そもそも400回中ピックアップを引くという式はあんな単純な式じゃないし、排出率は%表示だから実際はあの数字よりももっと小さい。
まあそれはそれでクソという話。
「…私ではなく、彼女の方がきっと」
頭の中を、プランBという言葉が埋め尽くす。弥生賞で私はカフェに僅かな差で負けた。全身に襲い掛かった違和感をよそに、私はプランAよりもプランBの方が実現可能性が高いという仮説が立った。唯一の懸念点のカフェの爪は私の問題よりも軽く、克服できる可能性もあった。
「それなら、どこかで機会を探さなければ。役立てるためのよい機会を」
夜明けの時間だが外はまだ暗い。効率的に考えるためにも、ここは少し眠るとしよう。
――
「…さん!!…オンさん!!タキオンさん!!起きてくださいタキオンさん!!」
「んぅ…きみは…スカーレット君かい?」
時刻はまだ五時を過ぎたところだった。寝てからまだ数時間も経っていないのに、私は起こされた。起こしたのはこの部屋の住人ではないスカーレット君だった。スカーレット君は早朝トレーニングの為に着替えていたのかジャージ姿だったが、息もかなり荒かった。
「避難警報が発令されていますから速く避難してください!!」
「避難警報?」
机の上に置いてあるウマホを電源を点けるとそこには堂々と大きな文字で緊急避難警報、府中市全域と書かれていた。
「地震…ではもう手遅れか。だとすれば何だ?外は静かだから異常気象の類ではないだろうし…」
「空に大きな宇宙船が飛んでいるんですよ!!早く避難しましょう!!」
「宇宙船?」
窓を開けて空を見上げる。するとそこには大きな青空の実に七割を占める巨大な人工物が鎮座していた。
「あれは何時頃に出現したんだい?」
「まだ五分も経っていない筈です。登校中、急に空が暗くなったので見上げたら、あれが…」
「なるほどね…」
ウマホを再び起動し、電話を掛ける。ワンコールもしないうちに繋がった。
「トレーナー君かい?おそらく君の探し物が今浮いているよ?」
「知っている。だが何故それを」
「あの輸送機から君達の技術レベルが遥かに高いことは分かっている。むしろあれが君のではなければ困る」
「そうだな。起こしてしまったならすまない。謝るよ」
「おやおや、謝る必要はないよ。だが、一つ頼みごとがある」
「手短に」
「私もあの船に連れて行って欲しい」
「ダメだ。じゃあ」
「おい君!!…ちぇ」
返事をする前に切られた。全く彼は失礼な男だ。
「あの、タキオンさん。避難は…」
「する必要はないと思うよ。ただまあ、落下物があるかもしれないから、トレーニングをするなら屋内の方がいいだろうね」
「そ、そうですか。ありがとうございました」
「うん、頑張りたまえよ…さて、私も行こうか」
服は制服で寝たから大丈夫だ、そして彼もトレーナー室の固定電話に掛けて出たということはまだいる。
「急いで彼を尾行し、あの輸送機に滑り込むしか方法はない…」
読唇術で知った彼の弱さ。今もまだ空を彷徨っているという彼の大切な人たち。私の立てたあの島で会った女性…加古という人物に関する仮説が正しければ、そこにあれが…死体があるはずだ。
私は二度、加古と言うトレーナー君の想い人と会っている。一度目は横七島。帰り道を案内したのは間違いなく彼女だ。そして二度目はこの前の集まり、あの遠投能力と姿は絶対にそうだ。だがこれはある一つの事実と矛盾する。それは彼女は既に死者である、ということだ。それはトレーナー君自身が言っていたから間違いではない。
死人が生きている。それも生者のように。絶対にありえないことだが、私はこれに似た事例を知っている。それは、カフェのお友達君。触れることも目撃することも出来ないそれだが、何かしらの物理的異常現象を引き起こす以上まず間違いなく存在していると言って過言ではないだろう。彼女もまた、それのように自らの意思で実体を持った時以外はこちらが干渉することも、観測することもできない。つまりはゴースト、幽霊だ。
彼の最期の座乗艦があれなら、あそこのどこかにその死体がある筈だ。
――
「ペリカンが到着しました!!」
「他はどうしている!!」
「既にVを囲んでいます。指示があればいつでも突入できるとのことです」
「包囲を維持して待機、接近してきた他所属機は警告して近付けるな!!」
学園内に待機していたスパルタン部隊の招集を終えて屋上に待機させているペリカンに向う。普段だったら屋上には生徒がいるが、今はまだ授業も始まっていない早朝。そんな時間にそこにいる奴はいない。
「首相官邸から横七に緊急連絡が届いています」
「回せ」
かけてきているのは官邸の総理大臣室。おそらく閣僚の緊急招集もまだなのだろう。
「色々と言いたいことがあるけれど、単刀直入に聞かせてもらうわ。府中の空にある浮遊物は横七の所有物ですか?」
電話の先にいるのも当然総理大臣だ。冷静さはあるようだが、口の回し方からして余裕はない様子。
「Mr*1です。現在横七島で試験飛行中だった巨大装甲飛行船の自動航行システムが暴走し、制御が出来ていません。飛行船には武装が積んであります。横七機とトロピコ*2機以外は射程に入り次第自動で攻撃してしまいます。スクランブル発進した機体、及び民間ヘリを近づけさせないでください」
「分かりました。問題が解決した後で、事後処理を語りましょう、Mr」
「感謝する」
電話を切り、今度はこちらから電話を掛ける。時差などは考慮しない。
「こちらはトロピコ宮殿、プレジデンテ補佐官のペヌルティーモ*3です」
「ペヌルティーモか?Mrだ。すまないが今すぐプレジデンテ*4を出してくれ」
「かしこまりました。しばらくお待ちを…プレジデンテ!!Mrがお呼びです!!」
「一旦保留にしろ…」
十秒で電話が代わる。まだ仕事中だったようだ。
「どうしたんだ?まあ大方はあのUFOのことだろうが…」
「読みが鋭くて助かる。ちょっとした事故で浮いてるあれだが、本来はトロピコに納入する予定だったことにしておいてくれ」
「いきなりだな。まあいいぞ。ついでに今回の事故で納入は蹴ったことにもしておいてやる」
「ありがとう。お前にはいつも助けられているな」
「それはお互い様だ*5。あ、そうだ。お前が頼んでいた海底調査の話、読み通り海底遺跡を発見したぞ」
「それは本当か!!今は忙しいから、詳しくは後で頼む。だが本当にありがとう!!」
「おう、礼は新しい艦艇で頼むぞ。お前たちがアメリカに
「分かった、要望書を出しておいてくれ。じゃあな」
対外的な問題を解決したら今度はまた別の所へ電話を掛ける。
「アイ、システムの掌握はどうなっている。ハッキングで取り戻せるか?」
「我ながら傑作を作ったと思っています」
「分かった。敵味方識別機能が生きているなら問題はないのだが…」
「それなら大丈夫です。既に接近してきた報道機関のドローンは撃ち落としていますが、我が方のペリカン、および包囲しているワスプには発砲してきません」
「ならいい」
切って屋上に上がりペリカンに乗る。だがそこにはもう先客がいた。
「遅かったねえ、トレーナー君」
寝ぐせのついたタキオンが座席に座ってペリカンで待っていた。
だが構っている場合じゃない。
「引きずり降ろされるか自分から降りるか、好きな方を5秒で選べ」
「私も同行するよ」
「分かった、痛くても我慢しろ」
「時間は無いのじゃないかな?」
「…機内で待機するのが条件だ。発進しろ」