「う~む、理解不能!!」
「理事長!!」
アグネスタキオン君らが保健室に男を運んできたという話を聞いて、紙にメモしたものを何度も読み返して、そして先の結論に辿り着いた。
「たづな!!君は急に男が空から落ちてきたと聞いて理解できるか!?」
「できませんけど…」
「当然!!」
心労がキツイ。その男の対応やその他諸々、一つの学園の理事長がやれるものじゃない。だいたいこういうのは男性保護委員会の仕事じゃないのか!?何で空から落ちてくる!!意味が分からん!!
「…う、理事長!!」
「はっ!!すまないたづな、どうした」
「もう…電話が鳴ってますよ」
色々文句が頭の中に湧いてきて電話が鳴っているのに気づかなかった。鳴り方からして内線だ。
「どうした!!」
「あっ理事長。保健室です。例の人が目覚めました」
「承知!!今すぐ向かう!!」
頭が痛いが気を奮い立たせて保健室に向う。
――
「はぁ、ここに来るまでで一苦労…」
保健室前の廊下は既に噂になっていたのか人だかりが出来ていた。
問題の男は新聞とテレビを睨みつけるように見ては空を見ていたが扉の閉まる音でこちらに視線を移す。
「君は誰だい?迷子かな?悪いけど僕も知らないよ」
男は私の背丈だけを見てその言葉を言ったのだろう。事実、目が子供に向けるものになっている。
「紹介!!私はここウマ娘トレーニングセンター学園の理事長、秋川やよいだ!!」
「失礼しました理事長、自分はロイ。ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフであります」
「うむ、ロイ君だな」
「はい。ロイであります」
驚いた。
本当に驚いた。
アグネスタキオン君の言っていた通り、モデルのような容姿を持っていたのでそういった類の男性かと思ったが、それらに共通の女性を下に見たり、逆に敬ったりしていない。女性を自分と同等の存在として見ている。
「要望!!いまから君に幾つか質問をさせてもらう。いいかな?」
「構いません」
「一つ!!君の保護責任者は誰かな?」
「保護責任者?自分は成人ですよ」
「…では、君のいた保護区もしくは保護施設は?」
「健康ですので縁がありませんね」
「………君の保護ナンバーは?」
「何ですそれ」
意味が分からない(本日n回目)。男は普通、保護委員会から派遣された保護責任者がいるし住んでいる保護区もしくは保護施設があるし絶対に保護ナンバーがある。それらがない男は世界広しといえどいない…はずだ。はずなんだ!!
「あの、質問いいですか」
「…あっああ。許可」
「ウマ娘って何です。それと今は終戦からどれくらい経ちましたか」
「」
この男ホントに何なんだ!?保護委員会と保護制度の全てを知らなければウマ娘も知らないし終戦とか言い出した!!
「いえ、失礼は承知です。ですが答えて欲しいんです!!」
「…ウマ娘!!それは遥か太古から存在し
――
る存在!!」
「そっそうですか」
「うむ!!ここトレセン学園ではそのようなウマ娘たちを育てている!!」
「二つ目の質問は…」
「…最後の大戦から90年は経つ。あれは酷かった」
ヨーロッパで起きたとある政権が全ての男性を支配下に置くために世界と戦ったあの大戦。戦車が大地を、爆撃機が空を、戦艦が海を支配したあの暗黒時代は90年も前の教科書の中の出来事だ。
「90年…ありえない、やっぱりありえない。詳細な日数は分からないがそれでも90年は長すぎる。肉体の変化はまさに数時間程度。どういう事だ…」
彼の独り言が加速する。戦争やら彼女達やら陛下やら、訳の分からない単語を連発している。
「まさか…いやそんな。秋川理事長、横七という単語はご存知ですか!?」
「横七…既知!!」
「よかった…」
横七…横七グループ。
船舶による海上輸送に始まり一次産業、二次産業。全ての最先端は横七にあり、それほど技術力のあるグループ。10年位前に突然現れ、急速に拡大した超企業。
「横七に保護責任者が?」
「あっいえ。横七の場所は分かりますか?」
「場所はあまり…」
「そうですか」
横七がそれほどまでに超企業でありながら産業スパイや犯罪に遭わないのは、その全てが闇に包まれているから。横七本社の位置に始まり社長、会長、企業としての足は見えても顔が見えない。
「横七に行くのか?」
「いえ、場所が分からないので…」
「では他に行く場所は?」
「ええと…ないですね」
「……提案」
「はい?」
「ここでトレーナーとして働かないか?」
「トレーナー?」
「うむ。ウマ娘を導き、時に導かれる存在。君にはその素質がある!!」
トレーナーにはかなりの量の専門知識が必要だが彼の振る舞いを見ればそれがなくても欲しくなってしまう。
「どうか!!どうか君にトレーナーをやってもらいたい!!」
「ま、まあ…特にやることもないですし…」
「歓喜!!待っていてくれ、契約書を持って来る!!」
こうしてロイ君はトレーナーとなったのだ!!以上!!