男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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私を疑うのかい?

 八月下旬。去年とは違い今年は夏合宿を途中で終えて私達は学園に戻った。詳しいことは説明されなかったが、カフェが言うには海からトレーナー君を襲った謎の女性が現れたというらしい。しかもそれは以前の義明という現在行方不明の女のときの即興で出来の悪かったオペラ擬きのときとは違い、トレーナー君も剣を抜いて斬ろうとしていたらしい。つまり、トレーナー君に本当の危機が迫っているのだろう。

 

 だがそのトレーナー君は一昨日から不在。学園に問い合わせても詳しくは聞いていないとのことだがトレーニングの指示書が送られてくるので無事ではいるのだろう。

 

「…あの機影はペリカンという奴か」

 

 猛烈な暑さと湿気を宇宙へ逃がすことを拒む厚い雲たちによって昼なのに少し暗い空に、横七の輸送機であるペリカンが二機現れ、高度を落として学園に着陸した。降りてきたのは巨大なコンテナが複数と作業員が数名。それと噂のトレーナー君だった。

 

 どうやら、何かを指示している様子だったので双眼鏡を使ってトレーナー君の口元を見る。

 

「なになに…『びいびいはちかそうこにはこびきどう』。なにやら新しい機械を持ち込んできたみたいだね」

 

 びいびい、おそらくは何かの略称でBBだろう。Bで始まる単語二つの組み合わせは数多くあるだろうが、BBと言うと1984年のビッグブラザーだろうか?だがあれには筆ひげもスローガンも書いていない。

 

「窓の外に何か?」

「おおカフェ。どうやらトレーナー君が帰って来たようだよ」

「そうですか。では、やってきます」

「やってくる?あの様子ではトレーニングに付き合えなさそうだが」

「誰が死神の考案したトレーニングをやりますか…」

「ん?」

 

 カフェが扉を閉めるときに言った言葉。私の聞き間違いであることを祈りたいが、何やらトレーナー君を死神と呼んでいるあたり、良い雰囲気では無さそうだ。トレーナー君なら大丈夫だとは思うが、一応付いてってみよう。

 

――

「…」

「…」

「…」

「今日は俺の誕生日じゃないぞ」

 

 カフェを追い越してトレーナー君のいた外に行こうとしたとき、メインホールでトレーナー君は多くのウマ娘たちに囲まれていた。それだけなら数年前と同じなのだが、今は状況が違う。全員が全員、彼を射殺さんとする強い視線で彼を見ていた。

 

「お前ら、通してくれー」

「…」

「ETCカードは挿入されてないが、ここでは不要だよな?」

「…」

「笑ってくれたっていいじゃない」

「…死ね」

 

 彼の目の前にいた生徒が手に持っていた鋏を彼の喉に突き立てようと腕を振り上げた時、その生徒は足元からひもで引っ張り上げられて天井から吊り上げられた。それを皮切りに全員が襲い掛かろうとしたとき、私を含めて全員が彼女と同じように吊るされてしまった。

 

「トレーナー君!!一体何をするんだ!!私は君の愛バだろう!!」

 

 数m離れた床で何かを考えながら吊るされた私達を見ているトレーナー君に、大きな声で呼びかける。すると彼はハッとして私の方を見た。

 

「タキオンか!!すまない、今降ろす」

 

 蜘蛛の糸を垂らすように徐々に私の体は床に近付いていき、トレーナー君が抱きかかえると足を拘束していたひもは消えた。

 

「はぁ…君は一体何をやったんだい?」

「俺が聞きたいよ。タキオンこそ、嫌われ薬とか変な物作って撒いたりしてないか?」

「私を疑うのかい? そんなものは作らないよ。だいたい、君はここ一週間どこに行っていたんだい。おかげで一カ月もカフェテリアで昼食を食べる羽目になったじゃないか!!」

「学園に帰ってきたのは一昨日だぞ。タイムスリップするな」

 

 はてそうだったか? 私的にはもう何十年何百年という時間が過ぎ去ったようにここ数日で感じていたのだが。

 

 なんだが意識に差があるなと思いながら吊るされた生徒を尻目に彼と話していると学園放送が掛かった。

 

『くs…ロイトレーナーは至急生徒会室に来るよう』

「エアグルーヴか。タキオンが無事なら担当繋がりでエアグルーヴも大丈夫だと信じたいが…」

「信じる者がすくわれるのは足だけだよ」

 

 一昔前のようになってしまったカフェの様子を見るに、ね。

 

「私も付いていくよ。このような事態は珍しいからね。実験の参考にするよ」

「人をモルモットみたいに…」

「アッハッハッハ!!密輸業者の次はモルモットか!!いいね、最高だ」

「誰がそうさせたのよ」

 

 生徒会室に行くまでに、誰ともすれ違わなかったのは夏休みが終わりそうだったからか、幸運だったのか。とにかく目的地に無事着くことができた。扉に両手をつけたまま、彼はこちらを見てくる。

 

「さて、ここで俺は一つの疑問を持つわけだ。それは、この扉を開けた時に何かしらの攻撃が行われないか、というもの。日本国内ということを考えると手榴弾を使ったブービートラップは無いだろう。それに扉が完全に閉まっているから、扉で何かを挟んでいるということもない。嫌がらせでドアノブを触ったときに静電気がするとしても、この手袋は電気を通さない。では、何が来るか。タキオンはどう思う?」

「うーん。扉の前に誰かがいて開いた瞬間に刺してくるとかかい?」

「それも面白いが、扉を蹴飛ばされる可能性を考慮すると避ける。では、どんな攻撃があるか。正解はこれだ」

 

