有翼のリヴァイアサン   作:ヤン・デ・レェ

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第四話 皇帝の独白

第四話 皇帝の独白

 

 

はじめまして。俺は転生者だ。

 

…信じられないかもしれないが、俺は確かに転生を果たした…と思う。

 

何故思うなのかと言うと、それは俺には前世の自分に関する記憶がないからだ。常識だとかそう言ったものは多分もってるんだと思うけど、俺には特にこれといって自分が何者だったと言い切れる自信がないくらいだ。

 

さて、前世の俺のことは一旦置いてといて今の俺の状況について説明しよう。

 

俺は前いたところとは全く別の世界に生まれた。

 

こう言う転生ものにありきたりな神様なんかには会わなかったし、転生特典らしきものも貰わなかった。

 

ただ、ふと目を開けたらピカーと輝く黒い石があって、それが自分だと俺にはわかった。

 

何をいっているんだと思うよな?俺もそうだった。

 

俺はどうにも宇宙みたいなところを物凄い速さでビューンと飛んでるキラキラ輝く黒い石になったらしく、この石(俺)はどこかへ向かっているのだ。なんとなくそう思った。俺は体なんか無くて、けど何とも言えない懐かしさを感じる方向へ向かっていた。

 

暫く飛び回って、目の前に星が見えた。あの星が目的地みたいだ。体が熱される感覚は大気圏に突入したからか。このまま燃え尽きやしないかと肝を冷やしたけど全然大丈夫だった。びびって損をした気分だ。

 

キューーーーーーーって甲高い音を発しながら落ちていく。泣いているみたいだった。悲しい涙じゃない。やった!やっと会えたっ!みたいな嬉し泣きだ。

 

空に反響させるみたいな歓喜の声が止むのと同時に、俺は身体中を巨人に振り回されたみたいな衝撃に襲われた。びっくりしたけど自分の体から誇りを払うことも、手足がないから出来なかった。

 

キョロキョロと見回す。あちゃ〜、自然破壊してもうた。俺は呑気にそう思った。俺が見回すと、あたりは一面が土を抉って掻き回したような有様だった。

 

悲しいくらい自然に不親切な軟着陸だった。隕石の気持ちが分かった気がする。

 

動くこともできずに誰か来ないかと辺りを見回していると少しずつ当たりの景観がわかってきた。森だなと思った。それにしても見たこともないでっかい木ばかりの森だ。

 

結局そのあと何をするでも無くぼーっとしていた。俺は相変わらずキラキラしてる。物理的にオーラというか光を放ち続けているのだ。

 

何となく誰かこーいと叫ぶと、驚くべきことに本当に誰かが来たのだ。転がるみたいに俺が作ってしまったクレーターに転がり込んできたのはトカゲをゴッツくしたみたいな角と尻尾が生えた、俺のもつ語彙じゃ表現しきれない女だった。何というか真っ白だ。

 

いや、ボクシングを嗜んでそうに見えたわけじゃなくて、本当に真っ白なのだ。興味津々の俺が彼女を見つめていると、彼女は満面の笑顔を浮かべて俺の体(石)を抱き上げると、こう、ムギューっと抱きしめた。

 

俺はドギマギしてた。えぇー?!?!なんでなんでなんで!?!?どうどうっ!落ち着いて!何があったの!?え?え!?

 

俺の困惑をよそに、その美しい顔を歓喜に歪めている。涙と鼻水と色々出したまま。俺は言葉が通じてないのを分かってるけど落ち着けと言い聞かせるように光を放つことにした。いや、何というか出来る気がしたのだ。

 

ピカーと光る俺。さらに抱きしめられた。今度はもう、なんか人前で言っちゃいけないような恥ずかしいことを凄い勢いで絶叫していた。叫ぶ声も綺麗なんだなと思った。尻尾がぶんぶん揺れてる。

 

彼女の独白とも、絶叫とも言えるそれはかなり長く、そした絞り出すような重みがあった。俺が言った人前だと恥ずかしいという評価は正確にはちょっと、抱きしめられながら面と向かって言われると照れちゃうという意味だ。

