男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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タキオンの私服が人間用の服で、尻尾穴が無いことに気付いて感動(オブラートな表現)している。精神の高まりを感じる!!この感情、正しく愛だッ!!




道半ば

「エアグルーヴ!!もう分かっていると思うが次のオークスでは相手に厳重警戒されている。おそらく、全力で潰しに来るだろう」

「そんなもの、桜花賞の時点で分かっている。だが、理想の為、勝利を掴むだけだ」

「ああ。そのための技を今日から一か月間、通常のトレーニングに加えて特別トレーニングを行う。習得は難しいから今日は全てを費やすぞ。まずは知るために一本走ってくれ」

 

 桜花賞では出走者の半数が警戒をしてきたが正攻法で突破した。だが次のオークスでは前を塞がれ突破することが難しくなるだろう。それでは今のような能力を上げレース展開を読むトレーニングも意味がなくなってしまう。

 

 だからこそトレーナーの提案した技というものは理想になることができない包囲を打破できる可能性を秘めていると感じた。

 

 一本走ると言われてもトレーニングは始まったばかりなのでアップ感覚で走り始めた。だが途中から何者かが傍で走っているように感じ、ペースを上げてしまい、走り切ったときには少しばててしまった。走り終わったときに周りを確認したが勿論誰もいなかった。

 

「おい貴様、今のは一体なんだ!?私は一人で走っていたはずだ、なのにどうして気配を…」

「極限まで集中している状態だと、相手がどう動くのかを風や音を通じ、直感で理解できる。例えばだが…あそこの今走ろうとしている娘。あの娘は右足で一歩目を踏み出す」

 

 視線の先のウマ娘はトレーナーが言った通りに右足から走り始めた。

 

「貴様の言う技は、集中で感覚が冴えている者たちに私の幻影を見せ混乱させる、というものか」

「そうだ。それが出来ればブロックをしようにも後ろに目がついていない限り幻で釣って突破できる。習得すればペースすら決めれる、正に奥義だ」

――

「はぁ…はぁ…セイウンスカイ、どうだ。何か感じたか」

「副会長さん?セイちゃんちょっと圧が怖いなーってだけで他は…」

「ううむ…例えばだが私以外の…もっと大勢で走っていたり隣や前に誰かいると考えてしまったりは?」

「いいえ…副会長さんの圧以外は何も…」

「そうか…ありがとう。付き合わせてすまなかった」

 

 オークスまでにトレーナーの言った技を習得することは出来なかった。おそらく掴みは出来ているのだろうが、それが逆に集団を掛からせて私自身にも苦しいレースをさせてしまった。それでもなお勝利を譲らなかったのはトレーナーの指導の賜物なのだろうが。

 

「全く、何という事だ。中途半端にできるが故に自らの首を絞めるとは…」

 

 オークスの控室でトレーナーに使うなと言われたのにも関わらず、火事場での成長やどれほど通じるのかを試してあの無様を晒してしまった。夏合宿が始まってまだ少ししか経っていないが、それでも焦りで後数日しかないように感じてしまう。だが今日、トレーナーはアグネスタキオンとマンハッタンカフェのデビュー戦のため夕方まで不在だった。

 

「私も、息を抜かねばな」

 

 合宿中に滞在する場所は赤レンガ造りのホテルで、トレーナー曰く合宿のため急遽拵えたとのことだった。内部はホテルというより学校や病院、市役所のような下手をすると迷子になる、施設がフロアごとに集約されているもので、私達は最上階に泊まっていた。

 

 提督権限でスイートルームを貸し切りかと聞いたら、最上階なら無関係な者…マスコミや学園外にいるときにトレーナーに迫る不埒な輩が簡単に入ってこれないからと、娯楽というよりは警護の観点で話していた。勿論部屋は広く景色もいい。それに部屋割りも消灯時間さえ守れば自由とのことでエルコンドルパサーら五人は一部屋にシングルを五つ並べて寝ていた。アグネスタキオンは二部屋も占領している。チームの中で一人で部屋を使っているのは私とマンハッタンカフェとトレーナーだけだった。

