最初の中ボスは勇者姫の宿命のライバルである   作:炭酸パスタ

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傷付いたシルヴィア・フォン・ソラプロダクトに第六章ボス如きが襲い掛かる等許しておけるものか!!
シルヴィア・フォン・ソラプロダクトは万全の状態でこの俺様に敗北をするのだぁっっ!!!!
ふんっ!! 偽装してやるぞ。
勇者シルヴィアとあの天使の魔力波長をなっ!!


超銀河級究極賢い俺様こそが勇者シルヴィアのライバルに相応しいと証明してくれるわっ!!

 吹き荒ぶ風の中、研究者の姿をした二人の男が対峙していた。

 

「スカイライン君。久し振りだ」

 

「はっ、シルヴィア・フォン・サンプロダクトと天使の魔力パターンを再現して展開してみれば何かは釣れるだろうと思ったが、これはこれは教授。久し振りだ。

…さて、茶番は止めて本性を見せたらどうだ?」

 

 教授と呼ばれた男は、狂った様に高笑いすると、その背からは巨大な十枚の翼を、その頭上には茨の円環を現した。

 

「ククク…ハーハッハッハ!! 敗北者と人の最高戦力の処刑に来てみれば、居たのは平民風情と来た。

これは喜劇か!? 否、この様に適当な脚本など劇として見せるに不十分だ。

卒論の再提出を要求する」

 

 

 シルヴィアと折心から遠く離れた場所には、二種類の魔力を魔法に結実させずに垂れ流すジティアと、彼やシルヴィアが研究をしていた幾つもの研究室を纏めて統括する、教授ニレゴ・エアトライサー…否、天使宮高級幹部、【大知(だいち)に立つ大樹】楡遺古《にれいご》・エアトライサーがいた。

 その背には巨大な枝葉が翼として顕現し、その肉体を宙に浮かせている。

 その姿は筋肉質な細見の青年であり、先程までの老人の姿は何処にも無かった。

 

「宜しい。では最後の授業としようか。

教えてやろう。題目は『天使と人間の残酷な種族差について』。

どうかな?」

 

「ああ。それが良い。

だが生憎とそれについては既に答えが出ている。

俺様は貴様より強い!!

 

 

 

 楡遺古は不快感を顔に浮かべ、憤怒の絶叫と共に背中の枝葉から生み出した種を機関銃の如く撃ち放つが、ジティアは「コード…」と呟くと加速してそれを躱した。

 

 だが、そんなジティアの後ろから鋭い()が突き刺さった。

 

 咄嗟に前に転がる様に飛び退くと、背後にはそれはそれは美しい観葉植物は何株も生えていた。

 楡遺古を視線に入れると、先程までの憤怒の表情が消えて無となっていた。

 

「成程、怒りに任せて簡単に捌ける(・・・・・・)攻撃をしてきたのはフェイクという訳か。

安心した。一瞬でも脳筋に講義を学んだ過去を呪いたくなってしまったからな」

 

「君は私が受け持った学生の中で一番優秀だった………人間の中ではな。

学力においては、天使を含めてさえ君より優れた学生はいなかった。

それでも所詮は人間…そう思っていた。

だから私が目を掛けた折心を破ったのには驚嘆したよ。

だが終わりだ。

呪うがいい。

私が出て来た時点で、もう全てがお終いだ。

私は完全であるが故に。

ジティア君、君が勝つ見込みは────0%だ」

 

 地上から生えていた植物がいきなり成長を始めると、その全体が地中から抜け出した。

 “天界産”の植物は土になど依存などしない。

 その全身は空中に浮いている。

 大蛇の様に長く、棘だらけの身体。

 甘い匂い漂う蜜を垂らしながら噛み合わせる蕾。

 鳥の翼の様な太長い葉。

 鋭い爪の様な根。

 その姿は──────竜に似ていた。

 

 一株ではない。その数は───十三。

 

「…天界のリュウゼツランは凶暴だぞ?

