男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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ちょこっと裏話

実はこの話の前に、『スパルタン』メンバーが誘拐されて人質交渉になり、ロイの逆鱗に触れて誘拐犯たちたちが抹殺される話を挟む予定でしたが、ガイドライン的にどうかと思い、取りやめました。

本編中にそれに関する話が出てきますので、詳しい様子はご想像にお任せします。


仕方ありませんね

「ぐっ…ううん…」

 

 重い瞼を開くと、清潔感のある白い天井が目に入る。横七で軟禁生活をしていた頃も似たような部屋で寝起きしていたが、あれはもう二か月前の話だ。天井にいくつも取り付けられた半球状の監視カメラも無いし、ここは違う。

 

「ここは…病院?」

 

 枕元にあったナースコールでここがどこか分かった。どうしてここに来たのか思い出せないが、取り敢えず人を呼ぶ。来てくれたのはナースではなく、海兵隊員だった。

 

「義明トレーナー、お目覚めのようですね」

「はい。ですが、私はどうしてここに?」

「覚えていらっしゃらないのですね?あなたは一か月前、学園内に侵入した深海棲艦に襲われ、意識不明の重体となっていました」

 

 頭が痛い。頭痛がする。けど、同時に思い出していく。

 

「私は、提督の偽物に…」

「ええ。そしてあなたには、受け入れて頂かなければならないことがあります。覚悟を、持って」

 

 重苦しい言葉を並びたてた海兵隊員は、学生のころから愛用している手鏡を渡した。私が覚悟を持って受け入れなければならない…。

 

「ハッハッハッ…」

 

 自分の顔を見た時、思い出の詰まった手鏡を自分の脚に落としてしまう。筋力が低下していたとかではない。受け入れなければならない事態が私にそうさせたのだ。私の、私の…顔が…。

 

「あなたは深海棲艦の全力の力で頭部を破壊されました。脳に被害はありませんでしたが、それでも治療は見込めませんでした」

「き、機械…」

 

 学園の子たちと並び立っても遜色はないと疑っていなかった肌が…提督に愛される可能性のあった唯一の美貌が…私の全てが…。

 

「顔部分の全てを機械に置換しました。違和感がないようでしたら人工皮膚を付着させます」

「あ…ああ…」

 

 触れる肌に柔らかさなどというものはない。ただ硬い。冷たく硬い。

 

「私はもう、人間では…」

「それは違うぞ。義明トレーナー」

 

 車椅子の車輪が回る音と共に、提督が来た。脚が無く、お似合いの黒のズボンが風に煽られて揺れているのがとても痛ましい。

 

「義明トレーナー。大丈夫だ。大丈夫。人外というのは俺やテールのことを言うんだ。お前は立派な人間だ」

 

 ベットの近くまで来てくれた提督は、私の醜い顔に触れる。

 

「君の顔がそうなってしまったのは私の責任だ。…すまない」

「そんな…提督」

「だが、頼む。力を、貸してくれ」

 

 頭を下げて来た提督から、ここ最近起こった話を聞く。横須賀で深海棲艦と戦い、更にその後アグネスタキオンを救うため自身の脚を犠牲にしたこと。横七の戦力は現状、勝てるかどうか怪しいということ。そして…

 

「生徒たちが攫われた!?」

「勿論既に奪還したし代償も払わせた。だがこれから先も同じようなことは進むだろう。横七を引き合いに出して彼女たちを利用し、利益を得ようとする。彼女たちを巻き込むことだけは何としても避けなければならない」

「そのために必要なのが、私…」

「君しかいないんだ。信頼できて能力のある、学園のトレーナーというものは」

「ですが提督が…私よりも提督がいた方が」

「それが出来ないんだ」

 

 病室に備え付きのテレビをつけてニュースチャンネルにすると、そこには驚きのテロップがあった。

 

「チーム『スパルタン』トレーナー、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフは鬼のミスター…」

 

 先ほど話していた誘拐犯たちを提督が横七の技術を使って抹殺している様子が、自分たちの戦果を喧伝しようとしていたその誘拐犯たちの配信に映っていた。

 

「ちょっと激昂していて配信を切るのを忘れていたんだ。いやー、うっかりうっかり」

「嫌われていますね…」

「今更だよ。俺が人の20人や30人を殺したからって何だっていうんだ」

「ですがそのせいで学園に行けない、と?」

「初めて見る顔馴染みの近隣住民の方が外で騒いでいてな。理事長も流石に降参といった感じだ」

「…仕方ありませんね。何もできない私に出来ることならなんでも言ってください」

「ありがとう」

 

 しかし、啖呵を切ったはいいものの、私に何が出来るのか。提督の偽物にあっけなく倒され、この一か月眠っているだけだったこの私に。

 

「やることは何も変わらない。君は学園で俺の代わりにトレーナーをすればいい。あとは皆を守ることか。もちろんスパルタンや海兵隊もいるからそこまで気負わなくていい

「提督の代わりですか」

「そうだ。だからまずはリハビリだ。筋力が落ちないようあれこれしたが、それでも感覚が鈍っているはずだ。それが終わったら射撃訓練。横七の一員らしく、銃器の扱いに慣れてもらう。それから…」

「それから?」

「順番変更。まず最初は顔に皮膚を付着させる」

 

 頭突きをすれば向かうところ敵なしの私のおでこをなでながら、提督はそう言った。




カルテ 義明英子

外傷 頭蓋骨粉砕骨折 神経系の断絶 脊髄破損

施術内容 当面は肉体を機械に置換し、トレーナー業に当たってもらう。その間に      
     元の肉体を治療する。

カルテ ゴールドシップ

外傷 なし 高い自然治癒力によるものと考えられる。

施術内容 既に脱柵しており、現在追跡中。
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