男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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投稿せずにストック作るから昔の自分が何考えながら作ったのかを考えなきゃならない。


声が聞こえたんだ

「『スパルタン』への応募受付は年一回だけなんだって!!」

 

 月に一回、あるかないかの珍しい日。

 

「これからは『スパルタン』一強の時代でしょ!?この前の桜花賞も副会長が圧勝したし」

 

 私が学園の食堂で食べる日。

 

 食堂で食べる理由は唯一つ、昼食の時間にトレーナー君と打ち合わせをするためだ。

 

「ベテランでも何でも、ホントに自分に合うトレーナー見つけなかったらG1なんて上澄みの上澄みの上澄みでも取れないよ!!」

 

 ウマ娘やトレーナーの背中に混じって、彼もまた食べていた。仮面の口部分だけが無くなっており、普段の仮面が変形しているという、妙に手の込んだ作りだ。

 

「やあやあトレーナー君、失礼するよ」

「いつも通り遅いな、先に席をとって食べてたよ」

「今日は実験が早めに終わってね、午後から頼むよ」

 

 午前の間にやりたい実験は終わった。午後からはトレーナー君でお試しといこうじゃないか。

 

「いつもは実験か。そうするといつもはどうしているんだ?」

「ちゃんと食べているよ。安心したまえ」

「そうなのか。カフェはスムージーで済ましていると言っていたが」

「そのスムージーで問題無いのさ。とはいえ君もまた蕎麦なのだね」

 

 この前もトレーナー君は蕎麦を食べていた。偏食をされては私の方も困ってしまう。

 

「蛙や野草で済ましていないだけ安心してくれると思ったんだがな」

「それはそれ、これはこれで問題だよ」

 

 私も食事に手を付け始めると、トレーナー君は私の方をじっと見てきた。

 

「どうかしたのかい?」

「いや、普段スムージーで済ましているのに食器類の扱いが上品だなと」

「何を言っているんだい?こんなのは常識さ」

 

 子供の頃に教えられたものは、知らず知らずに内に体に染みついて離れないからね。

 

「ところで、だ。カフェは今年にデビュー戦なんだろ」

「ああ。爪の問題は残るが、ケアとクールダウンを設ければ問題ない」

「そうか。私の方もデビューしたくてね」

「ッ!?…!!…!!」

「いきなりとはいえ喉に詰まらせないでくれ、トレーナー君」

 

 言っていなかったとはいえ、そんなに驚かなくてもいいじゃないか。

 

「すまない…はぁ。で、どうしてなんだ」

「単純に今の状態ではもう進化が見込めないのさ。だからこそ、デビューをして心持が大きく変われば、可能性の果てに辿り着けるのではないかとね」

「分かった。今年のデビューでいいな」

「構わないよ、目指すはクラシック三冠馬、かい?」

 

 強敵ぞろいで一度の敗北もやるされないクラシック三冠。最も速いウマが勝つ皐月賞、最も運の強いウマが勝つダービー、そして最も強いウマが勝つ菊花賞。この路線なら私の脚質にも合うし強敵も揃いやすい。問題は私の脚だけだ。

 

「クラシック路線か。分かった、理事長に書類を出しておく。また午後に」

「ああ、午後にね」

――

 ここ数日…いや、もっと前から、タイムは思うようによくなっていない。トレーナー君の協力で横七を通した人体実験と禁制品の入手が出来るようになり結果は出ていたが、やはり頭打ちしてきた。この現状を変えるには、大きな何か…出来事が必要だったんだ。そこで見つけたのがエアグルーヴ君の練習タイム。デビュー後とデビュー前、さらにクラシック戦線に入る前と後で大きく変化している。今の状態でもう可能性に変化がないなら、デビューをして大きく変わろう。

 

「たとえ、プランBを選ぶ羽目になってもね」

 

 カフェは大きく成長している。プランAがダメになっても、カフェでプランBを行えば、きっと可能性の果てに辿り着けるはず。トレーナー君もカフェに良い影響を与えている、それならきっと、あの二人ならきっと…。

 

「早いな、てっきり遅れてくるのかと思っていたよ」

 

 隣に来たのは、トレーナー君だ。手にはストップウォッチを持っている。

 

「失礼だな君という奴は。早速実験を始めるから、これを着けてくれ」

「これは…VRゴーグル」

「何やら学園でも準備しているとのことでね。廃棄品を貰って改造したのさ」

 

 理事長が私費をじゃぶじゃぶと費やして新しいトレーニング器具を開発しているらしい。なんでも横七に対抗意識を燃やす、今まで学園に器具を搬入していた会社がやっているのだとか。

 

「貰った?拾ったの間違いじゃないのか?」

「そこに違いはないさ。さっ、速く着けてたまえ」

「脳が焼き焦げなきゃいいが」

 