 勢いよく扉を開けた時、トレーナー君の顔の前に刃の出たカッター、剃刀の刃、そして開いた鋏が飛んできた。だがそれらはトレーナー君の顔の前でオレンジ色の光の壁に弾かれ、地面に落ちた。

 

「チッ…座れ、トレーナー」

「まだワンアウトだぞ」

「いいから座れ!!」

「はい」

「私も邪魔するよ」

 

 部屋の中にいたのはエアグルーヴ君とナリタブライアン副会長、それにシンボリルドルフ会長だった。どうやら全員が一個ずつ投げたようだ。

 

 席に座ると、その手の話ではお約束の契約解除用紙が机の上に置かれた。既にエアグルーヴ君が記入できるところは記入してある。彼女なら自分でトレーナー君の分を埋めることはできるだろうが、筆跡の再現が難しかったのだろう。何かを消した跡があるから、試したのだろうが。

 

「言いたいことは分かるな?早く書け」

「聞いてもいいか?」

「内容による」

「何をそんなに怒っている。そんなに夏合宿を途中で切り上げたのが不服か?」

「そんなのでは決してない。取り敢えず書け」

 

 表面上は冷静を装っているようだが、尻尾の動きが随分苛立ったものになっている。内心ではかなり怒っているのだろう。

 

「私も気になっているんだが、カフェもどうやらトレーナー君を嫌っている様子だった。他にも多くの生徒が、だ。彼を嫌う理由を持たない者の方が多いと思うのだけれどね」

「気にするなタキオン。取り敢えず書いたぞ」

「よし!!これで貴様との契約は終了だ!!そして私は…」

 

 用紙を取り上げて見ていると思ったら、突然沈黙した。だがそれも束の間、目が鋭くなると机を投げ飛ばし、用紙の表側を見せてきた。

 

「貴様ッ!!この私を愚弄するのか!!」

 

 トレーナー君の記入欄には、義明英朗という名前が書いてあった。あの女の父親だろうか。他の欄にも同様に、義明英朗の名があった。

 

「用事が済んだなら退室するよ」

 

 立ち上がり、トレーナー室に帰ろうとしたトレーナー君だったが、今度はルドルフ会長に止められた。

 

「まあ待ちたまえ。私からも君に書いてもらいたいものがあってね」

「いいが、ペンはどっかいったぞ」

「ペン位、私が貸すさ。だからしっかりと受け取ってくれッ!!」

「危ない!!」

 

 胸ポケットからペンを出したルドルフ会長は、トレーナー君の眼に突き立てようと振り下ろした。

 

「くっ…流石だね、ロイトレーナー」

「正面から来た勇気は認めるよ」

 

 トレーナー君の眼に限りなく近づいたペンの先端部だったが、線のような細い糸が何本も集まって受け止めていた。

 

「しかし、これだけが策じゃない」

「トレーナー君、後ろだ!!」

「はあっ!!」

 

 壁から飛び出してきたその線の集まりに拘束されたルドルフ会長がそう言うと、入室してからはただ立っているだけだったブライアン副会長と怒り心頭のエアグルーヴ君の二人が飛び掛かった。だがそれはいつぞやの私とエアグルーヴ君のようにあっさりと失敗し、天井から手首を掴まえにきた線の集まりによって吊り上げられた。

 

「クソッ、下ろせ!!」

「こいつらってこんなに口悪かったか?」

「いや、私が教室を軽く焼いたときもここまで酷くなかった」

「その話後で詳しく。取り敢えず、どうすれば正気に戻るかな…」

 

 線の高さを調整してエアグルーヴ君の顔が目の前に来るようにして今にも飛び掛かって殺さんとする殺意の籠った顔をずっと見つめている。

 

「カラコン?」

 

 微かなつぶやきだったが、それを聞いて私も彼女の眼を見ると、色がカフェのように黄色に光っていた。ルドルフ会長やブライアン副会長は赤だ。

 

「成程、そういうことね」

 

 腑に落ちた顔をして窓を開け、何かを探すように空を見ていたトレーナー君は、空を指差すと、その指先から幾度となく生徒を吊り上げてきた線の集まりを伸ばした。

 

「当たり」

 

 満足げにしている彼の元に、何か半生物で虫のような羽をもった白い物体が線に巻き込まれてやってきた。

 

「これは?」

「毒電波発生装置付き偵察機。こいつのせいで皆おかしくなっていた」

 

 トレーナー君が腕でその物体を貫くと、ミギャァという断末魔を上げて羽ばたきもしなくなる。トレーナー君の手には何かの小さな機械があった。

 

「毒電波発生装置?これがかい?」

「ああ。何か電波を発しているからそうだろう」

 

 これでよしと言いたげな表情でそれを黒色のケースに仕舞うと吊り上げられていた三人は線が解けないかとどうかと暴れるのをやめた。

 

「これは…」

「何だ?」

「トレーナー、貴様か?ここ数日一体なにを…」

「正気を取り戻したようだな」

 

 手首の拘束を解除すると、線はシュルシュルと天井に上っていく。

 

「これで終わりみたいだね」

「少なくとも今日の分は」

 

 エアグルーヴ君が投げ飛ばした机を元の位置に戻すトレーナー君だが、どうやら気分は優れないようだ。それもそうか。彼は今、間違いなく何らかの敵と戦っている。かつて彼が仲間と共に戦ったように、今もそうしているのだろう。なら、深い詮索をするのは野暮と言う物か。




アタタタ

ロイ「何だかタキオンが犯人な気がする」
ウマ娘’s「ソウダキットソウニチガイナイ」
テール「ネットの見過ぎだな」
カミ〇ユ「毒電波…せっ!!」
フラ〇クリン「やめないか!!」
テール「ネットの見過ぎだな…」
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