男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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一体いつからいたのかしら

「…どうして」

 

 あまり人目につきたくない…いえ、そもそも人に見られたくないから、私は今校舎裏にいる。

 

 お母様との電話。入学した頃から変わらない、どうやって知ったのかを知りたくなる早さで学園で起こったことを知り、私に電話を掛けてくる。この前は私がチーム『スパルタン』に加入申請をしたときも、無理だ、諦めなさい、男は危険だから離れなさいと再三言ってきた。そして今日も、掲示板のチーム参加試験合格者一覧の中に私の名前が入っていたことについてすぐに辞退するべきだと言ってきた。

 

「冗談じゃ…ないわ」

 

 ウマホを逃げる手に力が籠る。私はまだ何も出来ていない。何も…やれていない。レースで栄光を勝ち取ることも。学生としての本分を果たすことも。それなのに実家に帰ってこいと言われて帰れるわけないじゃない。

 

 それに、チームにはいつものあの四人も合格できた。私だけ、一人で逃げるわけにはいかない。逃げ帰るわけにはいかないの。

――

「エアグルーヴはオークスで未完成だった技を進める、カフェとタキオンはデビューに向けてレースを意識したトレーニング、他の皆は基礎能力の向上だ」

 

 トレーナーはアップを終えた私達に指示を出し、必要なトレーニング器具を渡してきたわ。今日のは複数人で引っ張ることのできる長めのチェーン。エルさんが引っ張ろうとしてもチェーンは動かないで、逆にエルさんがチェーンに止められてしまったわ。

 

「これは…地中に何か埋まってるの?」

 

 エルさんが引っ張ていたチェーンの先は地面に埋もれていて、何かと繋がっている感じだったの。気になったスペさんが先を少し掘ってみると土の中から無機質な機械の手が出てきたわ!?何なのよこれ―ッ!?

 

「この手…あの機械忍者さん?」

「何々?知ってるんですかー?」

「ええっと…あれは…」

 

 グラスさんが何か知っているそうなのでスカイさんが聞こうとすると、急に言葉を濁してトレーナーの方をちらちら見だしたわ。トレーナーはそれに気づいてエルさんからチェーンを取るとマグロの一本釣りみたいにチェーンを大きく振り上げてダートの中からマネキンを引っ張り出したわ。でもあれ…

 

「ねえキングちゃん、あれ…動いてない?」

「そんなわけ…でも…頭が!?」

「出てくるときは…引っ張られろと、伝えたろうが―ッ!!この…負けず嫌いがーッ!!」

 

 トレーナーは大声を出しながら飛んできたマネキンを一回転して蹴ろうとするとマネキンの腕が蹴りを防御しようと足を受け止めたの。けどトレーナーはそれが分かっていたみたいに体重を掛けて動くマネキンを沈めたわー!!というかどうしてトレーナーはマネキンに回し蹴りをしようとするのよー!!それにマネキンがどうして動くのー!!

 

「あれは横七の機械忍者です。人型ですので剣道の試合も出来ます」

「そ、そう…横七!?機械忍者!?」

「そうだ。横七から持ってきた機械だ。トレーニング内容はこいつと綱引きならぬチェーン引きをしてもらう。後の細かい指示はこいつがする。俺はエアグルーヴたちを見てくる」

 

 トレーナーはそれっきり先輩たちのところで時々視線を向けてくるだけだったわ。でも何故かしら、体幹や踏ん張りの仕方、それに筋力が上がった気がするわ。場が芝じゃなくてダートだったせいかしら。

 

「それにしても、どうしてまだ紙なのかしら」

 

 付いてしまった泥を落とすのに手間取って皆がもうトレーナー室を立ち去った後に漸く着いて、次のトレーニングの場所が書かれた紙を机から一枚貰ったわ。あのトレーナー、横七の機械や道具をどうやってかは分からないけど持って来るのに、どうしてウマインとかでチームグループを作って指示を出さないのかしら。そういえばウマホを持っている姿、見たことがないわね。

