というわけで星メガネです。ようやくMorfonica結成編も終わりが見え始めて来ましたね…。何年かかってんだという感じですが…。
──side響也──
「(あー、朝から最っ悪…)」
『CiRCLE』で出張やまぶきベーカリーをした翌日。俺は起きるのが遅れ、朝のHRの10分前に学校に到着した。もうちょい遅れてたら完全に遅刻してたな。
朝から汗だくになるともう全てが面倒くさくなるよな。昨日ド深夜までゲームしてた自分をぶん殴りたくなるぜ…。
「(……ん?あれは……)」
教室へ歩いていると、見覚えのある二人が面と向かって話していた。倉田と桐ヶ谷お嬢だ。今まで倉田が一方的に距離を取っていたけど、どうやらついに捕まえたらしい。
ちょっと隠れて話を聞いてみよう。チャイムまでもうちょい時間あるし、大丈夫だろう。俺はギリ話し声が聞こえる隅っこに隠れ、耳を澄ませた。
「バンドは楽しいし好きだよ。けど無理はしないっていうか、楽しければそれでいいっていうか、本気で何かしたことって多分ないんだよね」
「……」
「けど、それで皆に迷惑かけてたら最悪だよね。ごめん…」
楽しければそれでいい、か。俺は昨日考えていた“遊び”が“本気”に変わる瞬間があるのかもと考えていた事を思い出した。桐ヶ谷お嬢の考えは、正に“遊び”に当てはまるだろう。そして今、その考えが変わろうとしている。
桐ヶ谷お嬢の謝罪に対して、倉田も自分の過去の失言を謝罪した。確かに謝罪も大事だが、桐ヶ谷お嬢が真に求めているのは謝罪ではなかった。
「別にいいって。ていうか、倉田マジでバンドやめんの?」
「……わ、私は……」
そう。桐ヶ谷お嬢もまた、倉田がバンドに戻って来てくれる事を期待しているんだ。
倉田は黙りこくってしまった。勘だけど、倉田は今迷っているんだと思う。また一歩踏み出したい気持ちと、過去のトラウマに近い経験が嫌で踏み留まりたい気持ちの二つで。そんな倉田を見て、桐ヶ谷お嬢は一つ問い掛けた。
「倉田はさ、バンドで何がやりたかったの?」
「え……?」
「バンドを始めて直ぐの倉田さ、すごい楽しそうだったじゃん。それってやりたい事があったからだと思うけど?」
「でも、私には『CiRCLE』で観たようなライブは出来なかった……」
「それはあたし達の気持ちがバラバラだったからだよ。練習量もそれぞれ違ったし…」
確かに『CiRCLE』でバンドを観てからの倉田の勢いは凄まじかった。直ぐにメンバー募集のポスター書き上げて来た時はびっくりしたな。
キーンコーン!カーンコーン!
「(……やべ)」
予鈴鳴った。あと5分で席つかないと遅刻だ。もう顔出すか?けどどんな顔して出ればいいんだよ。確実に盗み聞きしてたと思われるだろ!(自業自得)
「やば……」
「透子ちゃん…」
「とにかく!あたしは、あたし達はもう一度バンドやりたいんだ。今日の放課後、待ってるから」
最後にそう言い残して桐ヶ谷お嬢はB組に戻……る前に、隅にいる俺が見えるように顔だけ覗き込ませて『後は任せた』と言わんばかりにウィンクをしてきた。
「(いや、気づいてたんかい…。ただ俺が恥ずかしいだけじゃねえか…)」
こりゃ放課後にこれでもかと弄られるな。倉田から諸々話してくれるまで、こっちから話し掛けるつもりはなかったんだけどなぁ。もうHRまでほんの数分だけど、そのバトンは受け取ってやるか。
俺は意を決してまた歩き出して、後ろから俯いている倉田に声をかけた。
「よっ。倉田」
「四条君…。もしかして、今の話聞いてた…?」
「ま、まぁ途中から…な」
あー、くっそかっこ悪ぃな。いっそのこと話に加われば良かったか?いやでも俺が入ってたら桐ヶ谷お嬢はここまで話せなかったかもしれないし、どっこいどっこいか。
「こんな私でも、また挑戦してもいいのかな…?」
「…いいに決まってんだろ。桐ヶ谷お嬢が言ってたろ?バンドを始めた時、お前はすごい楽しそうだったって」
