→8月某日
え?
→おうがすと
え?
(八月中に創った貯めこみはまだあります)
「ここがトレーナー君の家で良いんだね、エアグルーヴ君?」
「そうだ。この家がトレーナーの家だ」
「早速インターホンを鳴らしましょう」
エアグルーヴさんから伝えられたトレーナーさんの家での祝勝会などを兼ねた食事会。その為に今日、トレーナーさんの家にエアグルーヴさんとお友達の案内の元来ました。
そして、扉を開けてもらうためにインターホンを鳴らそうと腕を伸ばしましたが、その腕を掴まれてしまいました。
「何ですか、タキオンさん?」
「いや、その、これは…まぁ…」
「貴様が言い淀むとは珍しいな」
「うっ…ごほん、なに、あまり男性宅にこうも女三人で押し掛けるのはよろしくないと思ってね」
「そうですが、トレーナーさんから誘われていますので」
「ああ。それにここには横七の者もいる。問題はないだろう」
「そうかい…」
掴まれた腕が離されたので改めてインターホンを押すと、無機質な中世的な声の言葉が返ってきました。
「どちら様でしょうか」
「マンハッタンカフェです。タキオンさんやエアグルーヴさんもいます」
「…確認しました、どうぞ」
ピピピという電子音と共に扉が開いたので靴を脱いで上がると奥からお友達が招いていました。
「こっちですね」
「ああ、そっちだが」
導かれて入ると、そこではトレーナーさんが料理を作っていました。既に洋中和問わない料理が机の上に並んでいて、今はデザートを作っているようです。
「いらっしゃい、もう少しでできるから、待っててくれ」
作る様子はかなり手慣れていて、すぐにケーキが出来上がっていきます。
「たいしたものだねえ、じゃあ、頂くよ」
「せめて乾杯までは待て」
--
「美味しいかったねぇ」
「美味しかったな」
「美味しかったです」
「お粗末様」
用意された料理とデザートのケーキを食べた余韻に浸っていると、トレーナーさんが何やら紙を持ってきました。
「トレーナー、それは?」
「理事長から頂いた、チーム創設許可書だ」
チーム?
「待てトレーナー、貴様、それを受託したのか?」
「勿論、来年春に創設する予定だ」
「トレーナー君、待ちたまえ」
ソファーでのんびりと紅茶を飲んでいたタキオンさんが立ち上がってトレーナーさんの前に立ちふさがります。少しですが目付きが鋭く、尻尾の動きが荒く耳も絞られています。
「どうして君の契約が私達三人だけなのか、君は理解しているかい?」
「勿論。タキオンたちがエアグルーヴとの契約を認める代わりに学園が逆スカウト禁止令を出したからだろ」
「その通りだ。尤も、君からのスカウトは禁止されていないからチャンスを伺う娘たちはいるがね。それでも君は私達に注力してくれているから他の子を見る余裕はないのだが」
タキオンさんが捲し立てたようにトレーナーさんからのスカウトは禁止されていません。ですのでトレーナー室の前で話し掛けるタイミングを待っている子やトレーニング中に話し掛ける子は一定数います。ですがそのどちらもお友達やトレーナーさんの集中する性格もあって悉く失敗していますが。
「それが、だ。もしチームなんて創設してみろ、年がら年中トレーナー室には入部届を出しに来る連中でごった返し、トレーニングどころじゃなくなるぞ。君は私達のトレーナーだろ?ほら、速くその紙を捨てろよ。はーやーくー、はーやーくー」
手を叩いて催促するタキオンさんですが、トレーナーさんは動きません。エアグルーヴさんは奪取を試みようとしているのでしょうか、背後からかなりギラついた視線で紙と手を見ています。
「すまないがチーム創設は決定事項だ。君達には今日、それを伝えたかった」
「楽しい食事会はポイント稼ぎかい?だとしたら私達を舐めないでほしい」
「舐めてるわけじゃない。エアグルーヴの勝利を祝いたいのは本心だ」
「だとしてもだ!!私はチームなんてものの創設を認めない!!」
…少し拙いかもしれません。タキオンさんがかなり掛かっています。体はいつでも襲いかかれるよう前のめりになっていて、トレーナーさんとの距離も近いです。
エアグルーヴさんも奪取の算段がついたのか、じりじりと距離を縮め始めました。
「…チーム創設は君達の為だ」
「甘い言葉で騙そうとしたってそうはいかない、トレーナー君、速く紙を渡すんだ」
「エアグルーヴは来年から合宿に参加出来る。複数契約ならデビュー前やジュニア期の担当もだ。つまり来年の夏は三人で夏合宿を行う」
「それがどうしたと言うんだ」
「夏合宿の場所は限られている。専属契約や複数契約だとチームに比べて選択肢が狭まる」
「それでチームか、たわけ。それなら、こちらから願い下げだ!!」
