機動戦士ガンダム LostCentury外伝   作:Gust/81

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※本作を読む前に、機動戦士ガンダムLostCenturyの本編を読むことをお勧めします。


ささやかな聖夜を

荒野の真ん中に、そこそこな大きさの山岳をくりぬいて作られた軍事基地。

 

既に軍が崩壊し放棄されたそこは、とある少年たちが住み着くことで利用されていた。

 

その廊下を一人の小柄な少女が歩く。

 

彼女の名はアリア・グレース。元々この基地をアジトとしている少年たちの仲間ではなかったのだが、その少年の一人に偶然助けられてからすっかり懐いていたのだ。

 

所謂、居候である。

 

好奇心旺盛な彼女はアジトの中を探検していた。

 

廊下の角を曲がると、更なる廊下へと続く。

 

彼女はその途中の部屋のドアが開いていることに気付いた。

 

 

「何の部屋だろう?」

 

 

至極当然、覗かずにはいられない性分が彼女の脚を部屋へと急かす。

 

身を隠しもせずに出入口の前に立つと、その部屋の中に一人の人物の背中が映った。

 

 

「うわぁ!?」

 

 

アリアは驚き、尻餅をついてしまう。

 

部屋の中の人物はその音に素早く振り返った。

 

アリアよりも頭一つ背の高いその少年こそ、アリアを助けた人物であるトウドウ・イブサだ。

 

 

「……何でここにいるんだ?」

 

 

振り向きこそ素早かったものの、アリアを見るなり呆れた態度を見せるイブサ。

 

彼はなるべく自分を優先したい性分であった為に、つい良心で助けてしまったアリアに振り回されることを少々煩わしく思っていた。

 

 

と、思いつつも転げた少女の立ち上がりを手助けしてしまう訳だが。

 

 

「いてて……ごめん、ありがと」

 

 

イブサの手を取って立ち上がったアリアは、改めて部屋を覗き込む。

 

何か大小ある平たい物体の山がいくつも積み上がっている。

 

 

「でさでさ、ここ何のお部屋?」

 

「……まぁ、知り合いの荷物置き場、かな」

 

 

イブサは何やら答え辛い様だった。

 

彼は普段、アリアの様に豊かな表情は使わないが、この時は確かにその顔に影が落ちていた。

 

数日ほど居候した身であるアリアにも、何となく察することができた。

 

 

「そ、そっか……」

 

 

アリアも少し話しにくくなり、静かな空気が流れる。

 

状況を打開しようと、アリアはその物体の山の中で特に背が低いものから適当に一つを指差す。

 

 

「え、えっとさ、これ何だろうね!?」

 

「ん、あぁ、本だよ」

 

「ほん?これ一つだけが?」

 

「いや、ここにあるのは全部本」

 

 

アリアは捨て子な上に、拾ってくれた保護者にも大した教育をされていなかったため、それ程の教養も無かった。

 

 

イブサはアリアが指差した本をしゃがんで手に取り、埃を払う。

 

カラフルな表紙に、動物に引かれた乗り物に乗る赤い衣服の男性が描かれている。

 

 

「この人、誰?」

 

「え?……あぁ、誰だったかな……」

 

 

イブサは本を開いてみた。

絵本だったその中身は少々薄汚れて痛んでいたが、読めないものでは無かった。

 

 

「何々?読んで読んで!」

 

 

アリアの要望に、読み書きができるイブサは中身を所々略しつつ読み上げた。

 

 

その男はサンタクロースという名前で、クリスマスという特定の日時の夜にだけ現れると、子供の望んだプレゼントを配っていくのだという。

 

 

懐かし気な顔をしつつ本を閉じるイブサの隣で、アリアが声を上げる。

 

 

「いいな~サンタさん!プレゼントだって!」

 

 

子供の様にはしゃぐアリアに、再びイブサは呆れ返る。

 

 

「いないよ、サンタなんて。こんな世の中なら尚更だ」

 

 

今の世界は戦争の傷を受けて退廃し、比例するように人々も荒んでいた。

 

放棄されたモビルスーツ(MS)と呼ばれる兵器を掘り返して、略奪を行うのが今の人類の印象と言っても過言ではないだろう。

 

サンタクロースにプレゼントを貰うことを許されるであろう年齢のイブサという少年でさえ、MSを自身の武器として扱っているのだ。

 

