男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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灯台下暗し

「やるじゃない…」

 

 冷や汗が止めどなく流れ落ちる。最初は拭いていたがもうそれすら面倒になってしまうほどだ。

 

「提督。どうされますか」

「やることは変わらない。奴らを迎え撃つ」

 

 あの攻撃宣言からきっかり24時間後、横須賀へと通じる浦賀水道を目指して深海棲艦が海底から浮上、進軍を開始した。同時に市内では、どこに潜伏していたのか分からなかった深海棲艦の地上部隊が巡回中の部隊と交戦を開始した。

 

 報告によると地上部隊の指揮をツインズが執っているようで、編成は陸上型と高電圧棒を操る機械だった。となると消去法的に主力の浦賀水道を目指す水上部隊の指揮はテールだろう。

 

 突然の遭遇戦となった巡回部隊は報告を飛ばすことは出来たが敵わずに敗北。水上部隊を叩きに出撃したワスプ航空隊も随伴の駆逐や軽巡に被害を出すことは出来たがそれまでだ。

 

 

 

 

 …それまでは、予想通りだ。ツインズとテールで部隊を分けて進軍し戦力の分散を余儀なくさせる。そして俺がツインズを相手にすればテールが、テールを相手にすればツインズが横七を壊滅させる作戦。

 

 利口だ。加古も時雨もいない横七にとって、俺しか怪物を相手に戦えるのはいない。当然、そこを突く。だがそんな当然な作戦、こちらも先読みしている。

 

 本来の作戦はこうだ。水上部隊を横七島からの援軍と横須賀の部隊の遠距離攻撃で足止めをしている間に地上部隊を俺が殲滅。そうしたらすぐに反転し水上部隊を攻撃する。テールが陸上部隊の指揮をしていた場合、横須賀を放棄。水上部隊を横須賀に上陸させたら自爆する。

 

 その手筈だったが、それをテールは見越して先手を打っていた。横七島に対し、大規模な航空攻撃をしやがった。時間差はなし。そのせいで発進準備をしていたペリカンが破壊されてしまった。敵を誘うために援軍を前提とした横須賀の薄い守りが仇になるとは…。

 

 だが、それでもやるしかない。勝つ算段はまだある。落ち着いていこう。

 

「空中艦隊を降下させる」

 

 長い年月を掛けて整備された空中艦隊をテールの水上艦隊にぶつける。空中艦隊を展開し、一方的に撃ちおろす。空中艦隊が展開するのは敵艦隊の射程外。それほど高い位置なので安心だがテールならいずれ策を見出すだろう。だから短時間。わずか数分の間だけ、敵艦隊を撃ちまくる。

 

「艦隊は降下後チャフスモークを散布、その間に部隊を発進させろ」

「降下開始、視界内まで後3…2…1…見えます!!」

 

 雲を圧し潰して幾つもの巨大な艦が降下してくる。地上支援を主とした火力艦や強襲揚陸艦。それらを護衛する防空艦。それらが広大な空を染め上げる。

 

「スカウト7より緊急電、後方の艦隊が新兵器を構えたそうです」

「何も対策せずに戦うわけないよな、そりゃ」

 

 空中艦隊の戦績は実のところ1勝n敗。負けたことの方が圧倒的に多い。しかしその負けは全て白露がコントロールを乗っ取り、高度を強制的に下げられた状態で戦わされたからだ。空中艦隊は砲撃戦を前提とした装甲がない。生産性を考えた時に届かないから不要な装甲は抜いたので駆逐艦でも沈めれる。

 

 だが唯一の勝利のとき、そのときはコンセプト通りに戦い勝利できた。つまり本来の戦い方で負けたことはただの一度もない。しかし、相手はあのテール。白露を利用して倒した空中艦隊を倒す別の方法を必ず考えているはずだ。だが、こっちもただ同じものを出したわけじゃない。

 

「シールド艦に通達。最大出力でシールドを展開、全ての艦を守れ」

 