 

今更だけど彼女が何を言っているのかとか、そういうのは全然理解できた。転生ってハードモードだったり、中途半端だったりであんまり両手を上げて喜べないなと不安だったけど、何とかなりそうでよかった。

いや、何ともなってない。俺は石のままだった。

 

彼女は俺が一人で黙々と回想しているうちもずっと俺(石)を抱きしめていた。その抱きしめてくれるのがすごく心地良くて、俺はなんというかママーーーー!!!という心地になった。

 

人を殺してしまったわけじゃないけど、そんな魂の叫びが溢れる感じだった。ポカポカぬくぬくで、なんというか全部柔らかいのだ。向こうから特大の愛情を液体で流し込まれる感じ。流し込まれたことないけど。俺はこう、なんというか、おぉう!ってなってた。

 

初対面なのに懐かしい感じがしたし、俺は石なのにこの人が柔らかくて温かいのがわかる。俺は不安とは別にモヤモヤが出てきそうな違和感を覚えた。

 

羽が瞬くみたいな違和感が頭の近くに響くみたいで、でも何か直ぐに聞き取れるものでもなかった。どうしてかというと俺を抱いてるこの女の人がまた愛を叫びはじめたからだ。やばいやばい!なんかわからないけど緊急事態!パニックに陥る俺は一旦落ち着いて違和感の正体を探るべく耳を澄ませることにした。

 

耳はなかったけど、その違和感が段々とはっきりとした声に聞こえてきた。俺は自分が何か神の声みたいのから名づけよ〜名づけよ〜と語りかけられてることに気づいた。名付けるのは誰なのか、俺は本能みたいなもので気づいた。

 

これが初めてじゃないのかな?俺が生きてた前世の世界はこんなファンタジーな外見の超絶美女に抱きしめられる機会がそこらへんに転がってる不思議ワールドじゃなかった。けど、俺はどうにもこの石の体になってから不思議な力というか何かが存在してる気がしてならなかった。胸の奥から知らない言葉が溢れそうな、そんな不思議が起こっていた。

 

知らないけど、このママこの人に抱きしめられてるママ…じゃなくてこのままじゃ何も変わらないと思った俺はこの不思議な勢いに任せることにした。

 

ディクタトラ

 

俺は口がないので念じるみたいにその言葉を唱える。するとガバッと女の人は立ち上がってクレーターの外へと出た。俺を抱えたまま。

 

それからはちんぷんかんぷんが続いたから説明に困る。

 

俺(石)が御宇とかユーニアスターなるもので、観客みたいに俺と女の人…ユリアナっていうらしい、名字はツェーザル?俺にはカエサルと聞こえた…を囲んでる明らかに俺が元いた世界だと職務質問受けるような不思議な外見の人々の王様兼神様らしい。

 

俺の疑問が晴れる前にユリアナさんは国建てちゃる!!と宣言して、周りの人たちも大盛り上がりだった。うぉぉぉぉ!!!みたいな感じ。楽しそうというか嬉しそうというか。よくわかんないけど俺もニッコリ。

 

赤ん坊を寝かせるみたいにユリアナさんが俺の体(石)をトントンしてくれてるので眠気が凄い。

 

あぁ…そういや、さっき堂々と名乗りを上げるみたいなのカッコよかったな。俺もいつかしてみたい。ディクタトラって俺が口に出した名前も聞いててくれたんだね。今はわかんないけどカッコいい。俺もそういう名前が欲しい。意味は知らんけど。名前も無いけど。俺がそんなことを思っていると、頭の上から慈しみのこもった優しい声が降ってきた。

 

「あなたの名前はテトラ。私のすべてよ。あなたを迎えるまで少しだけ待っていて下さい…いまはただ、安心して安んでいいの。必ず、ずっと幸せにするから。」

 

おぉ…重いけど、なんか良いなぁ。呑気な俺の意識はうとうとと傾いていって、無いはずの瞼が降りるみたいに意識が失われていった。

 

暗転。フワフワと浮いてるみたいだ。

 

次に目が覚めた時。俺は生まれ変わってる気がした。確信みたいなそれを不思議に感じてなかった俺が一番不思議なのかも。

 

 

 

うーわ。そう俺は思った。

 

目の前で色々薙ぎ倒すユリアナさんは凄い。最後に見た時は見渡す限りの森だったけど、目を開けたら俺はよくわからないけど平野に来ていた。何というか俺は立派な装飾が彫られた頑丈な金属の箱の中でクッションの上に載せられていた。たいそう大事に大事にしまわれてるらしく、クッションはふかふかで、その上さぞかし高価な絹か何かが使われているように見える。このきんきらは金糸かな?

