「発見しました。やはり新生も府中に展開しているようです」
「私が見込んだだけのことはあるということか」
懐かしき我が母校の地下。建設の際に用いたブルーシートにもその後の改築工事にも載っていない横七が突貫工事で拡張した地下司令部。その中でも特にセキュリティーが厳重な一室に、私たちはほぼ全ての装備を持って籠城していました。
この部屋にある秘匿されていたBB、正式名称BigBrotherの前でロイさんを復活させるための儀式を執り行う。タキオン代行が学生時代に盗み出したBBのデータに入っていたシエラレオネ神話を解読したことで明らかになった私たちの希望。
しかし、問題はあります。神話には儀式の方法が書いてありましたが、それが成功するのかどうかは書かれていませんでした。加えて儀式には目覚めた乱入者が現れ、三者が揃う、と。つまりここに、全ての横七が勢ぞろいし、メジロと新生は復活を阻止するために私たちと戦うことになります。
ここは学園地下、入ることは容易ではなく、加えて横七の防衛システムがまだ生きていますが、それを利用できるのは同じく横七である彼女たちも同じ。つまりこれからの戦いで、私たちは圧倒的な数的不利と立ち向かわなければなりません。ですが、それが任務。私に課せられた使命とあらば、肉が骨から削ぎ落されても、最期まで…。
「準備完了、代行は中へ」
「ああ。戦闘指揮は任せたよ、少佐」
「射撃では役に立ちませんからな、当然です」
私たちの後ろには巨大な金庫のような扉。しかし、その先に出口はありません。背水の陣、というわけです。
「儀式を開始する!! …横七の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ!!」
扉を通じて、タキオン代行から最後の言葉が発せられます。中の状況は察することは出来ませんが、そういったことを気にする必要はありません。迫りくる全ての敵を撃ち滅ぼせばいいだけですから。
「レーダーに反応あり、10時の方向より接近中!!」
「早くも嗅ぎつけられたか。総員、戦闘態勢」
少佐の言葉を合図にして、私たちはその方向に銃を構えます。私の武器は『チャップ』の愛称で呼ばれる横七ショック以降の新型銃で、訓練学校の頃からの慣れ親しんだ一品ですが、メグ局長やルーさん、ゲイルさんなどの大多数は横七のバトルライフルを使っています。その枠に当て嵌まらないのは少佐とジョニー隊長だけで、少佐はワルサー型、ジョニー隊長はこれから乱戦だというのに潜入工作員向けのサプレッサー付きハンドガンでした。
「来ます!!」
「撃ち方始めッ!!」
本部から運んできた障害物、或いは移動に使った装甲車に身を隠しながら、先陣を切って突入してきたバイクを狙い撃ちにします。焦らず、狙いを付け、そして、引き金を引く。ここ一番の大切なときだからこそ、普段通りに。
倒れたバイクに乗り上げて転倒し、更にそれに引っかかって転倒し…といったこちら側にとっての幸運に恵まれながらの戦闘は、すぐに終わりました。倒れた連中を見ると武装は鉄パイプ、バイクも軍用の物ではなく民間の物を見た目が派手になるよう改造したもので、正規の軍人とは思えません。
「新生に雇われた小童だな」
「ルイのガキがあたしらみたいな裏ルートを持っているわけがないからな。戦力の大半は現地徴用のカラーギャングや半グレみたいな若者だろう」
「つまり、警戒すべきはメジロの私兵隊」
「そうだったらどれほどよかったか。メジロ家に潜っているとき、ちょっと気になる物を見つけた。それが来たら結構まずい」
「ジョニー隊長がそれほどまでに警戒する物って…」
「ああ、そいつは…来るぞ!!」
一度引いた波は、より大きなものとなって帰ってきました。やはりあのバイク部隊は斥候、どれだけ私たちが準備していたのかを知るための生贄だったのでしょう。
「あれは…機械人形!?」
「やっぱり来たか!!」
「どういうことだジョニー!!」
「潜入していた時、横七が鹵獲してそのまま放置されていた機械人形を新生に渡して、逃げたスパルタンを狩ろうという計画があった。メジロはどうやら、それを実行してらしい」
