「何だあれは!?」
「火事だ!!消防車、消防車を呼べ!!」
学園の校舎よりも大きい火柱となればすぐに人も集まる。特に整理券を手に入れれなかったがトレーナー君を一目見ようと来た人もいるはずだ。そういった人も集まって、現場はもう収拾がつかない状況になっていた。
かく言う私達も、彼が死んだという現実が受け止めきれず、ある種の冷静さを保っていた。
「ハァ・・・ハァ・・・私が、殺した?」
そして彼を刺した女性もまた、立ち去るわけでも勝利の余韻に浸るわけでもなく、彼に突き刺した短剣を見ていた。
「『不死鳥は…』」
「タキオンさん?何か言いました?」
「いや?何も私は言っていないよ?」
「そうですか…」
火柱から離れてカフェの方に一歩近付こうとしたときだった。
「炎の中から、蘇る!!」
「大佐!!」
全てを焼き尽くさんばかりに燃え盛る火柱を掻き消して、中からトレーナー君が現れた。彼は右腕で短剣を持つ女性の腕を掴むと、持ち上げて勢いそのまま地面に叩きつけた。
「カハッ!!」」
「頂き」
女性が肺から空気を吐き出したときには叩きつけられた衝撃で落としていた短剣を拾い上げた。
「お前、義明トレーナーか」
「ッ!!」
「逃げ道があると思うなよ」
フードがとれた女性…義明トレーナーをスパルタン三銃士とトレーナー君が囲む。そもそも場を野次ウマが包囲している以上、スパルタンから逃げることは難しいだろう。
「大佐」
「ありがとう」
包囲の網を縮めたスパルタン達。その中からジェローム君がトレーナー君に小型の拳銃を渡す。それを彼は慣れた手つきでまずマガジンに弾が入っているのかを確認し、スライドしてセーフティーを外す。
「色々聞きたいことがある。正直に話せよ」
左手で拳銃を膝立ちしている義明君の額につける。手ブレがない。声も心なしか普段より数段低い…横七島で部下を叱責していたときに近くなる。
「どこからこの短剣を?」
「…」
「だんまりか。ならば…」
つま先辺りに三度、間髪入れずに発砲。
「あ、ああ…」
義明君は泣いて、しりもちをつきながら離れようとして後ろに立っていたアリス君にぶつかる。
「もう一度聞く。あの短剣はどこから?」
「じょ、女性だ。先週、家に知らない女性がいて、お前に復讐したいと言ったら渡された」
「どんな奴だった?肌の色は?言語は?訛りはあったか?」
「ええっと、白かった。病的なまでの青白い肌で、瞳は妖しく輝く金色。けど髪は逆に黒かった。日本語を話していたし、訛りもなかった」
「他に誰かいたか?そいつらの様子は?」
「ふ、二人。男と女だ。どちらも学生のようだった。男は扉を開けて、女は車を運転していた」
「そいつらから何か感じたか?」
「感じた?」
「ああ。怒りや憎しみ、恨みといった感情的なものから肌寒いといった体感的なものは?」
「よ、よくわからない。けど彼女と話しているとき、私はお前に強い怒りを抱いていた。私から彼女達を奪ったお前を、殺してやりたいと思ったんだ」
義明君がエアグルーヴ君とサイレンススズカ君を見る。2人とも目を合わせない。それに気付いて義明君はまたトレーナー君を見る。
「だが実際にお前を刺した時、私は後悔した。なぜだかお前を刺したのは間違いな気がしたんだ」
「そうか…」
「大佐、決断を。こいつは危険です」
「待てジェローム。…ああ、寂しい人。負の感情に心を奪われ、人の持つ温もりを忘れてしまった悲しい人よ」
「えっ?」
「は?」
トレーナー君が突如オペラオー君のように立ち上がり、先程自分を刺した女性を抱擁する。…なにやら合わせろと言っているな。
「…これが、人の温もり。私が忘れていた物…」
「そうさ!!誰しもが持ち、人を幸せにすることが出来る力!!決して失ってはいけないもの!!」
「…ああ、こんなにも温かいのに、どうして忘れてしまっていたのだろう…。お願いロイ、こんな愚かな私を罰して!!」
「すまないがヨッシー、それは出来ない。私は、たとえ私を刺した者とはいえ、傷つけることはできない!!」
「あれ?さっき地面に叩きつけていたような…」