エアグルーヴさんが紙を奪うにはあまりにも十分な間合いで飛び掛かりました。が、トレーナーさんは見えていたと言わんばかりに背後のエアグルーヴさんを躱し、間合いを取ります。エアグルーヴさんの背後に回ったトレーナーに今度はタキオンさんが雄叫びを上げながら突撃して紙を奪おうとしましたが、頭を掴まれて静止してしまいます。
「お前たちにはそれぞれが掲げた夢がある!!俺はお前たちがそれを実現できるよう精一杯の行動をした。ただそれだけだ!!」
「…」
「…」
トレーナーさんの言葉で、二人は止まってしまいます。それもそのはずです。子供の癇癪のような怒りに大人の理性のある諭。この二人の怒りの中にあっても機能している理性はそれを認めざるをえないんです。
「トレーナーさん、質問、いいですか」
場が膠着したので、動かすために手を態々挙げて聞きます。
「私達のチーム名はどうなるんですか」
当たり障りのない質問ですが、ある意味で最も気になるものです。
「チーム名は星座や星から選ぶことを勧められたが拒否して考えた。既に紙にも書いてある」
「名前は…」
「チーム『スパルタン』。俺達は無敵の精鋭部隊だ」
――
外泊届は出していないので帰ろうとすると、トレーナーさんに送っていくと言われたので外で待っていると車を出してくれました。
住宅街の暗い夜道を走っていると、後ろのまだ不機嫌な二人には聞こえないよう話し始めました。
「その、ありがとう…ございます」
「いや、カフェには助かったよ。あの場面、動かすにはどうしても君が必要だった」
「そう言われると、照れてしまいます」
あの後二人は諦めて紅茶を飲み始めましたが、トレーナーさんにとってはかなりいい方向に進んだみたいです。
「チームを組んだ理由はさ、実はまだあって」
トレーナーさんは少し笑いながら言いました。
「そうなんですか?」
「ああ。アメリカに行ったときに、留学したら担当契約をするよう求められてね。それなのにいざ日本に来たら禁止令で門前払い、なんてかわいそうだろ。だからまあ、門を開ける為にもね」
「…トレーナーさんって、卑怯ですね」
「卑怯でも、やりたいことができればいいさ」
小さく苦笑いをしながら答えてくれたトレーナーさんですが、どことなくそれすらぎこちないです。
「トレーナーさんの家の周辺、あの時間帯でも人通りが少なかったですね」
話題を換えるために、ふと今日来たときの話をします。時間は丁度夕方。普通なら家に帰る人や休みなので外食に行く人で少しは道に人がいるはずですが、人っ子一人、いませんでした。
「…他言無用で頼むよ」
「分かりました」
トレーナーさんの顔が少し真剣なものになります。
「あの家は横七が提供していることになっているのは知っているね」
「はい」
「実はあの家の周囲は横七が確保していてね、隣や向いは勿論、区画全てが横七の兵士が待機という形で住んでいるんだ」
「では人通りが少ないのも」
「ああ。そもそも外に出掛けないからだ」
納得がいきます。海兵隊さんやスパルタンさんは任務に忠実と聞きます。ましては提督宅の警護となれば外に出るより中で監視をするのでしょう。
「それではあの周辺で不審者がいたら?」
「いたら速攻で監視。家に近付けば出動、何かすれば確保」
「ディストピアみたいな場所ですね」
「仕方ないさ。事実上の軍事拠点だから」
ただまぁ…、と少し不満があるといった切り出しで続けます。
「マスコミに家の場所が勘づかれてきた。このままだと面倒だから近々家を移すよ」
「また引っ越し…ですか?」
「そうなるな。もう引っ越し先は確保できてるから、ひょっこりと現れるんじゃないぞ、分かったなエアグルーヴ!!」
「ッ!!」
車を止めて態々後ろを振り向いて聞き耳を立てていたエアグルーヴさんを差します。
「さ、着いたぞ。降りろ降りろ」
止めた場所は…寮の前ですね。いつのまにか着いていました。
「トレーナー君、私は学園の方で…」
「カフェ、済まないがこいつを連れてってやれ」
「分かりました、トレーナーさん」
タキオンさんの腕を引っ張って寮へ連れていくとタキオンさんが暴れ始めましたが、エアグルーヴさんと一緒に運びます。
「あ、トレーナーさん」
言い忘れていたことがあったので、窓を閉めようとしているトレーナーさんを呼び止めます。
「どうした?俺も必要か?」
「いえ。トレーナーさん、おやすみなさい」
「…おやすみ、カフェ」
前回書き忘れましたが、感想頂きありがとうございます。
私があまり返信を書くのが得意ではないのでお応えできませんが、とても嬉しかったです。これからも目を通して小躍りをするので気軽に書き込んでください。