血を吸う程に、美しい花を咲かせてくれる。

君が存在した証明として、地上に美しく咲き誇れ」

 

 

 一斉にジティアに殺到する十三株の竜。

 仲間を巻き込む事さえ躊躇せずに、その爪をその牙をその翼を振るう。

 その乱戦においてジティアは一体を盾にしつつ、舞う様にその竜を魔法剣で微塵に割いた。

 

「Code:CBA-Z34(フェアレディ) 0K(フリーズ)・バルディッシュ」

 

 汚れ無き乙女のみに背を許す一角獣が如き槍の穂先は、触れるものに一切の温度を許さない極寒。

 そして担い手には疾風が如き速さを与える。

 本来の使い手は、絶対零度の戦乙女。

 彼女の魔法剣『フリーズ・バルディッシュ』を基礎レベルにまで解析して、基礎から構成させたのがジティアの『0Kバルディッシュ』。

 触れた者を凍てつかせて、その鼓動が刻む時を停める。

 

 シルヴィアに敗北して、自らを凍結させた本来の使い手を、ジティアが解析して逆算魔法を用いて解凍させた際に覚えた魔法剣である。

 

 

 

 一瞬にして氷像となり、砕けて散った一株のリュウゼツラン。

 しかし、他の竜は意に介すどころか、その破片を美味そうに貪った。

 

「言っただろう? 天界のリュウゼツランは凶暴だと。

賢い君は私が教えた事を覚えているだろう? 極めた魔法は本能を持つ」

 

生きた(理性なき)魔法の悍ましさ、ここに極まれり…だな」

 

 ジティアは魔法の窮極系に対して、吐き捨てる様にそれに嫌悪した。

 一方、楡遺古はジティアの魔法剣を讃歌した。

 

「それが君の魔法か。

我々の知る魔法体系とは全く違う、血の通わない機械的で心無き魔法…………美しい。

何処までも無粋で純粋で吝嗇で正確な魔力の流れ。

君は、…………人に生まれるべきでは無かった」

 

「人に生まれようと、人以外に生まれようと、俺様は同じ答えに至るだろう。

生まれ(スタート)』に価値も意味も無く、『シルヴィア・フォン・ソラプロダクトに勝利する結末(ゴール)』だけを目指して先へ征く。Option Code:V6DOHC(デュアルウィール・フルドライブ)

 

 不純の象徴である二角獣(バイコーン)を象徴した、自己愛が強く潔癖な本来の使い手には使えぬ派生技。

 長い槍と、短い槍に別れた魔法剣を、己の前で交差するように構える。

 それは正しく時計の針のようだった。

 

 その効果は、斬り付けた場所の『時そのものを凍らせる』。

 

 剣が竜に触れる事なくとも、その空間で剣を振るい続けているだけで、周囲空間全ての物理現象が遅延していく。

 例外は────ジティア・スカイラインのみ。

 

 

「クロックダウン。時よ凍結(こお)れ」

 

 離れた場所から見る楡遺古には、配下が遅くなった様にしか見えない。

 だが、これ程までの絶技に魅せられては、こう言う他は無かった。

 

 

「…君は、美しい」

 

 

 正確には、ジティアから流れる術式が美しく思えたのだが、それもジティアに由来する以上、天使的な感性からすれば、ジティアそのものが美しいとも言えた。

 

「ご自慢の化け物達は、緩やかな時間の檻に閉じ込められた訳だ。

どんな気分だ?」

 

「そうだな。控えめに言って最高と言っておこう」

 

 

 例え美しくとも、神々の敵であれば滅せねばならぬのが下仕え(天使)の悲しい所だ。

 

 楡遺古は(リュウゼツラン)たちに先程いた空間から避難させる為に一株を爆発させた。

 その勢いで遅延した空間から弾き出された竜たちは、当初の速度を取り戻した。

 

