カタクリとシドが結婚式をしている夢を見た   作:アルビノ鮫

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さん

 

 

 「……と、いう訳で迎えの船が今朝こちらの島を出たんだゾ」

 『そうなんだ、そちらの場所がわからないから良かった。私と御父様、警備兵は誰かはまだ決まってないけど何人か……あ、あとセゴンも行く予定だよ』

 「ゾッ!? セゴン爺が!? 元老院達は全員来たがらないと思っていたが……意外だゾ」

 『やっぱりシドの事は色々と可愛がってたからかな。ムズリは嫌がって断固として行かないとは言ってるけど。それでいつ頃到着予定なの?』

 「この前出迎えた船と同一かはわからないが多分明後日くらいには到着すると思うゾ! ……カタクリどうなんだ?」

 「違うだろうな。それにお前が来た時と違い潮の向きや船の性能などでもう少し遅れるだろう」

 「ゾ? そうなのか。ん、というかもう訓練に行くのか?」

 「ああ、先に行っている」

 「了解だゾ! ……という訳で別の船が少し遅れて数日後になりそうだゾ、姉さん」

 『……うん、わかった。それにしても……』

 「ん?」

 『この前話した時と、随分変わったね』

 

 

 

 *

 

 

 

 昨晩姉さんから言われたその言葉の真意を未だにオレは読み取れていない。

 

 昨日一日で身を食べ、残った骨から出汁を取るため叩き割り長い時間コトコト煮込んで今日の夕飯に様々な海王類料理作ろうと、鍋をかき混ぜながら厨房に佇みながらオレはそう考えていた。

 

 聞き返してもはぐらかされ、通話が終わってすぐにカタクリとの鍛練に向かって忘れていたのだから。

 そういえば、カタクリの声を姉さんは昨日初めて聞いた筈だ。どんな印象だったのか聞けば良かった、また今夜にでも電伝虫を使って聞いてみよう。

 

 

 あの時あの場に偶然通り掛かったという彼とすぐに合流し前回よりも研ぎ澄まされた槍の鍛練を出来たと思っている。少なくとも、オレは。

 

 有意義な鍛練を行い、その後火照った体を冷やすようにアイスティーを振る舞った。一応一度頼まれたのだから彼の好みから大きくは外れないだろうと。

 彼は大人しく、何も言わずに出されるがまま口にしていた。前回と少し香りの引き立て方を変えてみたのだがどうだろうか。そう思えども……うん、カタクリは何も言わなかった。

 

 だがそれでも互いを理解する為の距離を縮める事には少しずつでも成功している筈だ。

 この海王類もサケではなくモグラという生き物だと教えてくれたのだから。ん?海獣だっただろうか?……まぁ種類や正体等なんだっていい、肉は美味しく出汁もこうしてたっぷり出してくれるだけで。

 

 

 ……そういえば。昨日の昼を少し過ぎた今と同じような時間、パティシエ達に言われて淹れて恐らくカタクリの元へ持っていかれたお茶は何の為だったのだろう。喉が乾いていたのだろうか。

 カタクリがその時何をしていたのかは知らないが、確かパティシエ達はメリエンダだなんだと言っていたような……しかし何だろうかメリエンダとは。

 以前服を仕立てて貰った時にも聞いたな……確か、精神統一とか言っていたような……つまりそういう儀式的なものなんだろうか。肉体でなく精神の鍛練……。

 

 毎日欠かさず精神を鍛えているとは素晴らしいが、だがあまり根を詰めるのは良くないな。気を抜く時間も大切なのに。

 そのような時間を取るようにさりげなく伝えてみても良いかもしれない。

 

 そういえばニンゲンは滝に打たれて精神統一をするとか聞いた事がある。あんなに心地いいものに打たれながら無心になるのは大変なのだろうな……そういった修行でも行っているのだろうか。

 

 

 ふと、視線を感じ振り替えり見上げればカタクリが開かれたドア向こうからオレを奇妙な目で見ていた。

 

 「お帰り! 用事はもう済んだのか? 出汁を使った料理は素晴らしい夕食が出来ると思うゾ! キミもどうだ? あと昨日と同じように紅茶を淹れるようと思うのだが"あっさむ"と"あーるぐれい"どっちが良いんだゾ?」

 

 昨日の事を考えて水分補給の提案を目線を彼に向け、進捗情報をついでに伝えれば益々怪訝な顔をされる。眉間に皺を寄せて何か言いたげに、それでも何も言わずに頬を指先で撫で……

 

 あれ。

 

 顎に毛が生えている、それもかなりの長さのものが。今朝見た時は……あれ?そもそも見た事があっただろうか?

