別のパソコンゲーにハマってる場合じゃなかった!!
トレーナー寮…違うな、トレーナーの借家赴く。貸し出したのは横七不動産で借家は一戸二階建ての普通の家だ。トレーナーは男ということもあり寮では危険ではないかと理事長秘書に言われたらしく、形式上は保護責任者となっている横七が急遽提供したらしい。
あくまでらしい、というのはマンハッタンカフェがそう霊的存在――こう言われるのは嫌らしいが幽霊にしか思えない――のお友達から聞いたからだ。初めは何を言うかと思っていたが事実としてトレーナーは寮から移っていたとあっては信じるしかない。
私はマンハッタンカフェの言葉を信じ、歩いている。そのお友達は転居の話から転居先が何処かまで突き止めていたそうで、トレーナーの家が何処か教えてくれた。
「ここだな…」
インターホンを鳴らす。応答はないがしばらく待つと扉が開きトレーナーが現れた。
「エアグルーヴ…色々聞きたいが、何をしにここへ?」
「タキオンから貴様がサバイバル生活をしていると聞いてな、料理を振る舞ってやろうと」
「無問題なんだがな。その袋を見るに、突き返すわけにもいかないか」
私の両の手にあるビニール袋を見ながら言ってくる。男を連れ回して買い物など面倒事以外に何も生まないと分かっているから先に買い物をしていたが、棚から牡丹餅だった。
「こっちだ」
トレーナーに言われて中に入る。家の中は白が基調のデザインらしい。装飾品の類はあまり置いておらず、強いて言えばユニバーサルデザインと思しき手摺があちこちにある位だった。
キッチンはリビングやダイニングが見えるタイプのもので、電子レンジやら何やら一式が揃っていた。一方でリビングはテレビとクッションがポツンとあるだけで、ダイニングのテーブル一つと椅子四つとは酷くかけ離れた状態だった。
冷蔵庫の中は粉を溶かして作る緑茶があるだけで、その収容能力は活かされていなかった。
「貴様、食事は摂れているのか」
「無問題だよ。エアグルーヴが早いだけで買出しにも行ってるさ」
「そうか…買出しにも行っているのか!?」
「ああ。人だかりができる前に必要なものだけをササッと」
だとしたらこの冷蔵庫は何だ。チルドルームも冷凍室も野菜室にも何も入っていないぞ。昼は学園やコンビニで済ませるとして朝はどうなる。
それにタキオンの奴からは金銭面の問題で買えていないと。
落ち着け、落ち着け。慣れぬ男の家で気を張っているとはいえ掛かってはいけない。冷蔵庫に緑茶以外何もないのは次の日や朝食分まで買うと時間が掛かり人が集まってしまうから。それにお金も横七が出しているのだろう。何せトレーナーは横七の提督…海軍関連の幹部だ。先払いやカードでの買い物をしているんだ。
よし。まずは調理道具や調味料の場所を把握する。料理するときに探すようでは惨事になるのは明白だ。少し分からないものがあったがそれはトレーナーに聞く。
「すまないが少し上に行かせてもらうぞ」
「分かった、出来たら呼ぼう」
トレーナーは二階に上がっていった。
好都合だ、変に緊張しないで済む。そもそもとしてこんな、男の家に突然押しかけて手料理を振る舞うという行いはしない。だがトレーナーは蛙の肉を中心とする遭難生活かと疑いたくなるようなものしか食べていないと聞く。そんな状況だと聞けば居ても立っても居られないのが人情というものだ。
「よし、一気に作ろう」
――
「これで出来たな」
料理は完璧に仕上がった。盛り付けにも抜かりはなく、正に理想というものだ。
「トレーナー、出来上がったぞ」
二階にも届く大きな声でトレーナーを呼ぶ。しかしいくら待っても足音はおろか返事すらしない。
「トレーナー!!冷めてしまうぞ!!」
一度目よりも大きな声で呼ぶ。だが音は何一つしない。
「たわけめ」
あまり他人の家を歩き回りたくはないが、致し方ない。
階段を上がり、二階へ行く。扉は三つ。左右と正面に一つずつだ。今回は正面の部屋から光が漏れ出ていたのでここが正解だと分かる。
「トレーナー、出来たぞ」
扉を叩き言うが返事はない。
「失礼するぞ、トレーナ…」
「すまんエアグルーヴ。もう少し待ってくれ。2-3-44の衛星写真をもう一度見せてくれ」
