「三佐、自分不安になってきました。自分がこんな任務に就くなんて、夢なんじゃないかって」
「ハッチを開けてスカイダイビングしてみるか? もし夢なら、暖かい布団の上で目が醒める。夢じゃなかったら…」
「三沢三佐、永井士長。今は護衛任務中だ。私語を慎め」
「失礼しました、一藤一佐」
「永井、自信を持て。お前は選ばれたからここにいるんだ」
「そう…ですね。映画の主人公みたいに頑張ります」
「チィ…」
日本を発った超長距離用輸送機『さくら』に乗った私たちは一途横七島へ向かっていた。奇妙な縁もあったもので、調査隊に編成された自衛隊はカフェの店の常連客である三沢岳美の所属する一藤隊だった。
「ところでこのさくらだが、横七の輸送機に似てはいないかい?」
外見を一目見た時からそう思ったのだが、この機体、形状がペリカンに似ている。推進部や速度、大きさなどは再現不可能だったのかもしれないがデザイン自体は明らかに類似していた。
「それは勿論、元がそれだからな」
「横七の正式採用輸送機、通称ペリカン。横七を支えた輸送能力の検証と再現を目的に開発されたこのさくらは、四発機で8tまで載せれます」
「だが、横七を模した産物であることと再現が不可能であることが確実になったため開発計画は凍結。こいつは誉れ高き試作機だ」
「つまり…この機体にとっては里帰りなんですね」
里帰り…ね。形だけを模したコピー品が横七を親だと認定するのかは甚だ疑問が残るが、その故郷が見えて来た。
最後に訪れた時とは一切変わっていない。山があり、緑が生い茂り、美しい砂浜がある。地図上にはもちろんのこと、衛星写真を使ったところでその位置を割り出すことはできない秘境、横七島。まだ朝早く霧で覆われているが、その全貌が見えて来た。
「…妙だな」
「どうしたんです、三佐」
「トロピコ軍のキャンプに着陸ビーコンが点いていない。時刻通りの到着のはずだが…」
「確かに妙ですね」
「パイロット。管制との連絡はどうなっている」
「応答ありません。周波数を変えて再度試みます」
「三沢三佐。貴官はこの状況をどう判断する」
「向こう側のミスか、或いは…」
一藤一佐の質問に三沢三佐が回答しようとしたとき、アラーム音が鳴り響く。
「レーザーによりスポットされています!!」
「回避行動!!」
「士長、二等陸曹、地上を警戒。ミサイル発射地点を確認しろ」
「「了」」
「お前たちは万一に備えパラシュート降下できるようこれを」
「待ってくれ、敵がいるところに降下しろと!?」
「この機体と一緒に死ぬのはごめんだろ? それに、ここが本当に横七の島ならお前たちを守ってくれるはずだ」
「そんな…」
「ミサイル第一射、来ます!!」
「発見しました。三時の方向、森林からです!!」
「うわぁ」
機体が大きく旋回しながらフレアを焚く。この状況、どうやら私たちをあまり歓迎してはいないらしい。
「回避しました」
「一佐、意見具申します」
「なんだ三佐」
「少数で先行上陸、敵性勢力を殲滅します」
「認める。三佐、士長。降下しろ。私たちは一度当エリアを離脱する」
「そんな…いきなりですか!?」
既にパラシュートを身に着け、銃火器を持っていた三沢三佐に永井士長が動揺しながらも問うが、三沢三佐の態度は沈黙から一切変化しない。
「士長、応戦だ」
「でも…」
「やらなきゃダメなんだよ。トロピコの軍人だって既にやられたんだ」
「…」
渋々といった様子だが、一応は納得したようで永井士長も降下の準備をした。
「降下準備よし」
「降下準備よし…」
「ハッチ開きます。ご武運を」
サイレン音とともに、後部ハッチが開き、冷たい風が入ってくる。
「降下」
「頑張れよ、永井。挫けるんじゃないぞ」
「分かりました、沖田さん。フゥ…降下ッ…うわあああぁぁぁ!!」
「頼むぞ、二人とも」
――
「発煙筒です!!」
「二人のか。よし、着陸するぞ」
