「どうした!?」
彼に続いてコックピットの中に入るとそこには計器を弄りながらも何とか飛ばそうとするパイロットの姿があった。
「被弾していました。テールが最後の悪あがきで乱射したようで、二発も…」
「何とかならないのか?」
「現在の落下速度だと基地に到達する前に墜落します」
「不時着をしようにもここはビル街だ。難しすぎる」
「無責任に感じられるかもしれませんが、お二人は脱出してください」
「言われずとも」
彼に手を引かれて開いていくハッチへ連れていかれる。下にはビルが林立する大都会が。彼は先ほど私が使ったワイヤーを自身のコートに取り付けると私を抱えてポジションに立った。
「ラッキーだな。こんなにも短時間でスカイダイビングが二度も無料で出来るなんて」
「パイロットはどうするんだい!?」
「安心しろ。脱出装置はついてる。町中に落ちないよう少し踏ん張ってもらうだけさ」
「そんなこと…アァーーッ!?」
私を抱えて落下する彼は、スラスターを吹かして速度を落としながら地上へと近づいていく。しかしサバイバーと呼ばれた機体はかなり速く、トレーナー君がスラスターで減速しているのにも関わらず時速100㎞は確実にあった。
ビル群の間を縫って走る道路の終わりはそろそろで、どこかで意を決さなければならない。しかしそれはそれで自ら地獄に飛び込むのと同じだ。どうするのかとトレーナー君を見ていると、サバイバーとの繋がりであるワイヤーを切断した。
その結果私たちは慣性の法則に従って吊るされていたときと同じ速度で地面へ落ちることになる。しかし今はもう命綱が無い。地面ギリギリで止まることはない。それに加えパラシュートのようなものがあってもこの速度だと無意味だ。
だがトレーナー君はそれでもやった。スラスターを全力で吹かして出来るだけ速度を殺し、それでも止まることが出来ないと分かれば自らの脚を犠牲にして私を救ってくれた。
「酷い状態だね。君も、道路も」
「時間移動はしていないはずなんだがな」
振り返ってみれば赤い線が二本、彼の脚が通った跡として炎と共に残っていた。ナノマシンだと理解しているので発狂せずに済んでいるが、こんなものを見て正気でいられる者はいないだろう。特に私たちにとって脚というものは四肢において最も大切な部位だ。それがこうも無残に…。
「すまないが運んでくれるか?」
「分かった。案内はしてくれよ」
脚の無くなった彼を背負う。とても軽い。おそらくだがナノマシン量に脚を構築するほどの余裕がないのだろう。この軽さも戦いとさっきの摺り下ろしでナノマシンが無くなって中がスカスカになっているせいに違いない。
どちらにせよ今の彼は弱体化している。ここはまだ横須賀からあまり離れていないから、近くに深海棲艦がいてもおかしくはない。私は彼の指示に従って近くの路地裏に身を隠した。
「大丈夫かい?まずは応急処置を…」
「心配するな、血は止まっている」
「それなら次はどこに…」
「回収班が向かっている。焦らなくていい」
「そ、そうかい…」
彼の落ち着きように焦っている私が可笑しいのかと感じてしまう。どうしたらそんなにも平静でいられるのか。立つことが出来ない彼を壁にもたれかからせて周囲を見張る。
「キュビィ!?」
「ネズミ?」
日の光があまり差し込まないこの場所で待っていた時、遠くから甲高い断末魔が聞こえた。不審に思って近づいてみてみると、そこにはネズミの死骸があった。それだけなら不衛生だが日常茶飯事な光景だ。しかし、それは異常性の塊だった。
私がネズミの死骸と判別を付けたそれは、正しくは小型のげっ歯類の全てが揃った完璧な状態の骨だ。骨格模型かと一瞬思ったが、その骨の下敷きとなった小さな排泄物はまだ新しく、つい数秒前にされたものようだった。