「スぺちゃんストップ!!」
二人が手を取り、社交ダンスのように踊り始める。見ててイライラしてきたねえ。
「そんな!!あなたが私を誅しないなら、私は自らを粛清しないと気が済まない!!」
「それは許されない!!私は君が苦しむのを見たくない!!」
「ならば私を刺して!!私があなたにしたように、その短剣で私の胸を…」
「こうも理解してくれない分からず屋には、こうだ!!」
「なっ!!」
彼は義明をアイススケートのように一度空に放り投げると、受け止めてその場でキスを…。いや、よく見ればしていないな。ただそれでも少し体が揺れればキスできる位置に唇があるのには変わりないが…。
「ロイ…」
「頼む。自分で自分を許してやってくれ」
「あなたにそう言われたら、私は…」
「ありがとう、ヨッシー」
もう一度、炎が上がる。…今度は地面から吹き出ているもので、さっきとは違う。
炎が消えると、二人とスパルタン三銃士は群がっていた見物人に頭を下げてお礼をしていた。
「とんだ茶番だわ」
「…」
「グラース?ちょっと怖いデスヨ…?」
「不退転、あんなにも女性と浮ついていて、何が不退転か…」
「落ち着いてグラスちゃん!!その薙刀を置いて!!」
「エアグルーヴ先輩からも何か…エアグルーヴ先輩!?エアグルーヴ先輩!?」
「あらららー、立ったまま白目を向いて気絶しちゃっていますね。倒れて怪我しないよう先に倒しておきますか」
色々とショックを受けて立ち直れていないチームの皆を背に、私はそそくさと退散していく彼らを追った。
トレーナー君たちはトレーナー室に入っていった。気付かれないよう、扉を僅かに開けてそこから見る。
「大佐、本当にどうするんです。間違いなくその短剣は…」
「ああ。義明トレーナー、君が会った女性と言うのは、こいつかい?」
「この人!!この人よ!!」
トレーナー君は何か紙を見せているが、ダグラス君が邪魔で見えない。
「そうか…」
「私はこれからどうなるの?」
「え?」
「あの銃、本物でしょ?私、何度かアメリカに行ったことがあるから分かるの。貴方達はあそこで私を…」
「お前一人殺してもどうにもならない。むしろ殺す方が損だ」
「それは一体…」
「義明英子、悪いがしばらくの間、その身柄を拘束させてもらう」
「そんな!!来週にはスカウトをしようと…」
「あんた、殺されるぞ?あいつの手下に」
机に置いた紙を指差して言う。今回もやはり角度の問題で見えない。
「自由はないかもしれないが、不自由しないよう心掛ける。だから問題が解決するまで、横七が君を保護する」
「…私も、あの人達の子ってわけね」
「あ?どうした急に」
「ふふ、私の母は男を見る眼がなかった。それに父は地下室での生活が気に入らなくて、結果的に自殺した」
「ん?」
「それからというもの、母は気を病んで…」
「そ、そう…ご愁傷様」
「いえ、そうじゃないの。私も同じなのよ。母と同じように男を…あなたを見る眼がなかったし、父の様に監禁されて守られることの幸せを知らない」
「ああ…うん、そう。そうだね」
「それとね、ロイ。お願いがあるの」
「可能な限りは」
「私にキスして。今度は本当のをね」
「よし連れていけ」
「そんなッ!?」
ポポ巻き
ロイから義明英子の評価の変遷
エアグルーヴのトレーナー(漂着直後)
↓
エアグルーヴの元トレーナー(契約直後)
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すれ違うたびに小言を挟む女(契約から数日後)
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会うたびになんか行ってくるクソアマ(クラシック期)
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ざまあみろバカ(理事長室での問答後)
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この女ヤバいって(ファン感謝祭)