 

箱の中に入ったままなのに外が見えるのは何と説明すれば良いか。例えるなら空中に目ん玉だけが浮いてるのをイメージするとわかりやすい。

 

そんな不思議な俯瞰視点から目の前の光景を解説してみると、すごく短くいうと戦闘状態だ。

 

後ろにあるのが多分もと来た森で、目の前は森を抜けた所にある平野だと思う。そこで、さっきの所謂人ではないモンスターとかファンタジーの住人みたいな人たちと人間達が戦っていた。

 

何方も剣とか槍とかを使って戦っているけど、ユリアナさんと何人かはもう言葉で表現できないくらい目立ってる。多分活躍してるって言葉が正しい。

 

大体両軍併せて千人くらいの集団で、人間の方がずっと数が多い。人間の戦列にユリアナさんは手に何も持たずに吶喊すると、太くて丈夫そうな尻尾で足を払うと同時に右手を振り抜いて、左手で剣を人間の兵士から奪った。今度は華麗に回し蹴りで周囲の兵士が構える盾ごと薙ぎ倒してる。盾が砕けるって凄いな。カッコいい!!がんばーれ!ユリアナさーん!ガンバーれ!と俺は気づいたら応援していた。

 

聞こえないと思ったけど、そういえばディクタトラの名前は聴こえてたんだから実は伝わったのでは?と頭があったら半目になってユリアナさんを見ていることだろう。

 

果たして俺の声は届いていた。返事があったわけじゃないし、聞こえるよーとテレパシーが帰ってきたわけじゃないけど。俺が応援するたびに向こうの人間側の戦列がぐちゃぐちゃに、なんというか物理的にも人が吹き飛んでたりしたので伝わったんだと思う。

 

ユリアナさんは多分大丈夫そう。危ないに違いないけど。ほら!今も相手から奪った剣で三人は斬り飛ばしたよ!…俺もこんなグロテスクなのに大丈夫なのな…。ちょっと自分にビックリ。さらに驚いたのは三人の首をボン!と擬音が聞こえてきそうな勢いで斬り飛ばしたら今度は槍を拾って人体に風穴を開け始めたユリアナさんだ。なんか、殺る気がヤバい。語彙が足りないね!

 

ともかく、一人で百人くらいの隊列へつっこんで、手当たり次第に嵐みたいに暴れてるユリアナさんは置いとくことにした。凄いよ。代わりに目を向けたのは赤いというか紅い髪がキラキラしてる女の人だ。

 

ユリアナさんが真っ白いなら、あの子は真っ赤だ。髪の毛は赤いし、物凄い美女なのはわかった。ユリアナさんとは色違いみたいな赤黒い鱗の尻尾と、頭の耳の後ろら辺からニョキっと黒い短くツノが出てた。肌は浅黒い感じ。髪とか角とか見なければ日焼け女子だね。

 

綺麗だなと思って見ていると、この子も凄かった。ファルカタとかって呼ばれてる肉厚な剣。あれを本当に自由自在に振り回してた。ビュオー!じゃなくてボボボ!!!みたいな感じ。あれ自体が相当重いのが戦ってる様子からわかる。盾で受けると真っ二つに折れるか、盾ごと裂かれてる。何か斬撃というよりは断ち切る感じ。圧し切るという言葉がぴったりだ。尻尾もブンブンと激しく空を切っていて、まともに受けた兵士は吹き飛んでた。近づけないよね、あれは。

 

その後も観察を続けていると、間も無く人間側の戦列が崩壊して敵前逃亡が続出した。

 