しかし近くにネズミはいない。となるとこの糞は、自らを潰すこの骨がしたものと考えなければならない。しかもこの骸骨の周囲にはつい寸前まで動いていたかのような足跡もある。
つまり、このネズミは一瞬で骨と排泄物以外の全てを失ったのだ。どうやってか、などは分からない。しかしそれが事実なのだ。
そんな不思議体験をして彼の元に戻ろうとしたとき、パトカーのサイレンが鳴り響く。近くで複数台が走っているようだ。しかもその音源は徐々に近づいてくる。
「君を探しに来たのかな?」
「動機が好ましいことを祈る」
しかし彼のそんな祈りはどうやら三女神は受け入れなかったようで、遠くから聞こえて来たネゴシエーターの文言は挑戦的なものだった。
「我々は、神奈川県警、並びに自衛隊の共同チームだ。勧告する、ペリカンより降下してきた二人組は直ちに投降しろ。人権、および生命は保証」
「私もかい!?」
「よかったな、密輸の罪を償えるぞ」
「実行犯の君も同罪だろ!!…それよりも、どうするんだい?このまま警察に出頭するのかい?」
なぜこのタイミングで警察や自衛隊が横七を捕らえようと動いたのかは分からないが、捕まったら碌な目に合わないことだけは確かだろう。それを想定している彼は当たり前のように投降を拒否した。
「回収班は待てないが、近くに協力者の用意したバイクがある。それで逃げる」
「分かったが…運転はどうするんだい?ウオッカ君なら出来るかもしれないが、私に任せる位なら走った方が安全だよ?」
「誰がお前に任せるか。…しかし、そうだな、うん、そうだ」
方や重傷人、方や無免許で無知。下手すれば捕まった方が安全な可能性すらあるこの状態には、さしもの彼も悩んでいた。しかしその悩み方というのは、手段をどうこうではなく、何かしてはいけないことをするときのような悩み方だったので、何を企んでいるのだろうと思っているとその答えを聞かされた。
「すまないがタキオン。血液を分けてくれないか?」
「血液?急に一体どうしたんだい?」
「必要なんだ。少なくとも200は欲しい」
「急な献血要求だね。まあいいが…」
普段から規制された物品や横七の器具を融通してもらっているんだ。それ位なら別に良いだろうと思い左腕を差し出すと、彼の指先から注射針よりも細い線が突き出し、電動ドリルのように回転しながら私の皮膚を破って血液を吸い取った。その光景からかなりの激痛を覚悟していたが、実際のところは何も感じず、採取が終わって線を抜いた時も刺した場所からは出血すらしなかった。
「行こうか、タキオン」
指先の針をしまうと彼は平然と立ち上がった。見ることも辛く、目を背けていたほど損傷していた脚も、完全に修復されていた。
彼は身バレ防止のため私の顔の上に別の顔を作ると、自身は新しい仮面を被る。そして彼は私を抱きかかえると大きく跳躍し三階建ての雑居ビルの屋上に上る。そこから下を見渡すと、驚くことにパトカーの他にも警察の大型車や白バイが停まっていた。その中でも特に目立つのは自衛隊のものだ。彼女らは既にこの路地裏を包囲しており、抵抗されることを前提にしているようで戦列を組んで銃を構えていた。
「ペリカンの強行突入はやっぱり無理か。行くぞ」
偵察を終えた彼は再び跳躍して別の建物の屋上へ。さらに跳躍してまた別の屋上へ、と目的の場所に近付いていく。しかしどこかで見られたようで、下からは警察が私たちを追ってくる。
五つの区画を渡ったとき、トレーナー君は立体駐車場に降りた。大型車から軽、私でも聞いたことがあるような海外の高級車など車の古今東西を搔き集めたこの駐車場の一階の端に、カバーを被ったサイドカー付きのバイクがあった。そのカバーをめくるとそこから、横七自動車のマークであるホイールと錨のロゴの入った青色のバイクが現れた。
「急げ」
