リボン家のウマ娘   作:鼠日十二

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パソコン版とスマホ版で行間の幅が違うので、読みにくいなと思ったら試してみるのも手かもしれません。


アルコール・アルコル(1)

 

「こちらが『アルコル』の部室です」

「おお……」

 

 模擬レース翌日。

 

 コンクリート打ちっぱなしの部室棟、その端っこに存在するチーム『アルコル』の部室。若干立て付けの悪そうなその扉の前に私とトレーナーさんは立っていた。

 

「今年はペルデーンさんの他にもう1人加入する予定です」

「へえ……何年生ですか?」

「ペルデーンさんの一つ下ですね」

 

 ということは中3か。

 

 どんな娘だろう。芝かダートか、できれば主戦場が被らないで欲しいけど……こればかりは運だ。三女神にでも祈って(あまり期待しないで)おこう。

 

「ささ、どうぞ。親切な先輩しかいませんよ」

「アットホームな職場くらい信用ならない台詞ですね」

 

 トレーナーさんに促され、少しだけドキドキしながら私は部室のドアを開いた。

 

「失礼します……」

 

 途端、私の顔をむわっと襲う熱気。

 そして、室内の異様な風景。

 

「6532……6533……」

「『二人が起き上がった時は、どこもかしこもすでに砂だらけであったのである』」

「6534……6535……」

「『彼らは砂だらけになった自分を認めた』」

 

 変態がいる、と思った。部室の中心で汗を滲ませながら()()()()()腕立て伏せをする大柄なウマ娘と、その背中の上に座って文庫本を音読する小柄なウマ娘。

 

 というか、

 

「……何してるんですか、セイヴァー先輩」

「あれ、後輩くんじゃないか」

 

 後ろからやってきたトレーナーさんが的外れな苦言を呈する。

 

「ちょっとちょっと。部室で筋トレしないでくださいって言いましたよね」

「……時間切れだ。セイヴァー、退いてくれ」

「わかった」

 

 文庫本をパタンと閉じ、セイヴァー先輩は立ち上がってトレーナーさんと私のもとまでやってきた。

 

 

「で、後輩くんが新入りだってわけかい。ミス?」

 

 

 『ミス』、というのはどうやらトレーナーさんのあだ名らしい。

 

 確か彼女の下の名前は『美鈴』だったから、名前から来ているのだろう。

 

 

 当の本人はすこぶる機嫌が良さそうに頷いて見せた。

 

「ええ。言ってませんでしたっけ?」

「……彼女とは同室の間柄だよ」

「えっ」

 

 トレーナーさんは私とセイヴァー先輩の顔を交互に見て、「早く言ってくださいよ……」とか細い声で呟いた。

 

「下調べにすっごい時間かかったのに……」

「また徹夜したのか。今日はもう寝たらどうだい」

「……いえ」

 

 トレーナーさんは気を取り直したように顔をあげ、部室の端に設置されていたホワイトボードの前に立った。

 

「もし私が倒れるとしても、それはチームの理念を説明した後です」

 

 セイヴァー先輩の呆れたような視線を気にもせず、トレーナーさんはマーカーを手にとって「アルコル」と書いた。

 

 

「ご存じの通り、トレセン学園のチーム名には星の名前が使われます。スピカやらシリウスやら」

 

 それは入学式でも聞いた話だった。

 

 当代の生徒会長であるシンボリルドルフ先輩曰く、一等星のように輝かしい活躍を願ってチームには星の名前をつけるのだとか。

 

「しかし、アルコルは一等星ではありません。北斗七星の隣にある四等星。多くのウマ娘は一等星の輝きを目指しますが……私たちは違う」

 

 

 トレーナーさんは慣れた手つきでホワイトボードに地球と星々の絵を描いた。大小さまざまな星が、地球を取り囲んでいる。

 

 

 遠くで明るく輝く星と、近くで明るく輝く星。放つ光量は同じでも、地球からの見え方は違うのだとトレーナーさんは言う。

 