 全ての艦が散布した特殊なアルミ箔が光を反射してスモークを全体的にきらきらとしていたが、それをさらに包みこむ水色の半透明のドームが出現する。

 

「同じじゃないんだよ、こっちも」

 

 お前らのせいで学んだよ。コンセプトがブッ潰れて不利な状態で戦わなければならないこともあるって。だから生まれたんだよ、艦隊一つ丸々包めるシールドを発生することができる艦が。

 

「さあ、何が来る? かかってこい!!」

 

 スカウトチームから送られてくる映像を見ていると、後方から数本、光線が艦隊に向けて照射された。光線はシールドを貫き、艦を複数貫き、後ろへと…。

 

「ん?」

「HALO級3、MOTHER級2、GUARDIAN級10轟沈、COMMANDER級損傷、シールド出力30%低下!!」

「…」

 

 Error

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やばいやばいやばい、どうなっているんだあれ、シールドを消滅させるのに必要な火力はツァーリボンバー20発分のエネルギーが必要。一点突破をするとしても供給されるエネルギー量を上回らなければならない。計6本の光線で突破したから一本のエネルギーは…

 

 

 

 

 

 

 Error、Error、Error

 

「10年20年の進歩ってレベルじゃねえぞ、これ」

「空中艦隊、緊急退避しました。…提督」

「あ、ああ」

 

 作戦計画はもう滅茶苦茶。仮に増援の艦隊を呼んでもあの光線をどうにかしないと無意味だ。現状の戦力で最大限の戦果を挙げるとするともう『オペレーションオメガ』しかないか。

 

「全部隊に通達。『オペレーションオメガ』を発動する。ランディングゾーンにまで後退し防衛線を構築しろ」

「提督、全部隊の撤収に必要なペリカンの数は現有の五倍です」

「五往復するしかないじゃない。問題はその時間を稼げるかどうかだけど」

 

 空中艦隊の腹の中に蓄えていたペリカンが横須賀にあるペリカンのおよそ7割に匹敵する。正確な被害報告がまだなのでどれほどのペリカンを失ったのか分からないが確実に手元にある分が少なすぎる。そうなると時間を稼ぐ必要もあるな。

 

「テールら水上艦隊の方はどうなっている」

「自動砲台と航空隊の攻撃で足止めをしていますが何分数が多くて…」

「…航空隊は撤収中の部隊の全力支援。ツインズの部隊を足止めしろ」

「提督!?」

「俺がテールの足を止める。あいつらのこと、任せたぞ」

 

 足早に司令室を出て出撃ドックへと向かう。そこには誰もいない。当然だ、整備兵は戦闘開始前に既に役割を終えて脱出している。

 

 彼らの最後の仕事が光る手入れの行き届いた武器を手に取り、カタパルトへ。

 

「ロイ、出撃する」

 

 地下から続いた長いトンネルを抜けてカタパルトから射出され横須賀の港へ、そこからさらに浦賀水道へと向かうと海が赤くなっていた。深海棲艦の群れも迫っており、正に地獄だ。

 

「どこだ、どこにいる」

 

 狙うはただ一つ。それを目指して直進する。迫ってきた航空機もすれ違った艦も全て無視。それらはどうでもいい。ただの邪魔だ。道を譲らないならひき潰す。本当にそれだけだ。

 

「そこをー、どけーッ!!」

 

 姫級の顔面を抉り取るパンチをすると奥の方で何やらランチャーを構えているのが見えた。不思議な形状で、中央部分が凹んでいる。あれが新兵器…。

 

 早速頂こうと向かうと、横槍を入れられた。

 

「どこへ行くんだ、ロイ?」

 

 

 

「お前も、邪魔だーッ!!」

 

 アヴァター内に沈めてきていたグレネードを右腕から発射する。綺麗な弾道を描いたそれをテールは粒子を使って弾こうとしたが、触れた瞬間に爆発した。

 