 

「後は…夏合宿の参加用紙ね…」

 

 今年から始めた夏合宿の詳細。合宿先や日程、最低限必要な道具が書かれているわ。着替えや入浴セットとかの修学旅行と基本的には同じだけど、あのトレーナー、自由時間に遊べるようボールや浮き輪にシュノーケル、虫取りセットやビーチパラソルにテーブルの持ち込みOKって緩いわよね。

 

「けど、必要なのが親の許可、ね。…はぁ、何でこんなときに、タイミングが良いのやら悪いのやら」

 

 鳴ったウマホの電話相手は母。トレーニング前にも電話をしてきて数時間後にまた電話を…。

 

「…私よ。それで、何?」

「夏合宿、やるって聞いたわ。行きたいんでしょ?あなた」

「…そうよ。だけどお母様の同意が必要だから、貰いたいんだけど」

 

 どうせ断られると分かっていても駄目元で聞いてみる。返って来た言葉は勿論NOだった。

 

「いい?何回でも言うわよ。男は危険よ。特にあのロイという男…間違いなくあなたを苦しめるわ」

「お母様、なぜそこまで彼のことを言えるんです。一度も会ったこともない彼を…」

「…一度も会ったことがないから、言えるのよ」

 

 電話越しでも分かる大きな溜息。そして一拍、二拍置かれる。

 

「…私は仕事柄、横七グループの関係者に何度か会ったことがあるの。彼女らは皆、最高の結果を求めて最大限の努力をしていたわ。…最大限の時間を費やしてね」

「トレーナーが横七の関係者であることは分かるわ。でもそれとこれとに何の関係があるの!?それに最大限の努力も時間も費やすのは当たり前でしょ!!」

「…彼女達の最大限は文字通りの最大限なのよ。全員が作業に全ての時間を費やしている。文字通り、朝早く起きて夜遅く寝るまでの時間を全て。狂気とも言えるそれで、彼女達は自らの仕事に専念した」

「まさか、私がそれで折れると心配しているの?」

 

 お母様の不器用な愛、理解はしているけれど、それは…。

 

「あの男、ロイは間違いなく横七の中枢にいる。この前の米軍の軍用機事故も彼が関わっているとみて間違いないわ。横七は起こしてはならない巨人。あの男はやろうと思えば横七の一部を動かせる。その毒牙にあなたを近づけたくないの」

「失礼ね!!お母様は彼を知らない。彼を知れば彼が箱庭育ちと違うのは分かる筈よ!!」

「彼が箱庭の連中と違うのは分かるわ、彼は狂気の渦の中にいるんだもの」

「お母様!!」

 

 世の中の…特に保護委員会が運営している箱庭育ちの男性がどういう人間性なのか。お母様に連れられて何度か男性のいる場に行ったことのあるから私にもわかっている。けど彼は、私達に…。

 

「すまない、携帯借りるぞ」

「あ…トレーナー…」

 

 いつからそこにいたのか、気付かなかったけど扉に背を預けていたトレーナーは私からウマホを奪い、お母様と話し始めた。スピーカー設定にしていないし、盗み聞きされるのが嫌で音量がかなり小さいから聞き取れないけど、トレーナーの言っている内容からして、多分普段のトレーニングや夏合宿にその先のことについて、万が一の場合のことも話していた。

 

 そしてお母様が満足したのか折れたのか、トレーナーは私にウマホを返し部屋を去っていった。お母様からはただ一言

 

「彼の狂気に呑まれないようにしなさい」

 

 とだけ言われた。

 

 

 

 私は一流のウマ娘になる。そして彼は、間違いなく私を一流にしてくれる一流のトレーナー。その彼の狂気に呑まれないようにって、お母様は何を話したの?




干支書き

「トレーナー室で通信機利用している奴いたからCIAの連中でも来たのかと思ったら家族不和起きてた」
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