 

「一等星とは、地球から見た時の明るさによる分類です。他人の評価に過ぎません。であれば、たとえ地球(他人)から『輝いていない』と評されようとも――自分の輝きは自分だけが知っていれば良い。そう思うのです」

 

 

 トレーナーさんはそこで言葉を切って、私の方を見た。

 

 

「だから、チーム『アルコル』はレースで勝つための場所ではありません。貴女の夢を叶えるための場所です」

 

 脳裏によぎるのは、模擬レース後に提示された2つのルート。

 

 順当に大きなレースに出る王道と、とにかく出走数を稼ぐ邪道。

 

 仮にも中央のトレーナーの口から「勝つことを目標にしていない」という言葉が出てくるとは思わなかったが――なるほど。なるほど。

 

 このトレーナーさんだからこそ、なのか。

 

 奇妙な納得感に浸っていると、横合いからセイヴァー先輩が口を挟んだ。

 

 

「……終わったかい? じゃあ寝てくれ」

「待ってくださいセイヴァー、今格好つけたところで」

「ウマ娘に力で敵うわけないだろう」

 

 先ほどまで演説をかましていたトレーナーさんは、ジト目のセイヴァー先輩に引きずられてどこかへ消えた。

 

 部室には私と、それから名前も知らない大柄なウマ娘が残された。

 

 

「……えっと。高等部1年のリボンペルデーンです」

「バ場適性は?」

「芝ですけど……」

「そうか。俺はロニアベイビーだ」

 

 その名前には聞き覚えがあった。

 

「もしかして、合金ブックカバーを借りてた」

「なんで知ってんだ?」

「図書室ヘビーユーザーなもので」

「……なるほどな」

 

 鋭い目元と黒いマスクで全く表情は読めないが……心なしか、ロニア先輩の纏う雰囲気が柔らかくなった気がした。

 

「セイヴァーの相手は大変だろう」

「そうですか? すっごい親切にしてもらってますよ」

「なら良い。アイツ、組み合わせが悪いと暴走するからな……」

「組み合わせって?」

「例えば理事長だ」

 

 私はあの小柄な理事長を思い浮かべた。確か10代にして学園の運営を一手に担う才媛だったはずだ。

 

「理事長は少し思い切りが良いところがあってな。チビ同士意気投合したのか知らんが、一晩で学園中の芝を高級な品種に貼り替えたことがある」

「……トレセンってとんでもない敷地面積してましたよね」

 

 ロニア先輩は頷いた。

 

「秘書がブチ切れ、セイヴァーは反省文を山のように書いたらしい。『目標は達成したからヨシ!』と言って全く懲りていなかったが」

「行動力……」

「あとはアグネスタキオンだな」

「まだあるんですか」

 

 ロニア先輩は再び頷いた。

 

「共同開発で『トリフィド』という歩く植物を開発したんだが、それが脱走してな。光合成してデカくなり、学園をSFパニックホラーの舞台にしたことがある」

「……世界観が迷子では?」

 

「その時はアルコル総出で捕獲に走ったんだがな。結局捕まったのは日が暮れて動きが鈍くなってからだった」

「倒し方がSFっぽい」

 

「すっかり萎れたトリフィドを燃やそうとしたんだが、セイヴァーが必死に抵抗してな。『ダメだ! この子は悪くない!』と言って背に庇うから説得に骨が折れた」

「邪悪なナウシカじゃないですか」






思想が強い女、『癖』です。



大変遅れて申し訳ない。
更新がバチボコ遅れた理由としては作者の腰の弱さにあります。

当方、中学生に椎間板ヘルニアになりかけ高校生でぎっくり腰を経験するくらいには腰が弱く、椅子に長く座れないんですよね。

で、つい最近腰を痛めたのでちょっとお休みもらいました(事後報告)。あとは別の作品の改稿してたのもあるから……あれ? 自業自得?
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