リボン家のウマ娘   作:鼠日十二

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転生(リボーン)


リボン・リボーン

 仏教用語で「六道」という言葉がある。輪廻転生した魂が次に生を受ける6種の世界のことで、良いものから順に天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道が存在する。特に後半3つは三悪趣と呼ばれ、悪行を重ねた人間が行き着く先と言われている。

 

 だから、まあ。前世で善行も悪行もまあまあ重ねたごく一般人である私が、人間と畜生の混ざったような種として生まれたのも、わからない話ではない……などと強引に説明をつけて、ウマ娘に転生したという現実に納得してみようとしたりする今日この頃。私、リボンペルデーンは自宅の図書室にいた。補足しておくと、この時点で分かるかもしれないがうちの家はそれなりにデカい。

 

「ペルデーンお姉様、何読んでるの?」

「あなたにはまだ難しいよ、ヴィルレー」

 

 手慰みに読んでいた仏教関連の本を閉じ、誤魔化すように灰色の髪を撫でてやると、ヴィルレーがくすぐったそうに身を捩った。合わせてサイドテールがふわりと揺れる。

 

「ね、ペルデーンお姉様。おひざのってもいい?」

「いいよ。おいで」

 

 ふとももをぽんぽんと叩いてやると、ヴィルレーがそこに体を預けてきた。片手に本のページをめくりながら、もう片方の手でヴィルレーの髪を梳く。ちらりと窓の外に目を向けると、妹たちが庭で鬼ごっこをしていた。今日の鬼は……ミンネ()()か。あとで飲み物を持って行ってあげよう、アレは本当にきついのだ。

 

「ペルデーンお姉様は遊ばないの?」

「まあ、ね。こんなこと言ったら怒られちゃうかもだけど、走るのはそんなに好きじゃないんだ」

 

 元人間だからね、そう内心で付け加える。ヴィルレーは不思議と驚きが混じったような顔をした。

 

「走るの、好きじゃないの? 鬼ごっこ、ペルデーンお姉様がいちばん強いのに」

 

 それは私が年長だからだ。本を読んで知識を蓄えて、妹たちの癖をよく見ているから仕掛けどころがわかるだけ。ノクターンやピーアンの加速力はよくヒヤリとさせられるし、逃げる側にまわった時のミンネの安定した速度維持やオーバードの長い末脚は目を見張るものがある。

 

 彼女たちが成長したら、いずれは追い越されてしまうのだろうと思っている。嬉しくもあるし、寂しくもある。まぁ簡単に鬼ごっこ最強の座は譲らないけどね。

 

 そんなことを考えていると、図書室の扉が大きな音を立てて開かれた。

 

従姉(ねえ)さんッ……選手……交代してくれ……」

 

 現れた少女――リボンミンネは、そのまま力尽きたように倒れた。後ろからきゃあきゃあと数人の幼いウマ娘が駆けてきて、ミンネを取り囲んでいる。

 

「ミンネお姉ちゃん、もうギブアップー?」

「あそぼうよ」

「ねーねー」

 

 このくらいの年齢のウマ娘の体力はまさしく無限である。私はヴィルレーと顔を見合わせて、ふふっと笑った。

 

「よーし、次はこのペルデーンお姉ちゃんが相手になるからね!」

 

 

 

 

 

「どうする?」

 

 紅茶とささやかな量のにんじんクッキーが用意されたテーブルを囲んで、3人の妙齢のウマ娘が座っていた。毛色も髪型も違うが、耳につけているリボンだけは同じデザインのものだ。

 

「どうって……ペルデーンちゃんの話?」

「そう。あの子ももう進路を考える時期だから」

 

 そのうちの1人、モノクルをかけ唇にきっちりと紅をひいた理知的な輝きを瞳に宿すウマ娘はため息をついた。

 

「本当ならトレセン学園に行かせてあげたいのだけど。あの子、学費を気にして普通の学校に行くって言ってるのよね」

「あー、ペルデーンちゃんらしいや」

 

 トレセン学園の学費というのはとにかく高い。もちろん奨学金制度は存在するが、それはレースで結果を出してある程度の賞金を得ることを前提に作られたものだ。結果を出せなければ、奨学金は重たい借金として人生につきまとう。ノーリスクで入学できるほどトレセン学園は安くない。