「インパクトグレネードか、そんな子供騙ししかできないのか?」

「子供騙し? しっかりと自分のことを把握していないのか?」

「なに?」

 

 イラついている相手に仕込み銃を使って掌から発砲する。今度もまた粒子を使って防御しようとしたようだが展開がさっきとは違ってとても遅く弾けずに被弾した。

 

「これは…毒。さっきのグレネートに何を入れていやがる!?」

 

 粒子の連結を固くすることで動きが絶望的に悪くさせる特殊な仕様に気付いたテールは粒子を体に戻した。

 

「もう一度くらってみるか?」

 

 再度右腕を向けるが、決して発射はしない。二度目は撃ち落されるだろう。しかしテールもまた、こちらに何かするわけでもなくただ並走してくる。

 

 いわば拮抗状態。

 

 テールは粒子を使った戦闘が封印されたことで戦闘に幅を持たせられなくなった。部隊の指揮をしなければならないため俺一人に集中できる状態ではないから、攻守に優れた粒子が使えないことは指揮をする余裕のない戦闘をしなければならないということであり、安易に攻撃を仕掛けられないのだろう。

 

 一方で俺も粒子を封印したところで基礎能力が劣っていることに変わりはないため、目標も果たせずにここで勝てるかも怪しい戦闘をしたくない。オーバードライブを使えば可能性は上がるだろうが、脱出するのに必要なナノマシン量を切るのは必然だ。心中する気はないのでこうして動けずに固まる。

 

 どちらかが何かすれば必然的にこの止まった時は動き出す。そしてその役割は、俺に回ってきた。

 

「面白そうな道具持ってんな、お前たち」

 

 足を止めずに進み続けた結果、目標に、空中艦隊を一方的に破壊した新兵器を持った艦隊に辿り着いた。横須賀の街が後ろに来るようしているせいか、こちらにその無敵の矛を向けてはこない。それも当然だ。あれだけの威力、俺を貫いて横須賀も貫いて、日本列島に新しい川を流すことになってしまう。そうなったらどんな占領政策をするにせよ抵抗は強くなるだろう。神になることだけが目的のテールにとって、完全な敵が増えるのは好ましくないはずだ。

 

「『グングニル』が目的か」

「当然!!」

 

 新兵器、グングニルを潰すことが出来れば空中艦隊は戦場に再突入して撤退中の部隊を支援できる。溜めているペリカンを出せば五往復なんてする必要がなくなる。こいつらさえ潰せれば、『オペレーションオメガ』は成就する!!

 

「お前はやはり甘い…」

 

 グングニル持ちの艦を沈めて奪った後、後ろから追ってきていたテールが俺の目を見て呟いた。心底あきれた様子で、小馬鹿にしているのが丸見えだ。

 

「私は餌。グングニルも餌。こうして横須賀に進軍を続ける、全ての水上部隊は、お前を誘い出すための餌」

「何を?」

「灯台下暗し、日本語のお勉強はあの馬耳女たちとしたかい?」

「下…」

 

 足元を見た。

 

「これは!?」

 

 光だ。深海にいくつもの光が点々としている。

 

「お前の持っている物を探す必要があるから日本はまだ焼けない。しかし、領海が少し蒸発するぐらいなら許されるだろ?」

「オー…




BB

通称BigBrain(偉大な頭脳)

横七における全てのことを記録している筒型のAI。スーパーコンピューター以上の計算能力と高度で複雑な思考能力を有しており、参謀としての役割を行うことができるが、現在はトレセン学園の地下倉庫に置かれている。

横七の中枢部に置かれているこのデカブツだが、現物がVから回収されてそのまま運用されているだけで、だれがいつ、なにを目的として開発したのかは不明。開発者予想一番人気のアイ副司令も外部からのスキャンで判明した構造を一目した瞬間、あまりの複雑さに知恵熱を出した。「横七の技術力であれば設計開発は可能だが、年数は光年単位必要だろう」と言っている。

これのブループリント自体はBB内にあった。
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