チキショーーーーーー!!!!!!!
「カフェ、ちょっとした頼みが…」
年末、学園でいつものようにコーヒーを楽しんでいるといつものようにタキオンさんが怪しい笑みを浮かべながら近づいてきました。頼られるのは嫌いではないのですが、この人はコーヒーに薬を混ぜてきますし、お友達にもちょっかいを出してきます。
「嫌です、他を当たってください」
「そこを何とか…君しか私達のチームでは頼れるのがいないんだ」
「嫌です、諦めてください」
「トレーナー君に関することだし、君のやることはただ出掛けるだけだから…」
「トレーナーさんに?…怪しいですが、話は聞きます」
「おお、それはよかった。では失礼するよ」
タキオンさんは私の座っているソファーの隣に座り、顔を近づけて小声で話し掛けてきました。
「この前の消えた女性、あのときは忘れていたが私にも思い当たる人物がいる」
「あの方…普通の方とは違いました。誰かご存じで?」
「…それはトレーナー君の許可がないと話せない。だが、彼にとっても重要な人物だ」
「それで、どうしたのです」
「彼女と彼を引き合わせる、或いは彼女の正体を知る方法を思いついてね。それを君に頼みたいんだ」
「具体的に何を?」
「彼と共に三女神を祀る神社に行き、願ってほしい。三女神はウマ娘の願いを叶えると聞く。君には接触を願い、彼女から現状についての情報を聞き出してほしい」
「いいですが、なぜ彼と共に行く必要があるのですか。私一人でも十分だと思いますが」
「うーん。私も説明は出来ないがね、強いて言うならいた方がいいんじゃないかと思ってね」
「珍しいですね、あなたらしくない」
「この前の彼よりはましさ。頼んだよ」
「分かりました…ですが、私の願いも叶えてもらってもいいですか?」
「何かね?筋肉増強効果のある錠剤は今は見直し中でないよ」
「そんなものではありません。ですが、あなたも別の機会にその神社で祈ってください」
「私もかい?君だけで十分だと思うが」
「そちらではなく、私の走りをです。爪の不安はまだ解消されていません。それに、自分のためよりも他社を思っての方が願いは叶います」
「成程。では私の分も頼むよ」
「そうしたいのですが、願い事は一人一つまでなので…」
「ええーッ!?」
――
「やっぱ人多いよな」
「それほどここには願いを叶えてきた実績があるということです」
「そういうものか。ジェローム、ダグラス、アリス。お前たちは散開して周囲を警戒。人波に注意しろ。フォージ、すまないが車の番を頼む」
「了解です。ここだと車を一度出すと戻れないので、中で待っています」
四人乗りの車で運転手さんと護衛の方、それと私とトレーナーさんしかいないと思っていたので、突然上から降りてきたので驚きました。気配からして屋根の上にいたのでしょうか。だとしても危険ですし、見つかると思うのですが…。
「行こう。人目につく前に」
「分かりました」
トレーナーさんはあまり目立ちたくないのでスパルタンさんのお面を被り、体格もどういう原理かは分かりませんが普段より小さくなっていました。着やせにしては細くないですし、背が縮むのはなぜでしょう。
「にしても、初詣に誘われるなんてな。それならタキオン…は無理でも、エアグルーヴは誘えばよかった」
「エアグルーヴさんは生徒会で既に別の神社に行っています。あの子たちはあの子たちで出かけているようですし…二人きりでは嫌ですか?」
「いや、むしろ助かる」
「そうですか…」
「世話する必要がないからな。タキオンの奴は言うまでもないけど、あの子たちもやばそうなのがいるんだよな」
「フン!!」
「痛い!?」
――
賽銭箱が見える位置まで近付き、いよいよと胸が高まります。
「…トレーナーさんは何を祈るのですか?」
「秘密。言っても分からないだろうしね」
「どうでしょうか。お友達には情報通の子もいるので、分かるかもしれませんよ」
「それなら尚更言えないなぁ」
半笑いの口元に違和感を感じますが、回って来た番に対応してそれを問う機会を失ってしまいました。
『もし、願いが叶うなら。彼女と会わせてください』
念を込めて祈りますが、特に様子は変わりません。数秒待ちましたが、後ろに続く列を考えるとここが引き際ですね。
「行きましょう、トレーナーs…」
「…」
「トレーナーさん?」
「ッ…行こうか。おみくじも引くかい?」
「新年一発目ですね。いいでしょう」
二人分六百円を払い、一つずつ引きます。私の方は勝負運は良かったのですが、健康や恋愛、人生においては悪く、耐えるしかないとのことでした。
「どうでしたか、トレーナーさん?」