トレーナー君がうなり声を一切上げない静かなエンジンを掛けてそう言った。ゴーグルを着けたので早速サイドカーに乗り込むと、警官が三名入ってきた。どうやら薄く広くでやっているらしく、私たちがこの辺りにいることだけは掴んでいるのだろう。私たちを見てすぐに報告を飛ばした彼女らは、遠慮もなく私たちを撃った。
「頭下げないと死ぬぞ」
普段の調子で軽くそう言ったトレーナー君は、急発進をして警官の横を銃撃を躱しながら通り過ぎて外に出た。時速は60にギリギリ届かないくらい。細道で曲がり角も多く、横七らしい性能を出せていなかった。
「タキオン。サイドカーの右から三つ目の黄色のボタンを押せ」
「これかい?」
言われたとおりにしてみると、フロントガラスが半透明になり、ここら一体の地図の表示した。しかし地図ならトレーナー君のバイクにも表示されているので何が目的なのだろうと思っていると、途端に地図上に複数の赤い点が出現した。
「その点は警察と自衛隊の車両だ。近付いてきたら必ず頭を下げろ」
「ご忠告どうも」
二つの点が細道を縫ってこちらに向かってきたので頭を下げて姿勢を低くしておく。それと何か飛んで来たら嫌だからヘルメットもしておこう。
「思ったよりも重いじゃないか」
「そいつは海兵隊員用のだ。重くないはずがない」
頭を振ってもぶれないように調節し終えたとき、左右からウオッカ君の口癖でもあるブルルンというエンジン音。それとともに連続する銃声。
「ターゲットに命中。胴体にワンマガジン全て叩き込んでやったぜ」
「こっちは頭部だ!!さしもの横七も無事ではいられまい」
頭を下げたまま隣を見る。トレーナー君は確かにハンドルこそ掴んではいるが、前にぐったりと倒れていた。
「大丈夫かい、トレーナー君!?」
「」
「トレーナー君!?」
両側から私たちを挟み込んでいる警官…なのか?随分と銃の扱いに長けている二人組に狙われているが、それよりも厄介なことがある。
地図が指し示すには、この先は壁だ。何とかして曲がらないと私たちは二人仲良くバイク事故で帰らぬ人となってしまう。あの横須賀を無事生き抜いたというのにこんなところで死ぬつもりは私には毛頭ない。トレーナー君だってそうだろう。何とかして彼を起こしてハンドルを切らせないと…。
「サイドカーにも誰か乗っているぞ」
「構わ~ん、撃ち殺せ―!!」
彼に込められた弾全てを撃ち込んだ二人がマガジン交換を終えて今度は私に狙いを付けた。
「心配するな」
「トレーナー君!!」
倒れたフリをしていたトレーナー君がバイクを急停止させ私たちを射線から外す。しかしあの二人は既に引き金に指を掛けていたようで、すぐに銃を逸らしたものの互いを撃ってしまった。
「大丈夫か!?」
「あいつやるじゃねえか。あたしのバイクはボロボロだよ」
「うちもだ。既に先手は取ってある。ここは退こう」
黒煙を上げながら逃げていった二人だったが、彼女たちの言う『先手』というのが何なのか、思考を巡らした。そして答えはすぐに分かった。封鎖だ。私たちのいる区画の出口全てに赤点があった。どこに行こうと私たちを待ち伏せしてハチの巣にするつもりなんだ。
「袋のネズミにされてしまったようだよ」
「なーに言ってる?穴しかないじゃないか」
「しかし抜け道なんてどこにも…」
「そこかしこにある」
サイドカーにまで手を伸ばした彼は一番左の赤のボタンを押した。どうやらそのボタンは特殊な変形ギミックのようで、タイヤが仰向けになり、ホバー式になった。それに伴いサイドカーは横から後ろへと移動し、開発されてから間もない複葉機の後部銃座のようになった。
「ゴーストバイクだ。クレバスに引っ掛からないから雪山で大活躍。…シートベルトはしてるよな?」
「勿論だとも」
「それならちゃんと正面の手すりも掴んでおけ。落ちるぞ」
「落ちる?」
「こういうこと!!」
