男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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イベントは基本短縮の早送りだから大体のイメージで書いています。


す、素晴らしいです!!

「本日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、お願いします」

 

 入って来た記者に立って会釈をし、近付いてきたら握手をして再び椅子に座る。今日は私が嫌いなマスコミの取材だ。少しのボロですら出したくないので一人称から意識を切り替えていく。

 

 誤解がないよう言っておくが、別にテレビや新聞の全てが嫌いというわけではない。天気予報はよく当たるし漫才やバラエティーは見る機会こそ無かくなってしまったが最後に見たあの番組は面白かった。そして新聞にはほぼ外れることのない正確なテレビの番組一覧がある。あれほど外れないものを私は知らない。

 

 では何故嫌いか、という話になる。これは前職…いや、現職か。現職の提督業をやっていたとき、何度も何度も立派なジャーナリズム精神を持つ方々が侵入を試みて警報は鳴るわ鎮守府内は臨戦態勢になるわで大変なことが起こっていた。何度も何度も…。

 

 後は自分がやれ性癖異常者だとか不能とか書かれたり言われたらそらムカつくよな…という話。

 

 だが今回は大丈夫だ。落ち着け…。取材に来たのは月間トゥインクル。ウマ娘に関することを主に扱っている雑誌だ。それに隣でシンボリルドルフが取材を受けている時に「素晴らしいです!!」という感嘆の大声が何度も聞こえてきている、体力はかなり消耗しただろう。

 

「早速ですがお名前は?」

「ロイです。ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフ」

「成程。ご出身は?」

「秘密で。あまり面倒事を起こしたくないので」

「分かりました。その仮面もそういうことですね?」

「はい。顔がバレて四六時中付け回されるのは嫌なので」

 

 昔もやっていたマスコミ対策の仮面は、この世界ではトレセンの外に出たり不特定多数の人の目に触れる機会に着けていた。今回はトレセン内での取材だが写真が出回るのが嫌なので着けている。

 

「ですが仮面を着けた男性、というだけで特定されませんか?」

「仮面は好奇の視線を遮ってくれますから、助かるんですよ」

 

 それに買い物の途中で変えれば撒くのにも役立つ。

 

「では、トレーナーになったきっかけは?」

「些細な偶然でトレセン学園に来ることがありまして、そこで理事長にスカウトされたのがきっかけです」

 

 この質問にはこう返すと理事長やたづなさん、そしてアイ*1の奴と話し合って決めた。口裏を合わせるのが目的だが嘘は一つも言っていない。

 

「元々外へ出ることに抵抗はありませんでしたか?」

「無いですね。私には問題を解決できる能力があると確信しているので」

「そうですか。男性の方はあまり施設の外に出かけないと聞いているので」

 

 何故女性…女を怖がるのか、それが分からない…とは言わない。私も艦娘だったから女性といえど緊張せずに過ごせたし、だからこそ女性にも慣れた。その前の私はまぁ…ね。良くも悪くも臆病だった。

 

「担当契約をしている生徒さんは既にいらっしゃいますか?」

「はい。三人ほど」

「三人!?」

 

 立ち上がり、こちらをじっと見つめる。

 

 えっ、何?何かヤバいこと言った?「新人が三人も担当するなんてわかっていない。複数人契約は経験と実績が出来てからにしろ」というありがたいお言葉は元エアグルーヴのトレーナーだったあばず…女性トレーナーから頂いた。

 

 だが私はかつて数百人の艦娘を育て指揮した実績と経験がある。艦娘とウマ娘は違うかもしれないが根本的な部分は同じだろう。

 

「す…す…す…」

「す?」

「素晴らしいです!!」

「!?」

 

 メモを取っていたペンをこちらに向け、そう高揚した状態で言われる。

 

「素晴らしいです。一人でも多くのウマ娘の夢を叶える為、慣れぬ仕事であっても、自分の限界を超えた複数人契約を…。大変すばらしいです!!」

「いえ、慣れない仕事ですがキャパシティーは超えてませんから一人一人をしっかりと見る余裕はあります」

「何と!!慣れない仕事でも、複数人契約でも、未だ自身の限界を超えていない!!しかも担当一人一人をしっかりと見れる!!何と素晴らしい方でしょう!!自分にはまだまだ担当契約を結んでも問題がない能力があり、まだまだ多くの生徒と担当をしたいと!!」

「ちょっと待ってください!?」

 

 三人契約と言ってもタキオンは研究や実験で実質的に自主トレだからカフェとエアグルーヴの二人しか見てないし、これ以上担当が増えるかはその三人が決めるからそんな内容で報道してまた混沌とした逆スカウト地獄を作らないで!!

 

「まさか、自分の実力を中央だけでなく地方のトレセン学園でも振るいたいと!!私、乙名史は感動であります!!」

「誰かこいつを止めてくれ!!」

 

 こいつ…確か名前は乙名史悦子…私が嫌っているマスコミ連中よりも面倒な人間なのか!?

