男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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嘘だ

「さあさあ、ここではパンフレットと整理券を配ってるよ!!。今年のファン感謝祭はなんと、チームスパルタンが参加!!午前中は学外のウマ娘も受けれるロイトレーナーの指導!!午後は握手出来ちゃうしツーショットも撮れちゃう!!指導整理券は後30人、握手と写真の方は140人だよ!!」

「買うわ!!買うわ!!午前も午後も買うわ!!」

「退いてったら退いて!!私だって欲しいのよ!!」

「邪魔なのよ!!だいたい、あなたはもう持っているでしょ!!」

「何枚だって欲しいのよ!!」

 

「ううわ、凄いねトレーナー君」

「もう後悔してる」

 

 初めてのファン感謝祭への参加ということで、トレーナー君は張り切って「学園に変なこと以外は何でもやります」と言ったそうだ。企画をお任せにした理由は、まず私の皐月賞が近いこと。そして、トレーナー君の価値観では何がいいのかよくわからなかったからだろう。実際に学園が提案したこの攻めたラインナップも彼は軽く引き受けてしまった。

 

「まぁ、午前中は頑張りたまえよ。午後の握手会と撮影会には行くからね」

「頑張ります。タキオンさんは、楽しんでください」

「嫌だからってIQを落とすのはやめたまえ」

「…はい」

 

 今日はトレセン学園のファン感謝祭。春休み期間中に有志を募って日ごろから応援してくれているファンと交流したり、トレセン学園志望者を増やしたりするこのイベントだが、果たして私達に純粋なファンはいるのか。

 

 整理券配布場の様子を見るに、私達…というより、トレーナー君のファンは彼をアイドルとして見ている。そこにトレーナーとしての手腕や実績は関係なく、仮面に隠された素顔と表面上は優しい彼の性格がある種のアクセサリーとして彼のキャラクターを飾り、熱狂的なブームを起こしていた。

 

 そもそも、私達は嫌われている。休職中のエアグルーヴ君とサイレンススズカ君の元担当トレーナーが出会い頭に彼を勝利を独占する者、涙を流させる者と野次り、彼に対して一定の理解があるはずの乙名史記者が所属する月間トゥインクル以外のレース雑誌は私達の栄光よりも、私達によってレースがつまらなくなり衰退してしまうというふざけた未来を恐れることを扇動するような記事を書いている。

 

 これらが所謂男潰し、トロピコのエル大統領やペヌルティーモ補佐官、横七のミスターのような強い男を排除しようとする保護委員会の計画的な犯行だとしても、眉を顰めずにはいられない。

 

 こうして考えれば学園側は午前は彼がウマ娘を指導するという、カフェ君が初詣で会ったような純粋に彼を求めるファンを増やす企画を立案しているなぁ。

 

 …クックック、そうとなったら、私も一肌脱ごうじゃないか!!

――

「そう、そのフォームだ。よし、後はさっき言った、呼吸の仕方を意識して、今日の成果を見せるんだ!!…凄いぞ、さっきよりもタイムが縮んでいる」

「ロイトレーナーさんありがとー」

「どういたしまして。フォームは成長していく過程でまた進化させていってね。でも呼吸の仕方は変えちゃだめだよ?さあ、次の子ー!!」

 

 トレーナー君は学園側が全面使用を許した狭いターフでちびっ子ウマ娘を相手にトレーナーとして働いていた。

 

「やあやあトレーナー君!!純粋なファンはいたかな?ファン層に変化は?数年後にもう一度、学園にやってきてトレーナー室前の募集用紙受付ポストに投函してくれる、素晴らしい素質を持った子はいたかい?」

「冷やかしに来たなら帰ってくれー。それかエアグルーヴの生徒会活動を手伝ってやれ」

「そんなに冷たくしないでもいいじゃないか。私はこれでも三冠路線で皐月賞に一番人気で出走予定のウマ娘だよ?私も客寄せウマ娘として手伝おうじゃないか」

「若干の不安が残る」

「辛辣だねえ!!」

――

 午前中は彼の卓越した才能を見る眼もあって、ちびっ子から他校に通うウマ娘の問題を解決して大好評だった。今は昼休憩で、トレーナー室で彼が作った弁当を奪って食べていた。

 

「これは本当に美味しいねえ!!是非ともこれからも作ってほしいものだよ!!」

「飯の恨みは重いぞ。いつか絶対昆虫か蛙を食わせる」

「それでも君なら美味しく作るだろ?なら問題ないさ」

「褒めやがって」

 

 元々彼は昼食や夕食を作らない。横七が製造している栄養食、スティックレーションを食べていた。栄養は足りるし味もいい、それでいて一本を食べるのにかかる時間は一分もかからない軽い食事だが中で膨らんで空腹にならないという優れものらしいが、今日、特に午後は魑魅魍魎が跳梁跋扈する接客。精神衛生の為に色々と美味しい物を作って士気を高めたかったらしい。