「素晴らしい。素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい──────実に、素晴らしい。

魔法特性を作り変えるのでも、全てを包括した魔法特性を持つのでもなく、特性が無いままで基礎から魔法を再現する。

持たざる者から始まった君だからこその革命的大・発・明。

この楡遺古・エアトライサーが保証する。

君は誰よりも美しいと!!」

 

 それは告白に似ていた。

 天使には人に似て異なる感性がある。

 その中でも大きく違う感性の一つが、感動と恋とに区別を付け難い事だ。

 原作では楡遺古は、シルヴィアに敗北した際に告白していた。

 自身の想定する当たり前を上回られた時、天使は恋に似た直感に支配される。

 これはマナファンタジアのジャンルが初期プロットでは恋愛シュミレーションゲームであった事に由来する。

 

「俺様の保証は俺様だけがすればいい。

誰かに保証して貰う必要など皆無!!」

 

「そうか。残念だ。

舞う蝶を生かしたまま捉え置けないのであれば、標本にする他あるまい」

 

 楡遺古は包む様な形にした両手を前に出すと、その手に満ち満ちた種を蒔き散らした。

 

 

「誘え、薔薇の園・標本回廊(エロイムテック・ローズガーデン)

 

 突如大地を茨が埋め尽くした。

 咄嗟に地面を凍らせたジティアの周囲には茨が伸びては来ないが、凍った地面の下をコツコツと茨が叩き続けている。

 早く扉を開けとノックする様に。

 

 天には竜。地には茨。

 ジティアは挟まれた。

 

 

 

「君は緑の檻に閉じ込められた訳だが。

一応聞いておこう。

─────どんな気分だ?」

 

「控えめに言って最低だ」

 

 これが天使と人間の隔絶した格差。

 天使の戦士階級に勇者として生まれた折心相手に、二対一で勝利を収めた程度(・・)では、十枚翼の幹部天使には届かない。

 だが────

 

「─だが、それは諦めを意味しない」

 

「…何?」

 

 再びジティアの魔臓が鼓動する。

 

「時よ───────「凍結(こお)れ」」

 

 ジティアの声に、氷柱の様な声が重なった。

 重なったのは声だけではない。

 同じ属性を持ちながら違うアプローチで同じ結果に完結する二つの魔法が重なった。

 

「アリア・フォン・パビリオン…何故?」

 

「それは(ひとえ)旦那様(あなたさま)の為ですわ」

 

 ソラプロダクト王国から独立したパビリオン公国家。

 王国と公国は表面上は穏和だが、その裏では激しく対立しているのは誰もが知っている。

 その公国家の娘がアリア・フォン・パビリオン。

 又の名を──────【絶対零度の戦乙女】。

 

 王国に追い詰められた公国の未来を嘆き、天使の啓示に従い僅かな手勢と共にソラプロダクトに戦争を仕掛けた公女。

 公国においてその美しさは絶対であり、その強さは絶対であり、彼女と配下の絆は絶対であった。

 

 しかしシルヴィア・フォン・ソラプロダクトに追い詰められた彼女は、表れた天使によって利用された駒に過ぎなかった事、何より己の出自に絶望し、己の敗北と公国の未来と己自身を受け容れられずに自らを永遠の氷像として凍結させた。

 

 その凍結魔法を解除する為には、彼女と同じ魔法を使える必要があり、結局誰にも解除出来なかった。

 その例外がジティア・スカイラインだ。

 

 ジティアは魔臓無き種族:平民(如何なる生まれ)かなど個人の能力と可能性の前には全くの無意味であり、己の才覚こそが貴族の求める最高位魔法(魔法剣発動)に至ったと語った。

 要するにただの自分の自慢である。

 基本無欲であり、自分の命にさえ無頓着な癖に、自分の凄さを語りたがる所はジティアがジティアたる所以である。

 

