リボン家のウマ娘   作:鼠日十二

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ギ、ギリセーフ! 2週間と1日だからギリセーフじゃない!?


シンク・シンク(4)

 

 レースまでは一ヶ月の時間があった。それをどう取るかは個人差があると思うが、私にとっては「一ヶ月しか無い」というのが正直なところだ。鞭で尻を引っ叩かれたかのように、私はレースに向けて必死に練習していた。

 

 模擬レース。トレーナーへのアピールの場と言えば聞こえは良いが、実態は泥沼と言って過言ではない。年齢や学費のせいで後がないウマ娘、入学したての未来あるウマ娘。ベテランとニュービーが一緒くたになって走るこの最初の関門によって、デビューすら出来ずに学園を去るウマ娘も少なくないという。

 

「芽を出さずに枯れるウマ娘も多いのさ。土壌が悪いか肥料が悪いかはともかくね」

「肥料が悪いって……」

「おっと話が逸れた。それより後輩くん、次の模擬レースに出るんだろう? 応援に行こう」

「え、良いんですか!? やった、先輩が見に来てくれるなら百人力ですよ」

「大げさだな」

 

 やれやれと肩をすくめる先輩だが、あれで後輩思いなのを私は良く知っている。応援するというのは、成功も失敗もともに分かち合うことだから。そんな人が居てくれるというのは、それだけで嬉しいものだ。

 

「ふふっ。1人目のファン、ゲットです」

「おいおい、君には家族がいるだろう。そっちはカウントしなくていいのかい?」

「あ、そっか。そうなるとセイヴァー先輩は26人目ですね!」

「……うん?」

 

 そうして、いっそう燃え盛る決意を胸に、練習に練習を重ねて。

 

 あっという間に一か月は過ぎ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、トレセン学園の練習場はひときわ賑わっていた。ウマ娘のスカウトにやってきたトレーナー、有望株に目星をつけようとする新聞記者、クラスメイトの応援に来た生徒、焼きそばを売りさばくウマ娘。人バごちゃ混ぜでごった返す観客席の中、テイケイセイヴァーはすいすいと人込みを縫って最前列の席をふたつ確保した。

 

 席に座ってコースに視線をさまよわせると、目当てのウマ娘を見つけた。ゼッケン7番、リボンペルデーンである。その目立たない姿を見て、テイケイセイヴァーはうむむと唸った。

 

「後輩くん、べつに見た目は悪くないんだがなぁ」

 

 個性的なウマ娘の中で一周まわって目立つほど没個性なその容姿は、とてもアイドルの卵のようには見えない。せめて派手なイヤリングや耳飾りがあれば変わるだろうに……相変わらずのファッションへの無頓着っぷりだ、とテイケイセイヴァーは苦笑する。

 

 家があまり裕福でないことも、妹たちの学費を稼ぎに来たこともすでに本人から聞いていた。であれば服や化粧品への関心の低さもわからないでもないが、私服が2着しかないというのも問題だろう。ここ一か月はトレーニングにかかりっきりだったし、レースの結果がどうだろうと気分転換にショッピングにでも連れて行ってあげようか。労いだなんだと理由をつければアクセサリーの一つや二つ受け取ってもらえるはずだ。懐には余裕があるし……悪くない案じゃないか。

 

「何が似合うだろう? ピアスホールは空けているんだったか?」

 

 テイケイセイヴァーが放課後の予定を構想していると、椅子がドスンと揺れた。隣を見れば、大柄なウマ娘がどっかりと腰を下ろしている。

 

「おや、遅かったねロニア」

 

 ロニアと呼ばれたそのウマ娘は、顔の半分以上を覆う黒いマスク越しにも聞こえるほどの大きさで「フン」と鼻を鳴らした。褐色の肌に短く切りそろえられたつややかな黒い髪、耳元の金色のピアスがきらりと揺れる。どこかエジプシャンな容姿は、高身長も相まってよく人目を引いていた。

 

「何かと思えば、模擬レースじゃあないか。こんなもの見たって俺はレースに出るつもりはないぞ」

「ハハハ、そうカリカリするなよ。これは僕の個人的な用事で、君を誘ったのは話し相手が欲しかったからだ」

「……チッ。トレーニングルームにでも行くべきだった」

「それでもこうして来てくれるんだから、君って優しいよな」

「フン」

 

 そのやり取りを見ていたトレーナー集団の一人が、隣の同僚にそっと耳打ちする。

 

「おい、アレってロニアベイビーじゃないか」

「あ? ロニアベイビーって去年の帝王賞からずっと、人前に姿を現さないっていうじゃねえか。そんなのどこに──うおっ、マジでいやがる」

「だろ? にしてもやべーなあの筋肉。ボディビルダーかよ」

 

 再三言うようだが、ウマ娘の聴覚は鋭敏である。ひっきりなしに聞こえてくる遠慮のない会話に、ロニアベイビーはイラついたように指をポキリと鳴らした。

 

「……ったく、アホらしい。中央に入れただけで満足してるような俗物め」

「おや、君もトレーナーを見る目が確かになってきたようだね」

「バカにしてんのか?」

「喜んでいるのさ、友人の成長をね」

 

 これだからこいつの話し相手は嫌なんだ、とロニアベイビーはため息をついた。気心の知れたといえば聞こえは良いが、保護者面されるのは勘弁願いたい。せめてハンドグリップでも有れば気が紛れるんだが。

 

「お、始まるみたいだ。後輩くんは……第三グループだね」

「……セイヴァー。話し相手になってやるから、せめてお前の後輩とやらがどこにいるかくらい教えろ」

「あれだ、あれ。ひときわ目立たない特異点みたいになっているウマ娘がいるだろう。黒髪ロングの」

「んー、あ、アイツか。走れんのか?」

 

 テイケイセイヴァーはさあどうだろう、と笑った。

 

「でも根性はあるほうだぜ。後輩くん、いつも朝練についてくるんだ」

 

 その言葉にロニアベイビーがうわぁ、というような表情を浮かべる。

 

「……マジかお前。引くわ」

「なんでさ」

「そのまんまの意味だよ。早起きしてひたすら走るだけだろ? しかも相手がお前ときた。心折れるんじゃねぇの」

「ひどい言い草だな。後輩くんはいい子だぞ、どれだけ突き放してもあきらめずに『もう一周お願いします』と言うんだ。可愛いと思わないか」

「お前なぁ。他人の成長を見るのが好きってのは百歩譲ってもいいが、その傲慢さはどうにかならねぇの? 先輩風もここまでくると台風だ」

 

 呆れたようにため息をつくロニアベイビーに、テイケイセイヴァーはけらけら笑う。

 

「知ってるかい、傲慢さは時として美徳だぜ。茎も根っこも図太いくらいが丁度いいのさ」

 

 




モブウマ娘紹介:ロニアベイビー

黒髪をぱっつり肩口で揃えた褐色のウマ娘。目つきは鋭いし図体はデカいし筋肉はすごいことになってるが、こんなナリでも文学少女である。四六時中黒いマスクをつけているので表情が読めないが、割と声に出るタイプ。



モブウマ娘にあるまじきキャラの濃さが予見されますが、作者はドーベルのイベントを忘れてませんからね。「学園の暴走風力発電」ってなんやねん。「ボボボボボボボボボボ…… 我──最強的──」ってなんやねん。

ちなみに作中で1番「癖」が強いウマ娘もおそらくテイケイセイヴァーです。
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