男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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夜の海に潜る

 デビュー戦の熱が冷めないまま、私はホテルの部屋で明日に備えて寝ようとしていました。しかしいざ寝ようとしてもあまり寝付けず、皆が眠ったころを見計らって夜の砂浜を散歩しようと思い、外に出ました。ロイさんも夜中に外を歩いていると聞いていたのでもしかしたら会うかもしれないと思っていましたが、ロビーにも出た先にも、ロイさんはいませんでした。夜の海に誘われて波打ち際まで足を運ぶと、ホテルの照明に照らされて誰かが倒れているのが分かりました。

 

 溺れたのかもしれない。

 

 そう思った私は急いで近くに駆け寄って鼓動音や呼吸音を聞いてみましたが、驚くほど周期的で、機械のような正確なタイミングで変化せずに常に一定のリズムをとっていました。

 

「あのー、起きてください。ここでそのままでは風邪をひいてしまいますよ?」

 

 スウェットスーツに頭部は潜水服のヘルメットようなものを着けているので横七の方なのでしょうが、このままここにいさせるのはよろしくないと思いましたので、お声を掛けさせていただきました。

 

「…また拒否された」

「ええと、その声は…トレーナーさん?」

 

 ボソッと呟いただけだだったので自信はあまり持てませんでしたが、ロイさんの声でした。

 

「あまり感心しないな、グラスワンダー」

 

 ヘルメットを外すとその下にはやはりロイさんがいました。

 

「すみません。興奮の熱があまり冷めなくて」

「闘争心は君が一番強いからな。…こっちに少しでもいいから分けて欲しいよ」

 

 外したヘルメットを後ろへ投げ捨てるとそのまま砂浜に座られてしまったので、隣に失礼させていただきます。

 

「トレーナーさんは何をしていらしたのですか?」

「少し海の方に入りたくてね」

「その格好は少しどころでは無さそうですが」

「誤魔化せないか。実は少し、この危険な海を調べたくてね」

「危険?水難事故は横七の方も監視していますので起きていなかったと思いますが…」

 

 ビーチサイドには横七の方が複数名、監視要員として常に見張っていてくださり、万が一足を吊ったりして溺れたりしたときもすぐに即応の救助隊が三班は待機しています。岩陰などの見えにくい場所や波に呑まれて溺れやすくなる場所はそもそも行けないように封鎖してありますし、ロイさんのおかげでここは世界一安全な海水浴場と言っても差し支えありません。

 

「海は危険じゃないさ。ただ底まで引きずり込もうとしてくるだけで。問題はそこにいる奴らさ」

「深海魚がですが?」

「幽霊船に近い。怨念を力にして、きっと今も襲うタイミングを考えてる」

「でしたら余計にトレーナーさんが海に行った理由が分かりません」

「そんなに悩むことじゃないさ。危険が迫ろうとしているなら先に打って出てやろうと思ったんだよ」

「でも幽霊船は釣れなかったようですね」

 

 ロイさんは私と話している今もずっと暗い海の方を見続けている。幽霊船が何を意味しているのかは分かりませんが、それほど警戒しているのでしょう。

 

「海兵隊さんやスパルタンさんを呼びましょうか?」

「大丈夫だよ。あいつらもあいつらで見張っているから。…さて、もう一回潜ってきますか」

 

 立ち上がると一度大きく背伸びをして片足を海に浸けると、手を差し伸べてくれました。私がその手をロイさんは私を引き寄せてくれて、私の靴が海水に濡れてしまいました。

 

「…まだ熱を持っているかい?」

「はい。少しだけ、走りたい気分です」

「それは出来ないな。…一緒に潜るかい?」

 

 腰まで届くほど海に入った後、ロイさんはそう聞いてきました。迷う必要はありません。

 

「喜んで」

 

 彼の隣に立とうと私も海に入りましたが彼はさらに進み、足を着けていると私は首にまで届いてしまいました。

 

「失礼するよ」

 

 ロイさんは私の体を抱きかかえると息を吸う暇も与えないで突然潜ってしまいました。

 

