悪役(ヒール)と黒幕(フィクサー)   作:RKC

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二話 理解

「レイハウンド君! 是非、僕の元に来ないかい? 君ならクラシック三冠も夢じゃない!」

「いいえ! 彼女は私の元に来るべきよ! どう? 私と一緒に三冠、目指さない?」

「俺のチームには過去にクラシックを勝った娘もいる! クラシックを目指すなら俺のチームに来た方が良い!」

 

 選抜レースを勝ったレイハウンドは、多くのトレーナーからスカウト攻勢を受けていた。

 クラシック三冠も夢ではないと言われていたシューティングスターを大差で下したのだからそれも当然か。

 

「私は」

 

 トレーナー達の声で、がやがやとうるさい中、凛とした声が響き渡る。

 レイハウンドの声はその場を一瞬で支配し、続きの言葉を紡ぐ。

 

「クラシック三冠には興味ありません。私が走る目的は他のウマ娘の偉業の阻止、それだけです。それでも良ければ私のトレーナーになってください」

 

 その発言に周囲は再び騒ぎ始める。

 

「く、クラシック路線に興味が無いなんて……一体どうして?」

 

「さっきも言った通りです。ウマ娘が走る目的、それは多々あるでしょう。

 天皇賞で勝ちたい。有マ、宝塚で勝ちたい。トリプルティアラを獲りたい。クラシック三冠を獲りたい……。

 私の場合はその目的が他のウマ娘の夢を阻止する事、というだけです。なのでクラシック路線には興味ありません」

 

「そ、阻止って……どうしてそんな事を目的にしてるんだ?」

 

「好きなんです。夢を打ち砕かれたウマ娘の顔を見るのが」

 

「そんな事って……」

 

「それで……どうなんですか? 私のトレーナーになってくれる人はいないんですか?

 トレーナーに実力は求めません。私の理念に共感して、私をレースに出してくれれば誰でも構いませんから……早い者勝ちでお願いします」

 

 レイハウンドがそう言うと、すぐに返事をする者が一人。選抜レースを見ていた新人トレーナーの片割れだ。

 

「じゃあ、私が……」

「俺が!」

 

 しかし、そこに被せるように他のトレーナーが大声を出した。手を上げるおまけ付きで。

 

「分かりました。それではそこのあなたと契約を結びます」

「ああ、これからよろしくな!」

 

 二人はそのままコースを離れて行ってしまう。契約を結ぶ手続きをするのだろう。

 残されたトレーナー達もスカウトできなかったとなると、すぐに次のレースを見る為に客席に戻っていく。

 

 そんな中、声を被せられたトレーナーは一人コースに残り、

 

「……発声練習、してた方が良かったかな……」

 

 なんて呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、発声練習は関係ないだろ……単純に手を上げなかったのが見にくかったとかじゃないか?」

 

「挙手練習の方だったか……」

 

「別に練習するようなもんじゃないと思うが……」

 

 居酒屋でそんな話をしているのは、レースを見ていた新人トレーナー二人。

 

「まぁ、そんなに気を落とすなよ。なんでもそいつ、クラシック三冠には興味ないとか、他の娘の夢を阻止するのが目標、とか問題発言もしてたんだろ? 俺ら新人には手に余りそうじゃねぇか」

 

「う~ん……私は色物の方が好きだから彼女とはウマが合いそうだと思ったんだけど……」

 

「色物すぎるって。もう少し素直な娘にした方が絶対楽だぞ。

 実力だけで担当を選ぶと、えらい苦労するって先輩も言ってたしな」

 

「実力じゃなくて彼女の目的が面白そうだと思ったからスカウトしようとしたんだけど……。

 まぁ過ぎた事を言ってもしょうがないか……。そっちは上手くやれたみたいだね……」

 

「おうよ! 他のトレーナーがレイハウンドの方にいってる間に、シューティングスターに声を掛けたら即オッケーしてくれたぜ! いや~、一途さが身を結んだな!」

 

「……参考までにどんな口説き文句を言ったのか、聞いてもかな……?」

 

「ん? 俺が彼女に声を掛けたら、「あいつの方に行かなくて良いの?」って聞いて来たから、正直に「俺は君をスカウトしようとレースが始まる前から決めてた。しかしレース結果でスカウト先を変えるのは不誠実だと思ったから、こうして君をスカウトしてる!」って答えただけだぞ。

 そしたら笑って契約を結ぶ約束をしてくれたんだよ。「私がトレーナーを三冠トレーナーにしてあげる」って。やっぱり誠実さが一番だな」

 

「誠実さ、か……」

 

「というかお前はどういうスカウトの仕方したんだよ?

