リボン家のウマ娘   作:鼠日十二

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なんかめっちゃ長くなった。とりあえず導入だけ終わらせておけば、ストーリーが出来てなくても誤魔化せる気がする。


リボン・リボーン(2)

 妹たちをお風呂に入れるのはこの家で私の次に年齢の高いミンネの仕事だ。その間私は台所に立ち、毎日アホみたいな量の食事を作る。わざわざ私1人で料理をするのは、こうでもしないとつまみ食いしに来た妹たちで台所が埋まってしまうからだ。妹たちくらいの年齢のウマ娘は全力で遊んで食べてはしゃいで笑って、電池が切れたように眠る。ウマ娘は総じて見目麗しいというけど、それ抜きにしても本当に可愛いものである。

 

「ペルデーンねーちゃん! 今日のご飯はなんだ!?」

「ほらほら、そんなに慌てなくてもご飯は逃げないから。まずしっかり体を拭いてきて、ハミング。それと、今日のご飯はミニにんじんハンバーグだよ」

「よっしゃー! ふんふーん、ねーちゃんのハンバーグー」

 

 どてててて、と足音を立ててやってきたハミングは、献立を聞くや否やそのままの勢いで脱衣所のほうに戻っていった。フライパンを揺らしながらその後ろ姿を見送る……うん。今日も妹が可愛い。

 

 ちなみにミニにんじんハンバーグというのは、一口大にしたひき肉に小さく切って加熱したにんじんを挿して焼いたものである。お肉が安く手に入った時はよくやる料理で、たくさん作れば一品だけでも満足感があるし楽だし受けもいい定番メニューの一つ。よし、叔母さんたちの分を別に取っておいて……と。これは冷蔵庫に。あとは盛り付けるだけだ、ご飯の準備が終わったら母を呼んでこよう。そう思っていると、向こうのほうから何やら声が聞こえてきた。

 

「えーっ、今日ハンバーグなの!?」

「ほんとだぞ、ペルデーンねーちゃんがいってた!」

「こうしちゃいられないわ! 無くなる前に食べるのよ!」

「あ、おい! 待て、まだ髪を乾かしてないだろ! 戻ってこいピーアン! カロルもだ!」

 

 ……若干の申し訳なさを感じる。先にミンネを手伝うことにしようか。こちらにわらわらと走ってきた妹たちを受け止め、抱え上げて脱衣所へと進む。両手で抱えきれなかった子は私の腕や腰や太ももにぶら下がっているが、歩くのには問題ない。軽いもんだ。こういう時ウマ娘に生まれて良かったなと実感する。パワーが人間とは段違いなのだ。

 

「ミンネ、手伝いに来たよ」

「悪い、助かるよ従姉さん。そっちの準備は……」

「終わってるから大丈夫。というか、ミンネが一番びしょ濡れじゃんか」

「え? いや、アタシは後で良いよ。髪も短めだしほっといても乾く」

 

 タオル片手にミンネのそばまで行くと、彼女は手をわちゃわちゃさせて私から距離をとった。

 

「いーってば」

「む。姉の優しさを拒否するというのかね?」

「アタシは従姉さんに余計なことで手間を取らせたくないんだよ。少しは妹の気遣いも受け取ったらどうだい、従姉さん」

「うーんよくできた妹。ただ一点訂正するなら、私にとっては余計なことじゃないんだよね。ということで……拭かせろ! 私はお姉ちゃんだぞ!」

 

 そのままわあきゃあと茶番を繰り広げていたら、夕食は15分遅れた。理由を聞いた母は「ほんと仲いいわね」と半笑いだった。

 

 

 

 

 

「失礼します、お母さん」

 

 夕食の後、私は母の部屋を訪れていた。幾つもの分厚いファイルが本棚に並び、所狭しと書類が積み上げられた部屋の一角にある作業机の前に座っていた母は、ちょいちょいと手を振ってこちらに手招きしている。

 

「突然呼び出して申し訳ないわね。まずこれを見てほしいのだけど……ここの数字ね。これ、今のリボン家の貯金なの」

 

 母が渡してきた一枚の紙には、表といくつかの数字が記されていた。日常生活ではまず見ない桁数の数字。これがリボン家の貯蓄というのなら──

 

「よくわからないけど、結構あるんだね」

「ええ。私たちが競走バ時代に稼いだ賞金がほとんどね。うちの子たちを全員学校に通わせられるだけの金額はある。公立の、と但し書きがつくけれど」

「……えーと?」

「つまり、トレセン学園に全員通わせるには雀の涙程もないってことよ」

 

 思わず紙面を二度見した。え? こんな金額あるのに足りないの? 頭の中でクエスチョンマークが熾烈なダービー戦を繰り広げていたが、トレセン学園の学費の高さとうちの子供の人数を思い出す。顔をあげると、母がこちらを見据えていた。怜悧なその視線に思わず背筋が伸びる。

 

「ペルデーン、ちょっとだけ昔話をしましょうか。貴女は知っておくべきことだから」

 

 

 

 

