ちゃんとタキオンは出したしサポガチャも回すよ、役目でしょ(血眼)
「タキオン。しっかりと、な」
「全く、君という奴は心配性だね。今の私は絶好調というやつさ」
「皐月賞での勝利でもうこのレースにお前の敵がいないのは分かってるだろ?だから、後はお前がミスらないことを祈るだけなのさ」
東京優駿、日本ダービーの名で知られるレースが行われる東京競バ場の地下バ道でトレーナー君と話す。
弥生賞ではカフェにわずかハナ差で負けてしまったが、それ以外の出走者とははるか七バ身差のワンツーフィニッシュ。この時点でチーム以外の者では相手にならないことは分かっていたが、皐月賞で先行策のはずがあまりにも他が遅すぎてサイレンススズカ君のような大逃げになってしまったときには苦笑いが浮かんでしまったよ。少しトレーニングを積み過ぎたようだが、プランBを選択してしまった以上、このダービーを最高速で駆け抜けてデータを残す。…そして私が観測できる限界の可能性の果てを見る。
――
「ねえねえトレーナー、タキオンの顔、何だか怖くない?」
「…すまないテイオー、よく聞こえなかった。何て言った?」
目指す夢への過程、日本ダービーの学園関係者席でストレッチをするタキオンを見る。普段のタキオンとは違って今日のタキオンはいつもよりも雰囲気が冷たい。
「タカハシ、マイナス。頼むから後ろに行ってくれ。見えない」
「ですが大佐、反対側から狙撃される可能性が…」
「それならお前たちが反対側を警戒してこい!!」
「…了解しました」
「はぁ…。ダンプ、豹、お前らもフォローしに行ってこい」
「了解です」
トレーナーは自分を囲んで壁になっていたスパルタンを遠くに行かせる。去年度…エアグルーヴが出走した大阪杯は今みたいに護衛のスパルタンがずらっとトレーナーを周りから見えなくなるまで人で囲んで守るなんてことはせずに遠くから見守っていたみたいなんだ。
けどみんなが言うには皐月賞から今みたいな警備シフトになって、それまではトレーニングをしないチーム全員が応援席に来ていたんだけど、ボクみたいに無理を言わないと付いてこれなくなったみたい。しかもトレーナーと話そうとしても体を触ってからじゃないと気づいてくれないし…。
トレーナーがよくいる男の人じゃないってことは神社で会ったときから分かっていたけど、あの横七のスパルタンを連れていたり、大佐って呼ばれたり…。もしかしてトレーナーって退役軍人って奴?あれ?でもそれだと如何して今もトレーナーが指揮しているの?
「悪いな、あいつらも心配性なんだ。元々俺の警護はベテラン三人がやってたんだけど、そいつらに急務が入ってな。代役があの四人なんだが…」
「新人さんってこと?」
「情けない。…それで、話はなんだった?」
「ええっと…ああ、タキオンもうゲートに入っちゃったよー」
スパルタンさんが離れる間にタキオンとか他の出走者はゲートに入ってスタートに備えて集中してて、もう姿が見えなくなっちゃった。
「タキオンに関することか」
「うん。表情がね、何だかいつもよりも静かで、落ち着いていたの」
「集中とはまた違うのか?」
「何だかね、こう…寒いの。ほら、タキオンはいっつも不気味に微笑んでるじゃん?けど違ったの」
「ふむ…」
トレーナーがどこに隠し持っていたのか分からない、妙に何だかごつごつしている大きな双眼鏡を取り出してゲートを見る。
「確かに…あれは何だか普段と違うな」
「見えるの!?」
「ほら」
手渡された結構重い双眼鏡を使ったら、ゲートが透けてタキオンが見えた!?