鬨の声が聞こえてくる頃になると、また眠たくなっていた。ああ、寝てしまうぅ。

 

 

そして、次に目を覚ました時。俺は皇帝になっていた。

 

何を言っているかわからない?俺もそう思う。

 

目が覚めるとそれまでなかったはずの体があるって感覚がハッキリとわかった。

 

スベスベの体と痩せっぽちの体。五歳児とかそんなもんだと思う。ゾウさんはマンモスさんくらい立派だった。やったぜ。

 

卵から生まれた。そんな言葉が浮かび、キョロキョロしたら殻だったものが散らばっていた。散らばるっていうか真っ二つになった、俺だったはずの黒い石だ。中が空洞になってて、そこに俺が入ってたみたい。心なしか最後に俯瞰してみた時より大きくなっていた。

 

成長したのかな?俺の体が最初の大きさのままで入ってたとは考えにくかった。着る物を探そうと振り返った時、いつか出会ったユリアナさんと目があった。

 

「あぁ!!やっと…やっと会えました!!」

 

がばぁぁ!!と体の中に押し込むみたいな抱擁をうけた。

 

「うわぁ!うぎゅ…。」

 

「うぅぅ…あぁ。本当に僕ちゃんだぁ!!やった!!待ったましたよ!ママね、ずっとあなたのことを待ってたんです!!!」

 

泣きながら俺を抱きしめるママ(仮)。ていうか、僕ちゃんて…。口を石で漱ぐあの人でも使った言葉は坊ちゃんである。僕ちゃんとか変人だらけの文豪でも使うのを憚るレベルだ。俺は顔を窒息するくらい柔らかい二つの脂肪に押しつけられていた。幸せだが命の危険をはらんでいた。フグと同じだね。

 

「ぐ…ぐるじい…。」

 

「……って呼んでください。」

 

「えっ?」

 

「マ・マ…って。呼んで欲しいんです。」

 

ウルウルと瞳を揺らしながら突然懇願し出したママ(仮)。い、いいけど…。俺は状況についていけなかったので流れに身を任せた。

 

「ま…」

 

「マ?」

 

「ママぁーーー!!!!」

 

oh〜ohh〜〜〜と、知らない俺がピアノの前で歌っていた。

 

「そ、そうですよ!ママですよ!私があなたのママなんです!僕ちゃんのママですから!」

 

「ママーーー!!!」

 

「〜〜〜!!!好き!!愛してますよ!!もう絶対に離しません!!」

 

「ママーーー!!!」

 

「ありがとうございます。僕ちゃん…。」

 

「うん。」

 

許されたようだ。このあと、俺は幾分か落ち着いたママ(固定)から話を聞いていた。これまでのこと、これからのこと。全てをママは話してくれた。

 

「つまり、僕はこの星とは別の星の本物の生きてる神様で、その星にご先祖様をもつ人たちが人間からこの森に追い立てられちゃって、僕はその人たちの希望の光みたいな?」

 

「うんうん!そうなの。うふふふ。僕ちゃんは天才ですね!生まれてから一時間も立ってないのにママのお話を全部理解できるなんて!ママは幸せ者ですね。うれしいわ。ママは貴方が待てというならあと百年でも千年でも待てます。」

 

「う、うん。ありがとう。ママ。」

 

俺はちょっと引き気味でママにそう返した。ママは俺からママと呼ばれるたびに体を艶っぽくくねらせてニマニマしていた。これだけ気味の悪い仕草をしているのに絶世の美女がしてると色気が勝つのだからびっくりだ。驚かされてばかりな気がする。俺は自分の一人称が気付かぬうちに僕に変わってることに気づいて。すでにママに影響を受けすぎていた。俺の心中の困惑に知ってか知らずかはさておき、ママ…じゃなくて、彼女は妖しく小悪魔みたいにニマリと笑顔を浮かべながら俺に向かってねっとりと話しかけた。頭の中までママ呼びはキツいものがある。

 