 

 

 「おいどうした」

 「いや、何つっていいのか……」

 「ゾッ!? 増えた!?」

 

 そうしている内に扉の陰からもう一人のカタクリが現れる。どういう事だ!?不思議な力を持っているのは知っているが増える能力もあったのだろうか!?

 二人のカタクリが何かを会話しているのを数回瞬きする時間見つめていて……ふと気付く。

 

 

 このカタクリ、オレが知るカタクリと少し違うような?

 

 

 鍋の火を弱くし、焦げ付かないようにした後彼らがいる扉の元へと向かう。

 近付いてきたオレに気付きこちらを見ている彼らを、その顔を先程より近い距離で見上げて……ううん、やっぱり違うと確信する。

 

 カタクリの色はこんなに明るい日中の日差しの色ではなかったし、目を縁取る毛の量も違う。それに声色も違うし、脚の長さも服装も違うな。 

 能力だから少し違うのだろうか?……いや、まさか。だとすれば?

 

 

 「君達は……何者なのだゾ?」

 「え、何だ今更。まだ説明してなかったのかよ」

 「する前に普通に受け入れられたんだよ……おれらはアイツの、カタクリの三つ子の弟だ」

 「!!」

 

 首を傾げながら訊ねるオレにカタクリよりも短い髪の青年が驚いたように目を丸くした。カタクリよりも髪が長い青年がため息混じりに言葉を紡ぎ、似ている理由を教えてくれた。

 それは納得するも同時に驚くもの、弟だったとは!カタクリは確かペロスペローの弟で次男、ならば彼らは三男と四男か!

 

 「そうなのか! 弟がいたのだな、それも三つ子! 通りで間違える程似ている筈だゾ!」

 「……あまりそう言われる事はねェんだが、本気で言ってそうだな」

 「まァ人じゃねェしそういうもんなのか」

 「それで君達はなぜここに…」

 

 「なんだお前ら何でここにいる」

 

 弟二人に訪問理由を訊ねようとした時に廊下の向こうからここ数日ですっかり聞き慣れた低音が届く。

 彼らが振り向き、その隙間からオレも覗き見る。今度こそは間違いない、後幾日も経たずにオレの配偶者となる相手であるカタクリがこちらに向かって歩いてきていた。

 

 「別に。特に重要な用件がある訳じゃねェが……強いていうなら式前にどんなヤツなのか顔を見に来ただけだ」

 「魚人でも人魚でもない妙なヤツとお前の相性はどんなもんだ、とな? けどまァ思ってたより案外……仲良くやってるっぽいけどな?」

 

 髪の長い彼が握った拳の親指でオレを指差し、髪の短い彼が楽しそうに笑いながらカタクリに肩を組もうと近寄り……そして弾かれる。

 相変わらずカタクリの表情は厳しい。眉間に皺が寄っている。

 

 「黙れ。顔見たんだろ、用が終わったならさっさと帰れ」

 「でもよカタクリ、ブリュレと約束した時間までまだ時間があんだよ」

 「………」

 「だから三時のメリエンダ良いよな? 安心しろ邪魔しねェよ、そういやさっきそいつに飲む紅茶の種類聞かれたしな!」

 「……おい」

 「す……すまない、ゾ……?」

 

 弟二人に囲まれながらカタクリはオレを睨み付けてきた。まるでその目は二人を受け入れた事を責めるかのような……いや、まさか。

 家族は何より大事でそれに関しては責められる事は何もオレはしていない。カタクリだって初対面時でさえ解るくらいの家族思いだったのだから責めるような事は言わないだろう?恐らくオレの勘違いか気のせいだ。

 

