してきた。

 

 

 さらさらと風がオレの体を撫でていく。ゾーラの吸収力の良い体の表面に水滴はもうついていないが、流石のラネール島。

 濡れていない体でさえわかる程、ここの風は外海よりひんやり冷たかった。

 

 水を吸収せず弾きもしないニンゲンであるカタクリは身に付けた衣服は頭部にある毛並みさえぐっしょり濡らしたまま地面に転がっている。ちょっと寒そうだな。

 そして大きく長く息を吐いた、かと思うと腹筋の力だけで反動もつけず上半身を起こして口元に巻いていた布地を取り払い強く強く絞り始めた。

 

 彼が腕を動かす度にたっぷり吸い込んでいる布からボタボタと水が地面へと落ちていく。

 その止まらない流れを何気なく目で追っていればふと、カタクリが顔を上げて視線を遠くへと向けているのに気付いた。

 

 その視線の先を辿れば……ああ、なるほど。

 

 

 「美しいだろう?」

 「……ああ。これは、凄いな」

 「うん、そうだろう。この景色……これを見ずにラネール島を語るなど出来ないんだゾ」

 

 そう言いながらカタクリと共に真っ直ぐの視線で見つめたのは、視界一面に広がる美しい蒼の世界だった。

 

 外からの驚異から覆い囲むようにそびえ立つ高い山々。そこからの段々となるなめらかな岩肌とその表面や谷間を流れ落ちる水飛沫。外海にいるより近くに思える空と、遥か下……本当に遥かに遠くにある海が混ざったような色をしている水面。

 

 そこには空と海の境目すらも無く、そこに流れる透き通る何よりも清らかな水が海から上がり登ってきている朝日の光でキラキラと輝いている。

 こんこんと高い場所から落ち、ゆっくりとした坂を流れ進む水音はぱちゃりぴちゃり、ころりぴちょり、と心地好く鳴っている。

 

 夜明けから間もないそこは、夜の帳すらも輝かす薄らとした蒼緑に輝き跳ねる水飛沫の霧と共に幻想的としかいいようのない景色を作り上げていた。

 

 

 これが、オレがずっと見たかったモノ。懐かしき故郷の景色。

 そして、オレの全てを賭けてでも守らねばならないモノ。

 

 

 「……さて! 里に早く戻らねばな! こっちだゾ……っと!?」

 

 いつまでも懐かしき故郷の景色を見ながら休んでいたいがそうもいかない、オレは守る為に帰ってきたのだから。

 走り駆け出そうと立ち上がろうとしたというのに、足は上手く動かず崩れ落ちそのまま前のめりに倒れかけて慌てて肘をつく。ザリッ、と肘のヒレが地面の草と土に擦れた。

 

 ……どうやらオレは、思っていた以上に体力を消耗しているらしい。足の痙攣が収まったような気がしたから動こうとしたのに、動かそうとしてもどうにも上手くいっていない。

 ああなんて事だ情けない。感情と勢いでは、限界を迎えた体はもう動かないなんて。

 

 

 「……泳ぎすぎて動けないのか」

 「動けなくはない! ただちょっと……まだ体が言う事を聞かないだけだゾ!」

 「何の見栄だ」

 

 首筋の布や上半身の服を絞り終わった後バサバサと扇ぎ、足先の布を絞ってから靴を脱いで中の水を出していたカタクリ。

 一応満足するまで水を切れたのだろう。衣類を身に付け立ち上がってから道端に落ちている小石を拾うかのように左手でオレを小脇に抱え持った。

 

 

 「……え…!?」

 

 あまりにそのあっさりとした行動に一瞬反応が遅れてしまった。目線が立ち上がったいつものオレよりも高くなり、その慣れない高さに戸惑いながら彼を見上げる。

 

 「回復を待つ気はない、お前の足に合わせるよりおれのみが進む方が速いしお前もそれを望むだろう? そのままで目的場所まで案内だけしてろ」

 「あ……ああ。すまない、ありがとう……そ、そこの上り坂を上がって左側の岩肌が出っ張っている崖壁を斜め右だゾ!」

 「わかった」

 

