それまではストックを作っていたということです。だから…買ってね。
「日本のトレセンも広かったけどアメリカはやっぱその上をいくよな」
アメリカのトレセンに来て最初に思ったのはそんなことだった。
――
「アメリカに行こうと思います」
彼は現れてすぐにそんなことを言った。理事長室にいた奴らは二重の驚きを味わっている。
「正気かトレーナー!?」
「ロイトレーナー、君は一度誘拐されかけたのだぞ。それなのになぜ自分から行こうと思う」
「行かなければならないんです。先手を取られましたがこのまま黙ってはいられません」
「おいおいトレーナー君。それではまるで殴り込みではないか」
「否定はしません。殴り込みであることには間違いないので」
勝算が十二分にあるはずの殴り込みであるはずなので悪いことにはならないと思うがそれでも不安になってしまう。実際にロイの奴は傷一つなく学園に帰ってきたのにも関わらず周りから止められていた。
「待ってほしいのだけれど…あなた、単に祖国で暴れる為に来るの?だとしたらお断りよ」
「大丈夫です。トレセンとしての仕事も果たします」
「そういう問題じゃ…」
面白い顔になっている苦労人だが、こいつならきっとどっちもやるだろう。
「…ロイトレーナー、我々は最大限君の意思を尊重する。しかし!!今回はあまりにも危険が過ぎる。帰ってこれないのかもしれないのだぞ!!」
「私からも…ロイトレーナーさんが仮に無事だとしても、報復が返ってきたら、永遠に終わりませんよ」
「大丈夫です」
上司たちの心配の言葉を掛けられても、こいつは平然として…いや、不気味な笑みを浮かべる。
「トレーナー、今が大切な時期であることを理解している筈だよな。なのになぜ」
「理由は単純だよ。ここで終わらせる。後々面倒事になるのが見えている問題をね」
こいつの言い分は尤もだ。あいつらがあのまま引き下がるとは思えない。それこそ次は特殊部隊やCIAも出てくるかもしれない。そうなる前にアメリカに行ってあのクレイジー委員会を潰した方が将来の事を考えれば最適解だ。
「あなたが見守っているのなら、安心して送れれます」
「トレーナー君ならアメリカで大暴れしても大丈夫だよ副会長様」
「マンハッタンカフェ、アグネスタキオン…」
「民主主義に基づく多数決だと、賛成が3、反対が2、棄権が2でアメリカ行きが決定だが…」
「…許可。やることを伝える」
「…ジーザス」
――
「で、これがそのやることリスト、と」
1 日本留学を希望する子と面談、相談。
2 上記の子の親と面談。
3 留学の意思決定をした場合、関連する書類を記入、提出
4 必ず帰国すること
「ありがたいリストだね~」
記入されていない保護委員会絡みの事が後軽く…3つ位あるが、それを書いたらおしまいなので頭の中に留めておく。
「ヒドルフトレーナー、希望者が来ました」
「どうぞー」
「失礼します」
入ってきたのは茶髪…確か栗毛と言うんだったか、そういう色の髪の子だった。
「ええっと…」
「ああ、すまないな。色々とあって」
今はいつものコートは脱いで長袖のワイシャツである。理由は空港で六回、高速道路で三回襲撃された。検閲を掻い潜った品物を使わなくても捕縛できたが、あまりの頻度に夏場なのにコートを着ているせいで目立っているのではないかと思い、着替えた。着替えが同じようなのしかなかったのでこれは学園の近くの服屋で買った。ホテルまでは特に何事もないと信じたい。
「いえ、その…あまり殿方のそういう姿は見慣れないので」
「そういうものなのか?」
希望者や案内をした職員、挨拶をした理事長も目のやり場に困っていた。
よく知らないが保護委員会の影響が強いならエロ本(女性用)とかモデル雑誌(女性用)が規制されまくって厚手のものしかないのかもしれない。アメリカは自由の国だろ?スピリッツはどうしたんだよスピリッツは!?特産品の自由が国内で不足してるぞ!!
