悪役(ヒール)と黒幕(フィクサー)   作:RKC

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二十二話 正月明け

 正月三が日の最後、1/3。

 私は三日間の帰省を終え、実家からトレセン学園の学生寮に戻ってきていた。自室の扉をノックする。

 返事は無かった。同室相手のスターはどこかに出かけてしまっているのだろうか。

 

 鍵を開け、中に入る。ベッドが二つある共用の部屋は随分と散らかっていた。スターは帰省しなかったようなので、年末年始の間にこれほど散らかしたのだろうか。

 

 手持ち無沙汰だった私は、ひとまず部屋を綺麗にする事にした。一年ほど一緒に暮らしていたため、何をどこに収納するかは知っている。

 

 

 

 片付いた部屋の中で、自分のベッドに腰かける。時計を見ると、時刻は10時半。お昼には早い。

 

「…………」

 

 誰もいない部屋の中で、ふと寂寥感(せきりょうかん)に襲われた。

 

 もう少し、帰って来るのを遅らせた方が良かったかも……

 

 スマホを取り出す。連絡先に登録されているのは、スターと両親とトレーナーさんだけ。その内、トレーナーさんの部分をタップしようとして……止めた。

 

 まだ三が日。きっと迷惑になる……

 

 そう思い、ベッドに寝転んだ。

 

「…………」

 

 しばらくじっとしていたが、持っているスマホで検索をかける。調べたい事を調べた後、私は身支度をして外に出かけた。

 

 

 

 

 

 

「らっしゃい!」

 

 私の出掛け先は、以前トレーナーさんと来たラーメン屋。スマホで調べた結果、1/3から営業を再開しているようなので、こうして足を運んだ。

 

 店内に入った後、すぐに辺りを見回す。当然だが、そこにトレーナーさんの姿は無い。

 

「…………すみません」

 

 椅子に座り、店員を呼ぶ。

 

「へい! ご注文は?」

 

「魚介豚骨ラーメンの大盛を一つ。麵の固さは普通でお願いします」

 

「へいっ! 魚豚大盛普通!」

 

「了解!」

 

 店員の声が騒がしかったのも一瞬。店内BGMとわずかな調理音が厨房から聞こえてくるだけに。店内が沈静化するのと同時に、再び寂寥感(せきりょうかん)が襲ってきた。

 

「…………トレーナーさん……」

 

 カウンターに常備されている調味料、その中の赤ダレの小瓶に触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日11時半。レイのトレーナーは自室で本を読んでいた。実家からは帰省済みだ。

 

 机の上には骨折治癒後のリハビリ方法、ウマ娘の骨折についての本が山のように積まれている。その横で起動しっぱなしのパソコンの画面には、論文データベースのホームページが。

 本と同じくウマ娘の骨折、そのリハビリ、再発防止策など、気になった論文にブックマークが付けられている。

 

 ボキ……

 

 トレーナーが本で気になった内容をメモしていると、シャープペンシルの芯が折れた。ペンのお尻を叩くが、いつまでたっても芯が出てこない。

 

「ふー……」

 

 トレーナーはペンを置き、椅子の背もたれに寄り掛かった。彼がふと時計を見ると、もうすぐ昼飯の時間という事に気づく。

 

「………………外食にしようか……」

 

 目を閉じてたっぷりと考えた後、トレーナーは外出準備をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カランカラン

 

 鐘の音を立てて開いたのは、レイの行きつけのカフェの扉。

 トレーナーは店内を見回す。その後、少し寂しそうな顔をした。彼は座席に座り、店員を呼ぶ。

 

「ご注文は?」

 

「ペペロンチーノとアラビアータ……。それと食後にカフェオレを……」

 

「承りました」

 

 トレーナーはオーダーを通した後、後ろを振り返る。トレーナーの視線の先には、彼の担当と座った事のあるボックス席が。

 

「…………」

 

 トレーナーは名残惜しそうにボックス席から目を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1/4、トレセン学園のコース上。レイとトレーナーの二人はジャージ姿でそこにいた。

 

「柔軟も終わったし、今日は軽く走ってみようか……」

 

「分かりました」

 

 レイはコース上を歩く。そこからジョギング、ランニング、人の全力疾走程度のスピードまで段階的に速度を上げていった。

 コースを一周しトレーナーの元に戻って来るレイ。

 

「足は大丈夫かい……? 違和感や痛みは……?」

 

「問題ありません。……もう少し走ってもよろしいでしょうか?」

 

「その前に脚を見せて欲しい……」

 

 レイはベンチに座り、ジャージの裾をめくる。トレーナーは彼女の左足に触れた。

 (すね)から足首にかけてを触診した後、今度は右足を触診する。

 

「うん、大丈夫……。走ってきて良いよ……」

 

「分かりました」

 

 レイは再びコースを走り始める。今度はコースを五周。そして息を少し荒くしながら、トレーナーの元に戻る。

 

「お疲れ……」

 

 トレーナーはスポーツタイプの水筒をレイの方に差し出す。

 

「凄いね……。全力疾走ではないけど、怪我をする前とフォームがほとんど変わってない……。イメージトレーニングが思ったより効いたみたいで……」

 

 トレーナーが話す一方で、レイは差し出された水筒をじっと見つめていた。

 

「レイ……?」

 

「久しぶりですね。こうしてトレーナーさんの手から水筒を渡されるのは……」

 

 レイはしみじみと呟く。そのまま、トレーナーの手に自分の手を重ねるようにして水筒を両手で持つ。

 

「私がこうして水筒を渡せるのも君がリハビリを頑張ってくれたからだよ……。本格的な練習が出来るようになればタオルも渡せるようになる……」

 

 レイはトレーナーの手から水筒を受け取った。後ろ髪を引かれるようにゆっくりと。

 

「……そうですね。今は水筒だけで満足しておきます。タオルはもう少し後の楽しみにとっておきましょうか」

 

 ふわりと笑ったレイは、水筒のストローに口を付けた。

 

 

 

 

 

 

 レイが走るという事で、様子を見に来ていたスター。彼女はもちろん二人のやり取り、その一部始終を見ている。

 彼女はレイが無事に走れた“安堵”と、他人の(むつ)み合いを見せられた“なんだこりゃ”が混ざった変な顔をしていた。

 

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