始末屋は再度夢を見る   作:ゴマ醤油

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はずれ子

 アルトラの家から出た俺は、目的地であるグランザ爺さんの家に向かうため村を歩いていた。

 相変わらず、俺に向けられるのは好奇と嫌悪の視線。

 それ自体はいつもとそう変わりはないが、心なしか普段よりも視線が多い気がしなくもない。

 

 恐らくだが、俺が今持っているこの剣が原因だろう。

 ……驕るなよ馬鹿共が。てめえらなんぞ、理由もなく斬る価値なんてないだろうに。

 

 けどまあ、別に気持ちはわからなくない。

 ほんの三つや四つの頃から、到底子供とは思えない態度をしたであった俺。

 村人総出で恐れ、怯え、疎んでいた子供。そんなやつが急に剣でも持って村でも歩けば、それこそ謀反や復讐でも企てているのかと邪推してしまうのだろう。

 

「おいギルダ!」

 

 ──ま、こんな風に面と向かって迫ってくるのは、考えなしの阿呆でしかないがな。

 

「聞いてるのかはずれ子(デイフール)! てめえ調子乗ってんじゃねえぞ!」

 

 ……安い罵倒だ。最近覚えた都合のいい蔑称でも使いたくなったのか?

 いくつになっても変わらない程度の低さに呆れながら、声を無視して足を進めていく。

 それがお気に召さなかったのだろう。

 声の主が苛立ちのままに俺の肩を掴み、そのまま砕いてやろうと力を込めて抑え付けようとしてくる。

 

「……触んな」

 

 多少に痛さに苛立ち、少し力を入れて手を振り解く。

 反撃されるとは思っていなかったのだろう。男は呆気にとられた顔を貼り付けながら、どこぞの獣のように後ろへ飛び退いた。

 

 ……確か村長の息子だったか。欠片も興味なかったし、名前なんて覚えていないが。

 

「今日は一人か。てめえのあんまりな情けなさに、とうとう腰巾着も愛想尽かしたか?」

「ああァ!? 舐めたこと言ってんじゃねえぞはずれ子(デイフール)ッ!!」

 

 昔から声だけは煩い奴だ。言葉の一つ一つがいちいち鼓膜に響いて仕方ない。

 苛立ちの募る耳障りな声に嫌気が差していると、馬鹿は何かを恐れるように周囲を見回し始める。

 ……なんだこいつ。こんな調子乗ってんのに、取り巻きが来ないと強気すら保てねえのか。

 

「今日はアルトラは来ないようだな。あいつさえいなけりゃ、てめえなんてどうにでもならぁ!」

 

 ああ成程。何かと思えば、アルトラが来ないかを心配をしてたのか。

 アルトラは俺と違って売られた喧嘩は必ず買い、その上で勝つ奴だ。だから基本無視で流す俺よりも、何度も痛い目に合わされたあいつを脅威に感じているんだろう。

 

 ……舐められたものだ。いちいち構ってやる駄々甘のあいつと違って、俺は互いの親の顔を立てて無視してやってるだけなのによ。

 いい加減鬱陶しい。これ以上はラーナの教育にも出かねないし、そろそろその減らず口を叩けないようにしてやろうか。

 

 生温い環境でイキる青二才に、現実の厳しさを教えてやろう。

 

 なに、こんな奴のために大事な剣を汚してやる必要など何処にもない。地面に置かずとも、片手で動かずに地に叩き付けてやる。

 

 さあとっとと来い。お前なんぞと絡んでいる時間も体力ももったいない。

 急いでいるんだ。突撃豚(ダンピグ)みたいに無謀に突っ込んで、為す術なく転がされろ。

 

「ガルバン。そこで何をしている?」

 

 挑発されて苛立ちに染まり、向かってこようとした馬鹿を咎める(しわがれ)れ声。

 こちらに向かってくる初老の男はこの村の長──こいつの親である爺だ。

 

「と、父さん……。こ、こいつが悪いんだよ!」

「どちらに非があろうと自ら手を出すのは愚かの極み。違うか、ガルバン?」

 

 説教から逃れようと喚く馬鹿をにべもなく一蹴する村長。

 馬鹿はこちらを軽く睨んでくるが、何も言うことなくそそくさとこの場から逃げていった。

 

「ふん。相変わらず燗に障る目だな」

「……何です?」

「用などない。はずれ子(デイフール)が剣を持って歩いていれば誰だって警戒するというもの。特に貴様のように腐った()を持つ者であればな」

 

 歯に衣着せぬ物言い。相変わらず子供扱いせず、徹底して厄介者扱いしてくる。

 まあ苛立つとはいえ、この爺の言動も分からなくはない。

 

 はずれ子(デイフール)。それは昔から語り継がれてきた、くだらなくとも無視しがたい迷信の一つだ。

 数年に一回訪れる、太陽が失われる時間(エクスリプ)の間に生まれた子供。その中で子供らしくない子供がいれば、それは悪魔が取り憑き、周りを不幸にする忌み子であると。

 

 そんな眉唾な迷信、あるはずがないと罵ることは簡単だ。

 だが、俺はその迷信から来る嫌悪を否定は出来ない。どんな理由であろうと確かに村は滅び、不幸な結末へと誘われた。それだけは言い訳のしようがない事実なのだから。

 ……もしかしたら本当に、俺は悪魔か六人の王(オーバード)にでも憑かれているかもしれないんだからな。

 

「剣なぞ持ってどうする気だ? 憎悪を形にでもするつもりか?」

「……あくまで借りただけです。村の中で抜く気は無いので、どうぞご安心を」

 

 俺の返答にも村長は鼻息一つ立てるのみ。聞く耳など持ちはしない。

 これ以上話しても時間の無駄だ。生まれから巡り合わせが悪いのだから、どうせこの人とわかり合える可能性はきっとない。

 さっきの馬鹿と違ってこの人に殴りかかる気にはなれないし、とっととこの場から離れてしまう方が得策だ。

 

「……忘れるなよはずれ子(デイフール)。貴様はあくまで、バルド殿とアラナ殿への恩義で追放されずにいるだけだということを」

 

 去り際に呟かれた言葉は、聞かなかったことにして先へと進む。

 はずれ子(デイフール)、か。俺自身は別に言われても傷付きやしないが、それでもちくりと胸を刺してくる呼び方だ。

 

 もう少し子供の振りが上手ければ、奇異の存在とされることはなかったのだろうか。

 ……いや、遅かれ早かれ些細な機会でこうなっていた。三つの頃から鍛え始めたら、それはもう立派な異端児だ。

 

 それでも俺が捨てられずにいるのは、それだけ父と母の貢献と愛によるもの。

 放逐すべき忌み子を育てても良いとなるくらい、この村に利益をもたらしたのは確か。一週目(さいしょ)は気付かなかったが、今ならそれがどれほど凄いことなのか理解出来る。

 

 ……父と母はそんなこと、一度たりとも口にしたことはなかった。

 それどころか他の家と同じくらい、いやそれ以上に俺へ愛を注いで育ててくれた。子供であった一週目(あのころ)も、子供になりきれない今も。

 

 ならば、それについては聞かないのが子供として彼らへの恩返し。

 余計なことは何も聞かず。受けた愛に理由など付けず。

 彼らの笑えるこの場所を守るために精一杯やる。それこそがが俺がすべきことなのだ。

 

 自分にやるべきことを改めて実感し、剣を強く握りしめる。

 さあ目的地はもうすぐそこだ。余計な声を掛けられる前に、とっとと進まなければ。

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