 

 だがそのトレーナーはトレーナーで夜な夜な海辺を歩いては砂浜で寝転ぶというのを繰り返し、マスコミに追われていた。トレーナーもトレーナーで夏合宿を楽しんでいるのだろう。

 

 砂を落とし、入り口で出待ちをしているマスコミの方を躱してロビーに入るとそこには会長がいた。

 

「おや、グルーヴ。今日のトレーニングは終わりかい?」

「はい。今日はトレーナーが不在ですので。なまらないようトレーニングをした後は休もうかと」

「そうか。確かに君はどこか疲れているからな。部屋まで送ろうか?」

「ありがたいですが、申し訳が立ちませんので」

 

 会長も同じホテルに滞在しているが会長の階は私の一つ下だ。それがどこかマウント取りのようで部屋まで送ってもらうのは気が引ける。

 

「ふふ、君が心配していることは気にしなくていいさ。階は違えど私は部屋に満足しているんだ」

「そうですか。では、お願いします」

 

 エレベーターの中に入ると会長は最上階を押してくれた。このホテルは下の方の階に風呂場やシアタールーム、食堂などの施設を集約しているが数が多いのでその分階は多い。そのため最上階に上がるのにはかなり時間がかかる。エレベーターでもそうなのだから非常階段で上がろうとするうとどれほどの時間が掛かるのか。

 

「そういえば会長はなぜロビーにいたのです?」

「ああ。君のトレーナーを探していてね。ただ君が今日は不在と言ったから、私も部屋に戻ろうかと」

「そうですか。用事であれば私から伝えますが」

「いやなに、生徒会や学園の仕事ではないよ。ただ感謝を伝えようと思っただけさ」

「感謝ですか」

「ああ。ここには横七が去年から建て始めたホテルや旅館が五軒、合計で八百名を収容できる。背後の山は坂路と高地トレーニングにも利用できる絶好の場だが、ここ一帯は元々横七グループの所有地でね。合宿先として長年整備したかったが断られていたんだ。だが彼が口利きをしてくれてここは合宿期間中は解放され宿泊費も免除となった。おまけに器具の搬送も行ってもらえてる。今私達がここでトレーニングをしているのは間違いなく彼のおかげだと、直接会って伝えたくてね」

「そうだったんですか」

 

 学園が合宿先の確保に苦労しているというのは生徒会業務に関わる身故、知っていた。なにせウマ娘がおよそ二カ月間滞在するので食材などの確保が大変なのだ。特に一般の海水浴客と混じらない為、人気のないところを探そうとすると大抵は収容可能人数は少なくなり、未契約ウマ娘がトレーニング教官と共に集団トレーニングを合宿でするのが不可能になる。今年はあまりそういった苦心している話を聞かなかったのは、トレーナーが動いていたからなのか。

 

「まあ、一部好奇心の強い生徒はいるようだがね。その度にフロントに磔にされているよ」

「ゴールドシップですね」

 

 おそらくほぼ毎日、最上階のトレーナー部屋に進入してフロントに見せしめとして磔にされている。トレーナー曰くあの部屋には特に何も無いとのことだが、他人の部屋に入るのは人としてどうなのだ。しかもそれを咎めれら、罰を与えられてもなお平然としている。

 

「彼女にも困ったものだよ。おかげでエレベーターに指紋認証システムが付けられてね。彼女の指紋では反応しなくなったんだよ」

「そ、そうなんですか」

「ああ。だからこうして上に張り付いているのだろうね」

「!?き、貴様!!」

 

 天井にはあのゴールドシップが大の字で張り付いていた。潜伏していたことがバレたためか落ちてきて扉の前に立った。

 