 「うむ! よく解らないが取り敢えず紅茶の用意をすれば良いと判断したから、用意をするゾ! 少しだけ待って欲しいゾ!」

 

 そう高らかに宣言をすればやはり三つ子。同じように目を丸く見開き数回同時に瞬きを繰り返した。そのあまりの息ピッタリさに笑ってしまえばカタクリは呆れたように息を吐き、弟二人は声をあげてカタクリとは少し違う顔と声で笑った。

 

 

 *

 

 

 「ん!? 何だコレ美味ェ!?」

 「確かに……強い香りが鼻へと抜ける。こんな風味の焼き菓子作りてェもんだ……うん、美味い」

 「そうか嬉しいゾ! さぁもっと飲んでくれ!」

 「なんだカタクリ、お前味に絆されたのか?」

 「うるせぇ」

 

 彼ら二人を客室へと招き、椅子へと腰掛けた三人へと紅茶を淹れ差し出す。ゾーラの里では父上の次に大きかったオレよりも大きなカタクリ。そのかなり大きな体格のカタクリと同じサイズの椅子がいくつもあるのは不思議だったが……なるほどそういう事だったのか。

 流石三つ子、家族は仲良くするのが何より好ましい。先ほど見た時は身長の差を感じなかったのに座るとなぜだかカタクリが一番低く見えるような。うーん、不思議だ。

 

 その漂う違和感そのままに彼らの顔をぐるりと見渡す。ニンゲンの顔の作りの違いは良く分からないが似ている雰囲気は感じるし、何より目が同じだ。髪の毛の色は違うから、口元や顎辺りにある毛色も……あっ。

 

 

 そこでやっと違和感の正体にオレは気付いた。

 ……オレが出した紅茶を飲んで。お茶請けを食べている彼ら三人。そうだ。

 

 

 「オレ、カタクリの口元を見た事がないゾ」

 

 

 彼らの動きが固まったように一斉に止まる。おお、こんなところまで揃うとは本当に仲が良い。

 改めて先程名乗られた名前、ダイフクとオーブンを見た時に感じた僅かな違和感、それは顎回りに生えている毛の存在だ。確かヒゲというのだったな。

 魚にも同じようにヒゲが生えるものがあるが、同じように何かを感知する為に生やしているのだろうか?

 

 オレの動きを完璧に見切っていた気配に敏感なカタクリにヒゲがあるかどうかはわからない、何せその口元は常に隠されており見た事がないのだから。

 こうして飲み物を飲んでいるというのにその飲む瞬間は見た事がない。口元へと運び、いつの間にか飲んでいる。カタクリはアレだな!せっかちだな!

 

 

 でもまぁそんな事別に……。……んん?何だろうかこの、張りつめたような空間は。

 

 どうしても逃したくない貴重な漁をする時のように口やエラから泡の一つも出さないよう呼吸全てを止め続けているような……緊迫し空気が張り詰めているように感じる。

 彼らの顔を見れば弟二人がカタクリへと恐る恐る目線を向けていた。ティーカップを持ったまま微動だにしない彼へ。

 

 

 「それで」

 

 

 低い声が室内に水を打つ。

 

 

 「それが、どうした」

 「どうもしないゾ?」

 

 カタクリの赤い目が真っ直ぐにオレを射抜かんばかりに向けられていた。

 間髪(かんひれ)いれずに返事を返す。誰かが「は」と息を吐いたのが聞こえた。誰のだろう?三人の顔をぐるりと見渡しても同じような顔をしてオレを見ているだけで誰の声だったのか分からない。

 

 「どうも、って……気になんねェのか?」

 「別にならないゾ」

 

 ダイフクに聞かれはっきりと否定する。

 

 「なら何で見た事ないとわざわざ言った?」

 「ただ単純に思ったから言っただけだゾ」

 

 オーブンに聞かれている意味が分からず首を傾げながら答える。

 

 

 オレはただ見た事がないと思っただけ。だから思うがままに口に出した。見たいなら見たいと言うし、そもそも顔の一部にどうしても惹かれるような興味もない。そもそも三つ子というなら目元と同じように似ているのではないだろうか、違ったとしても別に構わないが。

 

 