再び発進したこのゴーストバイクは私が衝突を恐れた壁をまるでそこが地面であるかのように駆け上がった。下向きに掛かる力は大きく、トレーナー君は体が宙に浮いてしまっている。
屋上に上がってどうするのかと思っていると、何の躊躇もなしに空中へ飛び出した。ホバークラフトと壁走り機能があるとはいえ飛行能力はついていないはずのこのバイクでそんなことをするものだからとうとう狂ったかと思ったが、バイクは落ちるどころかむしろ安定して空中を走っていた。
いや、空中ではない。ナノマシンだ。彼が脚からナノマシンを空中に展開して見えない道を作っているんだ。それを足掛かりにしてホバーが動くから私たちは飛んでいるように走っているんだ。
「本当ならあの立体駐車場でやるつもりだったが、あそこまで追い付かれているとはな」
「こんな魔法を見せられたら、君を神として崇め出すんじゃないかい?」
「勘弁だ」
一直線で彼の家に向かっているとき、ヘリのローター音が響いた。
「勘弁だ…」
挨拶代わりのロケット弾が私たちの前を横切る。どうやら自衛隊の重武装ヘリを出してきたようで、警察用の小型ヘリにガトリング砲を付けたのよりも大きくて頑丈そうだ。
「流石にあれは墜とさなきゃな」
トレーナー君が指を向けてナノマシンで貫こうとしたが、射程外なのか下ろした。
「指を下すんじゃないよ!!君がやらなきゃ誰がやるんだい!?」
「救援要請は出した。あとは祈るだけ」
「祈る!?君が一番しなさそうなことじゃないか!?」
「馬鹿言え。信号と電車に関しては誰よりも熱心に祈っている」
クソ、どうすればいいんだ。君が出来ないなら私になんて出来るはずがないのに、一体どうすれば…。
『そう。だからあたしがやるの』
「!?」
どこも触っていないはずなのに、パネルに文字が入力されてフロントガラスが格納され、黒鉄の銃身が現れる。
「トレーナーくーん?」
どこにも触っていないのに、照準がヘリの操縦席に合う。
「トレーナーくーん?」
トレーナー君の服を引っ張っているだけなのに、引き金が少し沈む。
「トレーナーくーん!?」
「タキオン!?」
再度攻撃しようと旋回して私たちを狙っていたヘリが撃たれる。コックピットに何発も命中し、ヘリはそのまま高度を下げていった。
「私は何もやっていない…触っても…」
「ああ。このモードはIDと指紋がないと動かない。お前がどっちも持ってるとは思えないしな」
静かに中へと戻っていく機銃を横目に見つつ、トレーナー君はそう言った。
確かにパネルには CA KAKO と打ち込まれていた。カコというスパルタンや海兵隊員を私は知らない。加古、というトレーナー君の恋人なのかもしれないが、だとしてもそれが自動入力された原理を説明できない。
そうこう悩んでいると、広大な土地に建つ西洋ルネサンスのデザインの邸宅が見えた。その土地は壁に囲まれて外界と遮断されており、中心にあるグラウンドのような庭にはいくつものテントが建っていた。
「ここが君の家かい?」
「ああ。といっても横七の基地みたいなもんだから」
そう言われて壁の上を見てみると、確かに歩哨が巡回している。警備会社の者には確かに見えない。銃を持っているし数だって多すぎる。
そんな横七島に並ぶ立派な拠点であるこの邸宅のヘリポートにバイクを止めると、彼の元に重傷を負った者が悔しさを滲ませた顔で現れた。
「大佐、先ほどは、本当に…すみませんでした!!」
目にかかるまで頭に包帯を巻かれているこの海兵隊員は、何も説明せずに頭を下げて来た。私には一体彼が何をしてしまったのか分からないので、奇妙なものを見る目で彼を見てしまった。
「彼は一体なにを…」
「こいつは横須賀航空隊、スカーレット隊のリーダーだ。横須賀ではツインズ…テールの双子相手に航空攻撃を実施、部隊の退却を支援してくれた。無事に脱出できたはいいものの、横須賀の外にいた伏兵に撃墜されて…」