 カタクリはまるで重さを感じさせない程軽々とオレを抱え持ち、そして戸惑いながらも言葉を続けたオレの示した道の先へと跳ぶように走り、足を進めた。

 彼の身体能力が優れているのは槍で鍛練をしあったオレは良ぉーく知っている。高い身長に見合う筋肉を持ち更に素晴らしい瞬発力や洞察力を持っているのだから。

 

 しかし本当に速い、よく知る道中が見えたかと思えば案内間もなくすぐに後方へと過ぎ去っていく。まるでリト族の戦士が放った凄まじい速度の矢のようだ。光陰矢の如し、とはこういう事なのだろうか……恐らく違うな。

 小脇に抱えられこんな荷物かのように彼に運ばれるのは少々恥ずかしいものもあるが、それよりも速く里へと着くのが優先事項だ。情けない感情は押し殺しありがたく移動を任せる事にする。

 

 

 つむじ風のように進むカタクリなのに木々や飛び出た岩肌にぶつかる事は無くスイスイと進んでいく。

 そして遠くに魔物の姿が見えたと思えば、その姿は一瞬で近付き、それが青色のリザルフォスだと判断出来る間もなくいつの間にかその姿を見失う事になる。

 

 顔を慌てて後方へと向ければ無残にも転がる角。そしてオレを抱え持たない左腕にはいつの間に持ったのか長い長い槍を掴んで持っていた。正に目にも止まらない早さで討ち取ったのだろう。

 ……うん、本当に凄いな。速度や力強さや当然だが、何よりも決断力と行動力と躊躇の無さが。何せ初めて見る存在だろうに一切の迷いもなく手に掛けて……

 

 ああそうか。それが、彼ら"海賊"という存在だ。忘れないようにしなければならないのに、つい忘れてしまう。

 それもこれも他でもない、カタクリだからだな。

 

 

 とにかくカタクリの足のとんでもない速度に、島の端から里まで陸を行くルートでは間違いなくオレの人生で過去最速の速さで到着する。

 そう思った時だった。

 

 「ッ!」

 

 あと少し、あと数個切り立った崖を迂回して下る道を降りて行けば到着するという時にソイツは現れた。

 遠くまだ先にある崖の向こうから顔を覗かせたそれは大きな魔物。額にある長い角はうねり鋭く、ルッタのように伸びた鼻先を震わせ、長い槍を持った手を大きく唸らせ歩いているそれはモリブリンと呼ばれる存在。

 それもただのモリブリンではない、黒い体に黄緑色の明かりを灯したあれは……

 

 

 「……雷のモリブリン!!!」

 

 我ら水棲の水の民、ゾーラ族には天敵である電気を纏った魔物。

 

 

 「……何だ?」

 「あそこにいる奴だ! 自らの体内で電気を発生させ、表面に纏いながら襲ってくる厄介な魔物だゾ! 貴金属の武器や身に付けていれば更に危険で……あっ、駄目だ、その手に持つ槍で攻撃しては感電してしまうゾ!」

 

 電気を身に纏うモリブリンがもう少し先に立ち塞がっている、それも……ああっ、おまけとばかりにエレクキースを複数匹従えている。

 カタクリもオレの過剰とも言える反応に妙だと気付いたようで勢い良かったスピードを徐々に緩め、ゆっくりとそれに近付き……そして一定の距離で立ち止まった。

 

 「雷……悪魔の実では無いだろうが、どういう仕組みだ」

 「どういうと聞かれてもそういう生物としか言いようがない、貴金属は感電してしまうから気を付け……んんっ!?」

 

 雷の力を持つあやつらと戦うのならば前もっての準備や心構えは必要だ。オレはカタクリの小脇に抱えられた体勢から抜け出そうとジタバタするも、彼の力が強くて全く抜け出せ気がしない。

 まるで丸太のように太い腕から出れたのはオレが頑張ったからではなく、カタクリが離しオレを地面に置いたから。

 

 そして、貴金属では攻撃出来ないと言った瞬間だと言うのに手に持っていた槍をオレに投げ渡してきた。それも、ちょっとだけ仮に持っておいてという振る舞いではなく……邪魔だから持っておけと言わんばかりに少しだけ乱暴に。