 「そもそもオレは君達ニンゲンの顔はよくわかっていないのだゾ、だから顔が気になるかと言われてもだなぁ……」

 「ああ……まァおれらを増えたカタクリと思ったりするぐらいだからな…」

 「いやいや! キミ達はとても似ているだろう!? 仕方がないゾ!」

 「だからよ、そんな事は滅多に言われねェんだよ」

 

 ダイフクが腕を組み首を傾げながらしてきた質問に答えるも、オーブンが同じように腕を組みながらダイフクとは反対側に首を傾げていた。

 うーん、彼らは否定するがやはりどう見ても似ている気がする。でも確かに他人から家族に似ていると言われてもそのまま納得するのは難しい。オレもムズリに父上に似てきたと言われてもその自覚は無いとしか言えなかったのだから。

 

 

 「……まァいい、好き勝手に仲良く喋ってろ」

 

 そんなオレらのやり取りを何も言わずにただいつものように素早く飲み物を啜って飲んでいた彼が立ち上がる。

 

 「ゾッ、カタクリどこかへ行くのか?」

 「……メリエンダの時刻、それだけだ」

 「ああ! それでは飲み物はどうするんだ、昨日はパティシエに言われて淹れたのだが」

 「………、……必要ない。そのパティシエ達に用意をさせる」

 

 そのまま部屋を出ていこうとする大きな背中に声をかけ思った疑問をそのままぶつける。彼は動きを止めしばらく身動ぎ一つもしなかったが、やがて短い拒絶にも似た言葉と共に扉をくぐり出ていってしまった。

 オレのじゃ駄目なのか。今の今まで飲んでいたから?でもオレの予想の体を動かしたりしない精神の鍛練だとしても水分補給は大事だし、オレなら何リットル飲んでも足りないのに。

 

 遠い廊下の先でパティシエを呼ぶ彼の声を聴きながらそう、思う。

 

 

 「えーと、名前何だっけ……ゾラだっけ?」

 「シドだゾ! ゾーラ族のシドだ」

 「あァそうか。それよりお前カタクリの言うメリエンダが何か知っているか?」

 「ゾ?」

 

 出ていった扉の先を見つめていればオーブンから名前を確認される。一度だけ名乗っただけだし、間違われても仕方ない。

 種族名であるゾーラと混ざっていたが、実兄と婚約している彼らにとってすらそれだけ縁遠い存在でしかないという事だ。

 

 改めて名乗り、胸の前に拳を掲げるも軽く流され続けて質問をされる。

 

 メリエンダ……?つい今程カタクリがこの部屋を出ていった理由の事だな。

 仕立て屋やお抱えのパティシエ達が言っていた事をそのまま飲み込むならば知っている。だが……第三者の主観入りの情報からの憶測混じりの予想をまるっきり鵜呑みにするのは些か愚かにも思える。

 

 カタクリ本人から何かを聞かされた訳でも、オレがこの目で何かを見た訳でもないのに。

 

 

 「詳しくは知らないがカタクリにとって何か重要なものなのだろうという事は伝え聞いているゾ」

 「伝え……って事はカタクリの野郎からは」

 「何も聞いていないな!」

 

 唇を尖らせたダイフクが口ヒゲを撫でながらチラリとオーブンを見た。

 

 「知りたいと思わねぇの。毎日決まった時間に一人で行うそれを。政略結婚とはいえ……いや、政略結婚だからこそ情報は武器だろう」

 「思わないな!」

 

 訝しげな表情でオレへと聞いてきたオーブン。まぁ理解できなくはない。彼らにとって当たり前の疑問、当たり前の思考を訊ねられるもだからこそ即座に否定を返す。

 二人とも眉間に皺を寄せ四つの目がオレを見定めるように見てくる。ああ、その目。カタクリと本当に似ているな!