 私が生まれる前、まだレースにウイニングライブが存在しなかった頃の話。当時は競走バの数自体が少なくて、その質も高いとは言えなかったわ。その中で穏やかな気性と早熟性、癖のない身体能力から有名になったのがリボン家と呼ばれる一族。私たちの先祖様よ。

 

 遺伝的なものかははっきり分からないけれど、リボン家のウマ娘は多産、つまり子供を多く産む傾向にあったの。数が多くて、育てやすい。だから新人からベテランのトレーナーまで人気があった。リボン家のウマ娘には『基本』がある、なんて言われてもてはやされていたわ。ある年なんか、競走バの1/4がリボン家の血筋だったこともあるらしいわね。

 

 でもね。だんだんトレーナーたちは基本じゃ満足できなくなって、何かに特化した才能のある在野のウマ娘をスカウトする方向にシフトしていくの。突出した才能というものは、輝ける舞台さえ用意してやれば何者にも負けない光になることを、トレーナーたちは理解したのね。そうなるとだんだんリボン家が勝てるレースが減ってくる。さらにそこにウイニングライブが導入されるようになって、リボン家の人気は徐々に下火になった。

 

 なんでウイニングライブの導入で人気が下がるのかって? 簡単よ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。美人ばっかりとはいえ同じ血筋だもの、どこか顔つきも似てきちゃうのよね。それまでリボン家の紙面の占有率が高かったこともあって、目新しい存在が登場するとファンは飛びついた。客商売だからこればっかりは仕方のないことね。もちろんリボン家の根強いファンはいたのだけれど、代を重ねるごとにそれも減っていった。

 

 私が生まれるころには、リボン家のネームバリューなんてないに等しかった……いえ、これは正確じゃないわね。はっきり言うと、リボン家は一種の悪いレッテルになっていたわ。早熟性と癖のない身体能力は、言い換えれば器用貧乏で成長上限の低い身体能力でもあった。終わった家系──そういった偏見は、昔有名だっただけにどこまでも付きまとってきた。結局、私たちにそれを払拭することは出来なかったわ。私はこの通り右目の怪我の所為で引退せざるを得なかったし。今のリボン家は、稼いだ賞金を次代の育成費用に充てることでどうにか存続している。自転車操業みたいなものね。

 

 

 

 

 紙に記された金額は母親たちの努力の結晶であり、青春の対価だ。そう理解すると、無機質な数字の羅列が突然尊くて儚いものに思えた。

 

「さて。これを説明したのは、そうしないとフェアじゃないと思ったから。よく聞いてね、ペルデーン。まず貴女はこれからする要求を()()()()()()。そうした場合私はこの件について二度と口に出さないし、態度にも出すことは無いわ。どちらにしても、貴女の判断を尊重する。

 

 ――ペルデーン。どうかレースに出て、子供たち皆がトレセンに通えるように学費を稼いでくれないかしら」

 

 脳内でいくつもの言葉が渦を巻いた。語られたリボン家の栄光と、悪評。書類に記された金額。パンクしそうな頭の何処かで、冷静な自分は気づいていた。頭も悪けりゃ行動力も大してない自分が、まともなやり方で金稼ぎなんかしようと思ってもできないし間に合わない。学費を稼いで妹たちの夢を守るには、走るしかないのだろうと。

 

 もちろん怖い。何も結果を残せなかったらどうしよう。夢を壊してしまったらどうしよう。自分が走れるなんて思ってないし、強いとも思わない。レースに関しては素人もいいとこなのだ。勝てるビジョンなんて想像もつかない。不安しかない。

 

 俯いたその視界の端で、母がこちらを見ているのが分かった。ああ、どこかで見たことがあると思ったんだ。これは仕事相手に向ける視線だ。私のことを庇護対象ではなく、一人の自立した存在として見ている。暗に自分の意思で判断しろ、と言っているのだ。

 

 黙っていても母はきっと待ってくれるのだろうが、それでは埒が明かない。私は自分の手を見て、脚を見て、所在なさげに揺れている尻尾を見た。妹たちとおそろいのそれ(尻尾)

 

 そうだ。私は人間じゃない、ウマ娘だ。そして私は姉だ。お姉ちゃんだ。十数年生きてきて、それなりのプライドってもんがある。妹たちの姿を、いつかこっそり教えてくれた彼女たちの夢を想えば、答えは決まっていた。やるしかないなら、やるだけだ。母と正面から視線を合わせた。

 

「走る。走るよ。私がそうしたいからそうするんだ」

「……ああ、本当に。すっかり大人になってしまったのね」

 

 

 そう呟いた母の少し寂しげな表情を、私は生涯忘れられないだろう。

 




 アプリ版のモブウマ娘の顔に同じパーツがあるのを血筋の所為にしている。リボン家の過去はもちろん捏造設定。記憶力がカスなのでそのうち矛盾を起こすかもしれないんだけど、優しく教えてくれると嬉しい。

 因みに現リボン家の子供の人数がやけに多いのはペルデーンの祖母に当たる今は亡き人物の所為です。そのうち説明するかも。
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