 それは偶然にも、天使によって残酷にも明かされた出自に悩むアリアの心さえも溶かした。

 

 また、己がシルヴィアより優れた存在である証明の為だけにジティアがGTR(クソ速連鎖)積みでハイペースに積み上げた善行が、連鎖反応を起こし消滅して、全消しボーナスまで発動させて、王国による報復を理由にした公国併合作戦に多大なる悪影響を与え、結果としてもはや実行不可能なまでに遅延した作戦計画は、もはや不可能という国王の同意を取り付けたシルヴィアが、中止発表に間に合った事によって廃案にされた。

 

 ジティアに助けられたアリアは、ジティアと結婚すると決意すると共に、己の魔法特性を徹底的に追求する事で、時を凍結させるという結論に至った。

 彼女が旦那様と書いてあなたさまと読んでいるのは、彼女以外は誰も知らない。

 当事者であるジティアさえも勿論知らない。

 王国民でありながら、公国の独立を守った英雄としてジティアを祭り上げて、婿に迎える外堀を少なくともパビリオン公国内では埋めている事も、勿論ジティアは知る由もない。

 

 永遠の氷像という人質として王国に持ち帰られる寸前のアリアを、当時魔臓作製前の状態で、魔法が使えないにも関わらず、肉体と技を鍛えてシルヴィアに勝つというアプローチで乱入して来た頭の良いバカがいなければ、アリア配下の戦乙女隊によるアリア奪還も間に合わなかった可能性もあった。

 その戦乙女隊も道中ジティアに助けられていた。

 レズの園な戦乙女隊からは、男性ということで助けたにも関わらず、常に視線を合わさず背を向けられる程には冷たくされたジティアだが、彼はその様な事を気にする程、シルヴィア以外の他人を気にしない。

 

 それらのエピソードは後に、王国の策謀によって主君と引き離された戦乙女隊を率いてアリアを救い、戦乙女隊員と背中を預け合い、大立ち回りで王国の怪力無双と戦い勝利して、見事アリアを救出したという、原型なく間違っているのに、事実とはそれほど間違ってはいない美談として、アリア自身によって吹聴され、ミュージカル公演される事となる。

 

 これがメインヒロインとして安寧を貪る王女と、サブヒロインとして全力を尽くす公女の差だ。

 

 

 

 

 アリアはジティアに追い縋る為にも、己が今持っている才能の可能性を探し続けた。

 己の魔法特性を鍛えて拓ける道を探し続けた。

 

 ジティアはアリアの魔法特性を再現する副産物で、アリアは自身(オリジナル)の魔法特性を鍛えた産物として、全く異なる経路を経て、『時間凍結(同じ答え)』に至った。

 

 

 

 因みにジティアが言った「何故」は、どうして基礎理論だけが同じで原型(アリアの魔法特性)を無くした己の派生魔法と、本来の使い手のアリアが同じ結論に至ったかを聞いただけなのであって、アリアが何故己を助けに来たかではない。

 理系男子には、相手の気持ちを察する事よりも、事象の再現性の方が興味深いのだから。

 

 

 

「シルヴィア・フォン・ソラプロダクトといい、こうして誰かと共に戦う日が続くとはな。

まあ、悪くはない」

 

 つい最近、似たようなシチュエーションで助けたと思えば、別の人物に同じ様に助けられるとはと、ジティアは苦笑する。

 

「シルヴィアさん……ですって…?」

 

 ジティアには更に周囲の冷気が増した気がしたが、計測魔法は一切の変化を表していなかった為に気の所為であると片付けた。

 何故か王国と公国は次世代も険悪になりそうな予感がしたが、そんな事に意識を割くのが無駄だとジティアは切り捨てる事とした。

 

 改めて周囲を確認すると、茨も竜も纏めて固まっている。

 

「まあ良いです。取り敢えずは、時獄閉鎖(ロックダウン)完了ですね」

「ああ、一人を除いてな」

 