 

「トレーナー君、おかわり、おかわりはないのかい!?」

「あったら俺がもう食べてるよ!!」

――

「次の方、整理券を。…確認しました、ではどうぞ」

「この券…精密に作られてますが偽造ですね。申し訳ありませんが、通せません」

「あ、この券はシンボリルドルフ会長のアイスショーです。ここじゃありません」

 

 午前中に使わせてもらった場所を午後も引き続き使っているが、ホントに人が多いねえ。ファンサービスなら室内で大丈夫だと思ったけど、これだけ人が群がったことを考えると外で本当に良かったよ。室内だったらきっと蒸し焼きだったろうねえ。

 

「あの、その仮面。外してはもらえませんか!!」

「すみませんが、無理ですね。どうしても必要なので…」

「じゃ、じゃあ、握手は生で」

「それくらいなら勿論」

「キャーッ!!」

 

 半ば自棄になって握手から写真撮影をしている彼だが、感情を殺しているせいで対応がスムーズになっていた。仮面の下はきっとすごい顔をしているんだろうね。

 

「ええっと、これって私達がいる意味、あるんでしょうか?」

「…分からん」

「こ、この一流のウマ娘と写真を撮りたがらないなんて」

「キングはいいでしょー、慕ってくれてる後輩が何人も来てくれたじゃん?私なんてフラワーしか撮ってくれなくて、泣いちゃいますよー」

「どうしても私達未デビュー組はファンの方がいませんからね」

「仕方ないことデース…」

 

 私達も未デビューの彼女達と同じだ。私はホープフルステークスで勝ったが弥生で負け、シンボリルドルフ会長のような無敗三冠だのなんだのと言われない。カフェもまた、爪の問題で皐月賞とダービーが絶望的となったことでファンは増えていない。

 

「…」ズズズッ

「隣でコーヒーを飲むのはやめてくれよ、臭いが…」

「何です、いい匂いですよ」

 

 およそ五時間、ほぼ出番なしとは…。ニーズがないとはいえ、ここまで何もないと悲しくなってしまうねえ。涙が出そうだよ。

 

「はい、16000番、ラストの方、どうぞ!!」

「あ、よ、よろしくお願いします」

 

 最後に来た方はフードを被ってて猫背が酷いな。あれでよく争奪戦だった整理券争いを勝てたよ。

 

「どうぞこちらこそ。ほら、右手を出して?写真は誰と撮りたい?」

「ええっと、その…撮らなくていいです」

「ん?」

「欲しいのは、その…あなたの命です」

「なっ!?」

 

 女性の右手から荒々しい短剣が飛び出し彼の胸を突き刺した。彼の体からはオレンジ色のエネルギーの結晶片が砕けた水晶のように背中側に飛び散り、彼もまた後ろに倒れていく。

 

「トレーナーさん!?」

「お前は…一体!?」

「復讐ダヨ、一度ナラズ二度ヤラレタネ!!」

「大佐!?」

 

 整理券の確認を行っていたいつものスパルタン三銃士が近付いてくるより前に女性はその短剣を抜く。彼の黒いコートに赤い血が広がる。

 

「やるじゃない」

 

 倒れ際にそう言って地に倒れたトレーナーは血の池を作ること無く、突然女性の悲鳴のような音を出しながら炎の柱となった。

 

「こ、これは一体!?」

「ありえない、そんな馬鹿な!?」

 

 理解が追い付かずでフリーズしていた時、遠くでチケットの確認をしていた三人が駆けつけて炎から私たちを引き離した。

 

 その動きがあまりにも落ち着いていたので何かそういうよくあることなのかと思っていたのだが、指先が落ち着かないことを見るに当たり前な事象ではないらしい。

 

「あの、ダグラスさん?これはその…何が起きているんです?」

「嘘だ、あれは横七の技術の粋の結集。それが素人の一刺しで…」

「説明、お願いできますか」

「ああ。あ、あれは大佐の遺伝子情報が悪用されない為の装置で、どうすることもできない非常事態が発生した時に作動して全てを燃やすんだ」

 

 火柱の大きさは天にまで届きそうな勢いだ。これなら何もかも燃え尽きる。

 

「そのどうすることも出来ない非常事態と言うのはまさか…」

「大佐の、死です」

「そんな…」

「認めたくはありませんが、大佐は今、凶刃に倒れたのです!!」

 

 それは嘘だ。じゃなかったらどうして左腕から、彼が生きているという実感と温もりを感じるのか。それが説明できない。




左腕「あいつまだ生きとるで」
タキオン「!?」
某SP「!?」
某サラザール「!?」
取れる左腕「!?」
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