本当は新年を迎える前に終わらせようと思っていたんだけどなぁ…。
「上は騒がしいな」
「仕方ないでしょう、彼女たちはこういった荒事に慣れていないのですから」
「避難状況はどうだ?」
「既に九割の生徒がシェルターに避難しています。ですが逃げ遅れた生徒が数名、体育館に連行されています」
カメラを通じて体育館の様子を見る。グラスワンダー、ぬかったな。他に馴染みの顔は敵の指揮官以外いないが、グラスの性格だと挑発しかねない。早々に動きたいところだが…。
「敵部隊の戦力分散は進んでいるか?」
「いえ、まだです。しかし敵本隊が到着するにはまだ時間があります」
「大佐、落ち着いて紅茶でも一杯いかがかな?」
「悪いが、今の私は相当気が立っている。いつもの調子で接されると過ちを犯しかねない」
「気を付けましょう。体育館の音は拾えているな? 流せ」
敢えて一歩近づくことでナノマシンを使わせないという英断をした少佐は体育館内に予め仕込んでいた盗聴器も使って私の精神をこれでもかと擦り減らしてくる。
「そこのチビのアメリカ人」
「…」
「お前だよお前。殺されたいのか」
「殺したいのなら、すればいいでしょう」
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。頼むから落ち着いてくれ。挑発なんてするな。頭下げて黙って目に映らないようにしてくれ。
「私はトレーナーさんが来るのを信じています」
「いい度胸だ、小娘。だが、ロイとか言うのは本当に来るのかな? あいつは必要とあらば自分の部下にも銃口を向ける男だぞ?」
「それがトレーナーさんの意志なら、受け入れます」
「こいつ…」
機銃を基に作ったのだろう機関銃を忠臣グラの胸に突き立ててぐりぐりと押し付けている。トリガーに指を掛けていないので射殺されることはないだろうが、頭にふつふつと怒りが…。
「少佐、前言撤回だ。紅茶をもらうよ」
「その前に深呼吸をしては?」
「スゥゥゥゥゥゥゥゥ…F〇〇K!!」
「元気そうで何より」
紙コップに注がれた紅茶を一気飲みしたら別の画面を見る。敵は分散しているな、もう行ってもいいだろ。
「大佐、館内にはまだ40の敵が」
「全員ぶっ殺す」
「ああ…スパルタンチームは提督の援護。人質に傷一つ付けさせるな」
ナノマシンの粒になって建物をすり抜けれるようになったら一路体育館を目指す。これをやると銃器や弾薬を持ち運べないので戦闘能力は下がるが、即応のためには仕方ない。ただ別にこれは悪いばかりではない。逃げる時や隠れる時に置いていくものがないので、武器を鹵獲される心配が無い。技術命な横七には死活問題なのだ。
特殊防壁を抜け土を抜けコンクリの基礎を抜けるともう体育館の床だ。外の様子を知りたいので糸のように細い目を潜望鏡のように出す。
敵は少し減って20。生徒を囲うように15、残り5がステージ上で指揮。内一体はリリィだ。グラスは一応無事。ただあの垂れ目から涙が流れている。怖かったのだろう、絶対に許さねえ。あの深海棲艦を止めたのは一応人質の重要性を理解しているリリィだろうが、まとめ役もまたリリィだ。償ってもらう。
ナノマシンの三分の一を分散させてリリィ以外の奴らの体内に侵入させ、内側から喰らい尽くす。鈍感なあいつらのことだから初手で神経を切断しておけば死ぬ寸前まで気付かないだろう。しかし問題はリリィだ。あの機械化具合、正攻法も姑息な手も通用しない可能性がある。ただまあ、卑怯に行った方が安パイか。
「あ? なんですの、これは」
上からナノマシンで形成した液体を垂らす。かなり反応が早いな。しかもどこから垂らしたのかを追えるなんて、目もいい。
「金属の雨? 錆ではないですわね。雨漏りでもないですし…」
天下のトレセン学園が台風なんかで雨漏りは起きないよ。
視線を誘導することは出来たし…さて、やるか。上を向いているリリィの背後から徐々に浮上し、攻撃準備に入る。視線はまだ上。ここは死角。しかも周りにいる奴らは中身がはぼ空洞。一撃は入れれる。
「…」
「…」
「…後ろ!?」
バレた!? そう声を発して振り向こうとするので、取り敢えずごちゃごちゃと機械がついている背中に一撃叩き込んでおこう。
「ウリャァ!!」
「卑怯なのに弱いですのねー、クソ野郎」
後ろにも目がついているのかと疑ってしまうほどの正確さでリリィは俺の拳をゲーセンのクレーンゲームの爪みたいなので止めやがった。だが、それでもいい。触れればナノマシンはお前の体に乗り移る。特にその機械部分、削り落とすのには最適だなあ。
「自分たちの体に何が起きてるのかなんて一々気にしないのかな?」
「それはどういう…」
ああ、分かってきたね!? ナノマシンがお前の体と一体化しているパーツに穴を開けまくってボロボロにしていることに。
「この野郎、あたしの腕を食いやがったな!! てめえら、ガキどもを殺せ!!」