最も彼は正当防衛以上の戦いは避けているのだが。

 

 

「夢見るくらい別にいいじゃーん!」

 

「虚しいだけだろ」

 

 

反発するアリアをイブサは冷たくあしらう。

 

 

「ふん、もういいもん!」

 

 

すっかり立腹なアリアは頬を膨らませながら部屋を出ようとすると―――。

 

 

「よっ」

 

 

部屋の外から突然伸びた影に、再び脚を滑らせた。

 

 

「わーーーーーーーー!」

 

 

アリアが転ぶ様子を見て、その少年は申し訳なさそうに頭を掻いた。

 

 

「わりぃわりぃ、驚かせる気は無かったんだ」

 

 

そう言ってアリアに手を差し出す少年、彼の名はランディ・ハイン。

 

イブサの唯一の相棒で、MS以外の乗り物の操作において真価を発揮する。

 

 

「んで、何見てたんだ?」

 

「そうそう聞いて!クリスマスって知ってる?」

 

「あぁ、何だっけ、物乞いが許される日だったか?」

 

 

随分と曲解された解釈だ。

当然アリアには意味が分からない。

 

 

「ものごい?」

 

「あーいや、何でもない」

 

 

どうやらランディはボケたつもりだったらしい。

それを唯一見抜いたイブサは、普段より多くなった人とのやり取りに疲れ始めていた。

 

 

「……疲れた、もう寝る」

 

 

アリアを退かし、ランディを横切ると、そのまま廊下の先に消えた。

 

取り残されたアリアが言葉をこぼす。

 

 

「イブサって、何か寂しい……」

 

 

そこにランディが声を掛ける。

 

 

「なぁアリア、実はな、昔のクリスマスって割と今日辺りにあったらしいんだ」

 

 

その言葉を聞いたアリアが目を輝かせる。

 

 

「本当!?」

 

「本当本当。そこで、だ。サンタは呼べないが、代わりに俺らがイブサの――」

 

 

ランディが声量を抑えて話し出す。

 

その提案に、アリアの賛成する声が廊下に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、自室でイブサは目を覚ました。

 

窓も、大した家具も存在しない。

あるのは傷んだ木の机と椅子、簡素なベッドのみだ。

 

しかし、彼は机の上に違和感を覚えた。

 

立ち上がり、寝ぼけた目を慣らしながら机に近づく。

 

そこには、MS用の小さなパーツと三つ積まれた鶏肉の缶詰め、そして一枚の紙切れが放置されていた。

 

見覚えがなかったイブサは、まずMSのパーツを手に取る。

 

暫く考えて、以前紛失した部品であったことを思い出した。

 

しかし、今はそこまで必要な部品では無かった。

紛失した当時は結局買い足した上、その時のMSからはもう乗り換えている。

 

 

「何で今更これが……?」

 

 

修理に使えないことはないだろうと割り切ることにして、次に積まれた缶詰めを見やる。

 

 

「これ、備蓄用だろ……何でここに置いたんだ……」

 

 

何となく犯人の見当が付いていたイブサは、その意図を知る手掛かりであろう紙切れを拾い上げた。

 

 

はみ出しの多い汚い文字で、“たまにはしっかり飯を食え”の文字。

それがランディの文字であることは一瞬で把握したが、内容はまだ終わっていない。

 

その下に“Merry Christmas”と、やたら綺麗な文字で描かれている。

 

一瞬戸惑ったものの、その筆記はあの絵本に描いてあったものに酷似していることに気が付いた。

 

 

「……アリアが書いたのか?」

 

 

ランディが読み書きで器用だった試しはかつて無かった。

そうなるとアリア以外に見当がつかない。

 

彼女がクリスマスに憧れていたのは目に見えていたが、まさか自分がその標的にされるとは。

 

 

紙切れをただ見つめていたイブサは、何となく心の中が暖かくなるのを感じた。

 

その手を胸に当てて、そっと目を閉じる。

 

何故かは分からない、でも、大事にしたい。

 

少し頬が緩んだことに自分で気付かないまま、彼は久しぶりに感じた暖かい気持ちをただ嚙み締めた。

 

 

その様子を密かに覗いて、サンタを演じた二人も微笑んでいた。

 

 

数分後、“Merry Christmas”は読み方も分からないままアリアが模写していたこと、その流れで読み書きを教えて欲しいと頼まれることをイブサは知るのだが、それはまた別の話――。

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