 

 「賊である君達相手にいうことではないかもしれないが、不必要な詮索や企みは小さな亀裂からやがて取り返しのつかない毒となりうるのだゾ! 我らゾーラ族は戦争を起こす気もなく、穏便に済ませたいのだゾ。彼から紹介されるなら兎も角そもそも必要もなく好奇心のみで全てを暴こうとするなど不義理だゾ!」

 「「………」」

 

 堂々と思うがままに言い切ってしまえば彼らは何の反論もしてこなかった。一つ二つ何かを言われる事は覚悟していたのだが……そういう所もカタクリと同じだな。勿論返す必要すらない愚かな考えと吐き捨てられただけの可能性もあるが。

 しかし初対面時に思った疑問をぶつけられるだけ、警戒どころか殺意満載の敵意や悪意の力を向けられないだけまだマシに思える。

 

 カタクリ相手の政略結婚の年数がどれだけになるかは解らないが人間の寿命から考え長く数十年、それほどの年数ではないが揉め事を起こし気を病むような期間にするには好ましくない。

 

 

 「……そういう義理堅いとこをヤツは気に入ってんのかもな。そういう素直なバカ真面目なの好きだろアイツ」

 「まァおれらに色々あるようにお前にもあるんだろうが……"あの"カタクリが飲食を信頼してるだけで信用度が解る」

 「ゾ?」

 

 彼らが立ち上がる。立ち上がりついでにお茶請けを一つ二つ摘まみ、そしてついでとばかりに左右に立たれて二の腕を掴まれつい今お茶請けにしたように摘まみ上げられるオレ。

 その軽く持たれたオレを左右で抱えたまま彼らは扉を開けて廊下に……え?

 

 「あ、え? 何だゾ?」

 「確かこっちだったよな?」

 「自室の場所変わってなきゃあってる」

 「質問に答えてくれ! 何故オレは抱えられどこに運ばれているのだゾ!?」

 

 二人の背の大きさは見上げる程高く、力は振り切れない程に強い。何せあのカタクリの三つ子の弟、強さはきっと折り紙付き。それを二人がかりでされている以上オレにはどうしようも出来ない。

 例えば水流を生み出し必死に抵抗すれば何とかなるかもしれない、乱暴な事をされる訳ではない……筈だ。

 されない筈だが警戒だけはしておかねば。

 

 カタクリの目を盗み暴行を加えるなら元の部屋でも出来なくはないのだから、どこかに連れていこうとする理由がある筈。

 しかしそれでも……何もわからず捕獲された魚のように運搬されるのは少々困惑と不快が混じる。

 

 「は、離してくれないか!?」

 「断る。つーかお前の皮膚……鱗?なんかザラザラしてんな」

 「そうなのか、ちゃんと手入れしろよ。少なくとも式までは見れる姿じゃねェとよ。それ以降はどうでもいいが」

 「……ゾ……」

 

 そしておれの質問や提案は相変わらずスルーされ、挙げ句謎のアドバイスをされてしまった。心配と呼ぶには残酷な事だが的を得ているのが悔しい。

 でもそれはまぁ……賊相手だから構わないのだが。それより目的が何なのかを罵倒混じりでも構わないから教えて欲しい。

 

 

 そうしている内に彼らは足を動かし進み、やってきたのは殆んど来た事の無い屋敷の一角。来ては行けないとここに来て二日で理解した、そこはカタクリの自室がある場所。

 ……こ、れは……ここに来るのは良くないのではないか?カタクリが詳しく何をしているかは知らないが一人きりになりたいと自らを隔離しているというのにそこに無断に踏み込むのは……駄目なのではないか?

 

 「ダ、イフク……オーブン……いったい何のつもりだゾ……?」

 「しっ、黙っとけ。あいつに気付かれんだろ」

 「ん……あの部屋だったな、行くぞ」

 

 恐る恐る小さな声で彼ら二人に話し掛ければそれすらも咎められる。意識すれば彼らは足音すら控えるようにゆっくりと抜き足差し足忍び足で歩いている事に気付く。

 三つ子の彼らですらカタクリの精神集中の邪魔をしないようにしているのだろうか。それ程までのものなのだろうか。ならば……何故来たのかは解らないがオレはやはり、ここに来るべきではないのではないだろうか。

 

 それでも掴まれている以上その腕から抜け出すことは出来ず大人しく運ばれ続けるしかなく、とある一つの扉の前で彼らは立ち止まった

 

 

 「あのカタクリをこの短時間で絆したのは大したもんだ」

 「婚約……つーか結婚してももしかしたら上手くいくかもな。このまま何も知らないままだと」

 