不良軍団を撥ね飛ばしながら、奥の方から人型の機械が走ってきます。持っている武器は他と変わりませんが、それでもあの出力はウマ娘並かそれ以上でしょう。
「ルー、出番だよ!!」
「あいよ、こういうときを待っていたんだ」
特段射撃が得意でもないルーさんが、スパルタンや海兵隊員などを押しのけて扇の要である私たちの中央に陣取っていたのか。それは、ルーさんが横七も想定していなかった特性を持っていたからです。
「頼むよ、ラッキー・ルー」
爆破のプロであるルーさんは、大物の相手を生き埋めに出来るよう、大きめの通路が崩壊するような場所に爆弾を仕掛けました。初めから爆破すれば、新生は襲撃ではなく土木作業をする羽目になったのですが、元からあった地下を半ば無理矢理突貫で広げて作ったこの地下基地は、上からの爆撃には強いのですが、内部からの爆発には滅法弱く、必要であれば使いたくない手段でした。
しかし、あの機械人形が出て来たのなら話は別です。私たちは出来るだけルーさんに近付き、頭を伏せます。
「生き埋めになった奴は…いないな」
爆破の後、メグ局長と少佐が人数を即座に確認し、誰一人掛けることなく賭けに勝ったことを喜びます。
ラッキー・ルー、その異名は爆破の専門家だから付けられたものではありません。その由来は、どんな状況でも爆発やそれの二次災害に巻き込まれない幸運から来ています。彼がそこにいたのも、彼の近くにいれば埋めれないだろうという予想があったからでした。
「これで新生は終わりだね」
「そうだ。残るは、メジロ家だ」
新生はメジロ家の偵察と、私たちの消耗を狙っての部隊。全滅しても構わない薄情さが、部隊運用に出ていました。そして、今から来るのは完全武装したメジロの私兵隊。新生は少々歯ごたえが無かったですが、メジロ家なら十二分です。
「…高速で接近してくる物体あり。数は1」
「大型車両か?」
「いえ、このサイズは…人です!!」
「あの小僧が来るか!! ルー、爆破をして進行を遅らせろ!!」
「あいよ」
再び集まって自分たちが土砂に呑まれていないことを確認しながら、少佐が恐れた『小僧』のことを考えます。その正体は何でしょうか。機械人形なら機械人形と呼ぶでしょうし…メジロ家に残留した元横七の誰かだと仮定しても、少佐が全世界にロイさん復活計画完遂のための協力を求める通信をしていますから、邪魔はしないはずです。
果たして何者なのか。その答えは、爆破して出来た瓦礫の中から示されました。
「ここに…おじさんが…」
齢は私と同じくらいの青年。しかし異質なのは、その肌。病的なまでに青白いそれを、私は知っています。
「深海棲艦ッ!?」
「メジロマックイーンめ、お構いなしか。集中砲火だ、絶対に止めろ!!」
全員の銃口が深海棲艦に向けられ、その威力を見せつけますが、深海棲艦は止まることなく私たちの前を駆け抜け、閉じられた金庫の扉もその怪力で突き破り中に入ります。
「タキオン代行!?」
私しか入れない狭さの開けられた亀裂から中に入ると、そこにはどうやって入ったのか分かりませんが、縄で捕縛されているタキオン代行や、BBに対し正座している深海棲艦のほかに、ロイさんの腹心の部下であった豊峰さんもいました。
「妖精、深海棲艦、そして…純粋なウマ娘。ここに三者が揃いました。提督の…いえ、偉大なるシエラレオネ、ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフの帰還を、祝福しましょう!!」
豊峰さんはそう言うと『羅針盤』に触れ、それをBBに向けます。『羅針盤』の針は数回何も示さずに回ると、BBへその先端を向けます。その先端からは、輝く光線が…。
BBをその光線が貫き、しばらくするとBBがその巨大なカプセルを開放し始めます。そしてその中には…。
「ロイさん…」
「トレーナー君…」
