トレセン学園に編入することが決まって、上京の準備して、お母ちゃんに見送られて、府中まで来たけど…。
「どの駅で降りればいいんだべ?」
何度も調べたけど、いざ乗ってみたら分からなくってきて、同じところぐるぐるしてるような気がしてきたよー、お母ちゃん!!
学園からも『ホームで目立つ人が待っています』て言ってたけど、都会の物は全部目立って見えるよー!?
「ええーと…この駅!?」
少し悩んじゃったからギリギリだったけど降りれてよかった。待っててくれている人で特に目立つ人は…あれ…このホーム、私以外いない!?
「駅員さーん!!少し聞きたいことがー…グェ…」
何なんだべこの機械はー!?こんなもの地元じゃ見なかったよー!!
「いたた…」
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
駅員さんに心配かけちゃいました。見慣れないこの機械は改札で、切符を入れると通してくれると教えてくれたので実践してみると、さっきみたいに通せんぼしませんでした。
「ありがとうございます。ところで、トレセン学園って」
「トレセン学園?最寄り駅は一駅先だよ」
「そうなんですか!?」
「ええ。降り間違えちゃったかい?」
「そうみたいです。あっでも大丈夫です。私、走るのが好きなので!!」
ふんす、としていると駅員さんが何か思い出したかのように手を叩くと
「お嬢ちゃん、トレセン学園に編入してきた子?」
って言われました。
「そうなんです。地元で他のウマ娘に会ったことなくて…だから楽しみで」
「ふふ、いってらっしゃい。学園から来たお迎えの人に降り間違えたって連絡しておくから、軽く走ってらっしゃい。ウマ娘用の道を走るのよ!!」
「分かってますよー!!」
駅から出ると直ぐにビルやお店が並んでいて、道も綺麗な舗装がされていて、車も人もたくさんいて、地元とは全然違った光景にワクワクしながら走っていたら、府中レース場を見つけちゃって。屋台のものを買い歩きしながらレースを見ていたら、周りの人がやけに距離を置いているなって思ったんです。ウマ娘だからかなって思っても、なんだか皆私じゃなくて私の後ろを見ているような目線で、気になって後ろを振り返ったら、黒くて。
「…ようこそ、府中へ」
「ブッフ!!」
「…」
何かなと思って見上げたら、黒いコートに無地の白い仮面を付けていた人が立っていて、髪型とか目とか体格でもしかしたら男の人なんじゃないかって思っていたら、声が低くって、驚いて口の中の物を全部吐いちゃいました~!!
――
「あの…怒って…ます?」
あの後係員さんに部屋を貸してもらって、その中で男の人が服や仮面やらを拭いていました。
思い返せば、一言目もかなり不機嫌だった気がします。お母ちゃんからは、男の人を怒らせてはいけない、都会の男には会っても喋らない、話し掛けない、付いていかないと言われていたのに。もうダメだよお母ちゃーん!!