「ふふー。ママ…だって〜。そう、そうなのよ。私はあなたのママですよ〜?だからね?もうね、ぜーんぶ。ぜーんぶ用意したんですよ?百年もかかっちゃいましたけど。それでも……それでも、ママは足りないと思うんです。」

 

そういうと彼女はさっきまでの幸せそうな顔が嘘だったみたいに、悲壮な表情を浮かべた。

 

「ね、だから。今日はママから僕ちゃんに贈り物があるんです。さぁ、ママが抱っこして連れていきますね。」

 

俺が次に何か言う前に彼女は俺を軽々抱き上げると自分の体に抱き寄せて、俺の頬と自分の頬を嬉しそうにすりすりと合わせながら彼女は歩き出した。

 

彼女は背が高く、彼女に抱かれて高いところから見るとこの部屋は俺のためだけに用意されていたことがよくわかった。

 

部屋中が分厚く柔らかいクッションに覆われていて、硬い床が見えているところがない。万が一にも俺が入っていた黒い石に瑕疵が付かないようにしていてくれたんだとわかる。黒石そのものにも何層にも豪華絢爛な絹で外見が覆われていて、毛足の長い白くてふわふわの毛布で包まれていたようだ。俺が生まれる時に蹴飛ばしてしまったのかひらりとクッションの上に広がっていた。俺はこそばゆい気持ちをしながら部屋を後にした。

 

コツコツと足音を立てながら彼女と歩いている廊下はさっきの部屋とは打って変わってどこまでも武骨で、徹底的に耐久性や機能性を突き詰められていた。

 

足を前に進めながら彼女は俺に語りかけた。

 

「僕ちゃん。私はあなたに全てを捧げます。命も肉体も誇りも名誉も忠誠も愛情も、全て僕ちゃんだけに捧げるんです。今までは始まっても居ませんでした。会ってわかったんです。私はあなたのママになるために生まれたんだと、ここに生まれたんだと、私に生まれたんだと理解できたんです。全てが私を満たしてくれるんです。」

 

彼女は俺の頭を愛おしそうに割れ物を扱うみたいな力加減で撫でながら、撫でてる彼女の方が幸せそうな顔になって、気持ちよさそうに目を細めていた。一度そこで言葉を切った彼女は、俺をゆっくりと下ろすと自分と俺に言い聞かせるみたいに話した。

 

「決して忘れないでください。例えこの世の全てが貴方の敵になったとしても、私は貴方を幸せにします。貴方がなによりも最高なんですから当然です。あなたを如何なる手段を用いても幸せにします。そして、それは貴方の当然の権利です。欲しいものがあれば教えてください。食べ物、宝物、奢侈品、娯楽、愛情、女、人の命、権力、国…例え何であれ全てを必ず用意します。」

 

「だから、ずっと私と一緒にいましょうね♪」

 

気づけば俺たちは巨大なスクリーンの前に来ていた。あたりは日に照らされるみたいに明るくて、俺は話を聞くのに夢中で何も気づかなかった。

 

「さあさあ。おめかしの時間ですよ?」

 

悪戯っぽく笑いながら俺の頬をふにふにと一頻り弄ぶと傍に来ていたかっちりした軍服みたいな服装の女性たちから豪奢な服や装飾品を受け取った。彼女は受け取った紫と金色の服をあっという間に俺に着せ、最後に光を反射してキラキラと輝くダイヤみたい宝石が埋め込まれた針金で編まれた月桂樹の冠を頭に載せた。

 

「ここに!!神聖皇帝テトラ・バルカン・ドラコニウス・ノトヘルム=ノトガーミュラー・バシレウスの即位を宣言する!!!!真の主君たる御宇を戴き、バルカン帝国は遂にバルカン=テトラ神聖帝国に生まれ変わったのである!!!」

 

一瞬、音が世界から失われた。そして次の瞬間、世界から一瞬失われた音が全て放たれたみたいな歓声が爆発した。熱狂が世界を覆うみたいだった。

 

こうして。宇宙の覇者、御宇に転生した俺は全ての人ならざる徒の現魔神になった。

 

 

 

 

 

 

俺氏。受肉して三十分。気づいたら皇帝になってた。

 


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