何かの液に浸されていたカプセルの中で、ロイさんは何本ものケーブルに繋がれていましたが、排水され、扉が開かれると、ロイさんの自由を奪っていたケーブルは一本ずつ抜けていきました。ですが、あのケーブルはロイさんを支えてもいたようで、全てのケーブルが外れたとき、ロイさんは倒れてカプセルの外に出て、床に顔面をぶつけます。
「…」
短いうめき声も、痛い、といったリアクションもせず、ロイさんは寝たままです。
「なんだよ、話と違うじゃないか…」
目覚めないロイさんを見た深海棲艦は立ち上がると、腰に差していた軍刀を抜きながらロイさんに近付いていきます。
「俺はおじさんが復活するから、もう一度戦えるって言われたから目覚めたのに…これじゃあ、つまらないじゃないかッ!!」
メジロ家の家紋が刻まれた鞘を投げ捨てると、その刃を下に向け、ロイさんの首を撥ねようとしますが、タキオン代行が縄に縛られながらも何とか向けた左腕を伸ばし、、その刀を弾きます。
「そういえば、横須賀で邪魔したのもお前だったなァ!!」
弾かれた刀を拾い直した深海棲艦は、再び刀を構えると、今度はタキオン代行目掛けて走り出しました。タキオン代行は何とか縄を解けないかとその左腕で何か所かを切りますが、どうやら複雑に絡み合って抜けません。
「代行、逃げてください!!」
「どうやって逃げるのさ!?」
「豊峰さんッ!!」
きっと、タキオン代行を縛ったのは豊峰さんだ。彼女なら解けるはず。
そう思って豊峰さんを見ると、彼女は私たちのことを気にせずにロイさんの近くで屈み、何か伝えていました。聞き取れる音量のそれですが、それを聞き取る余裕が今はありません。
「深海棲艦が…!!」
諦めてはダメ…私の手元にはまだ『チャップ』がありますし、私の方が近いです。この銃で何とかあの深海棲艦の気を引いて少しでも時間稼ぎを…。
「無駄だガキィ!!」
「キャーッ!!」
当たったはずでした。致命傷にならなくとも、足を止められるはずでした。ですが、深海棲艦は勢い変わらず、私を突き飛ばしてタキオン代行の前に立ちます。間に合うかは分かりませんが、立ち上がって突進すれば或いはと思い、いざ足に力を入れようとしましたが、目線の高さは変わりません。どうやら…少し、当たり所が悪かったみたいです…ね。
「だ、だいこ…」
「お前だ、お前さえいなければ…」
タキオン代行は近付いてくる深海棲艦目掛けてカッターのような左腕を伸ばし止めようとしますが、深海棲艦はそれを刀で弾き飛ばし、とうとう眼前にまで迫ってしまいました。
「た、助けてくれ…トレーナー君…トレーナーくーんッ!!」
力のこもった一撃。振り上げられた刀が下ろされ代行が死んでしまう。そう思ったそのとき、その凶刃は、右手で掴まれ止まりました。
「と、トレーナー君!!」
他ならぬ、ロイさんの手で。
「おじさん、やっと目覚めたんだね!! それなら、すぐに殺しあおう!! 僕はこのときをずっと待ってたんだ。おじさんの話を聞いてから、ずっと、ずーっと!!」
刃を折られたにも関わらず、深海棲艦は大喜びでした。それはまるで、憧れのアイドルに会った時のファンのように。しかしその純粋無垢な瞳とは裏腹に、願いはどす黒く、邪悪。
そんな心が子供のまま体だけが成長してしまった深海棲艦は、残った刃の部分でロイさんを刺そうとしますが、あっさりと躱され、そして…。
「…殺す」
避けながら首に回した腕でその白く細い首を一瞬でへし折ると、扉の亀裂にその死体を蹴り飛ばし、青黒い肉片でその隙間を埋めます。
「提督、始めましょう」
「…ああ。過去に…みんなの所に、帰ろう」
気絶したタキオン代行を部屋の隅へと運んだロイさんと豊峰さんがBBの前に並び立つと、ロイさんの足元から何かの模様が現れ、それがこの一室に満ちます。そして部屋の壁に、まるで映画館のように色々な景色が映し出され始めました。
時間遡行。ロイさんは時間を巻き戻し、そしてよりよくなった世界でやり直そうとしています。しかし、その世界でまた会えるかは分かりません。ですから、どうか…。
「ロ、イさ…」
どうか一言…。
「ロイ、さ…」
何か一言を…。
「ロイさん…」
頂ければ、それで私は、身を引きますから…。
「また会おう」