「う、うん……」
「それはやりたい事があったからなのも確かだろうだけど、そもそもそれが出来るか出来ないか何て考えてなかっただろ?」
「……!!」
「ただ目の前の光景が眩しくて、憧れて、自分もバンドがやりたいって思った。違うか?」
光が灯った。そう表現出来るくらいに、倉田の表情が明るくなった。どうやら思い当たる節があるみたいだな。ていうか、最初から出来る出来ないなんて考えてたら、人間何も出来なくなっちまうよ。憧れを目にした時、そんな合理的に物事考えられる人なんてそうそういないはずだ。
「そっか。そうだよ…!どうして最初のあの気持ち、忘れてたんだろ…」
「どうやら、吹っ切れたみたいだな。なら放課後、その気持ちをあいつ等にそのまま伝えてやれ」
「うん。えっと…四条君も、ついて来てくれる…?」
どうやら前を向けても、自信はまだ足りないみたいだな。仕方ねぇな。
「…分かったよ。お前が逃げちまわないように、一緒に行ってやるさ」
「…!うん、ありがとう!」
「おう。てやばい、チャイム鳴る!遅刻になるぅ!」
「あ、ご、ごめん…!」
この後、何とか遅刻は免れた。あれ、俺10分前には学校に到着して、何なら教室の近くにいたはずなんだけどな…?何故に朝からこんな疲弊してんだろ(自業自得)
まぁいいか。疲れた分ちゃんと良いこともあったしな。倉田を捕まえた桐ヶ谷お嬢に感謝。
──────
「四条君。この前はごめんね」
「ん?突然どうしたんだ?」
放課後。練習室へ向かっている最中に倉田がいきなり謝罪してきた。あまりにも不意だったために聞き返してしまったが、思い返せば理由は明白だった。
因みに桐ヶ谷お嬢、二葉に広町さんは既に練習室内にいる。そんで大翔はバイトでいない。けど俺と倉田が話してるの見て『やっとか』みたいな顔してたから、デコピンをかましておいた。話聞いてくれた事に関しては感謝してっけどな。
「私、四条君にも酷い事言っちゃったから…。それに謝ってくれた時も、何も言えなかったし…」
「あの時か。もう気にしてねぇよ」
倉田が練習室をバンドから離れた時と、公園で話した時の事だな。そりゃ当時はほんの少しむかっときたが、今はもうそういう感情はない。
何て話してる内にと練習室に着いたわけだが、何やら見知らぬ女子生徒二人が誰かと話している。まぁ見る感じ練習室を使わせてくれないかとかそんなとこだろう。倉田が一時的に抜けてからは集まっても練習してなかったからな。そこに目をつけたんだな。
「や、八潮さんがそう言うなら…分かったよ。お邪魔しちゃって、ごめんなさい…」
だが二人は俺達に気づかないまま、そそくさといなくなってしまった。八潮さんって言ってたけど、まさかあいつが動いてくれたのか?まぁ先に使用許可を出してたのはこっちだし、ド正論でぶった切っただけだと思うが。
「八潮さん…」
「ほら。お邪魔がいなくなったんだから、行くぞ」
「ま、待って…!ちょっと落ち着かs───」
『
どうやら気づかれたようだ。二葉と広町さんが倉田を呼ぶ声が響き渡る。俺は後ろから倉田の両肩を掴んで、彼女の制止する声を無視して強引に練習室へと入って行く。だってこうでもしないと倉田から入ることなさそうなんだもん。
「あ、その、えっと……」
完全にテンパってら。頑張れ、倉田。お前なら出来るさ。
──sideましろ──
「(ちゃんと謝るんだ。バンドから逃げたこと、迷惑かけたこと。そして、またみんなと一緒にバンドをやりたいって…)」
私は、そのためにここに来たんだ。
けど────
「(もう一度やりたいなんて資格、わたしにあるのかな。あんな酷いことしておいて、許してもらえるのかな…)」
透子ちゃんは許してくれたけど、二葉さんと広町さんは…?私の心に一つ、また一つと不安と言う名の影が生まれる。
「(でも、今言わないと、絶対に後悔する…)」
それに、もう自分のやりたいって気持ちに嘘はつきたくない…!
