男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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彼は二人で私は三人

「今年は縁日があるんだね」

 

 合宿先のホテルの掲示板。そこには近くにある神社で縁日が近々行うと書いてあった。トレーナー君の事だから全て横七かと思っていたが、どうやら地元商工会がやるようだ。

 

「おーいカフェ―!!」

「何です、タキオンさん」

 

 トレーニングが終わって砂落としのシャワーを浴び終わったばかりのカフェがいたので、早速誘ってみようか。

 

 

「何ともまあ楽しそうなこの縁日に一緒に行かないかい?」

「既に別の方から誘われていますので、失礼します」

「えーッ!?君は私に独りで行けと言うのかい!?」

「私以外にもいるじゃないですか。グルーヴさんは生徒会で行けないそうですが、テイオーさんやマックイーンさん、それにスペシャルウィークさんたちがいるじゃないですか」

「彼女達は彼女達でもう別の相手と約束していたよ。君なら誰もいないと思っていたんだが…参ったね」

「失礼なことを言ってると怒りますよ」

「うーむ。チーム以外だとするとゴールドシップ君は今年から出禁になっていないし、他もいない。本当にどうすればいいんだ!?」

 

 一人で行ってもいいが、複数人で行けば味の感想が聞けて参考になるというのに…。

 

「それならトレーナーさんを誘ってみては?」

「トレーナー君をかい?」

「はい。トレーナーさんも夜は自由時間があるそうなので、来てくれるかと」

「そうだね」

 

 去年に引き続きトレーナー君は夜に砂浜を歩いたり座って海を眺めたりしている。時間は遅いが消灯時間に比べれば大分早い時間からいるので問題無さそうだね。直ぐにでも誘おう。

 

――

「トレーナーく~ん、あれを買っておくれよ~」

「いいぞ~。これ一つ下さい」

「はいよ、素敵なお兄さん」

 

 トレーナー君と一緒に縁日に来たが、何と楽しいんだ!!屋台の食べ物はおいしいし射的もトレーナー君が欲しい物を全て取ってくれる!!しかもトレーナー君が荷物を持ってくれるから楽でいいね!!

 

「にしてもトレーナー君。君には風情と言う物がないのかい?」

 

 縁日と言ったら借りものでもいいから和服を着るものじゃないのかね。去年は無かったから今年も無いと思って持ってきていなかったが、君ならどうにか出来るんじゃないのかい?それなのにどうして君はいつもの黒づくしなのか…。

 

「風情と言われても、ここは海が近いからな」

「海が近いことと風情がないことに一体何の因果関係があるのさ?」

「それは…説明できないな。そもそも理解できる状況になって欲しくないというのもあるが」

 

 唯一の風情と言っていい要素が胸の青い彼岸花しかないのはどういうことなんだい。もっと他にもワンポイントで付け足せるものがあるだろうに。例えばこのお店だと…。

 

「このシール下さい」

「あいよ。30円だよ」

 

 季節外れであまり気乗りはしないが、桜の花びらのシールを無機物感あふれる彼の仮面の頬に貼る。

 

「これで少しはまともになったね」

「お前、失礼なy…」

「大佐。緊急電に何故出ないのです」

「…」

 

 後ろから来てトレーナー君を止めたこのスパルタンは…ダグラスさんか。

 

「通話ならどこでもやれるだろうに」

「見ていただきたい写真もあるのです。車までお願いします」

「写真ならここで見せてくれ」

「機密性が高い物です。大佐」

 

 それで諦めたのか、トレーナー君は私の方を残念そうな目で見て言ってきた。

 

「…分かった。すまないがタキオン、後で合流する」

「大丈夫だよ。社の裏で待ってるからすぐに戻ってくるんだよ」

「善処する」

 

 トレーナー君がいなくなってしまったし、どうしようか。…そうだ!!この神社の御利益とやらを調べてみようか。まずはウマホで…。

 

「おや?ホテルに忘れてきてしまったかな?」

 

 ポケットの中にウマホがない…。仕方がないからそれっぽいものが書いてある看板でも探そうか。

 

「だいたい社の近くにあると思うのだが…」

「何を探してるの?」

「おっと!?…びっくりしたよ」

「そう、突然話しかけて悪かったわね。それで、あなたは何を探しているのかしら?」

 

 賽銭箱の隣から出てきて突然話しかけてきたのは、私よりも少し年下で髪色が水色の、目がきりッとしていた少女だった。賽銭箱の直ぐ近くにいたから巫女かと思ったが、服が違うね。

 

