お友達が騒いでいます。
いつものようにコーヒーを淹れていたらお友達が走ってやってきました。
…
タキオンさんが見つけた落ちて着た男の人がトレーナーに…。確かに私に専属のトレーナーさんはいませんが…。
…
「私にも興味はあります!!」
お友達が笑っている…違う、私を笑っている。確かに男の人を一目見たいという欲望はありますし、子供の頃見た映画のように男のトレーナーさんと組んで多くの栄冠を取ってみたいという憧れはあります。ですがあなたのことを不気味がる人とは組みたくは…。
…
「そ、そうですね。一目見るだけでも十分ですね」
お友達の提案に乗って、その男の人を見に行きます。…飲みかけのコーヒーをそのまま部屋に置いて行ってしまうほどには、私の心は浮足立っていました。
――
「…広いなー」
噂の男の人の所にはお友達の案内もあってすぐに行けました。他の娘も彼のことを探しているようでしたが彼のルートが人を撒くようなものだったこともあり辿り着けていませんでした。
あれが…男の人。映画や雑誌で見た派手さはありませんがあの私が考えている勝負服に少し似ている黒いコートはかっこよさを出しています。それにあの銀髪。とても綺麗です。それでいて動作の一つ一つに冷静さと美しさがあります。
「…」
「…」
「…そこの君」
「!!」
声を掛けられてしまいました!!どうしましょう!!彼を尾行しているのは私だけ…バレないように気を付けていたのに…。
「なんです」
「それはこっちのセリフだよ。コソコソコソコソ後ろから付いて来て…」
「お気に障ったなら謝ります」
彼がじっと私を見つめる。
「マンハッタンカフェ…高等部。校内の一室をアグネスタキオンと共有している」
「えっ、どうしてそれを」
彼がタキオンさんに見つけられたのは昨日だ。仮に落ちてから半日で意識を取り戻してトレーナーになったとしてもまだ朝…12時間位しか経っていない。それに寝たり状況把握、警察や委員会への説明で自由時間は少ししかないだろう。
その間に覚えた?トレセン学園全生徒や職員の顔や名前、備考事項を?
「合っている…で良いんだよな?」
「は、はい。私がマンハッタンカフェです」
「そうか、よく付いてこれたな」
「す、少しは苦労しました」
進行方向の急転換、裏道、細い道、未整備の道を迷うことなく進み、そして裏の森に今いる。いくらウマ娘の嗅覚が人より優れていても見失ってしまう。現に私もお友達がいなかったら無理だったでしょう。
「それで、少しの苦労をしてでも付いてきた理由は?」
「特に…強いて言えば一回見てみたかっただけです」
「それだけ?」
「はい」
「まじで?」
「それだけです」
彼は少し考え、溜息を吐いてから再び歩き出し始めました。
「そっちは迷いますよ。電波も悪いので携帯も頼りになりません」
「大丈夫だよ」
そう言って私の言うことを聞きません。少し怖いので彼の後を付いていきました。
「…」
「…」
焦りや恐怖心といったものは無さそうですね。無知故に恐怖がないのではなく、自分が進むべき道をしっかりと分かっている感じがします。
しばらく森を歩いたと思えば校舎内に戻りましたね。方向を頻繁に変えるので目的地は分かりませんでしたが、次第に見慣れた道に入り、そして扉の前で止まりました。
「ここが君達の共有スペースだろ?」
「そうですが」
私の私物置き場でタキオンさんの実験室に着いた。
「あの…コーヒーでも飲みませんか?」
「是非ともお願いするよ」
彼が扉を開け、中に入り、私もそれに続きます。かなり大胆な行動をしていると思いますが色々と知りたいからの行動です。不純な目的はありません。…ありません。
「やあやあカフェと…おお!!君はあのときの」
「アグネスタキオン…高等部。ありがとう、助けられたよ」
「いやいや、あの程度のことはして当然さ」
まずいですね。色々と彼と話したいのにタキオンさんに邪魔されています。
「それとカフェ、君はやるときはやるウマ娘なんだねぇ」
「タキオンさん!!」
「あっはっはっは。なーに今は君に譲ろう。だが私としても彼と話したいことがあるからね」
それだけ言うとタキオンさんは部屋から出て行ってしまいました。彼女なりの配慮でしょう。
「それでマンハッタンカフェ、君が態々コーヒーを出すためだけにここに入れたのではないだろう?本題に移ろう」
「そうですね…では、あなたは神様を信じますか?」
彼が噴き出すのを堪えています。
「いや、ごめん。急に宗教の勧誘をされるとは思わなかったんだ」
「すみません。言い方が悪かったですね。あなたは見えない何かの存在を信じますか?」
「見えない何か?」
「はい。それは見えません。触れられません。感じれません。ですがそこに存在します。あなたには見えてませんが他の人には見えています。もし、そんな存在があったら、あなたはそれを信じますか?」
そう言うと彼は少し悩んで答えます。
「私は自分が見たものしか基本信じない」
「そうですか」
「だが、それを言った人が私が信じている人なら、例え見えなくても触れなくても感じれなくても馬鹿にされても、信じるよ」
「…」
嬉しいです。いつもお友達のことをそれとなく表しては誰もが気味悪がって離れて行ってしまいました。ですがあなたは、否定せず信じてくれる。
「それでは最後に…私と、専属契約を結んでくれませんか?」
「まあ別に…」
構わないが。望んでいたその言葉が出ようとした時に、扉が開く。
「まあ待ちたまえカフェ、その話は私も話してからのことにしようじゃないか」
「タキオンさん…」
気配がずっとあったから離れたのではないと知っていましたが…友達に抑えてもらうべきでしたか。
「それで、あなたの話とは?」
「なーに、実に簡単だよ。私はウマ娘の可能性の果てを追い求めている。そしてそのためには君のようなトレーナーがいる。だから私と契約してほしい」
「なっ…タキオンさん!!」
「分かっているよ。だがこの場、契約のチャンスを掴んだウマ娘は二人いる。だが勝者は一人だけ。だからこそ、私たちはどちらが勝者でどちらが敗者か決めなければならない」
「タキオンさん…」
「カフェ、今日の放課後、レースをしよう。芝2400、君も私もこの条件が得意だ。勝った者が彼と契約できる、どうたい?」
タキオンさんは普段、全くトレーニングをせずに過ごしている、だが油断できない、タキオンさんが速いのは極稀に姿を見せたトレーニングコースで見た。そのときに見た走りは強烈に印象に残る程凄かった。
でも
「良いですよ。私が勝ちますから」
「あっはっはっは。それは楽しみだ。というわけで君、今日の放課後模擬レース場で会おう。なーに、場所はしっかり押さえておくさ」
タキオンさんはまた部屋を出て…遠くに行きましたね。おそらくルドルフ会長に許可を取りに行くのでしょう。
「…もうそろそろ授業が始まりますね。すみませんがコーヒーは放課後にさせてください」
「ああ、待ってるよ」
不思議とやる気が出てきました。今ならいつも以上の力が出せそうです…放課後が待ち遠しい。