「よッ!!ボタン押してくれてありがとな!!」

「貴様…VRウマレーターの件、忘れたとは言わせんぞ!!」

「まあまあ…私もいたことが分かってボタンを押したから、彼女をそう責めてやるな」

「会長…分かりました。ですが、不審な動きをしたらすぐにでも…」

「降りるぞ、エアグルーヴ。もう着いた」

 

 気づけば扉は開いており、ゴールドシップは私達よりも先に降りていた。

 

「おい待て!!ゴールドシップ。貴様はなぜ降りる!!」

「なんで降りるって…この階にお宝があるからだよ!!つーわけで、じゃッ!!」

「な、待て!!」

 

 走り出したゴールドシップを追う。この階は構造が複雑で、合宿初週は地図を持っていても迷子になってしまうほどだ。初見のゴールドシップなら先回りができるはず。

 

「会長はそのまま追ってください。私は先回りをします」

「任せたぞ、流石に問題を起こしたくはない」

 

 会長とゴールドシップの位置は、足音や時々聞こえてくる声で大まかに把握できた。ゴールドシップもいかに問題児とはいえ、初見の迷路に戸惑っている様で何度も同じ場所を回っているな。

 

「それならば…ここ!!」

「なッ!?見ねえと思ったら先回りしてたのかよ!!」

「これで終わりだな、ゴールドシップ」

「ちくしょー。だが、ゴルジちゃんの辞書に諦めの文字はない!!邪魔するぜー!!」

「なにーッ!?」

 

 ゴールドシップは近くの部屋の中に入っていった。最初は追って入ろうと思ったが、すぐにこの部屋に滞在しているのが誰か思い出し、躊躇ってしまう。

 

「どうしたエアグルーヴ。速く追おう」

「え、ええ。ですがこの部屋は…」

「んっ?…ああ。この部屋番号は確か君のトレーナーの部屋か」

「ええ。ですのであまり…」

「それなら問題ない。どうやら来たようだ」

「来たって…え?」

 

 背後には大柄の顔を隠すヘルメットを被った三人組。体格とそのヘルメットからスパルタンであることが分かる。どうやら会長が事前…おそらくエレベーターを降りてすぐに呼んでいたようだ。

 

「目標はゴールドシップ。トレセン生だ。傷一つ付けず確保しろ」

「「了解」」

 

 先頭の1人が扉を蹴破り中に入り、それに続いて他も入っていった。突入から10秒もしないうちに悲鳴が上がり、中からスパルタンとその肩に担がれてゴールドシップが出てくる。

 

「また…負けた。このゴルシちゃん神拳が…」

「ゴールドシップ。もし次に問題を起こしたら、君には学園に戻ってもらう。いいね?」

「チェ、つまんねえ」

「ゴールドシップ!!貴様は反省をしていないのか!!」

「はいはい。あっ、これ。中で拾ったからやるよ」

 

 ゴールドシップはポケットの中から何か出そうとしたが姿勢が悪く、薄い小さな紙を墜としてしまった。

 

「何だと!!この期に及んで貴様は…」

「まあまあ。受け取っておこう。エアグルーヴ、後で返しておいてくれ」

「はっ、承知しました」

 

 会長が拾い、私にそれを渡してくださった。裏返すとそれは写真で、一人の女性が映っていた。

 

「ほう…彼も隅に置けないね」

「そ、そうですね」

 

 何とも言えない気分の悪さに襲われる。それに、この女、どこかで…。

 

「では、私は戻る。すまないがスパルタンの方、案内してもらっても?」

「大丈夫です。さ、こちらです」

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 トレーナー室には写真の入っていない写真立てがある。仮にこれが飾られる写真だとしたら、なぜ学園の方には飾っていない?ここは夏合宿の間、トレーナーの家となる。だがトレーナーはあの借家にもこんな写真は置いていなかった。なぜだ。なぜこの部屋には写真を…

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