「はっきり言えば、怒っていなかったよ」
男の人が仮面を外したので急いで下を見ました。仮面には焼きそばソースがついて一部がもうシミになってます。
「電車っていうのは乗り換えや快速や特急とか、普通以外もあってよくわからない。府中だと余計にね」
ガサゴソと、音からして髪についたものを拭き落としています。本当にごめんなさい。男の人にあっている緊張と、怒らせているかもしれない緊張で、胸のドキドキがうるさくて、よく聞き取れないんです。
「俺も、電車で降り間違いや乗り間違いが嫌でね。だから車とかをよく使うんだ」
こっちに近付いてきて、頭を上げると男の人はサングラスを着けていました。
「それに、色々なことが理由で到着場所や時間が変わったり、迎えに行くこともたくさんあったから、一々怒るほどのことでもないのさ」
「そう、なんですか」
「ああそうさ」
座っていた椅子の前に立ったと思ったら、男の人もパイプ椅子を出して座りました。何だかあまり感じたことがない雰囲気の人だなー、って思っていたらいきなり近付いてきて無言になったかと思ったら、
「けどさ、食べてた物を吹きかけるのはないよね?」
って、至近距離でガン飛ばされながら言われて、泣きたくなりました。
「ご、ごめん、なさい…うっ…ぐすっ…」
「ああ…ま、仕方ないか。行くぞ」
怖くて、泣いちゃってたら、腕を掴まれて立たされて歩かされて。、私、これから怖いなことをされるんだって思ったら余計に怖くなっちゃって。男の人が係員さんに何か伝えたらまた歩き出して。外に出たと思ったら車に乗せられました。
「ごめんなさい…ごめんなさい…だから、だから、誘拐だけは…」
「融解?フュージョン?…ああ、誘拐か。…誘拐?」
「私が悪かったですぅ。だからぁ、だからぁ、許してください!!降ろしてください!!」
「おいおい酷いな。俺が誘拐犯って言うのか」
赤信号で止まったと思ったら、男の人は胸ポケットから何か小さい金属を渡してきました。
「これ、何なんですかぁ、これで黙って誘拐されろってことなんですかぁ!?」
「違うよ!!トレセン学園のトレーナーバッジ!!」
「とれーなーばっじ?…トレーナーバッジ!?」
「聞かされてないのか…俺はトレセン学園から迎えに来た。今は暇だけど、もうすぐ桜花賞だってのに」
そういえば、都会に詳しい友達がトレセン学園には男のトレーナーさんがいるって…あの時は嘘だと思ってたけど、本当だったなんて。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!降り間違えて顔に食べ物吐き掛けて誘拐犯扱いして、ごめんなさいーッ!!」
「暴れるな!!事故るだろ!!」
「ごめんなさい、ごめんなさいーッ!!」
「分かった、分かったから!!取り敢えずじっとしていてくれー!!」
――
「やばかった。うん、やばかった」
学園の駐車場で何度もそう呟いているトレーナーさんを見て、また頭を下げようとしたら、勘弁してくれ!!と言われたのでやめましたが、本当にごめんなさい…。
「取り敢えず理事長室まで案内するから、付いて来て」
「分かりました、ありがとうございます…」
「…いつまでもそう落ち込まない。切り替えて行くよ」
「はーい…」
折角お母ちゃんにあれだけ応援されて送り出されたのに、最初っから躓きっぱなしで。溜息が止まらないよぉ。
「…スペシャルウィーク、だったか」
「はい?」
「学園はもうすぐ春休みだから、短い間だけでも取り敢えず頑張れ」
「…分かりました、私、頑張ります!!」
「その意気だ」
トレーナーさんに気に掛けてもらって、少し元気が出てきました。
「あの、トレーナーさん!!」
「どうした?」
「トレーナーさんってどんなウマ娘を担当しているんですか?」
「そうだな…」
上を見ながら頭を指で何度か叩くと
「面白い連中」
と言ってきました。
「面白い?」
「ああ。皆何か目標があって、それにまっしぐら。面白いよね、ああやって精一杯頑張っている人を見ると、こっちもやる気が出てくる」
「そうなんですか?」
「勿論、こっちに来る前に、君も似たような経験をしてないのかい?」
「私は…お隣さんが大分遠くて。家族もお母ちゃんだけで。だから…」
「君の母親の頑張りを見て、何か自分も頑張ろう、と思ったことは?」
「それは…あります」
私を日本一のウマ娘にするために、色々なことをしてくれたお母ちゃん。そのおかげで頑張れて、今、私はここにいる。
「忘れないことだ。やる気の源は自分ではなく他人だ。大切な人や一緒に頑張って来た人を思えばやる気が自然と湧いてくる」
「ありがとうございます、その言葉、大切にします!!」
「そんな風にされると、恥ずかしいな」
お母ちゃん、私、日本一を目指して、慣れない都会でも頑張っていくよ!!
お母ちゃんへ
今日、大人の男の人と会いました。色々と悪いことをしちゃったのですんごく怒られると思ったら、すんなりと許してくれました。都会の人は冷たいって聞くけど、その男の人はそんなんじゃなくて、とても優しかったです。そしてその男の人はトレーナーさんだったみたいで、私、すんごく驚いちゃって、最初は理解できなくって。
――
私、頑張るから、頑張るから、見ててね!!
スペシャルウィークより