 VRゴーグルを着けたことを確認してスイッチを入れる。予定通りことが進んでいれば今頃トレーナー君は私と走る映像を見ているはずだが、何の変化もない。

 

「トレーナー君?どうしたんだい?」

「…」

「トレーナー君?トレーナー君!?」

 

 肩を掴んで呼びかけても反応がなかったので冷や汗が背中に流れ出した時、ボンッという軽い爆発音と共にゴーグルが飛ぶ。ゴーグルは偶然にも空中でキャッチすることができたが、かなり熱くなっている。

 

「はぁ…」

「大丈夫かいトレーナー君!!」

「ゴーグルが脳内のチップを掌握しようとしてオーバーヒートした。直しておくから渡してくれ」

「あ、ああ。分かったよ。けど本当に大丈夫かい?」

「点滅のせいで目が痛いぐらいだ。まったく、ジャンク品の扱いには気をつけろ」

「す、すまない…」

「たく…」

 

 受け取ったゴーグルを見て少し解体しながら、トレーナー君はこちらに話し掛けてきた。

 

「それで、これで何がしたかったんだ?」

「えっ?」

「だから、このゴーグルで何を見たかったんだ?」

「それは…君に私と走る映像を見させようと」

「どうして?」

「私と共に走ることで君に可能性の果ての片鱗を見せようと」

「そんなもの、実際にやればいいだろ」

 

 トレーナー君がコートを脱いで長袖のワイシャツ姿になると、そのままターフに降りて軽い準備運動を始める。

 

「トレーナー君!?いくらなんでも無理が…」

「腕相撲でボロ負けのアグネスタキオン君?どうしたのかい?」

「!!」

 

 あの日、トレーナー君と初めて腕相撲をした日。あの日以外にも幾度となく腕相撲を挑んだが、やはり勝つことは出来なかった。だがそれは今回とは違うはずだ。トレーナー君は全体的に強化されているかもしれないがウマ娘は特に足が発達していて、それに並ぶ二足歩行生物はいない…待てよ。確かスパルタンは時速100㎞で戦場を走ると聞いたことがある。トレーナー君が使っている装置がそれと同系統なら、良いレースになるのでは?

 

「では、始めようか、トレーナー君」

「いいだろう、そこの君…そうだ、君だ。すまないがスタートを頼む」

「よろしく頼むよ、なにせいい実験が出来そうなんだ」

 

 何事かと思ったウマ娘や職員が、既に列を作り始めている。これなら、本当のレースに近い状態でやれる。

 

「い、いきます!!3、2、1、GO!!」

「なっ!!…流石だよ!!」

 

 GOとほぼ同時にスタートを切れたと確信していた。だけど君は、私よりも速く、それでいて間違いを起こさないタイミングで出て行った。思えば腕相撲でも君はスタートを切るのがうまかった。

 

「落ちてくるね。やはり、機械といえどそれが限度」

 

 君のスタートは逃げウマであれば完璧だったけど、君は逃げウマじゃない。いくら横七の機械といっても、ウマ娘には勝てないんだ。

 

「ラストの曲線!!このまま…」

「いけるとは思うなよ」

「トレーナー君ッ!!」

 

 スタート後に落ちていったトレーナー君は、気付けばもう背後まで迫っていた。いくらコースが適正外といっても、人間に負けるのはウマ娘としてのプライドが許さないよ!!

 

「…寒い?」

 

 突然、私が鳥肌を立てていることに気付く。おかしい、緊張で鳥肌が立つことはあるとはいえ、それはレース中には出てこないはずだ。じゃあこれは…。

 

『遥か太古、神の一族と人は争った』

「何!?」

 

 突然、時が止まったような感覚とともに厳かな女性の声が聞こえた。

 

『人は神の一族の前になす術なくやられていった』

「この声は!?」

『しかし、人にはまだ希望があった。その希望の名は…』

 

 この声が話す内容は!?

 

「『シエラレオネ』!?…ハッ!!」

 

 気づけば、君が既に私よりも先にいた。そしてそのまま、君はゴール板を駆けた。

――

「お疲れ様、タキオン」

 

 トレーナー室で、開かずの冷蔵庫として知られるトレーナー君の私物の冷蔵庫の中から、彼は金属のボトル(軍が昔使っていたものと酷似している)を取り出し、それを飲んでいた。

 

「で、どうだった?」

「君とのレース中、声が聞こえたんだ」

「声?」

「ああ」

 

 精神異常者と思われても仕方がないが、ありのままに聞こえたことを伝えた。トレーナー君は理解を示してくれたが、この言葉の出典を知らないのか、どこか不思議顔だった。

 

「タキオン、その文言は一体…」

「人類共通神話、世界のどの宗教にも同じ記述がある」

「それは…」

「『シエラレオネ神話』ウマ娘もいない、現在の人類にも繋がらない、遥か太古の地球の物語」

 

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