よし、全員スプリンターか飛ばし過ぎたということにしておこう。
蛇足 これ書き終わって直ぐに別の電化製品のコンセント抜いたら青白い光が見えてガチで心臓が停まりかけた。そりゃ電源落としてなきゃそうなるわな。
「会長、確認を」
「ありがとうエアグルーヴ」
生徒会副会長、そして理想の女帝として今日も仕事をこなす。
「やはり彼はすごいね、ここまでの意見書が集まるなんて」
「はい。特に最近は担当とのトレーニングの様子が見られてますので」
会長に提出したのは話題の男性トレーナー、ロイトレーナーへの嘆願書。トレーニングを見て欲しいや相談に乗ってほしいというものから移籍やスカウトしてほしいといったものまでがあった。
「エアグルーヴ、君から見て彼はどうだ」
「初めはあまり嬉しいものではないと思ってました。採用理由が理事長の勘だと聞いているので、実力が必要なトレーナーとして採用していいものかと」
トレーナー試験を理事長の推薦でパスしたと聞いたときは男性トレーナーという憧れの存在が現れた喜びよりも理想を邪魔するたわけと思った。男ならば良いというものではないのだ。
「ですが、マンハッタンカフェとのトレーニングを見れば素晴らしいトレーニングを計画し、実行、臨機応変に対応できる理想的なトレーナーです」
「ほう、君がそこまで惚れ込むなんて、私も見てみたいな」
「一度見学するのをお薦めします。アドバイスや相談を求める声も理解できます」
「そうか。今日は確か彼はスタミナトレーニングの一環としてプールの使用申請を出していたな」
自分に充てられた仕事を終え、トレーニングに向う。今日はスタミナトレーニングか。
「君も理想のトレーナーと出会えるといいな」
「…彼がそうだと?」
「私も分からないよ。なんせトレーニングの資料がないのだから、知りようがない」
「そうですね、失礼します」
――
屋内プールに着けば、皆普段のようにトレーニングをしていた。確かに彼はいたが、いるからとトレーニングができないのは困る。それでも…
「貴様、なんだその格好は」
「うん?」
彼は普段通りの恰好でプールにいた。そう、トレーニング用のターフで見るいつもの黒が主体の緑の線が数本入ったトレンチコートを着て立っていた。
普通は水着を着るのではないのか!!トレーナーとはいえ万一のことを考えて入水したとき用に着るだろう!!だから皆普通にトレーニングをしていたのか、体がトレンチコートに隠れているから…。
「足見ろ、靴履いてないだろ」
「それは…そうだが」
確かに裸足だ。だが理由にはなっていないだろう。
「もし自分の担当が溺れて救助が必要になったら、それで泳げるのか?」
「勿論。…そんなに不安なら泳ぎを見るか?」
彼は自分の担当のマンハッタンカフェを呼び、休憩を言い渡してスタートラインに立つ。
「しっかり見とけー」
「ああ分か…待て!!」
着衣泳は難しい。泳ぎ上手な者でも服が水分を含んで重くなり思った泳ぎができなくなる。そして彼はトレンチコートを着ている。勿論下に何枚も着ているだろう。つまり彼は重さで溺れてしまう…。
そんな不安を他所に彼はスタートを切り、沈んでいった。
「どこだ!!上がってこい!!」
水面には彼が映らない。かなり深くまで沈んでしまったようだ。水面に立つ波も他のものが立てる波に消されてしまい位置が探れない。
「ええーい、時間がない!!」
マンハッタンカフェは座って何か飲んでいる…心配じゃないのか!?
諦めてプールに飛び込む。準備運動はできていないが死人が出るよりマシだ。深くに潜って周りを見るが水で見えない。一度息をするため上がり、もう一度潜る。やはりいない。
「はぁっ、どこにいるんだ」
もう一度浮上する。すると後ろから声が聞こえる。
「おーい副会長殿、こっちだぞ」
振り返れば彼がこっちを見ていた。
「潜水か…」
準備運動を怠ったツケが回って足が動かなくなる。
「ああもう…」
そう零したのは誰か、知ること無く力の出ない私はプールの底に沈んだ。
――
「あっ…うぁ…」
気が付けば眼前には白い天井、…保健室だった。
「起きたか」
「貴様が…助けてくれたのか」
彼はこちらを見つめる。モデルにも劣らないその顔でずっと見つめてくる。
「礼を言うならカフェに頼む。あいつがいなかったら風邪をひいてた」
「だが水中から私を救ってくれたのは貴様だ、たわけ」
「たわけ?」
あぁ…いつもの調子で言ってしまった。
「す、すまない。間違えて」
「いや、溺れると心配させて準備運動を怠らせてしまったのは私のミスだ。そう考えればたわけと言われて当然だ」
「違う、私はあなたの能力をみくびっていた。だから飛び込んでしまったんだ」
男性は産まれて男と分かった瞬間に施設に送られることが多いと聞く。そして施設で過ごすうちに運動能力は発達しないうちに衰えていく。だから私は彼も泳げないと何も知らないのに即決してしまった。
「私はあなたを無意識にずっと下に見ていたんだ」
「だとしたら、君はとても優しい娘だよ、エアグルーヴ」
「ぇ?」
「下に見た人間を溺れる危険を無視してまで救おうとしたんだ。君は素晴らしい人だ」
「あっ…」
彼の瞳は揺らぎなく私を見つめる。尊敬の眼差しで見つめる。
「わ、私は、理想の女帝を目指している。だが、つ、杖が。女帝を支え、共に理想へと行く杖が必要なんだ」
言葉を出せ。
「だ、だから!!私のトレーナーになってくれ!!」
「果てに背中に理想の女帝か」
「...」
「いいな、そういう未来があるのは」
彼は窓の外を見る。どこまでも澄み切った青い空が広がっている。
「君のトレーナーに、杖にさせてくれ…と言いたいが」
彼はまたこちらに視線を戻す。
「二人を説得してからにしてくれ」
「二人?」
「カフェとタキオン。あの模擬レース以降、新しく契約するなら二人が許可してくれないとこっちが危ないんだ」
「そうか…分かった」
私はベットから降り、扉に手を掛ける。
「今から二人を説得してくる。貴様は契約書の準備をしておけ」
「そううまくはいかんやろ。…それと副会長殿」
「なんだ?」
「まずは着替えるんだな」
籠に指を指す。中には私の制服が…
「出ていけたわけ!!」
「わーった、わーったから。ものを投げるな」
「たくっ!!」
彼を追い出し、水着から制服に着替える。気合は既に十分だ。
「行こう」
理想の女帝となるため、理想の杖を手に入れる為に、手は抜かない。