「みんな…!本当に、ごめんなさいっ!!」
私はみんなに深々と頭を下げた。私がみんなを誘って始めたことなのに───
『私、もうバンドしたくない……』
いの一番に投げ出して、酷いことをして。
『間違えもたくさんあったし、音もみんなとズレてて、そっちに私も引っ張られちゃったっていうか…』
自分が出来ていないのを二葉さんや透子ちゃんのせいにもして。私が抜けた後も話そうとしてくれた四条君や広町さんの事を無視して。
「躓いたら直ぐに諦めて、言い訳ばっかりして、嫌なものに蓋をしてずっと逃げてた。昔からずっとそう…」
バンド、それに四条君が付き合ってくれた部活動見学でもそうだった。何か一つでも嫌な事だったり不安な事があると直ぐに諦めて、それっぽい理由をつけて逃げ出してしまう。こんなのを続けてたら、変われるわけがないと分かっていながら。
でもそれが分かっているからこそ、もう逃げたりしたくない。だから私はもう一回、みんなと…!
「こ、こんな私でも……また一緒にバンドをやってくれますか…?」
言った…ついに、言ったんだ。真っ直ぐにみんなへと向けて放った言葉は、正真正銘私の本当の気持ち。一度壁にぶつかって挫折しても尚、消える事のなかった熱だ。
私がそう言うと、三人は表情を綻ばせ───
『もちろん!』
───優しい声で私を迎え入れてくれた。
───響也side───
いやー、良かった良かった。倉田が漸くバンドへ復帰した。その過程でみんながバンドへの熱を一段上げてだ。あいつ等は“遊び”が“本気”に変わる瞬間を迎え、それを乗り越えたと思う。
「やっと…やりたいって言ってくれたね。倉田さん」
「二葉さん…」
「このままやりたいって言ってくれなかったら、どうしようかと思ってたんだよ…?」
「ま、あたしは戻ってくるって信じてたかんね。それにあたし等だって、倉田とバンドやりたいって思ってるから」
「うんうん、私達のボーカルはちょっと自信無さそうなボーカルじゃないとね」
「透子ちゃん、広町さん…」
三人の言葉に、倉田は固まってしまった。どうせまた自分を下げるような事が頭の中に浮かんでいるんだろう。自分のした事は嫌われて、相手にされなくなっても可笑しくないのにと。
俺は倉田の肩に手を置いて、自分の気持ちを話すために口を開いた。
「だから言ったろ?みんなお前とバンドがしたくて、ずっとここに残ったんだ」
「あ…!」
『俺もあいつ等もまだ諦めてない
このバンドのボーカルは、お前がいいんだ』
俺が倉田に送ったLINEの光景が、確かに目の前に広がっている。倉田のそんな考えは消すには、その事実を思い出させればいい。俺も、あいつ等も、ちゃんとお前を必要としているんだってな。
これで倉田もまた口を開くだろうと思っていたのだが、何故だか動かない。固まったままだ。奥の三人もあわあわしている。
「あのー、倉田さ…!?」
「う、うう、ううう…!」
「……」
「泣いてる」
倉田が、泣いていた。それを見て、俺も思わず固まってしまった。八潮やめて、さらっと俺の方見て言うのやめて。こんなの予想出来るわけないじゃんか。
「な、泣かないで、しろちゃん!」
「あー、四条が倉田泣かしたー!」
「いや何で俺がやったみたいになるんだよ!100俺が悪いわけじゃないだろ!?」
これはそのーあれだ!ここまでの諸々が積み重なって、感極まって泣いちゃったんだよ!そうだよな?そうなんだよな!?だからこれは俺が100悪いわけじゃない!うん!(自己暗示)
一歩進んだと思ったら2歩、最悪3歩下がるくらいにはネガティブだけど、先を行く仲間に手を引かれて、ぎこちないながらも前へ進んで行くのが初期の倉田ましろちゃんだと思っております。本作では四条君が後ろから背中を押してくれていたため、最初の一言はましろちゃんから一歩踏み込みましたが。
そして今回前後編と分けたこのタイトルですが、ガルパの各バンドにこの瞬間があると個人的に思っています。ポピパなら『SPACE』のラストライブのオーディション、アフグロならガルパストーリーの第一章、モニカだと今回の内容みたいに。