頭を下げたままの彼を見る。まだ血が完全には止まっていないようで、後頭部の包帯が赤くなっていた。それに加え、足の筋肉組織か姿勢安定装置に異常があるようで、フラフラとしている。
「そしてさっきヘリが来た時に救援を求めたんだが、動けるパイロットはいなくてな…」
「私が一番軽傷なのに…私が出なければならなかったのに…」
「無茶を言うな。お前は頭部損傷、コントr…脳にも大きなダメージ。とても飛ばせれるような状況じゃない」
「ですが!!」
「お前は横須賀で頑張ったんだ。今はしゅうr、傷を癒すことに専念しろ」
彼を置いて中に入っていくトレーナー君を追って私も家の中に入る。廊下は学園の校舎のように広く、四人が横一列になって歩いても通り抜けられる広さだ。
そんな広い廊下を二人で歩いていると、突然彼の歩調が乱れた。そして強風の前に崩れ去る砂の城のように、彼の脚は崩れ去っていった。
「こ、これは!?」
「まあ無茶だったか。すまないがあと少しなんだ。引き摺ってでもいいから運んでくれないか?」
何度目になるか分からないパニックによる思考の遮断が起きた私に対して、トレーナー君はいつものように冷静に振舞った。そして私は言われるがままに彼を引きずる。途中、痛い、だのうっ、だの言う彼を心配しながら運ぶと、ある扉の前で止まらされた。部屋の名前は待合室。どうやら私をここで待たせるようだ。
「学園まで送るからここで待っていてくれ」
「分かったよ。君もしっかりと直すんだよ」
「治すよ…物資があれば」
迎えに来た海兵隊員が彼を車いすに乗せ、去っていたが、あの警官二人に撃たれたせいでコートがボロボロだ。その下に着ているワイシャツだって弾痕で焼けてしまっている。体自体はナノマシンで防御しているのかもしれないが、それでも脚を作れないほどスカスカだったので守り切れない弾もあっただろう。物資不足かもしれないが、一刻も早く直してもらいたい。
トレーナー君が見えなくなったころに案内された部屋に入る。待合室という割には豪華な造りだった。大きなソファーで横になると、睡魔が襲ってくる。緊張から解き放たれたからか、安心して寝るとしよう。
「んぅ…?うぅ…ここは…」
頭がボーッとする。何だか頭に血が足りていない。貧血を改善するために作った錠剤を…この部屋はどこだ?ええっと…そうだ、確か私はトレーナー君の家に来て、応接室で眠くなったからソファーで寝たんだ。
「時間は…二時間しか経っていないか」
この前機種変更して変えたヨコホで時間を確認する。もう一眠りしてもいいが、眠気がしないので起きて散策でもしようか。
「おおっとっとっと…」
立ち上がろうとしたとき、力が入らずに机に手をついてしまった。情けない。
部屋を出てまず目についた中庭にあるテントを目指す。彼がキャンプに興味があるという話を聞いたことがないので誰が利用しているのだろうと思っていたのだが、中は決してアウトドアで楽しい週末を過ごせる雰囲気ではなかった。
「あなたもどこか負傷しているんですか?」
直ぐ近くにいた看護師に話しかけられる。近くのトレーには処置をした際に使われて洗浄されるのを待っている赤い器具があった。テントには他にも何人もの医者とベットで横になっている負傷者がいた。彼らはかなり状態が悪いらしく、いくつもの機械に繋がれていた。
「見たところ怪我は無さそうですが…」
「あ、ああ。私は大丈夫だ。失礼するよ」
踵を返して急いで救護テントから出る。トレーナー君の体はナノマシンだがスパルタンや海兵隊員の体は人工筋肉で本体を包んでいる『本物』だから見たくない。
――
「現状、確実な戦果がこれとあいつだけとはね」