 あの後、他の娘にも声を掛けてたけど全滅だったんだろ?」

 

「そうですね。私としては普通に声を掛けただけなんですが……。

 君は目つきが悪くて、シリーズの悪役(ヒール)として活躍出来そうだ。だから私と一緒に頑張ろう、とか……。

 君には赤と青の目に悪いカラフルな勝負服が似合いそうだ。私と一緒にGIに出よう、とか……」

 

「いや、それが原因じゃねぇか。言葉選びのセンスなさすぎだろ」

 

「誠実に思ったことを言っただけなのだけど……」

 

「そういう誠実さは求められてねぇし、発揮すんな」

 

「なかなか難しい物だね……」

 

 シューティングスターのトレーナーと、まだ担当のいないトレーナー。

 二人はそのまま駄弁り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選抜レースから数か月ほどが経った。

 担当のいないトレーナーは、未だに担当がいないままであった。

 

(う~ん……もっと手当たり次第に声を掛けた方が良いのだろうか……。

 しかし、ときめかない相手をスカウトするというのもね……)

 

 そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか袋小路に突き当たっていた模様。

 (きびす)を返そうとしたその時、

 

「……どうして皐月賞にも桜花賞にも出るつもりが無いんだ!?」

「事前にお伝えしていたはずですが。私は三冠にもトリプルティアラにも興味がないと」

 

 誰かが言い争う声が聞こえてきた。

 袋小路でうろうろしている間に出口に誰かが来てしまったのだろう。

 

(盗み聞きをするのは気が引ける……。けど、今出ていくのも少し間が悪いな……)

 

 トレーナーはバツが悪そうな顔を浮かべる。一方で言い争いは続く。

 

「三冠やトリプルティアラの初めの一レースを取っても、なんら絶望が無いではありませんか。

 一冠、二冠を取ったウマ娘が居て、ここを勝てば三冠だ。

 そこで私が勝ちをかっさらえば……くふっ、くふふ……最高のシナリオじゃないですか……」

 

「お前……! まだそんな事言って……」

 

「私は選抜レースの日、他のウマ娘の夢を挫く事が目的だとはっきり言いました。

 トレーナーさんも了承してくれていましたよね? だからこそ一番に名乗りを上げてくれたんじゃないですか?」

 

「それは…………確かに了承はした。けど……」

 

「説得すれば考えを改めてくれるだろうと思っていた、……ですか?」

 

「…………そうだ」

 

「それはとんだ見当違いでしたね」

 

「そうみたいだな……」

 

「分かってくれたなら何よりです。

 それではこれで。私は練習に戻りますので」

 

「……待て!」

 

「まだ何か?」

 

「……担当契約を解除してくれ」

 

「……唐突ですね。一応理由をお尋ねしても?」

 

「お前とはこれ以上やっていけない……人の夢を阻止する、なんて不純な動機を持ったお前を俺は心からサポートできないからだ」

 

「不純、ですか……」

 

「そうだろう? わざわざ菊花賞や秋華賞だけに出て、クラシック三冠やトリプルティアラの邪魔をするなんて! 元から三冠を狙うのではなく!」

 

「…………」

 

「……お前が勝手に改心すると期待して、お前の担当を安請け合いした事に関しては俺が全面的に悪かった……すまん、思慮不足だった。

 ……だが、担当契約は解除して欲しい……」

 

「……分かりました。担当契約を解除しましょう。

 私に不信感を持っている人に担当してもらうのは、私も望みませんから」

 

「ありがとう……。せめてもの償いとして後任は探してみる……」

 

「そうですか。配慮、痛み入ります」

 

「それじゃあな……数か月だけだったが、これでさよならだ」

 

「さようなら。あなたに私よりもっと良い巡り合わせのあらん事を……」

 

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……

 

 足音が一つ遠ざかっていく。

 そしてしばらくの沈黙の後、

 

「…………不純、ですか……。

 純粋に三冠を目指すのも、結局は人の三冠を邪魔する事と同義でしょうに……」

 

 ぼそりと、寂しそうな声がその場に響く。

 そしてもう一つ、足音が遠ざかっていった。

 

「…………今、声を掛けるべきだったのかな……」

 

 担当のいないトレーナーは、その日も担当のいないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、僕はちょっと……。君の思想には賛同できないかな……」

 

「三冠やトリプルティアラの邪魔をするなんて、どうしてわざわざ悪役になろうとするの?

 そんな事をしてもファンから悪く思われるだけよ?