 

 素晴らしい素晴らしい素晴らしいと感極まって拍手する美青年、楡遺古・エアトライサー。

 彼と二人だけが動く時間の中にいる。

 そよ風に靡いた木の葉も、跳ね上がった土さえも、その時間を凍り付かせた中で、三人だけが動く。

 

 

「素晴らしい。これが人間の可能性。

実に素晴らしい。滅ぼしたくはない。しかし滅ぼさねばならぬ。

神の血を引く訳でもなく、神の法を破る(奇跡を起こす)なんて天使にも理解出来ない。

 

パビリオン君。君は人の最高戦力たるソラプロダクト君とは違い神の血さえ引いていない。

子のない公爵夫妻に拾われたただの孤児に過ぎない。

それも、公爵の側近にまで取り立てて貰いながら、王国のスパイとして処刑された愚かな男爵の親からの生まれだ。

親子揃って私の甘言に乗り、扱い切れぬ私の力を借り、無謀だと知りながら王国へと攻め入り、無様にも敗北して、両親だと思っていた公爵夫妻とは何の血の繋がりの無いと知り、絶望し、己の時間に閉じ籠もる事は、運命録に示されてあった通りだった。

その程度でしかなかった(・・・・・・・・・・・)君が、何故、何故運命を越えられる(・・・・・・・・)!?

 

ジティア・スカイライン。

君に到っては何なんだ。

謎・謎・謎!!

理解不能!! 故に理解したい!!

君に関してはその全てが知りたい。知り尽くしたい。観察して解剖して解析したい。

君になら分かるだろう?

この研究欲(気持ち)、まさしく愛だ。

この感情を君と私は共有している筈だと私は確信する」

 

 

 理解出来(わから)ない事は理解出来(わか)るまで追求する気持ちはジティアには理解出来たが、アリアは「ホモホモですわ」とドン引きしていた。

 …少し理解出来ない喜びを覚えていたあたり、天界で同性愛モノの本を書いたり、それらを地上の民に啓示していた折心とは親和性がありそうな女である。

 

 だが、そんなアリアでも、正しく公国の誇りを受け継いでいた。

 

「私が私であるから。両親から心を受け継いだ私であるから。愛する人がいるから。

だから運命録なんてその程度でしかなかった(・・・・・・・・・・・)

そういうこと…ですわよ?」

 

 

 その信念は【絶対零度の戦乙女】と呼ぶに相応しく、極寒にして灼熱の覇気は、嘗て配下を魅力していた時と同じく、いや嘗て以上に場を支配していた。

 

 

 そして…、ジティアに興奮してやまない、ジティア限定のミスター薔薇の園。

 部下を惚れさせる百合製造機な公女。

 ある種の同族嫌悪がアリアの闘争心を剥き出しにさせた。

 

 

 

 

「アリア・フォン・パビリオン」

 

「はい何でしょうか旦那様(あなたさま)

 

 ジティアの問い掛けに、彼女に惚れた部下たちが見たら泣くレベルで雌の顔をして答えるアリア。

 勿論、ジティアは気が付いてもいない。

 

 ジティアは先程から続けていた思考を纏める。

(俺様の再現した魔法は分子運動に作用して絶対零度という温度に近付けるだけだ。

そしてアリア・フォン・パビリオンの魔法は概念として冷却するだけに過ぎない。

だが、それは充分だ。

そしてそれで、十分だ)

 

「貴様(の戦力)を理解した。

俺様に貴様の(魔力の)全てを委ね重ねろ。

俺様たちの前を塞ぐ限界()なんて存在しない」

 

「ええ、分かっていますわ。分かっておりますとも」

(俺に全てを捧げて付いて来いとかプロポーズですか?

私本日でゴールインですか?