――

「失礼しました、先程は取り乱してしまって」

「いえ、それほどの熱量を持っていらっしゃることは素晴らしいことだと思います」

「ありがとうございます。では、他に…担当していらっしゃる子たちの中で、デビューが近いのは?」

「そうですね、エアグルーヴが来月か再来月にデビューする予定です」

「エアグルーヴさんですね。確かに本格化が進み、デビューに相応しい力を持ちつつありますね。本人とは相談を?」

「いえ。あくまでこちらの計画ですね。本人の考え次第で前倒しにもなりますし遅れもします」

「自分都合で決めるのではなく、しっかりと担当と話し合い予定を決定する…素晴らしいです!!」

 

 エアグルーヴは勝手にデビュー決めたら何してくるか分からない。怖くは無いが変にしこりが残るのは嫌なのでしっかりと話しておきたい。第一にターフを走るのは私達トレーナーではなくウマ娘だ。勝手に決定するのは何かこう…違うだろ?

 

「他二名のデビュー時期については何かありますか?」

「そうですね。マンハッタンカフェは来年かと思っていますが、アグネスタキオンについては未定ですね」

「分かりました。では、最後に一つ。こちらとしてもあまり質問したい内容ではありませんが…」

 

 前口上はいい。乙名史さん。あなたの性格とかは理解したつもりだ。変なことじゃないだろう。

 

「トレーナーとして学園に勤務するようになって、発生した問題等はありますでしょうか?」

「山ほどあります」

「具体的に…」

 

 瞳を閉じてこれまでの生活を振り返る。碌なことは起きていない。

 

「学園外に買出しに行った際のナンパ、空いているのにも関わらず満員電車のように詰めてくる買い物客や通行人、ストーカー行為」

「…」

「学園から一歩外に出ると警戒が怠れないほど危険に繋がるものが多いことですね」

「学園内では…どうでしょうか」

 

 乙名史さんは少し重い口調で言う。乙名史さんはウマ娘のことが大好きだから、きっと悪く言われることも悪いことをしていることも嫌なのだろう。

 

 だからこそ、言おう。

 

「平和ですね。夢と希望に満ち溢れている彼女達を見るとこっちもやる気が湧いてきますよ」

「学園内でストーカー行為が発生しているとの噂があったんですが…」

「正直に言えばありましたよ。ですが目的が一般的なストーカーと違います。彼女達は自分の夢を叶えてくれるトレーナーを求めて、私を探し、契約の機会を求めて、私のことを追っていました。純粋でありながら闘争心を秘めたあの瞳…私は大好きですよ」

 

 まぁ職員の方は知らないけどね。そこまで庇う理由は無いし。

 

「ほ、本当に…本当に…」

 

 乙名史さんが顔を伏せる。気のせいで無ければ若干声が震えているし水滴…涙が零れている。

 

「乙名史さん?」

「私はッ!!あなたが…トレーナーになって本当に嬉しいですぅッ!!」

「乙名史さん!?」

 

 また立ち上がり、今度は近付いてくる。この人ならば問題は無いだろう。実際に今も握手をしているだけだし…。

 

 ただ、長い。握手の時間が長い。最初の挨拶のときの握手は数秒だったが今はもう一分は経過している。そしてその間、涙と鼻水が流れっぱなしである。美人さんなのに酷い顔になりかけている。

 

「乙名史さん?もうそろそろ…」

「はい、分かっています…ですが、ですがぁ!!」

 

 面倒臭い…女だ。

――

「トレーナーさん、こちらを」

「ありがとうございますたづなさん。態々トレーナー室まで」

「いえ。これも仕事ですから」

 

 封筒を受け取る。重さと大きさからして中身は本だ。早速開けるとそこには『月間トゥインクル』の雑誌の名前と『大好きです…男トレーナー、ウマ娘に心奪われる』の文字が…。

 

「これは…?」

「この前の取材の内容を載せた特別号です。…と言っても最終確認のために学園に送られてきた原本ですが」

「な、成程」

 

 パラパラと捲るが確かに取材のときのことが書かれていた。

 

「当たり前のことですが嘘は書かれてないですね…」

「そ、そうですね」

 

 この反応からして、たづなさんは既に読んでいるのだろう。それとも似たようなことが起きていたのか。

 

「ただ誇張が過ぎないですか?某映画弱小師匠並ですよ?」

「た、確かに、い、言われてみれば…」

 

 笑顔が引き攣ってますよ。

 

「まぁ私はこれで良いですよ。誇張は過ぎますが、まあ問題ないでしょう」

「わ、分かりました。こちらでも問題がないか改めて確認しますね」

「お願いします」

 

 渡された原本は回収されなかった。やはり別でもう一冊届いているらしい。

 

「閉まっとくか。記念品にはちょうどいい」

 

 適当な棚に入れておく。大掃除のときに困る奴だと思いつつも、自分が少し有名になったと思うと悪い気はしなかった。

*1
相棒妖精(トレセンにスパルタンを連れてきた豊峰)にロイが付けた名前




がががき
書店にて

「これはトレーナーの…すいません、この特別号を一つ」
――
「おやおや、こんなものが売っているとは。一つ頂こうか」
――
「トレーナーさんの…分かっています。買いますよ」

 誤字脱字が修正された特別号が三冊棚に増えるのを、この時はまだ誰も知らない。
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