 あなた、素質は凄いんだから素直に三冠でもトリプルティアラでも狙えば良いじゃない」

 

「三冠やトリプルティアラの邪魔をしたいなんて……真剣に頑張っている他のウマ娘に失礼だとは思わないのか? 言葉を選ばずに言うなら、君は性根がねじ曲がってるよ……」

 

 

 

 

 

 

「全員ダメだったか……」

 

「そうでしたね。

 まぁ、あなたの知り合いなので、あなたに似て私の思想に共感してもらえない事は予想していましたが……」

 

「すまん。力になれなくて」

 

「いえ……責任は果たしてくれましたから。

 これからは私の方でトレーナーを探してみます」

 

 

 

 

 

 

 

 言い争いがあってから数日。

 

(ん~……これと言った娘が見つからないな……。いまいちビビッとこない……)

 

 もうじき日が沈むと言う頃、トレーニングコースを眺める人物が一人。

 例の担当がいないトレーナーだった。

 

(というかビビッと来た娘には全員声を掛けたけど、断られたからな……。

 そういう娘はもう残ってないかも……)

 

 トレーニングコースに背を向けて、その場を立ち去ろうとする彼。しかし、振り返った瞬間、目に入ってきたウマ娘に目を奪われる。

 

「君は……」

 

 青みがかった黒髪に尻尾、張り付けたような微笑、華奢な体格……その正体はレイハウンド。

 

「……なにか用でしょうか?」

 

「あれからトレーナーは見つかったのかい……?」

 

「あれから……?」

 

「あ、いや、言葉足らずだったね……。

 数日前に袋小路で君とトレーナーが話しているのを盗み聞きしていたんだ……。悪いとは思ったけれども……」

 

「そうでしたか……。

 あなたの問いに答えるのならば「YES」。私は未だに流浪のウマ娘ですよ。

 もしかして私をスカウトしていただけるので?」

 

 レイハウンドの眉が僅かに持ち上がる。

 

「えぇ、そのつもりで声を掛けたんだ……。

 盗み聞きをしていた時は、タイミングを逃してしまったからね……」

 

「……しかし、あなたは私の担当で良いのですか?

 盗み聞きをしていたのなら、私に瑕疵(かし)(かし)がある事は分かっているでしょう?」

 

瑕疵(かし)というのは君の目的の事かい……?」

 

「ええ。どうやら他のウマ娘の夢を阻止するという目的は、不純で、失礼で、性根がねじ曲がっているそうで。気に食わないトレーナーが大多数のようです。

 ……あなたはどうなのですか? 先に言っておきますが、私はその目標を改めるつもりはありません。説得をするつもりなら徒労ですよ」

 

 レイハウンドは浮かべていた微笑を消し、無表情でトレーナーを見つめる。

 それに対して彼は笑みを浮かべながら答えた。

 

「説得するつもりは無いよ……。良いじゃないか、クラシック三冠の阻止、トリプルティアラの阻害……まさに性悪って感じで……。私のセンサーにとても引っ掛かる……。

 そんな君にはヘドロの様な黒を基調とした暗い勝負服が似合いそうだね……。

 下したウマ娘の数だけ撃墜マークを付けるのもおしゃれそうだ……」

 

「…………」

 

 トレーナーの言葉を聞いた彼女はあっけにとられた表情に。が、すぐに訝しむような目をトレーナーに向ける。

 

「……アナタ。これまでに担当が居た事ないでしょう?」

 

「その通りだけど……どうして分かったのかな……?」

 

「誘い文句にセンスが無さ過ぎです。

 年頃の女の子にヘドロのような色の服が似合うと言うのはあんまりですよ」

 

「そ、そうかな……ヘドロ、良い表現だと思うんだけど……。

 君の髪と同じ、青っぽい黒は工場の廃棄物処理場から引き揚げた汚染物質たっぷりのヘドロと言う他……」

 

「青っぽい黒なら藍墨(あいずみ)とか紺鼠(こんねず)とか色の表現はいろいろあるでしょうに」

 

 呆れたような表情のレイハウンド。

 

「へぇー……良く知ってるんだね……。次までには色の勉強をしてきた方が良いかな……。

 とはいえ、またスカウト失敗か……」

 

 トレーナーは肩を落とした。そしてその場から立ち去ろうとする。

 

「いえ。失敗ではありませんよ」

 

 その背中に声が掛けられた。

 

「服に関してはともかく……撃墜マーク、ですか。

 ……ふふっ。そっちは中々面白そうですね」

 

「それは……私のスカウトを受けてもらえるという事で良いのかな……?」

 

「ええ。センスの無いトレーナーと性悪ウマ娘……あぶれ者同士、きっと仲良くできますよ」

 

 レイハウンドは手を前に差し出す。トレーナーはその手を握り返した。

 

「そうかもね……。一緒にトゥインクルシリーズをぐちゃぐちゃにしてやろうか……」

「はい。精一杯引っ搔き回してやりましょう」

 

 楽しそうに話すトレーナーに釣られ、レイハウンドも笑みを浮かべる。

 それは作り物のアルカイックスマイルではなく、自然な笑顔だった。

 

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