お父さまお母さま、私幸せになります)

 

 妄想全開のアリアの言に頷くジティアだが、言ってる意味が微妙に伝わって無さそうな事に不安を感じた。

 少しでも不安があれば解消しておくのが理系男子だ。

 その場のノリで120%の力を発揮して解決する文系特有の根拠(エビデンス)無き自信は彼には無い。

 出来ますと安請け合いして、気合と根性で何とかしようとして何とかしてしまうというのは文系のノリだ。

 ジティアの王族よりデカい態度にさえ、彼の中では明確明白な根拠があるのだ。

 しかし、顔の作りはクールなのに表情はホットな公女様は意外と文系である。

 

「越えられない壁なら、壊してしまえという意気ですわね。

ですが、元より私達に壁なんてものは無いのですけども」

 

 クネクネし始めた絶対零度の戦乙女(笑)に、己の理屈が通じていないだろうとジティアは判断した。

 彼は理解出来ない後輩には、親切に教えて上げる割と面倒見の良い先輩であったりする。

 勿論態度はいつも通りクソなのだが。

 

「多分間違っているから説明しておく。

壁を壊すというよりは、量子的に壁を擦り抜ける可能性を引き当てる訳であってだな。

…貴様に分かるように説明しておくと、俺様が絶対零度を構築して、貴様がその先の絶対零度以下の概念を生み出す可能性が──────」

 

 

 教授をしていた楡遺古なら、理論は余裕で理解したであろうし、ジティアと同じく研究者であったシルヴィアでも、専門ではなくても大まかには理解したであろう。

 基本天才な折心でさえ理解したかもしれない。

 

 しかしアリア・フォン・パビリオンは文系だった。

 量子力学や分子運動工学とは無縁の文系だった。

 ちょっとジティアが何言ってるか分からなかった。

 好きな人の考えている事は理解したい乙女であっても、それとこれとは話が別である。

 

 法律を勉強したり、人の気持ちを理解したり、統率者としての在り方を学んできた。

 そういうのは割と適性があって頑張ってきた。

 現在進行系でジティアの気持ちを勘違いしていた事を悟った彼女だが、これに関しては理系バカでシルヴィアバカでライバルバカなジティアが完全に悪い。

 

 勘違いしていた事を悟らせないのはもはや無理として、勘違いしちゃった乙女心を分かりやすく滲ませつつ、間違いを認めてジティアの理論を持ち上げつつ、理屈は理解出来ずともやるべき事は分かったと伝えるアリアは、理系としてはよわよわでも、文系としてはつよつよだった。

 

 

 

「もういいかな。

やろうと思えば今の間に君たちを殺す事も出来た。

だがそうしなかった理由がある。

分かるか?

君たちの可能性を見てみたいからだ。

君たち人間が何処まで答えを出せるか、君たち二人がどんな答えを出せるか。

私の研究意欲が求めてやまない。

さあ、答え(レポート)を提出したまえ。

私が採点してあげよう。

君たちが私の課題にどう答えるのか見せてくれ。

これが、私の最終定理だ。

見るがいい。

我が究極の姿、緑性天球(プラントプラネット)

 

 楡遺古の姿が、その存在が、彼自身の意志に基づき歪み(正され)、変化する。

 

 其は緑だった。

 其は数多の植物が絡み合って出来ていた。

 其は巨大だった。

 其は一にして全だった。

 其は───────小さな星だった。

 

 

 同じ声色の声が何重にも重なって、響く様な楡遺古の言葉が大気を震わせる。

 

「先に私という星が何をするか教えてあげよう。

この攻撃手段は、圧倒的な重さを武器にした単純な物理衝撃。

則ち────衝突(たいあたり)

基礎の基礎だ。

解答してくれたまえ。

制限時間は、…そうだな、私が君たちに衝突するまでとしよう」

 

 楡遺古が語るのは物理法則の基礎。

 質量×速度^2(速度の二乗)

 世界で一番シンプルな物理法則である。

 圧倒的な強者には小細工は不要という証明(Q.E.D)

 