 慌てて槍を受け取り彼を見上げる。カタクリはオレの方を一切見ず真っ正面に立つ雷のモリブリンを睨み付けていた。

 

 

 「カ……タクリ、戦るつもりなのだな。それならばオレも一緒に……いや、オレがやるから君は……」

 「戦う、そのつもりだ。だが手を借りる気はないし苦手だというお前がいると邪魔で足手まといだ、先に行け」

 

 カタクリから渡された槍を構え、カタクリと共に並びモリブリン相手に構えようとした瞬間あっさりと梯子を外され少々乱暴に背を押され、放り出される。

 予想外なそれに一歩二歩、気が抜け転ばないよう歩みを進め、水溜まりとその水が土に染み込み抜かるんだ泥を踏み締め止まる。

 

 再度カタクリの顔を見上げれば顔は一切モリブリンから動かさないまま、視線だけをオレに向けていた。

 目が合う。……違う。近くに電気の魔物がいるからと油断して痺れてはいけない、気を引き締めねば。

 

 

 「カタ……クリ。行け、とは……し、かしだなモリブリンは手強い相手で二人でやれば……」

 「何度も言わせるな邪魔だ、早く行け。……お前の気配はもう覚えた。すぐに追い付く。行け」

 

 食い下がろうとしたオレの首根っこを掴み少々乱暴にまるで小石でも投げ捨てるかのように正面に向かって放り投げたカタクリ。雷のモリブリンの遥か上空を越える高さで。

 

 

 何をされた? なぜオレは水中から飛び出した訳でもないのに空を飛んでいる。

 

 予想外のその行動に何にも触れれないというのに、手をバタバタと動かす。

 上向きだった角度が下向きに変わった時に遅まきながら慌てて現状把握をして空中でくるくると回転して地面に足から見事着地する。

 うむ、点数をつけるなら満点の着地だ。少しのふらつきも歪みもない。

 

 

 ……そして、振り返らずに駆け出した。彼から手渡された一本の槍を右手に握りしめ、後ろで空気中どころか地面を這い辺り一面の範囲を壊さんばかりのバリバリと嫌な音が鳴っているのを聞きながら。

 

 

 背後で響き鳴るあれが雷のモリブリンであるあいつが放った攻撃だと解っている。その凄まじい爆音と共に空気を震えさせるような電気攻撃……もしもオレがあのまま場に残り、喰らっていたとしたら……いや考えまい。

 "もしも"は意味のない事だ。考えたとてどうにもならず、今現在からの先……良くなる事の為に、今後の為に動くのはまるで違う。

 

 ピチピチと全速力で走り、ゾーラの里を目指す。もう目と額とヒレの先だ、全景が見えてきた。少しだけ破壊されて名残が見える里の姿が。

 

 

 ……そういえば。

 

 オレが彼、カタクリと繋がる理由となった一番の接触理由は彼の母親による電気の攻撃だった。女王であり彼の母親である彼女に平穏を壊された。

 

 本当になぜだろうか。

 

 ……それがふと頭によぎった。壊されたそれに対して恨みしかないが、彼がその電気に苦しむのはオレが……望む事ではない筈だ。

 すみません父上、当初守ると決めた誓いがオレの心の中で揺らいでいる。もはや隠しようもない程、情が沸いてしまっている。

 

 

 ……だってそうだろう!? 他でもなく泳げない彼がこうしてここに来る為にオレを信用し、更に巻き込まないようにと離して先に行かせ、その場でとどまり戦ってくれている。

 

 あんな必要最低限の一歩も二歩も踏み込まれた対応をされて情が湧かないなんて考えられない!!

 

 

 

 ……そうしてオレは彼を礎に置いて、無事に辿り着き帰りついた。我が故郷のゾーラの里に。

 

 

 「……何だ、これは?」

 

 

 そして目の前の想像だにしなかった光景に思わず漏れた言葉は、里に流れる水音にかき消されていった。

 

 

 




水柱は突き上げる海流(ノックアップストリーム)のイメージ。それかムジュラのグレートベイの神殿の水車を回す水。
それか地獄昇柱(ヘルクライム・ピラー)。
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