そこではトレーナーと他にもおよそ20人が中心の机…いや、台だろうか、それの上に表示された3Dホログラムを見ながら話していた。
おかしい。全てがおかしい。
まず部屋のサイズ。明らかのこの家の建っている土地よりも広い。中心に置かれた台はキングサイズベッド並で、それを囲むように配置された机とコンピューターはざっと30はある。それに人数もトレーナーと話し合っているので20人。加えてコンピューターを操作している者は10人。しかもそれら全員が全て男だ。
「ブードゥー7に空爆命令を。ここは連中の地下の武器工場の入り口だ」
「トレーナー、これは一体」
「ん?ここは作戦司令室だ。今はアフリカの武装勢力との指揮を…」
「この部屋はどうなっていると聞いているのだ、たわけ!!」
緑服の男たちの冷たい視線がこちらに一瞬だけ向くが直ぐに戻った。
「詳しい話は正直さっぱり。ただまぁここにいる連中は別に気にしなくていい。昼間いない俺の分を頑張って埋めてくれている」
「だとしてもだ!!」
「いいから、それよりも呼んだってことは料理が出来たんだろ。行こう」
トレーナーに腕をひかれて部屋を出て一階に戻ってくる。さっきの部屋とは全然違う少し生活感が欠けた清潔な部屋だ。
「おいしそうだな、早速だがいただくよ」
「あ、ああ。そうだな」
――
「今日はありがとうエアグルーヴ、美味しかったよ」
「そう言ってもらえると幸いだ。片付けもしたし、時間も時間だからもう帰るぞ」
時計を見ればそろそろ帰らなければならない時間だった。
「お礼がしたいし送っていくよ」
「いや、その必要はない。夜道といえど街灯は多い。心配は無用だ」
「してもらってばっかではこっちが落ち着かないんだ。頼む」
「ムッ…そこまで言うなら、頼もう」
「ありがとう。少し付いて来てくれ」
そう言われて付いていくと車庫の方へ案内された。中には中型車と大型バイクがあった。
トレーナーはバイクに近付き、タイヤの圧やその他諸々を確認している。そのバイクは形状が特殊でサイドミラーの下あたりにまるで魚のヒレの様なものがついていた。全体的な塗装は深い青色で、まるで地球外のデザインだった。
「そこにあるヘルメットを」
「分かった」
棚に並べてあるものの中から二つヘルメットを取り出し、一つをトレーナーに渡す。
「良いバイクだな。貴様の趣味か?」
「いや、移動手段として横七からな」
「随分と好待遇だな」
「これでもトップだからな」
そうだった。時々忘れてしまうがトレーナーはトレーナー業と横七の提督業…軍事関連におけるトップなのだ。あの横七ならむしろこれでは足りないのかもしれない。
「行くぞ、ほら乗れ」
「分かった。…どこを掴めばいい?」
「どこでもいいぞ…ハンドルとかは止めてくれよ」
「そんなこと、言わなくても分かっている」
しかし困った。トレーナーのバイクは二人乗りをあまり想定していないのか座る場所は狭く、掴めるものもない。
「大丈夫か?」
「いや、すまない。本当にどこを掴めばいいのか」
「嫌じゃないなら俺でもいいぞ」
「なっ…正気か!?」
どこの世界に女に気安く体を触らせる男がいる。このたわけが!!
「正気だが…他にないんだろ?」
「だとしても…」
掴まっていいんだろうか。本人からの許可は出ている。理由も不純ではない。なら…
「こ、これでいいか?」
抱き付くようにして掴まる。恥ずかしいが、必要だから仕方ないだろう。
「よし、行くぞ」
エンジンがうなり声をあげ、風を切る。
こうしてトレーナーの背中を間近で見ると、とても大きく感じる。実際にトレーナーは190はあるだろうから当然だが、その倍あるように感じる。これが…男の背中…。
その後は、無事に門限を破ること無く寮に着き、部屋に戻った。
ほほ書き エアグルーヴとファインモーションの部屋にて
「はぁ…疲れた」
「お帰りグルーヴ、上手くいった?」
「上手く?…料理に失敗は無かったぞ」
「違うよー、ロイトレーナーさんと、どうだった?」
「どうだった、と言われてもな…。バイクで送ってもらった」
「!!…なるほどー、だから匂いが」
「!?」