「で、だ。何で君がいるんだい、加古君」
「そういうタキオンちゃんこそ、どうしてここに」
「あー、先に謝ったとこ。すまん」
到着初日の出来事が粗方片付いたので既に夜ではあるがパリの街を調査しようと加古と共に宿泊先の寮を出ようとしたところ、フロントでアグネスタキオンに捕まった。
「すまないがアグネスタキオン、君を連れていくわけにはいかないんだ」
「そうそう。あたしとロイは今から二人で大人な時間をパリで過ごすんだ」
「悪いが加古君、君相手でも私は引き下がらないよ」
「ふっふーん。小娘があたしとロイの中を裂けるわけないじゃん」
本人がいないときにお前たちはどうして火を起こしてガソリンを注いだ挙句にニトロを投げ込むのかなぁ…。
「あーあ…すまないがアグネスタキオン。お前が想像しているようなロマンチックなことは予定してないぞ」
「そうそう、あたしとロイはもうそんな段階なんてとうに超えてるから」
「おや? それなら私と共に出掛ければパリでロマンスが出来るということじゃないか」
色々とまずいが、何が一番まずいってここ、あくまで寮のエントランスなんだよな。日本ウマ娘やトレーナーとかもいるが、一番多いのはフランスウマ娘だ。あれが日本のプレイボーイとか後ろ指と包丁を刺されかねない。これ以上悪評が広まるのもまずいし、そろそろ一端汚名を背負わせるか。
「加古ッ!! それ以上煽るようなことを言うのであればお前を横七島に送還する」
「…はーい、分かりましたよーだ」
「それにアグネスタキオンもだ。そろそろ生徒は消灯時間になる。明日から始まるトレーニングにマンハッタンカフェの調整役として参加しているお前も参加するんだ。寝坊は許されないぞ」
「わ、分かったよ、トレーナー君」
渋々反省して…いるフリだけをした加古を連れて外に出る。流石にあれだけ言われたらアグネスタキオンは付いてこないだろう。寮を出て通りに出たら、周囲に人がいないことを確認して説教する。
「はぁ、飛行機での件と言い、お前が私を嫌っているのは重々理解しているが、ここまでトラブルを持ち込む必要はないだろ。それに巻き込まれたら危ないんだから」
「分かってますって、はいはい、あたしがわるーござんしたね」
「言っておくが、これ、あいつも本気で言うぞ」
「…はい。次からはやらないよ」
「頼むぞ、加古。横七艦娘数多しと雖も最も当てにしているのはお前なんだから」
一見冷静で頼りにされることが多いがその実盗聴や監視などしている加賀、忠犬と称されて小間使いから護衛など、直ぐ傍に必ずいるが近くに寄って来た女を処分している時雨など、横七でまともな艦娘はいない。その中で加古は少しおちゃらけているが癒しなのだ。白露みたいなねじが足りていない信者とは違う、共に歩むことを認めることができる唯一のパートナーなのだ。
それなのにおふざけでこれから先の危険に生徒を巻き込んだら、許せなくなってしまう。だから今の内にくぎをさしておかないと。
「付いてこい。訪ね先はもう決めてある」
一軒目、妙齢の女性がマスターを務めるバー。薄暗い店内にいるのは数人の客で、全員面識がないらしく席は離れている。
ウィスキーとバーボンを飲んだら次の場所へ。
二軒目、個人経営の小さなレストラン。テーブルの数は5つぐらいしかない小さな小さな店で、中年の女性が経営していた。客は私たちしか居らず、適当な一品を頂いて出た。
「外れだな」
「みたいだねー」
結構ありそうな場所を巡ってみたんだが、外れだった。
時間が無いけど明日もこれの続きかと思いながら寮へと戻っていた時、進行方向が塞がれる。出て来たのは黒服の女10人。帽子を被っているせいで人かウマ娘かの判別が付かない。逃げようにも後ろも小道も同じような服装のに潰されてしまっている。
「ロイ・ヴィッフェ・ヒドルフだな」
「いかにも」
「大人しくついてこい」
ファイティングポーズ。私だけでもこいつらは片付けられる。
「暴れるな、暴れれば、こいつが死ぬぞ」
「こ、こんばんわ、トレーナー君…」
「あー、やっぱり抜け出してきちゃったかー」
やっぱり?
「まさかだがお前…」
「うん、タキオンちゃんならどうせ寮を抜け出すだろうなーって。それなら一緒に連れて行った方が安全だったでしょ?」
「言うのが遅い…と言いたいところだが、胃が荒れない分今の方がまだいい」
さて、軽口の間に周辺把握は済ませた。粒子を使って索敵したところ、付近にいる武装した人間はこいつらしかいない。遠方からスナイパーが狙っているかもしれないと思い、衛星を使って地区一帯の金属反応を調べたが、こちらに銃口を向けている影は無かった。
「シャルル・ド・ヴォルテール!! 人質交換だ。アグネスタキオンと私の位置を入れ替えろ」
「名前が割れているか…良いだろう。どのみち、怪しいことをすればハチの巣だ」
前に突き飛ばされたアグネスタキオンの横を通ってヴォルテールのところへ行くとすぐに腕を後ろで組まされた。冷たい金属が背中に当たってもいる。
「ウィッヒヒ、良い男だ。後で存分に虐めてやる」
頬を舐められた。純粋に気持ち悪い。ドブ川より酷い口臭も持ち合わせている。
「犯罪シンジゲート、パリスト。名前の通りパリで活動している犯罪組織。政治的思想はない、ただの社会不適合者の集まり…」
「ほぅ、よく調べているじゃないか」
「それと、全員が処女と見て違いない」
「なんだと!?」
「男を見る目が無い」
腹に一撃入れられる前に粒子を使った変装を解く。
「お、女!?」
「お、お前はテール!?」
動揺が走った瞬間に粒子でヴォルテールを逆に拘束し、他の連中の筋肉を全て切って何も出来なくする。加古はその間に近付いてきていた黒服二名を肘打ちで沈め、アグネスタキオンを艤装を展開して守った。
「お、え、ど、あ、あ…」
「女の頬舐めてたことに気付いてショック受けてるみたいだな。まぁ私も同じだがッ!!」
鳩尾を全力で蹴る。飛んでいった先の民家の壁にぶつかり、のびてしまったが、電線を切り、粒子で威力を調整して繋がることで再起動させる。
「はぁ、はぁ、お、お前ら…」
「オラァッ!!」
「ちょっ…」
「これは偽物とはいえロイの顔をその汚物を舐めとったような舌で触れたことへの罰!!」
…顔が凹んでる。いくらなんでもやり過ぎだ。尋問をするのに使える部位が減ってしまったではないか。
「護送の部隊が来る。だが、それまでそいつをサンドバックにするのはやめろよ」
「分かってるって。教育にも悪いし」
目線の先には縮こまっているアグネスタキオン。まあそれも仕方ないか、こうして組織犯罪に巻き込まれるのは初めて…いや、二回目か。加えて蛇足だが、組織犯罪と言う点ではこいつは密輸で常に関わっている。心配する必要はないか。
「す、すまないがテール君。もしかしてだが、今日の空港から…」
「そうだ。本物のロイは二日前の時点で既にヨーロッパにいた。分かったなら、
「は、はい…」
ちょこっと裏話
本編中でドブ川~のとき、漢字で変換すると溝川、となってしまった。
全国の溝川(みぞがわ)さんへの風評被害(一部は事実陳列罪か?)回避のため、溝はカタカナ表記になりましたとさ。