「…」
「遊んでるんじゃねえぞ、雑魚ども!! おい、マリー!! さっきガン飛ばしてきたクソ生意気を殺していいんだぞ、はやくやれ!!」
「SHOW TIME」
指をパチンと鳴らす…余裕は殴り合いの最中なのでないが、それでもほぼ同時にナノマシンは最後に残っていた外側も残すことなく食い尽くす。それと同時にスパルタンチームも突入し、生徒を解放。安全なシェルターまで護衛する。
「てめえ!!」
何本目かも分からない機械の腕を分解する。これでもう攻撃にも防御にも使える機械は無くなったはずだ。
「じゃあ、始めるか」
この前と同様、ナノマシン弾を撃ち込む。突然の戦闘パターンの変化に驚きといった様子だが、構わず撃ち続ける。増援のテールが接近しているのならこの体ではなく別の体を使うから、残量を気にしなくていい。
「あっ、あが…」
腕で防御しても無駄だ。お前の機械部品をばらしたのもこの弾丸も同じナノマシンなのだから、その腕も食い破って急所を襲う。
「お、おまえみたいな、奴に…」
腕にいくつも大穴が開き、胴体にも辛うじて内臓を傷つけていないダメージを受けたリリィに引導を渡そうと指先を脳天に向ける。深海棲艦相手なら狙うは頭。体をボロボロにしても数秒は耐えてしまう。必ず当てれる場合という限定は入るが、殺すなら必ず頭だ。
「お兄ちゃんのところに逝きな」
「ふっざけ…」
「ロイイィィィッ!!」
砲弾が二発。一発は指先辺りを通過する徹甲弾。もう一発は俺の胴体に直撃するコースをとる榴弾。避けなきゃダメか。
「いつも邪魔するときはタイミングがいいな」
「部隊はリリィを回収。私がロイを引き受ける」
「簡単にはやらせねえよ?」
前にもこんなことがあったからな。対策はある程度してある。理事長に後で怒られるかもしれないが、まあ負けるよりはいいだろう。
ナノマシンで体育館の梁や壁をカミキリムシのように破壊する。そうすることで当たり前だが重さを支え切ることができなくなった屋根などが崩落し、あいつらの足を止めることができる。
「今のうちに…」
「もう、奪わせたりはしない」
「まじかよこの女!!」
少し誤算はあったがおおまかには想定内だったので、すぐにリリィを殺そうとしたところ、テールは落ちてくるものなんて気にも止めず突っ込んできた。一緒に瓦礫の下に埋まるのが嫌だったからステージ側は少し遅く崩れるように仕込んでいたが、逆にそれを利用されてしまった。リリィを殺す時間が無い。だが、こうなったら共に瓦礫の下に埋まろう。
「ナノマシン!!」
「粒子たちよッ!!」
あとどれくらいでステージ側も崩落するのか。そんな余計なことを考える暇もない接近戦。オーバードライブで片を付けたいところだが横須賀であれだけ乱発した後に補給品の欠乏によるナノマシンの整備不足、そんな中誘拐事件で使ったもんだから発動できなくなっている。要するに、負け確だ。落ちて来た屋根などを投げ飛ばして立ち回っているが、良いダメージは入らない。むしろこちらがじわじわと削られている。
「この前まで和平がどうこう言ってた奴とは思えん!!」
「精神攻撃に頼るなんておいこまれているな?」
「それだけお前が強いことを認めているんだ。もっとも、お前が敵だというのは不幸だ」
「私も、お前が手下ならどれだけ楽に事を進めれたか…」
互いに互いの実力を認める。当たり前だ。相手がこの世界で唯一自分を殺しうる存在なのだから、恐れずにはいられないんだ。だが、お前たちがここに乗り込んでくるという決断をした以上、殺し尽くすまで止まらない!!
「ここも崩れるのか!?」
「丁度いい、一緒に地獄に行こうか」
逃げ道が制限されている今こそが絶好のチャンスだ。守りに使っていたナノマシンも全て攻勢に転じさせる。攻撃こそ最大の防御なんて言葉がテールに通用するとは思っていないが、相打ちにまでは持って行かせてもらう!!
「ここで死ぬ気か。でも、私の方が一枚上手」
喉元に喰らいつこうと必死に体を伸ばしていると、後ろから集中砲撃される。回避も防御もできず、受け取るしかない。
開いた穴から顔を覗かせたのは戦艦級の深海棲艦たち。手には17から18世紀の大砲のような見た目の細長い砲。単発だがその圧倒的な威力は、俺を崩落が続く下側へと落とす。
「まじか…」
落ちてくる瓦礫を砕くのにも限度がある。しかもそれをテールは妨害してきて、結局のところ俺だけが瓦礫に埋もれることになった。
「リリィ様の応急手当、完了しました。戦線へ復帰できます」
「ご苦労、あなたたちは敵増援に対処しつつ学園内を占領して」
「瓦礫の下にあるロイの遺体確認はしますか?」
「いいえ、時間の無駄よ。私は羅針盤を探す。リリィには部隊指揮を」
「了解しました」
自爆装置で一匹位道連れに…瓦礫に潰されて動かないか。仕方ない、接続をカットして別のアヴァターで再出撃するか。