 場にいるだけでも周囲の物を引き寄せる超重量。

 大地と互いに引き寄せ合う緑の星は、粉々になった竜や茨をも巻き込んで二人に対して転がって来た。

 

「実験というのは出揃った理論の答え合わせに過ぎない。俺様の勝利は既に確定済みだ。Code:CBA-Z34(フェアレディ) 0K・バルディッシュ」

「無垢にして壮麗たる氷華の権よ、静黙なる冷獄より吹雪(ふぶ)()で我が威を示せ。絶対公剣フリーズバルディッシュ」

 

 迎え撃つは零基×冷気。

 0に何を掛けても0?……否。

 その答えは則ち──────限界突破(オーバーリミッツ)

 極寒の情熱は己の限界を超え、傲慢な理屈は世界の限界を超える。

 

 

 緑の星はその活動を封じられた。

 しかしそれは緑の星の敗北を意味しない。

 後少し待てばその程度克服するだろう。

 

 緑の星を構成する分子振動が限り無く停止した。

 しかしそれは緑の星の敗北を意味しない。

 後少し待てばその程度克服するだろう。

 

 緑の星の原子が完全に停止した。

 しかしそれは緑の星の敗北を意味しない。

 後少し待てばその程度克服するだろう。

 

 そして完全に振動(熱量)がゼロになった上に、更に冷却された結果──────振動は最大へと転位する。

 つまり、究極の冷気の先にある熱量とは、究極の灼熱。

 業火にして剣乱たる絶熱。

 だが、星の全体から発せられる灼熱にさえ、極寒は激突する。

 

 

「これが、凍結による原子急制動(たいあたり)

原子(基礎)原子(基礎)…だろう?」

 

 それは天使たる天体の限界を示し、それは楡遺古・エアトライサーに対する人類の勝利を証明した。

 

 

 

 星は砕け、地に散らばり、そしてそれは僅かに楡遺古の上半身を作り上げた。

 

「素晴らしい。

君たち人間は素晴らしい。

天使()管理した(教えた)人間(学生)が、天使()を越えて証明した。

教授としてこれ以上歓喜することは無い。

ああっ…、更なる証明を、君は続けて行くのだろう。

見たかった。聞きたかった。知りたかった。考えたかった。

だが、最早それが叶わない事も理解している。

見給え、朽ちては薄まっていくこの肉体()を。

人間は天界からの卒業を得たのだと、私が君たちに証書を送ろう。

神々(天界の理事)は許さないだろうが、そんな事は最早構わない。

…これを、持って行きたまえ、愛する学生諸君。

これが私の……研究成果だ」

 

 そう言って『無』へと消え去った楡遺古に、ジティアは極めて珍しく、ほんの僅かに、微々たる程度に頭を下げた。

 

 

「ニレゴ教授、学問において俺様が少しでも学んだ(・・・)と思ったのは、貴様が最初で最後だ」

 

 