 オーブンがオレを掴んでいた手を離し、投げ捨てるように大きく放り出す。逆側の腕を掴んでいたダイフクが一旦受け取り、そのまま床に下ろしてくる。

 

 ……何だ?今まで多少の抵抗は黙殺されたのになぜ今放した?何が起き……むっ、ダイフクが両手でオレの肩を持っている。逃がさないとばかりに。

 逃げはしない、だが肩ヒレを掴むのは止めて欲しいと多少の抵抗をするも聞き入れられず。

 

 

 「だがよォ…」

 「!?」

 

 オレを離したオーブンから急激に肌を焦がしそうな熱気を感じる。何の変哲もない廊下だったというのにあまりに急に熱せられた為にか陽炎すら見えそうになる。

 それに目を細め顔をそらし横目で見れば彼の皮膚が、瞳が、剥き出しになっている歯から高熱が漏れだし近くにいる全てを焦がさんとばかりに熱気を放っている。

 

 

 「何もなく平穏に終わるとかな…」

 「!!」

 

 オレを両手で掴んでいた筈のダイフクの腕とは別の手がオレの首筋を鷲掴む。感触からして二本で挟み絞めるように。振り替えればダイフクでもましてやオーブンでもない謎の人物と目が合う。

 誰だ!?オクタロックでもガーディアンでも無いニンゲンは腕が二本しかない筈だし、古代シーカー族でもないニンゲンが急に新たな人物を召喚出来る筈がないのにどうして!?

 

 

 ……違う、カタクリも三本目や四本目の腕を生やしていた。ニンゲンは増やせない訳ではないし、不思議な体である事があり得ない事もない。

 つまり焼きゾーラになってしまいそうな熱気を放つオーブンや、自分とはまた違う分身を呼び出したダイフクも同じ。

 

 悪魔の実とやらを食べて摩訶不思議な力を授かった能力者!

 

 

 まるでマグマ地帯近くのような熱さを纏うオーブンが鍵の掛かっているだろうドアノブを握る。そのまま鍵をかけられているだろうドアノブごとドロドロに溶け落ちていく。

 ダイフクが、というかダイフクが呼び出しただろうもう一人の人物がオレを持ち上げ……

 ぐ……首を絞められてしまえば水中でないここでは呼吸が止められてしまう……苦、しい……

 

 

 「平穏安定……そんなんつまんねぇだろ!」

 「ゾッ!?」

 「おらッ!今以上に仲良くしてこい!」

 

 オーブンが扉を溶かし、そのまま足で蹴り破って無理矢理扉を縦に押し開ける。その空いた空間にダイフクともう一人の謎の人物がオレを思いっきり室内へと投げ込む。

 あまりに予想外なその行動にされるがまま空中へと投げ出され、少しでもどうにかしようと泳ごうと腕を掻き足をバタつかせるもなんの効果もなく。

 

 

 そのまま空中から乱暴に、床にしたたかに叩き付けられた。一度だけ床からビタンと跳ねて、再度叩き付けられたかもしれないがオレはそれどころではなかった。

 何せ受け身も何も取れない体勢、そのまま床に叩き付けられれば本当に何よりも痛い。ニンゲンではあまり見ない出っ張っている額をしたたかにぶつけたし、何より顔面から突っ込んだから顔が……顎や前歯が物凄く痛い。

 ああ、額が凹んだのではないだろうか。こ、れは……歯が、折れたのではないだろうか、物凄く痛い…!血が出ていても何の不思議ではない本当に痛……ん、ぅ?

 

 

 

 ぶつけたそこを掌で押さえつつ顔を上げれば、こちらを真っ直ぐに見ていたカタクリと目が合った。

 その目の中にオレの姿が見えるくらいにバッチリとあった。

 

 

 

 床の絨毯の上に寝転び、大きな口を開けて本日のオヤツを食べているだろうカタクリと。

 

 先程オレが疑問に思った口元を剥き出しにしているカタクリと。

 

 

 

 

 カタクリの目が真っ赤に燃えたように歪ん、で……こっちに手を伸ば……

 

 

 

 

 あっ。

 

 

 

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