「これどうなってるの!?」
「ここを弄ると面白いことに…何でもない」
透ける双眼鏡をトレーナーが取り上げてコートの内側に仕舞う。ウマ娘のボクでも重く感じたのにトレーナーは重くないのかな?それに万年コート姿だし…。
「ねえねえ、さっきの双眼鏡ってもしかしてだけど君あれ使って…」
「開いたぞ!!」
後ろにいた他のトレーナーの声でターフを見る。タキオンはゲートから一番に飛び出して先頭につく。タキオンの走りはあくまで先行のはずだけど加速前から速くて逃げに近くなっちゃってる。けどそこに多分本当に逃げの子が来てタキオンと並び、追い抜いて三番手にする。
「妙だな」
「妙?」
「タキオンを抜いた奴のあのスピード、前走から考えるとほぼ全力だ」
「つまり?」
「あれでは2400を走り切れない」
「じゃああれは…あーッ!!」
「なるほどね。嫌いだ」
タキオンを抜いた二人が前方、さらに横と後ろにも他のウマ娘が来て内側を走っていたタキオンがこれ以上進めなくなっちゃった!!
「どうするのさトレーナー!!」
「事前に結託してタキオンを包囲し差を開かせない。そして勝利者役の子がお団子状態の連中を抜き去ってゴール。スポーツホースシップのかけらもない」
「そんな悠長に解析してる場合じゃないでしょ!?早くどうにかしなきゃ!!」
「どうにもこうにもしようがないのよ。悪質な囲い込みだけどこんなの一度きりの偶然と言えばそれまで」
「でもこのままじゃ負けちゃうよ!?いいの!?」
「静かにはちみーでも啜って待ってろ。どうせ勝つ。もうメッキも剥がれてきたみたいだしな」
トレーナーが指差したのはタキオンの前を走る逃げウマの1人の顔が苦しそうになっていた。
「そっか、タキオンの前に出るために全力だったからばててきてるのか」
集団の戦闘の速度が落ちちゃうと集団全体の速度が落ちてスローペースなレースになる。特に今回はタキオンを皆で囲んでいるから全員で足並みを合わせないといけない。じゃないと包囲が崩れて抜け出されちゃう。けど、皆意識はタキオンに向けちゃってるから先頭の子がばてて落ち始めることに最初は気づかない。
「そしてタキオンなら前の子が落ちてきているのが分かる。そして生まれた一瞬、ほんのわずかな隙間から脱出する」
「そうだ。けどこのままだともう一度囲まれて終わる。しかも今回はスタートで開いた差はない」
「じゃあ…」
「半分を通過した位だが、ここからスパートだ」
タキオンは落ちてきた子を回避して包囲から脱け出ると瞬く間に加速して距離を作る。もう一度同じことはできないとなると事前の打ち合わせは意味がなくなって本来のレースに戻る。さっきまでは逃げの子がレースのスピードを決めていたけど、もう違う。今からはタキオンが決める。いや、それも違う。他の子はタキオンに付いていけない。ここからはタキオンの独壇場だ。
「他の連中も加速し始めた。前半はスローペースだったのに後半はハイペースだな」
「けどこれ大丈夫?皆ゴール前に倒れない?」
「可笑しくはないな。けどまあ、タキオンなら大丈夫だ」
タキオンはそのまま、追手に影を踏ませることすら許さずに第四コーナーを加速しながら通過。区間速度を更新してのゴールになった。
――
トレーナーに付いていってタキオンを走り終わったタキオンを地下バ道で迎える。
「お疲れタキオン」
「トレーナー君に、テイオー君か」
「すごいじゃんタキオン!!囲まれたときはもう終わりかと思ったよ!!」
「終わり…ね。トレーナー君、すまないが今から二人きりで話せるかい?」
「問題ない」
「大佐!?先月のことを忘れたんですか!?危険ですよ!!」
横から新人スパルタンさんがトレーナーの前に飛び出してタキオンに近付こうとしたトレーナーを止める。
「タキオンに失礼だ、お前らはインタビュースペースに何か仕掛けられてないか調べてこい」
「…了解」
「あいつら面倒だなー。…さて、行こうか」
その後の記者会見でトレーナーはタキオンの活動休止を発表した。無敗じゃないけど会長に続くかもしれなかった三冠バの活動休止。裏で聞いていたボクにも訳が分からなかった。