男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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ジャンポケ主役のウマ娘劇場版の予告を見てぼかぁねぇ、泣きそうなぐらい嬉しくなったけど、第3シーズンまだ見てないこと思い出しましたよ。上映開始前には絶対に見ておきます。


君のことを

 カランコロンと義明君だったものの手から落ちた古びた羅針盤が床を転がる。しかし、その針はもう空回りなどせずに一方向のみを指していた。

 

「ロイ…」

 

 テールが開けた穴から入ってきたトレーナー君は、月光蝶以外の理由でも輝いているように見えた。しかし何やら苦しそうで、胸を抑えている。

 

「死んだと思っていたが、なるほど、そうか、義体か!! だから相応しくないんだ。やはり私こそが神に相応しい!!」

「トレーナー君!! 時間を巻き戻すんだ。過去に遡ってテールを歴史から抹消するんだ!!」

「時間を、巻き戻す?」

「そうだ。神になったトレーナー君なら出来るはずだ!!」

「神…? 俺が?」

 

 状況を読み込めていないのか方法が分からないのか、トレーナー君は巻き戻すことはせずに構えていた。

 

「私が神になるのはお前を殺した後だ。お前の死に顔を拝みながらの戴冠はさぞかし気持ちいいだろう!!」

「時間を巻き戻しての抹殺なんてできない…。だから、ここで!!」

 

 狭い室内での格闘戦。拳がぶつかったときの衝撃波は私たちを再度壁へと追いやるほどで、床に伏せながらも頭を上げては衝撃で下がる戦いを見る私の様子はきっと礼拝中の信奉者のようだろう。

 

「ナノマシンッ!!」

「粒子たちよッ!!」

 

 足元から出した自身の分身も戦いに加わり、状況はますます混沌と化していく。だが、神になった影響でずっと苦しんでいたトレーナー君の方が、不利なのは間違いなかった。

 

「もらったァ!!」

「そんなぁ…」

 

 テールの右ストレートがトレーナー君の左わき腹を抉り取る。このままだと負けると悟った息絶え絶えのトレーナー君は、最後の一手を取った。

 

「こいつゥ…」

「逝ねやァーーーッ!!」

 

 体を構成しているナノマシンすら使って巨大な一本の槍を作り出し、猛スピードで突き出す。スラスター機能や月光蝶の排気システムによる加速も乗り、決死の一撃はテールの胴体に突き刺さった。

 

「加古…すまない…」

 

 槍が塵になると同時にトレーナー君はそう呟くと膝から崩れ落ちて倒れる。体が床に横になると、まるで波に攫われた砂の城のように跡形もなく消えてしまった。

 

「トレーナー君…」

「…ハハ、これであいつの横七の天下もお仕舞だな」

「なっ、テール!?」

「痛えし視界もぼんやりするが、取り敢えずは私の勝ちだ」

 

 そんなバ鹿な。槍の突き刺さった範囲には心臓や肺も含まれる。生命の維持に必要な酸素を供給する手段を失った以上、生きれるはずが…、いや、違うのか。深海棲艦は文字通り深海に生きる種族。わずかな酸素でも生存できるよう体が進化しているはずだ。つまり、組織にしか残っていないわずかな酸素でも…。

 

「アグネスタキオン。お前に光栄ある大役を任せよう。義明がロイを神にしたように、私を神にするのだ。さあ、早く」

 

 足元にはあの羅針盤。それを拾ってやれということだろう。トレーナー君が死ぬという事象が発生した以上、過去に遡って彼を殺そうと何も変わらない。そして、私がここで拒否したとしても、別の誰かがテールを神にする。

 

 私がここで、テールを倒さない限り。

 

 だが、そんな方法がどこにあるというのか。トレーナー君との戦いで消耗しているかもしれないが、ただのウマ娘一人で倒せる相手じゃないことは分かっている。あのテールの足元に転がっている火炎瓶を投げたとしても、撃ち落されるのが関の山だ。どうすれば…。

 

『本当は分かっているんじゃないの?』

 

 君は…加古。どうして君が!?

 

『あなたは一人じゃない。私たちがいる。力もある。必ずできる』

 

 だが、それでも…。

 

『さあ起きて』

「早くしろ、小娘!!」

「『さあ、早く!!』」

「うわあああぁぁぁッ!!」

 

 左腕を鞭のように振ると、私の…いや、『彼』の腕は延々と伸び、テールの左肩を引き裂いた。テールの艤装も一緒に破壊したようで、機械部品から火花が散っている。

 

「なんだお前は、これは一体…」

「トレーナー君の、いや、皆の苦しみを感じるんだ!!」

「この気配、まさかお前…」

 

 戻ってきた腕には火炎瓶が掴まれていた。それでテールを殴れば瓶が割れ、重油が散らばる。

 

「ロイの…忘れ形見…に…」

 

 火花が重油に引火するとすぐさま燃え上がり、テールを包み込む。既にほとんどない酸素が炎をより激しく燃やすために利用され、テールは跡形もなくなった。私も、室内の酸素が減って来て、意識が、遠くに…。

 

「ああ、トレーナー君。君のことを、やっと…」

 

 瞼の裏には男女二人が腕を組みながらどこか遠くへと行く様子が映る。

 

 待ってほしい。私も、君たちと、一緒に…。

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