 文系らしく非理論的に120%力を使い果たし眠るアリアに己のコートを掛けると、ジティアはまた何処かに出掛けた。

 それは勿論、シルヴィア・フォン・ソラプロダクトの宿命のライバルとして己を鍛え上げる為である。




アリア・フォン・パビリオン
潔癖症で文系撫子風メス顔公女。
元自己愛で今は他者愛な悲劇のヒロイン。
公爵家という生まれに拘っていた所、公爵家夫妻の実の娘で無いばかりか、肉親が敬愛する両親を裏切った元側近である事を知り、挙げ句天使に与えられた兵器も制御を失って使えなくなり、その天使が自分を騙しただけでなく、過去にはアリアの実の親を操って裏切り者にさせた事を知り、精神崩壊寸前の状態で自分を凍らせて永遠の氷像へと変えた。
正確には氷像には変わったが、ジティアに解除された為に永遠ではなかった。
公国と王国の完全衝突は、ジティアのジティアによるシルヴィアにマウント勝ちする為の有象無象に対する善行が、積み重なり連鎖反応を起こしてファイヤー、アイスストーム、ダイアキュート、ばよえ~んして収まった。
それがなく王国の勝算が極めて高いまま状態であれば、王国の利益の為にもシルヴィアが父王に併合計画中止を申し出なかったであろう事も、公国後継者の教育を受けた者として十分に理解した上で、感謝の気持ちはしっかりとある。
実際に胃潰瘍になりながら王国相手に悪辣極まりない作戦計画を立てた両親(悪党としての能力適性SS,悪党としての性格適性ランク外)の為にも、公国の独立を盤石にする目的で王国への襲撃を実行のは他でもない彼女だから。
でも感謝を理由に公国に対する不利益を認めるつもりはないし、ジティアを明け渡すつもりもない。
それとこれとは別問題である。
対外的には絶対零度の戦乙女としての名が通っており、忠誠を誓う配下からはお姉様と呼ばれている。
国外では心まで凍て付いた公女として有名だが、アリアは意図的にそれを放置し、寧ろ定着させている。
基本的に冷静冷酷なビジュアルだが、ジティア相手にはメス顔。
瞳にハートまで常備している徹底振り。
服はサテン生地のものが多い。
ぶっちゃけヒロインとしてのスペックは姫や天使より高い。
原作ゲームでは永遠に氷漬けな上に、公国は独立元の王国に再併合される。
公爵家は消滅し、元公国民に対する王国民による差別は王令が出ても消えない……が、そもそも本気で王家が止めようとしていたかも怪しい。
名前の由来:今は閉鎖された横浜の○ッサンパビリオン。
コンセプトカーとしてのアリアはタイムレスとかシームレスとかがキャッチフレーズだった。
時間凍結ネタはタイムレスと現在閉鎖から。
尚、彼女を元にしたジティアの再現魔法の型番はアリアではなくフェアレディである。(再現元の魔法特性を持つ人物と魔法式の型番名が同じなのはシルヴィアだけ)


楡遺古(にれいご)・エアトライサー
妙にホモホモしい言動が危うい幹部クラスの天使。
かなり彫りの深い顔のイケメン。
潜入などの各種工作活動が得意で、アリア相手にはエゲツない事をやりまくっている。
もはや因縁しかないし、こいつ相手に憤怒を表に出して発狂しないだけでアリアの人間が可哀想な位に出来過ぎている。
アリアが可哀想なのは大体こいつのせい。
濃いキャラだから忘れられがちだが、こいつはガチで悪党。
利用しつくされたパビリオン公国はブチギレていい。
神の命令により予言にある通りに進める、事象確定部門の長でありながら、自ら積極的に活動している。
これは予言の自己成就以外の何物でもないが、何故か予言通りに行うと必ず成功してきた。
それはそういったシステムだから。
予言が叶うように世界は作られており、世界は正確に予言を想定する。
それは完全で完璧なウロボロス。
その構造を神を除いて誰よりも知り尽くし、その不落さを誰よりも感じてきたのが楡遺古。
予言システムこそ最も楡遺古にとって『当たり前』であった。
それが打ち破られた事を、実は誰よりも歓喜しているし、それが当然だと疑いさえしない教え子を愛さずにはいられない。
でも数少ない十枚翼級天使だから神様に従わないといけない。
無責任なソルジャー階級生まれの勇者天使とは立場が違う。
人間の姿で戯れに教授をしていた際、学生時代のジティアやシルヴィアを教えていた。
折心の師匠でもあり、彼女の新人もとい新天使時代の上司でもある。
コンセプトカー・セツナが木製ボディなあたりで、彼との主従関係や師弟関係に気が付いた人もいたかも知れない。
人間の名前は一般車で、天使の名前はコンセプトカーってのも良いかなーっと。
名前の由来:楡遺古→にれいご→2015モーターショー
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