 

「でもよ」と黒髪を短く揃えたウマ娘が口を開いた。

 

「どう考えても今のリボン家で一番速いのはペルデーンだろ? あたし達だって同じ年齢の時あんなに速くはなかった。リボン家のウマ娘にしては珍しく、才能があると思うぜ」

「わかるー。なんかフォームが綺麗なんだよね。()()がしっかりしてる。さすが姉さんの子供って感じ」

「まぁそれほどでも……あるけど」

 

 自慢げにモノクルをくいくい押し上げる姿を見て半笑いの2人。自分の子供を褒められて悪い気がしないのは2人もよく知るところであるから、否定はしないのだが。

 

「で、どうするか決まってるの? うちの娘たち、全員トレセンに行かせるには金銭面が厳しいわけだけど」

「そうなのよね……本当にどうしようかしら」

 

 子供達には中央のトレセンに入学できる程度の地力はあるのだ。親の贔屓目で見ても走れる部類にいる。ただ、金銭的に全員を入学させることができない。それは不甲斐なさとして親たる3人に降りかかる。

 

「選べるわけないわ、誰を入学させるかなんて」

「だよなぁ。チビ共、トゥインクル・シリーズに憧れてるからなぁ……。あたしたちの姿を見て、って言うのは母親として嬉しいことではあるんだが」

「……あのさ、何にも決まってないならこの際言っちゃうけど」

 

 栗毛のぼんやり眠そうなウマ娘が、机にべったり体を投げ出しながら口にした。

 

「全員トレセン学園に入れるなら、まずペルデーンちゃんがトレセン学園に行くのは必須でしょ。ペルデーンちゃんと他の子供達は少しばかり歳が離れてる。先にトゥインクル・シリーズに出場して、学費を稼いでもらうしか全員入学させる方法は無い。ちがう?」

「……そうなる、か。あたしにゃ他に案が思いつかねぇや。大金を稼ぐのに1番手っ取り早いのはレースで勝つことだからな。問題は、ペルデーン1人にチビ共の将来を背負わせる羽目になることか」

 

 どう考えても中学生にゃ重いよなぁ、と黒髪のウマ娘は頭を掻いた。ただでさえ重大な責任、リボン家の()()も考えれば茨どころか有刺鉄線の道を強いることになるだろう。モノクルウマ娘はしばらく腕を組んで黙っていたが、腹を括ったように視線を上げて口を開いた。

 

「――ペルデーンには包み隠さず説明するわ」

 

 黒毛のウマ娘も、栗毛のウマ娘も目を見開いた。心配の色が表情にありありと浮かんでいる。

 

「その……大丈夫なの? 姉さんが一番よくわかってると思うけど、ペルデーンちゃんは相当な姉気質だよ。責任感で押し潰されちゃうくらいなら、何も知らないままで自由に走ってもらった方が……」

「それでも、いいえ、だからこそよ」

 

 モノクルが――その奥の濡れた瞳がきらりと光る。

 

「もし何も伝えないまま、ペルデーンが後で真実を知ったら? 『もっとレースに出て賞金を稼いでいれば』『もっと頑張って走っていれば』……私たちが何度も何度も、今だって身を焦すほどに感じている悔しさを、あの子にまで引き継がせるわけには行かないわ」

「……そりゃあ、その通りだ。間違いない。あーっ、そんなことにすら気づけねぇ自分の頭の悪さが嫌になるぜ、まったく。宅配の仕事増やして忘れるとすっかなぁ」

「私もシフト増やすー。せめてペルデーンちゃんの在学中くらいは、不自由のない仕送りしてあげないとね」

 

 二人のウマ娘は『ペルデーンちゃんには姉さんから伝えておいてね』と言い残してその場を去った。残されたウマ娘は我が子の顔を思い出す。どこか大人びていて、勤勉なペルデーン。

 

「また損な役回り。ほんと、似たもの親子だわ」

 

 

 

 

 




リボンヴィルレーちゃんがやけにかわいかったので気づいたら書いていたけど、プロットが存在しないので、見てくれる人が多かったらストーリーを考え始めます。え? 出遅れ? ごめんね、集中力弱くって……
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