男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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七不思議では足りないな

「エアグルーヴ!!エアグルーヴが先頭!!二、三番手は遥か後方!!何の問題も無く最終直線へ!!」

「エアグルーヴ!!何の憂いもなくレースを制しました!!二着は…今!!もつれるようにゴールイン!!」

 

 『話題のウマ娘エアグルーヴ、ヒドルフトレーナー、阪神JFを大勝』

 

 先週の阪神JFを大勝して次の週、私達は勝ったからと気を抜かず、いつも通りにトレーニングをしていた。

 

「次はダートを力強く3本走れ」

「分かった」

 

 最近のトレーニングは以前のような理解に苦しむ指示は減り、分かりやすいものになっていた。マンハッタンカフェの方は変わらずだがこの前目を通した時は少しではあるが以前より理解できていた。これが成長というものなのだろうか。

 

「ロイトレーナーさん、この後理事長室に来られますか?理事長からお話があるそうです」

「理事長から?最近は平和にやってますよ?」

「いえ、別に注意ではないそうなので」

「分かりました。夕方に伺います」

「はい、待っていますね」

 

 トレーナーと何やら話をしていた理事長秘書は、最近はトレーニング風景を見る余裕が出来たらしい。何でも横七所属の警備員が来ているおかげで侵入者やマスコミに対応せずに済んでいるそうだ。

 

「エアグルーヴ、すまないがトレーニングが終わったら部屋で待っててくれ。伝えたいことがある」

「分かった」

 

 伝えたい…こと?

 

 調子は悪くない。トレーニングの出来も問題ない。レース後のマスコミ対応も首尾よく終わった。怪我している可能性は万に一つもありはしない。女帝たる私に不備はない。では二人のことか?いや、マンハッタンカフェもアグネスタキオンもどちらも平常運転だ。今指摘か何かをするならとっくの昔にやっているはず。

 

 そうなるとトレーナー自身のことか?誰かから脅迫や危害を加えられているなら相談したいこと、というだろうしそもそも横七の方で対処するだろう。つまり私でなければならないこと、もしくは理由がある。…ダメだ、皆目見当もつかん。

--

 考察を半ば諦めてトレーナー室で待つ。いつも思うことだがほこり一つ落ちていない掃除の行き届いている綺麗な部屋だが、私はトレーナーが掃除をしている姿を見たことがない。見えない所で努力しているのか、はたまた横七の道具なのかはわからないが、どこか思う所がある。

 

 ずぼらな人間どころか綺麗好きな人でも疎かにしてしまう『常在戦場、慢心はダメ絶対』と書かれた横長の額縁にもほこりは積もっていない。

 

 この部屋は清潔なのだが、代わりに不思議なところがある。

 

 一つ目は本棚。同じ週刊誌の特別号が修正前、後を含めて四冊あることは私達のせいだが、そもそもとしてトレーナーは本を読まない。電子書籍を読むらしいからだが、棚には明らかに読書用やトレーニング用の本が並んでいる。それに加えて報告書などの写しが電子化されているのにも関わらずここにファイリングされて入れられている。一般人なら予備やハッキング対策で電子化していないと言えるがトレーナーと横七にはありえない。この本棚は不要品で、トレーナーは不要となったら仕舞う人間なので、矛盾を感じる本棚である。

 

 二つ目は冷蔵庫。トレーナー室に冷蔵庫があることは珍しいことではない。経費で落ちないので一種の高級品だが冷えたスポーツドリンクやお茶、水にコーヒー。時にはウマ娘のやる気を向上させる為のアイスクリームやカップケーキなどの甘味を保存するの重宝するので一種の必需品となっている。だがこの部屋の冷蔵庫は異常だ。そもそもとしてまず開かない。扉に異常があるのではない、鍵が掛かっている。次に、どこか燃料と火薬の臭いがする。この冷蔵庫から臭いはしているが故障等は見当たらない。そしてとても重い。以前場所をずらそうとマンハッタンカフェと持ち上げようとしたがウマ娘二人でも持ち上げられなかった。中身が入っていると想定してもウマ娘二人分の力に勝てるとは思えない。パンドラの箱的な存在の冷蔵庫。

 

 そして最後は机の上の写真立て。これは市販の写真立てで何も細工はない。細工自体はない。だが、これこそが一番の不思議なものだ。

 

 写真立てとは文字通り写真を立てて飾るためのものだ。だがこの写真立てには写真が飾られていない。トレーナーを知らない者は飾る写真がない、や写真を飾ったり見たりする性格じゃない、と言うがトレーナーは写真を二枚は少なくともペンダントに入れて持ち歩いている。そして以前その写真の話をしたとき、トレーナーは確実に写真を大切にしていた。

 

 理解できる範疇にありながら決して理解できず、理解してはいけないものである気すらしてくるこの写真立て。多くの生徒がトレセン学園の七不思議に加えようとしているトレーナーとトレーナー室の謎の中で、これが頭一つとびぬけている。

 

「ソファーはこんなにもいいのに…」

 

 応接間としても機能するように、膝程の高さの机を挟んで隣り合う黒いソファーは柔らかく、アグネスタキオンが何度か横になって睡眠を取っている程質がいい。

 

「全く、トレーナーはよく分からないな」

「戻ったぞ」

 

 独り言の後、トレーナーが扉をノックして入って来た。手には封筒だが中身は分からない。

 

「何だったんだ?ここ数ヶ月は大人しくしていたんだろ」

「仕事の話さ。勿論、トレーナーの方のな」

「それは?」

「ちょっとしたものさ」

 

 そう言ってトレーナーは引き出しの中にそれを仕舞った。緊急のものでないため良しとしよう。

 

「ところでだがエアグルーヴ、この前の阪神JF、良かったな」

「当然だ。貴様の指導と理想へと向かう意志。この二つがあればこその勝利だ」

「そうだな。それでなんだが、エアグルーヴはあんな勝ち方したから忘れてるかもだが…ああ、俺は忘れてたが、阪神JFは格が最も高いGⅠだ。だというのに祝勝会もやってない。それにもうすぐで今年も終わり来年はクラシック戦線に挑むことになる。だから…パーッと四人で食事会をしよう」

「食事会?」

「ああ。エアグルーヴの祝勝会兼来年へ向けた祈念会、更には忘年会と新年会を兼ねて」

「貴様、四つも兼ねるのか…。それに忘年会と新年会も…」

「そうさ。だから楽しく盛大に」

「いいだろう。場所や日時はどうする?」

「場所は家がいいな。食事の準備がしやすいし騒がしくしても問題ない。場所は知ってるから案内は任せたぞ」

「ああ、任されt…貴様の家でやるのか!?」

「そのつもりだが」

「あ…ああ、まあ大丈夫か」

 

 良からぬ出来事が起こりかねないかと一瞬頭を抱えたが、思い返せばトレーナーの家には横七の基地?司令室?それらに該当するものがあった。気の迷いが仮に起きても問題は無いだろう。

 

「どうした?」

「いや、何でもない」

 

 トレーナーは異世界出身だからか少し気が抜けている気がする。現に自身の提案の危険性に気付いていない。

 

「話を進めるが、日時は第四週の土曜日にしようと思うが、生徒会や学園の方と何か被らないか?」

「予定は今の所入っていないな。大丈夫だ」

「よし、二人にも伝えておいてくれ」

「分かった」

 

 マンハッタンカフェとアグネスタキオン…二人なら掛からないし掛かっても問題無いが、この意識の低さは何か何処かで問題を生みそうだ。

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