「いやなに、ここに祀られている神が何なのかを知りたくてね」

「縁日の日に?」

「トレーナー君が席を外してしまってね。手持ち無沙汰だし気になってしまったからには調べようと」

「ふーん。今はロイはいないのね」

 

 少女は屋台の列を見る。少し目を細めていたが、すぐにまたこちらを見てきた。

 

「ところで、君は何者なんだい?見たところ巫女さんではないようだが」

「そこの看板に書いてあるわよ」

「ふむ」

 

 少女が指差した先にあったのは古い木の看板。

 

「なになに…『霞之神』?」

「そうよ。命名した連中の気が知れないわ」

「もう少し面白い冗談を言いたまえ。それではトレーナー君と同じだよ」

「残念だけど、私はロイと同じよ」

 

 奥の方から一つ、巻物が飛んできて空中で停止した。

 

「今からだいたい千年くらい前の神主が書いた物よ。あの神主はこっちが引きずり込まなくても話せる人だったわ」

「千年前?引きずり込む?それにこのサイコキネシスのようなものは…」

「あんた、自分で言ったでしょ?私は霞之神…なんて呼ばれてるここの神様よ。まあ、地縛霊に近いけど」

「地縛霊…カフェの領域だね」

 

 確かに今目の前にいるこの少女を神と想定するのなら、今起きている事象に納得がいく。彼女の世界に引きずり込まれたとするならば、見える範囲の屋台に誰一人としていないのにも理解できる。

 

「それで、霞之神さんは私をどうして引きずり込んだんだい?」

「長いから霞でいいわ。本名じゃないけど、それの方が慣れているの。それで、どうして私があなたを引きずり込んだのか、だったわね。けどそれは逆よ。あなたが私を引きずり込んだの。まあ、一瞬だったからすぐにこっちに引きずり込んだけど」

「私が?」

「そうよ。まあ、あなたからしてみればあなたじゃないかもしれないけど」

 

 思い当たる節はあるが、どれも変な空間に他人を引きずり込むようなことは無かった。それに噂では昔のカフェ君のお友達や学園の生徒が誰かを異世界に引きずり込んだという噂は聞いたことがあるが、私に出来るとは思えないし寧ろ否定する側の立場だ。

 

「でも丁度よかったわ。あなたに言いたいことがあったの」

「神様から直々にかい?」

「そうね。と言っても簡単よ。自分が何者か自覚しなさい」

「自分が何者か?」

「ええ、そうよ。薄々勘づいているそれを、よりはっきりさせなさい」

「そんなこと、分かっているとも。私はアグネスタキオン。名家の異端児と後ろ指を指されることも多いウマ娘さ」

「はぁ…やっぱりわかってないじゃない」

 

 目の前にまで来た少女は私の左腕を右腕で掴み、左手で私の胸を指す。

 

「あなたはもう一人じゃないの。彼が常に二人であるように、あなたは三人なの」

「三人? 私はクローン生成実験をしたことはないよ」

「本当に救いようが無い科学者ね」

 

 少女…霞は私を睨みつけながら社の中に戻ろうとして、止まって振り返って来た。

 

「時間は無限にあるとはいえ、目覚めた方が色々と良いわよ」

「私が?」

「あなた以外に誰がいるの? ま、精々頑張りなさい」

 

 空間が歪む。どこかこの世界に存在することを拒否されているという実感がある。

 

「それじゃあ…ロイによろしく。あいつ今、相当参ってるしこれからはもっと辛くなるから」

「待ってくれ!! そもそも君と彼は一体どんな関係だったんだい!?」

 

 二つの世界が見える。一つは縁日で賑やかな皆がいる世界。そしてもう一つは私と霞という神しかいない停止した世界。遠ざかっていた喧騒が徐々に近づいてきている中、私は霞がトレーナー君との古い知り合い…おそらく、彼が落ちてくる前からの付き合いである彼女に彼との関係を聞こうと思った。しかし、返って来たのは私の期待外れの物だった。

 

「…敗者は語らず、よ」

「敗者?」

「あっ!! 月光蝶!! 月光蝶だけは絶対に止めて!! ロイにもう一度世界を終わらさせないで!!」

 

――

「・・・」

「タキオン、ここにいたのか」

「・・・トレーナー君かい?」

「そうだが、何かあったか?」

「…いや、何も無かったさ。では、まだまだ屋台を巡ろうか!!」

「はいよ。時間もあるしな」

 

 この後、私は彼女から言われたことを考えずに縁日の屋台と花火を楽しんだ。純粋に幸せな時間だった。だからこそ、夢にも思っていなかった。これからそう日を置かないうちに、全てが崩れ去ってしまうなんて。

 

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