男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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鬼と化した我らが総大将殿

「なぜ横七は来ないんですのッ!?」

「落ち着いてくださいリリィ様」

「可笑しいじゃないですの!!私たちは学園を占領して生徒を人質にとっているのですよ!?なのに横七は偵察機の一機も出さない!!」

「横七は必ず来ます。ですから、ですから落ち着いて…」

 

 学園の体育館裏。季節外れの大型台風が接近しているこの寒い新年早々に教育のなってないお嬢様被れが荒れている。体育館内にいる冬休みで帰省するのが多い中で態々寮に残ってトレーニングに来た生徒数名には届いていねえとは思うが、この荒れ様、ロイの奴が見たら苦笑いするだろうな。

 

「学園内にも横七はいるはずだというのに…キィー!!」

「うぅわ…」

「捜索隊を出しなさい!!ここで人質を見る連中以外は学園内を散策。草の根かき分けてでも見つけ出しなさい!!」

「りょ、了解…」

 

 へ、本当にこのお嬢様モドキはバ鹿だなあ。横七を相手取って挑発のために生徒たちを人質にしてるのに、戦力を分散して見つけれるはずがない横七を探そうなんて。いくらお前自身が強化されているからって他の連中もそうはいかない。おまけにお前らん所の総大将はまだ来ていない。だというのにこんな悪手をとるなんて、救いようがねえな。

 

「捜索隊、出撃します」

「必ず見つけなさい。できなければあなたたちも打ち首よ」

 

 あーあ。やっちまった。失敗しちまったなー。

 

 出てった捜索隊を見送るのはいいが、もっと他に見るものがあるだろうに。

 

「…雨?しかもこの降り方とあの雲、ますます強く降るじゃありませんの」

 

 屋根の下に入っていくこのアホは、本当に空を見たのか? それともよく見ていなかったのか? あいつの眼なら雲の上にいるあいつらが見えるはずなのに。

 

 雨を降らしていたはずの雲が一瞬にして晴れ渡り、隠していた横七の空飛ぶ軍艦たちを露にする。

 

「捕捉しているターゲットにミサイル発射。発射後20秒で航空機と陸戦部隊は発進」

「チャフスモーク散布用意、ありったけを全て撒け!!」

「ジャンプ準備急げ。遅れれば遅れるだけ死ぬ危険性が増すぞ!!」

 

 艦橋にいる横七の手練れたちが次々と指示を飛ばしていくのが耳を澄ませば聞こえてくる。あいつらにとっても深海棲艦のグングニルとかいう兵器が怖いか。ミサイルと部隊を吐いたらとっとと退散するつもりらしい。

 

 ミサイルが学園のどっかに落ちてからすぐに、また無線が聞こえてくる。

 

「切り込み部隊、いつでもいけるぜ!!」

「橋頭保を築くんだ。全滅はするなよ!!」

「降下まで5、4、3、2、1…」

「エントリーッ!!」

 

 船底から幾つもの点が落ちてくる。目を凝らせばそれはスパルタンと海兵隊で、それらは奇襲攻撃で反撃能力を失っている深海棲艦たちの頭上から高速で落下し、海兵隊はパラシュートを展開して減速しながら学園内の各所に散っていく。一方でスパルタンは着地寸前にスラスターを吹かして多少の減速をするだけで、勢いのついたままで地面に跡を残しながら着地した。

 

 あいつらはきっと学園内に生き残っている小物たちを掃討するつもりだろう。そして体育館の中にいる大物には…。

 

「横七の奇襲攻撃!? どこからですの!!」

「空からの爆撃です!! 屋外にいた守備隊を中心に甚大な被害が出ています!!」

「屋内にいた捜索隊と生き残った守備隊が横七の部隊と交戦中、援軍を求めています」

「近隣の部隊と連携して対処なさい。動ける者は即刻ここに集合、人質の奪還を防ぎなさい!!」

 

 中央で縛られている生徒たちをステージ上から見下していたが、その生徒たちに自身の焦りが伝わってしまっていて、僅かに口元に笑みが零れてしまっている。しかもそれは生徒から生徒へと伝播し、全体として深海棲艦を嘲笑する雰囲気が形成されてきている。

 

「リリィ様、テール様から後5分で到着なさると」

「それなら防衛ポイントを絞れますわ。到着予定地点とトレーニングコースと駐車場は死守。その他の部隊は到着予定地点に後退を…」

 

 蝉の小便みたいな水滴が自信満々に戦闘指揮を執っていた奴の鼻先に落ちる。あいつは不思議そうな顔をして雨漏りを疑い天井に目を向けるが、ここトレセン学園の体育館は雨漏りが起きるようなボロ学園じゃない。それをある程度理解しているからなのか頭を捻らせているときに、背後の足元が歪む。木の床が液状化現象を起こすわけがないが、こんな不思議現象を引き起こしそうなのには心当たりがある。

 

「…」

 

 水面に波紋が起こり、その中心から青筋を立てた男の顔が出てくる。

 

「電探に感あり。足元背面!?」

「ウリャァッ!!」

 

 体がバラついているロイの右ストレートは腹から出て来た三本の鞭のように細い機械の腕で防がれてしまった。

 

「弱いですわねー、クソ野郎」

「そうかな?」

「これって…!?」

 

 自信満々といった表情で拳を受け止めていたが、徐々にその機械腕がボロボロと崩れていく。この異常事態に顔を真っ青にしたモドキは急いでロイから離れて粉になった三本のパーツを掬い上げる。そしてもうそれらが元に戻らないことを察すると、それまでのお嬢様気取りはどこへやら、持っている雰囲気にお似合いの言動が飛び出た。

 

「この野郎!! あたしの腕を食いやがって!! お前ら、ガキどもを殺せ!!」

 

 ロイの第二撃を背中から生えてきた機械腕四本を犠牲にして凌ぎながら、配下の雑魚どもに命令するが、銃声も砲撃音も、斬撃音も悲鳴もしない。

 

「てめえら何遊んでいやがる!?」

「…」

「動けよクソカスどもーッ!!」

 

生徒たちを囲むようにして立っていた雑兵も、相応しくなった下層市民の近くで指揮をとっていた奴らも、誰も動かない。いや、人質になっていた生徒は続々と逃げ出しているが、少なくとも武器を持った連中はこちらを向いたまま何もせずに立っていた。

 

「遊んでるんじゃないんだよーッ!!」

「…ケ…タスケ…ゴホォ」

「吐いて死んだ!? まさか全員が…」

 

 口から血を噴き出しながらぶっ倒れた連中を見て自分の置かれている状況をやっとこさ飲み込んできたこいつは、逃げだした生徒を殺そうと銃を構えるが、後ろに集中しすぎて目の前の男の攻撃を対処できなかった。ものの見事に両足が遠方へ飛んでいく。

 

「ふ、ふっざけ…」

「…」

 

 悪態をつくクソガキに対し、ロイは指先から高速でナノマシン弾を発射して足や腕、関節など逃げる際に必要となる部位を徹底的に破壊していく。

 

「て、てめえみてえな、お、おとこに、やられる、なんて」

「…」

 

 鬼とかした我らが総大将殿は、生意気な小娘の顔に二発、左胸に六発、さらに首や肩、ひざなどにも撃ち込み再生の望みすらないような状態にする。紛うことなき死体撃ちだが、それほどまでに頭に来ていたのだろう。だがそれは…

 

「ロイ…」

 

 この女も同じみたいだが。

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