「ダメだな、印刷ミスだ。何も書いていない」
「凶ですね」
「そういう日もある、ということだ」
引いたおみくじを破り、ポケットに仕舞うまでの間に何か書いてあるのが見えましたが、詮索はしない方がいいのでしょうか。
…。
分かりました。聞かないでおきます。
「もう帰るか?それともお守りを買ったり屋台に寄るか?」
「屋台の方で。少しお腹が減ってしまったので」
りんご飴の屋台に並んでいると、後ろから幼い高い声で話しかけられました。
「ねえねえ、そこの君。君ってトレセン学園の生徒さん?」
「ハイ?そうですが…」
「じゃあじゃあ、その隣にいるのはトレーナーさん?」
声を出すと男性であることがバレるのでトレーナーさんは静かに首を縦に振って答えています。
「それなら、ロイトレーナーって知ってる?」
「知ってるも何も…」
彼がそのトレーナーさんですと答えかけて、慌てて口を閉じます。ここでそう答えれば、ちょっとしたパニックが起きてしまいます。
「学園では有名ですので」
「やっぱり?それとあともう一つ。トレーナーさんはどうして体を縮こめてるの?」
「ッ!?」
「あっ、その反応。やっぱりかー。なんかおかしいと思ったんだよねー」
やれやれといった身振りをした後、トレーナーさんは軽くストレッチをして体を伸ばすと、普段の体格に戻りました。
「おっきい…もしかしてだけど君って…」
「お客さん、注文は?」
この子が核心に迫ろうとした時、いつの間にか回って来たようで、店員さんが聞いてきました。トレーナーさんは指で二と示し、お金を払うと私と後ろにいた子にも渡しました。
「ワッ、ありがとう。けど、一番おいしいのはハチミー味なんだよね。ロイトレーナー」
「…」
「あなた、少し…」
「ごめんね、けど、ボクも話したいことがあってね」
「ここだとまずい。場所を変えよう」
トレーナーさんが目くばせをするので周りを見ると、あちこちから視線が飛ばされ、人が集まってきています。
「今ロイトレーナーって聞こえた?」
「あの人体格よくない?ばんえいバさん?」
「でも耳も尻尾も無くない?」
「たいs…太宗さん、こっちです」
「ありがとうジェローム」
ジェロームさんに案内されて人のいないところに着くと、ジェロームさんは下がっていきました。
「それで、話ってなんだ?」
「あのね、ボク、今年トレセン学園に入学するんだ。入学したら颯爽とデビューして、シンボリルドルフさんみたいに活躍したいんだ。だから、君のチームに入りたいんだ!!」
「…夢は?」
この質問は…。
「それは勿論、無敗の三冠バ!!」
「そうか。確かに君には才能がありそうだ。スピードもスタミナもパワーも根性も賢さも適性もあるように見える」
始まってしまいました。 トレーナーさんのいつもの肯定口調が…。こうなるともう答えは一つだけです。
「エッヘン、当然だね」
「だができない。その夢は負けではない何かで達成できない」
「なっ…」
「そしてその夢を、俺は応援しない」
「トレーナーさん…」
トレーナーさんのいつもの冷たい言葉にこの子の顔がしたり顔から驚愕に、そして涙目になってしまいました。
「そ、そんなこと言わないでよー、ボク速いよ?」
「分かってる。けど無理だ。…こっちにも人が集まってきたな。カフェ、帰るぞ」
「分かりました」
「…」
トレーナーさんはこの子を置いて駐車場に向ってしまいました。他の参拝客さん達も集まってきていますから、私もすぐに戻らなければなりませんね。
「…」
「トレーナーさんはかなり厳しいことを言ってます。実際、今年のチーム志望者の多くがああやって落とされました」
「…」
「あんな風に言われた後でも、まだトレーナーさんの指導を受けたいと思いますか?」
俯いてしまっているので表情は見えませんが、それでも目尻に溜まった涙が下に落ちているので、泣いてしまっていることが分かります。ですが、そんな彼女にどうしても伝えたいことがあるのです。
「うん。だってボク、シンボリルドルフさんみたいな強くてかっこいいウマ娘になりたいんだもん。だから…」
「その気持ちを、トレーナーさんに伝えてください」
「え?」
「それならきっと、受け入れてくれます。…待ってますね」
彼は、そこで終わりの人が好きでありません。三冠バ、トリプルティアラ、マイル王、etc。彼とならきっと、達成できるでしょう。ですが、その先はどうするか。三冠バになった後の目標は?そもそも、現役生活中、何を目指すのか。結果ではない何かを求めろ。彼は応募用紙を捌くとき、そう零していたとタキオンさんは言っていました。ならあの子も、結果ではない何かを、具体的でない目標を掲げれば…。