「ロイさん!?息が…できる」

「すごいだろ?」

「はい。とても…」

 

 顔が一向に濡れないですし体も水圧を感じませんので、きっと何かが私を包んでいるのでしょう。

 

「ですが、やはり夜の海は暗いですね。何も見えません」

「そうだったね。今明るくするよ」

「…っ!!」

 

 息を呑むとはこのようなことを言うのでしょうね。光も無く明るくなった海には、わかめや昆布といった海藻があり、そこに住む小さな魚たち。さらにそれを狙う夜行性の魚たちが無数に泳いでいました。

 

「まだここはあまり岸から遠くないのに…」

「色々と理由があって海藻が育つよう色々としたら比較的浅いのにこうなってしまったよ」

「では深い方はもっとすごいのですか!?」

「ああ。見に行くかい?」

「勿論です!!」

 

 人が泳ぐというよりもボートが進むような動きでより深い所へと進みますと、そこにはさっきよりも多くの生命溢れていました。

 

「これは…本当に凄いですね!!」

「ああ。有事のときにはすべて無に帰すと考えると本当に勿体なくなるよ」

「無に帰す?」

「世迷言だ。そうなりはしない。けど、本当に良い景色だ」

「もしかしてですが、ホテルに出てくるものはこちらから」

「横七の基本は自給自足だからね」

「トレーナーさんが海が危険だと言いつつも合宿先にここを選んだ理由が分かる気がします。ここにいると自然と落ち着いてきますね」

「どこぞの夜行性人間が夜はいいと言っていた理由が、俺も去年分かった」

「ですから夜に砂浜で倒れたりしていたのですね」

「無限に増える七不思議に加えられたのは不服だけどね」

「そうですね…フアァ~」

 

 落ち着いてきましたから、少々眠くなってしまいましたね。

 

「トレーナーさん…」

「うん。そろそろ寝ようか。けど、もう少しだけ付き合って」

「はい…」

 

 エレベーターのような上昇。そして海面に顔を出すと空には大きな満月が掛かっていました。

 

「月が綺麗ですね…」

「…」

「トレーナーさん…?」

「ん?あ、ああ。そうだね」

「むぅ…」

「とにかく、急いで帰ろうか。もう遅いし。誰かが気付いて探しているかもしれないからね」

「確かに…そうですね」

 

 消灯時間を過ぎてからもうかなり経ちます。急いで戻らないと。けど、かなり離れてしまってますね。ここから泳ぐとなると、かなりの時間が…。

 

「どうしましょうか…」

「大丈夫だ。もう呼んである」

「え?」

 

 周りを見てみますと、ボートが近付いて来てますね。乗っているのは…海兵隊さんですね。

 

「お待たせしました提督、グラスワンダーさん」

「急に悪いな。大丈夫だったか?」

「巡回も終わって戻るところだったので、ドックまで送りますよ」

「感謝する。グラスワンダーを引っ張り上げてくれ」

「分かりました。失礼します」

 

 トレーナーさんの腕の中からボートの上に引っ張り上げられてボートに乗ると、トレーナーさんは縁を掴んで自力で上がってくる前に急発進してしまいました。結構な速さですがトレーナーさんはちゃんと上がってきましたので安心しました。

 

「トレーナーさん!?大丈夫ですか!?」

「大丈夫だよ。少し焦ってはいるが」

 

 座ると後ろを見たままのトレーナーさんですが、問題は無さそうですね。

 

「そろそろ到着します」

 

 トレーナーさんに釣られて私も後ろの方を見ていて気付きませんでしたが、もうボート乗り場ですね。

 

「ホテルまで連れてってくれる車は呼んであるから、おやすみ」

「トレーナーさんはどうするのですか?」

「ボート点検に付き合おうかと」

「分かりました。それでは、おやすみなさい」

 

 素晴らしい景色を見て忘れてしまってましたが、私はもう少し気にするべきだったのです。ロイさんが恐れていた物は何か。何を見つめていたのか。何を見て焦っていたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・答えはもう、目の前に迫っていました。




一体何があったら水産資源が無に帰すんだろう…(すっとぼけ)
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