バイクを停めた屋上にアイを連れて再び出る。理由は鹵獲したあの光線兵器の試射だ。だが試射と言ってもどれだけの威力があるのかは既に痛いほど分かっている。知りたいのは発射したときにかかる排熱量やその仕組みなどだ。これを運用していた部隊は主兵装にこれ以外持っていなかった。つまりは再発射ができるわけで、それに必要な機構を知りたかった。
「解析結果としては開発中のビーム兵器のおよそ2500倍の出力があり、拡散する傾向がかなり強い。しかし威力は変わらないため広範囲を攻撃することが可能。さらに複数で運用することで射程と威力を伸ばすことができる」
試射のため、この化け物兵器を稼働させる。解析の際に発覚したことだがこの怪物は本体に付いている小型リアクターがビームに使うエネルギーを発生させている。構造上外から何かを入れるための穴がないので必要なものは無い。半永久機関が必要なエネルギーを溜めるのを待つ。
「こんなの出されたんだ、お前の面目丸潰れだな」
「提督は艦隊が蒸発したじゃないですか」
「部分的にな」
チャージが完了したので事前に打ち上げていたターゲットバルーンに向けて照射する。威力はすばらしく、ビームの熱が本体を通じてこちらにも届いた。
「で、どうだ?」
データを観測していたアイに出来は如何ほどか聞く。
「何となく兵器概要が掴めました。転用も可能です」
「それはいいな」
詳しく聞いてみると、俺たちが求める威力を鑑みるとこのリアクターでは過大すぎるそう。だから出力を下げる小型化をしてライフル形状にしても必要スペックは満たせるし、こちらが開発していたビーム兵器の部品と組み合わせられるとのこと。威力が十分で弾も要らないモンスターウェポンの道が拓けたが、それを差し引いても余りある問題が横七にはある。
それは、負傷兵の多さとそれに反比例するかのように低い充足率である。
横須賀で戦いに参加した連中は奴らが終始優勢だったこともあり多い。最後は作戦勝ちということに出来たが、それでも大半が何かしらの処置が必要と苦い勝ちであることには変わりない。肉体の修復にはバケツか破損部位の交換が必要だが、どちらも横須賀に置いてきたのでない。
しかもその横須賀には増援部隊の分も含めた武器弾薬が貯蓄されており、横七全体の七割があったといっても過言ではない。それが分解機によって無くなったので本当に足りていない。現在各地で大至急生産中だが間に合わない。
装備品を放棄してまで兵を取ったのは後悔していないが、残ったのが負傷兵と装備の無い軍隊とは…。
「提督。艦隊の再編ですが…」
横七島も空襲で表面が吹き飛んで発進準備中だったペリカンとそれに積んでいた物資、乗っていた兵士も全員持っていかれた。島の対空砲やミサイルもなくなったし、復旧作業だけで二週間は掛かる。そうなるともう対抗できる戦力はここと学園にしか…。
「提督!!」
「あ、なんだ!?」
「しっかりしてください!!戦闘能力の半分以上を喪失したとしても、横七はまだ戦えるのです!!それはなぜかわかっていますか!?」
「圧倒的な技術力と長年培われた戦力があるから?」
「あなたがいるからですよ!!提督!!」
『大佐殿!!』
『大佐!!』
『提督!!』
『提督殿!!』
『我らが司令官殿!!』
下の救護店で治療を受けていた五体満足とは断じて言えない包帯を巻かれた者たちが中庭に集まり、上を…俺を見上げながら叫ぶ。
「横七島、府中、日本司令部…全部隊、このような劣勢下でも今だ士気十分です」
「…ありがとう、お前たち」
横須賀の戦い戦闘報告書
戦果 敵水上侵攻部隊の大多数撃破、敵新兵器の鹵獲、および捕虜の確保
損失 横須賀基地、貯蔵物資、空中艦隊多数艦艇、航空機多数
戦死者 横須賀、横七島 合計約2000人
負傷者 同上 合計約35,000人
備考) 敵大将テール、姫鬼級、並びに陸上侵攻部隊は分解を免れたもよう。警戒を強められたし