太陽がてっぺんに昇ってきたころ、私たちもようやく横七島に上陸することができた。着陸地点には三沢三佐も永井士長もおり、どこも怪我はしていなかった。
「ご苦労だった。それで、敵の正体は分かったか?」
「これを」
「7.62ミリ弾か」
「はい、それも米軍仕様です」
「おおかたこのキャンプも特殊部隊の奇襲を受けて壊滅か」
「奴らの目的も横七の遺産でしょう」
「ペリカンはトロピコ軍に救援要請。通信が不可能なら離陸して可能な場所に」
「了、迅速に行動します」
さくらがビーチに設立されたキャンプから飛び去って行く。帰るまでには戻ってくるだろうし増援も来るのだろうが、少し不安だ。無人のトロピコ軍のキャンプには物資はあったが、誰もいない。死体が転がっていたならそれはそれで何が起きたのか推測できるのだが、血痕すら無かった。ただ空薬莢が転がっていたからには、ここで戦闘は起きたのだろう。
「島内に敵はまだいる可能性があるが、調査は進める。私はここを確保し増援を誘導する。三佐らは護衛を」
「ところで、どこに行くとか目星はついているんですか?」
「いいや、だがここには立派なガイドがいるじゃないか」
「お友達は、入り口の数が多い、と」
「なるべく近くがいい」
「それならこっちだ、と」
カフェがお友達に先導されて私たちを導く。三沢三佐と沖田二等陸曹は周辺警戒をしながらついていっているが、永井士長だけ銃を下げたまま呆然としていた。
「前々から思っていたけど、やっぱり三佐はおかしいよ」
「口を慎んだ方がいいよ。彼女のお友達は容赦がないからね」
「はぁ? それって一体」
「突然叩かれたり押されたり資料を燃やされたり…。超自然現象には気を付けたまえよ」
少し遅れたが、私も三人に付いていく。永井士長も再起動して歩き出した。
目的地は案外キャンプの近くにあった。砂浜の下に床下収納の扉のようにあった。五人で掘り起こすの大変だが、お友達がほとんどの砂を掃ってくれたので簡単に入ることができた。中は十数年前に滅亡した組織とは思えないほど綺麗で、まだ機械が動いているのだと分かった。
「トラップが仕掛けられている可能性もある。カフェ、その辺は任せたよ」
「はい。動感センサーにもお友達は引っ掛かりますので、安全に進めるかと」
「またこの人たち語り始めちゃったよ」
「落ち着け士長。警戒を怠るな」
「すみません、三佐…」
「大丈夫だ永井。焦ることは無いんだ」
途中地雷やオートタレットなど整備がされてはいないが機能する防衛機構と戦闘になったが三沢三佐の高い射撃能力が輝き傷一つつくことなく中央部へと到達することができた。
「ここが横七の中枢…」
「二等陸曹、データの吸い上げはできるか?」
「はい、時間は掛かりますが」
「よし、士長と私でここを確保する。その間にお前たちもやりたいことをしろ」
「言われる前からやっていますよ、あの人は」
提督の帰還報告…該当なし。提督の現在地…記録なし。提督の戦死報告…該当なし!? 死んでいないのに帰還報告もしていないとはどういうことだ!?
そうだ、アヴァターだ。アヴァターを起動させることが出来ればトレーナー君も自動的に復活する。アヴァター起動プロトコル…起動可能機体なし…。
「タキオンさん?」
「あれもダメこれもダメ、一体どうすれば…」
思いつく限りのことを入力してトレーナー君復活の方法を探るが、アヴァターの一つも残されていない。だというのに戦死はしていない。どういうことだ。あの日、確かにとれーなーくんは破壊されて、それで…それで…。
「三佐!! 敵です!!」
「伏せろ!!」
あの日、トレーナー君のアヴァターは破壊されて、その後別のアヴァターに乗り移って戦って、…それで、それで、それで…・。
「敵がロケット兵器を装備しています!!」
「扉を閉めれないのか!?」
「ロックされています!!」
「死ぬッ!?」
そうだ、あの日、トレーナー君は、私は…。