男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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人間というものはつくづく度し難い

「横七鬼子のロイは去れ!!」

『横七反対!! 平和を守れ!!』

 

「これはまた、無知蒙昧な愚者たちが」

 

 大佐にお願いされて心落ち着く学園の地下に秘密裏に建造した司令室からネズミのように這い出て、民間用に偽装したヘリに乗って邸宅から戻ってきた矢先にこれだ。学園をぐるっと一周囲んで抗議活動をしている人間の数は五桁にいくほど。スピーカーに自らの主張を乗せて我々への抗議を行っているが、学園というものはそもそも教育活動のためにあるもので、彼らは自分たちの学生時代に選挙カーや爆音暴走族による授業妨害を受けた記憶をまるで失っているかのようだった。

 

「着陸まで後五分です。少佐」

「高空から侵入したまえよ。暴徒共に石を投げられて撃墜されてはたまらん」

「一応、フレアは搭載しています」

「ここでミサイルを撃つ馬鹿はおらんよ」

 

 彼らの主張が古き愚かなlove&peaceなら、大音を立てて噴進材を燃やし、着弾すれば大爆発を起こすミサイルやランチャーは使わない。仮に深海棲艦の者が混じっていたとしても、それをやれば周囲の人間の目を引いてしまう。反横七一色に染まっているこの雰囲気をぶち壊し、反横七・反深海棲艦にしてまでもこの誰が乗っているのか分からない民間ヘリに見えるヘリを墜とそうとはしないだろう。あり得るとすれば、サプレッサー付きスナイパーライフルによる狙撃。しかしこのスモークでは、ただ人影目掛けて撃つだけのギャンブルだ。私か、大佐か。生徒か、職員かも分からない。我が軍の旗を隠しての屈辱的な行動が、ここまで有効だとは。

 

「着陸しました。変装マスクをお忘れなく」

「分かっているよ」

 

 肥満気味の女性の顔を模したマスクを被ってヘリを降りる。これをしないと双眼鏡で覗いている連中にバレて狂暴化させてしまう。既に暴徒なのだから、これ以上やったらどうなってしまうのか。

 

「おっと。これを忘れては何をしに行ったのか分からないな」

 

 大佐直々に渡されたこのジュラルミンケース。義明トレーナーに中身を渡してくれと頼まれたが一体何を入れているのやら。深海棲艦との戦争だというのに非戦闘員の小娘との交流に興じるとは。正気を疑う。

 

「にしても、ここは本当に学園なのか? あまりにも静かすぎる」

 

 耳を澄ませても聞こえてくるのは外にいる連中の叫び声だけ。ここには2000人の生徒がいるはず。だというのにこの静かさ。野戦病院の方がまだ呻き声で騒がしい。女三人寄れば鹿島…姦しいというのにも関わらず、ここは本当に静かだ。

 

 まあモグラの私には地上のことなど深海棲艦が進行してこない限り関係はないが、それでもここまで静かだと不気味というものだ。今は昼休憩だというのに、廊下にもカフェテリアにも誰も生徒がいない。学園もお手上げか。

 

「義明トレーナー、失礼するよ」

「あなたは…確か、横七の少佐」

「覚えていてくれるとは光栄ですな」

 

 先日私と一緒に邸宅で射撃訓練に勤しみ、私に大差で勝利した義明トレーナーは、疲れ目にならない機械の目を有効活用して既に割り振られた仕事を終え、他出走者の研究をしていた。全身が機械とはいえ、なぜあれほどの書類の山を捌けるのか?

 

「府中の地下に潜伏している少佐が、なぜここに?」

「大佐殿からこれを義明トレーナー殿にお譲りする、と」

 

 ジュラルミンケースを伏せられた写真立て以外何も置かれていない机の上に載せる。ケース自体が重いので結構大きな音と揺れがしたが、艦砲射撃や爆撃が直撃したり大佐殿の覗きがバレて平手打ちを喰らって吹き飛ばされた時よりは静かなのでいいだろう。

 

「中には何が?」

「この状態で渡されたので小官には何とも」

「提督なら変なものは送ってこないでしょうが…」

 

 神妙な面持ちでケースを開ける義明トレーナーの顔を見る。反応からして喜びと困惑が半分半分といったところだろう。私なら何か知っていると思ったのか、ケースをこちらに見せてくる。

 

「新式の自動拳銃と…羅針盤?」

「この銃は事前に提督から伺っています。ダイソンも煙を吐くほど威力のある護身用拳銃だと」

「つい先日最終形が完成したばかり武器の試作品を民間に卸すとは、大佐も老いましたな」

「それでこの羅針盤は…」

「もう回しても北を指さないほど古びている…」

 

 鑑定士に渡せば言い値で買い取ってくれるだろう手のひらサイズのアンティーク品だが、これに一体どんな意味が…。

 

「次に提督に会ったとき、直接聞きだします」

 

 チェーンが付いてネックレスのようになっていた羅針盤を首にかけると、自動拳銃を配給されていたホルスターに入れ、替えのマガジンを上着の内ポケットに隠した。新兵らしく訓練通りの場所に武装すると、ケースを私に返した。

 

「それでは少佐。私は通常業務に戻ります」

「頑張りたまえよ」

 

 対戦相手の研究に戻った義明トレーナーを見て私も部屋を出る。

 

 しかし、提督は一体何をお考えになられているのかさっぱり分からない。民間人への試作武器供与、ジャンク品の贈呈。これらのことを戦況が逼迫している中で高官に対し依頼するとは、ナノマシンが故障を起こしているのではないか?

 

「全く、人間というものはつくづく度し難い」




マックス少佐

司令能力を特化させたスパルタン育成計画の最高傑作にして失敗作。

作戦指揮と基地運営、兵站etc…提督業務の負担軽減のために選抜されたスパルタンに特別教育を施し第二の提督の誕生を目指した結果、提督から戦闘力を全て抜いて代わりに脂肪を足したものが出来上がった。司令官、という役割を考えればこれで十分だが、目指したものと掛けたコスト故に、物足りないという評価を受けている。

提督曰く、これでいい、らしい。
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