「まぁ、気にしないでくれ。早速だが名前を」
「はい。グラスワンダーです」
「グラスワンダーね。留学の理由は?」
「私の母親が日本の文化が好きで。それで私も興味を持って、機会があるのなら行ってみたいと」
…ダメだな。心の中のアメリカ嫌いがそれなら旅行で行けよと言っている。相手は子供だし日本の事が大好きなんだぞ。この心、リコールされないかな。
「留学先が中央だが、学力…はまぁ第二言語を習得しているからいいとして、レースに勝てる自信はあるかい?」
「ええ、勿論です」
どこかお淑やかな子だが、今、確かに目に一瞬ではあるが闘志の炎が宿った。やる気は十分だ。
「よし、日本の芝のこっちの芝は少し違うから慣れが必要だと思うが、その意気なら大丈夫だ」
「ありがとうございます、ええっと…ヒドルフさん…でしたか?」
「ロイでいい」
「では…ロイ…さん、ですね」
「ああ。その方が慣れている。それで、これからの予定だが…」
「把握しています。まずは私の保護者と面談。そこで許可が出たら必要書類の準備、それが終われば荷造りをして日本へ、ですね」
「留学期間は九月からの予定だから何も急ぐ必要はない。不備なくね」
「はい、分かりました」
「じゃあ、今夜また」
「分かりました。今晩に…今晩に!?」
――
グラスワンダーとその保護者である母親との面談はあっさりと終わった。母親が留学に賛成的…むしろ自分が行きたいと言い出すような立場だったのでそこは大変だったが、了承も取れたし書類に関する注意事項や日本での生活などの説明も果たせた。
それで今何をやっているのかと言えば、広めのダンスの練習場のような場所で審判をやっていた。
「構え」
「お願いします」
「…」
右…いや、左か?とにかく東がグラスワンダー。武術に覚えがあるらしく、今回は竹刀を構えている。
そして対戦相手。青いスーツで頭部は白色、目と鼻のラインが赤の塗装がされたマスクをかぶっている。名前は自律可能強化外骨格スーツ、呼称はサイボーグ忍者。アメリカで騒ぎを起こすために日本からやってきた機械である。その名の通り強化外骨格のスーツで、着用すれば戦車に轢かれても問題ないどころか戦車を止めてしまう。そして自律可能なので一人でに動き出す。
人が居なくて広いこの部屋で明日のために呼び出して調整とかをしていたら発見されてこのざまである。AIには自律させるために高度な戦闘を行えるようしており、たかが小娘、となるはずだった。
「三回転捻り斬り」
「その技は見飽きました」
「一本!!」
初見こそ強化外骨格と着用者がいないことを利用した無理しかない挙動で圧倒していたが、守りに転じられて一本も取れず、しまいには見破られて負けるようになってしまった。
「指導が足りてなかった」
「すみません」
「あらあら…」
これ以上は時間の無駄なのでサイボーグ忍者は作戦に備えるため帰らせたが、このままでは横七の名が廃る。
「グラスワンダー、構えろ」
「うふふ、今日は良い日です。殿方とも剣先を交えれるなんて。ですが、容赦はしませんよ」
審判がいない為セルフでやる。互いに雰囲気と合図で構え、始める。
「…動かないんですか?先程の忍者さんはかなり派手でしたよ」
「あれはあれ、俺は俺。流派なんて高尚なもの、うちにはないのよ」
「そうですか。では、こちらからいかせてもらいます!!」
ウマ娘のパワーによる瞬間的な爆発的加速。一瞬にして間合いを詰められ、竹刀が振り下ろされる。だが汚名挽回、名誉払拭と言う(言わない)ように、子供相手だからと勝ちを易々と与えるわけにはいかない。
「胴!!」
居合に近い動作でグラスワンダーの胴を打つ。
「なっ!!」
「一瞬で間合いに相手を入れるということは、一瞬のうちに相手の間合いに入るということ。後は言わないでも分かるよね」
「不覚…でした。ウマ娘の速さについていけるなんて」
終わりの挨拶をし、芝の生えた大きな庭に出る。子供相手の勝負の余韻に浸っているのではなく、純粋に少し暑かったからだ。面を外し月を見上げていると後ろから話し掛けられた。
「ロイさん、少しいいですか?」
グラスワンダーは既に諸道具一式を外しており、身軽な様子で手には水の入ったコップが二つ載ったお盆を持っていた。
「今日一日、あなたと話していると、より一層日本に行きたいという思いが強くなっていきました」
「ありがとう。行ってよかったと担当に話せるよ」
「…そして、もう一つ。別の新しい想いも感じるようになりました」
「それは?」
「あなたの担当になりたいという想いです」
風のせいか汗が冷えたせいか知らないが、少し寒い。
「ですので、日本に着いたときは、よろしくお願いしますね」
「ああ。楽しみに待ってるよ」
月はまだ頂上に達しておらず、昼の暑さも夜となり完全に潜まった。盆の上のコップはどちらも溶けた氷があるだけ。明日もまだやらなければならないことが待っている。だというのに・・・
三人にどう言い訳しようかな。
気分は浮気がバレた馬鹿な人間であった。
コパノリッキーは無料単発で、タキオンも完凸できたからカフェも挑んだら170で一回しか出なかった。俺のジュエルがッ!!(血涙)