ほぼ一か月ぶりの投稿の時点でお察しかもしれませんが、ストック無し、基本的な枠組み以外何もない状態ですので、実はかなりアレです。
「ようこそ遠路はるばるご足労いただき、ありがとうございます。応接室にて当主様がお待ちです」
「はぁ…君からも説得しておくれよ。もう研究費に関する話題以外で呼ばないでくれと」
「胸に留めておきます」
四隅と正面口に二つの巨大な監視塔がありその間を電流フェンスが繋ぐ、極悪犯が収監される刑務所に並ぶとも劣らない警備の屋敷。その少し手前に置かれているこの屋敷専門の検問所を越えて、草花の繁茂するアスファルトを彼から贈られたゴーストバイクで駆け抜け、以前もそこに停めるよう指示された監視塔近くの駐車場に停める。
遠くで未だ工事が続く五年以上前に開館予定だった記念館を尻目に、今日私が呼ばれた理由を推察する。私がここ、メジロ家本邸を訪ねる理由は二つしかない。
一つは研究の進捗の発表。
私は半年に一度、ここメジロ家本邸で半年間の研究成果を発表していた。
研究、といってもかつての学生自体に盗み見出来ることをいいことに、BBの中にあった横七の自己増殖可能な機械生命体、アヴァターを構成していたあのナノマシンの設計図の見よう見まねで超精密な医療機器を開発する私の盗作は、多額の資金を必要とした。資金繰りに苦悩した私は学生自体の賞金を元手にした資産運用を後輩であるメジロマックイーン君のいるメジロ家に委託していたが、それでも足りなかったためかなりの額を支援してもらっていた。
医療革命を標榜する私の研究には他にも多くの企業や銀行が投資していたが、小さな国の国家予算、或いは大きな地方自治体の予算に匹敵する額の私の要望にほぼ応えてくれているのはメジロ家しかおらず、それに応える意味もあってここで発表していた。ついでに言えばその都度追加の援助を受け取っていた。
そしてもう一つは、当然断る勧誘を受けるためだった。
彼がこの世を去って幾年を経た頃、世界で横七犯罪と呼ばれるテロ事件や抗争事件が勃発した。
遥かに進んだ横七の技術。その遺産を独占するため、世界各地で横七の後継者を自称する人物や団体が現れた。多くは他の組織との抗争や政府の弾圧で散っていったが、その中でも頭角を現していった組織が二つある。
一つ目は聖横七教会。
横七を神の国と定め、転生したロイ・ヴィッフェ・ヒドルフの指導の下、神の国へ至るにはあまりにも劣っている現生人類はそこへ還ることを教義とする新興宗教団体。彼らは平和的な手法と慈善事業で支持を獲得し富裕層などから支援を得て普遍化していった。世界三大宗教に食い込むほどだ。
二つ目は新生横七。
彼と同じ遺伝子を持ち、横七の残党から正統な後継者であると認められたルイ・フォンス・ヒドルフが統領の組織で、その認められたという正統性に依拠する支援団体の多さと統領の積極性で他の継承団体を吸収し巨大化していった。
新生横七は世界に散ってはいるものの、集めれば大国に匹敵する軍事力を誇り、反抗する者たちを潰していった。聖横七教会もその一つで、四年に渡る抗争の末、第194代転生者が殺害され、195代転生者にルイを指名し指導部が新生横七に鞍替えしたことで事実上吸収された。
教会を取り込んだ新生は世界に多くの支援者を持つ武装勢力として既存の体制に挑戦している。横七の遺産は、そのために必要だった。
そしてメジロ家は、その新生横七の支援者だった。メジロ家現当主、メジロマックイーンは横七の技術に造詣が深い私を新生に参加させる腹積もりだった。
今日は後者の理由だろう。報告は先月行ったし、まだ予算はあった。
――
応接室に通された私に言われたのは、案の定、新生への加入要請だった。彼らのうたい文句はいつもと同じ、私が加入した新生が他よりも早く、他よりも先に横七の遺産を独占することができれば、私の研究も大きく前進するというものだった。
「呆れてものも言えません、当主様。私の研究は傷つく人々を癒すためのものです。それなのに言うに事欠いて人々を傷つける新生横七に参加しろというのは…」
「それは以前からも言っていた通り、我々も承知しています。しかし横七事件が横七の遺産を巡って行われる以上、遺産そのものを誰かが独占しない限り、争いは続き、血は流れます。そのために私は魂を売ったと、以前もお話ししましたが」
「君のそれは本心ではないだろう。自分の手元に彼の遺した全てを集めるため、君は堕ちたんだ」
思い返すは六年前の雨の日。私の頬を叩く強い雨風に耐えながらこの屋敷に到着したときに言われた新生のスポンサーになった話。君はあのときも今日と同じように淡々と本心を隠した上っ面だけの重みの無い建前を並べていた。
「…いいでしょう。手掛かりも掴めましたし、私の本心をお話ししましょう」
「学生時代以来…それこそ彼が死んで以来聞けなかった君の本心かい?」
「ええそのとおりです。しかし一点、訂正しなければならない点があります」
「ああ、彼は生きている、というところかな? 流石にそれは知っているよね」
「…はい。その前にアグネスタキオン、あなたはメジロ家と横七についてどれはど知っていますか?」
「メジロ家に就職を希望した覚えはないよ。そしてその質問についてだが、彼が生きていた頃のことならほぼ全て知っている、といったところかな」
海底の探査事業を横七はメジロ家にかなりのギャラを支払って行わせていたし、末期に至っては傷病兵を収容させていた。加えて言えば、彼が死んだ後の解散期に多くの人材をメジロ家は吸収していた。といっても吸収できたのは尉官以下の階級の兵士たちだけで、科学者や技術者は行方知れずだが。
「そうですか。では、こちらを御覧なさい」
「これは…シエラレオネ神話の一説?」
「メジロ家が接収した横七の沿岸基地…夏合宿で利用したホテルの地下にあったものですが、吸い出すことが出来たデータの中に解読されたシエラレオネ神話のデータがありました。これらには彼の復活の方法が記されています」
「…君の言いたいことは分かった。つまり『私は愛しの彼を復活させるために新生横七に手を貸したのであって、横七の遺産が欲しいわけではない。』そして、今日私を呼んだのは…」
「ええ。ご推察の通り、彼を復活させるのにあなたを必要だと判断しました。あなたの知る横七の知識が、必要なのです」
「そうかい…」
ふと目を閉じれば、彼と共に過ごした日々が瞼の裏に鮮明に蘇る。あの日々をもう一度過ごすことが出来るのなら、その可能性が0.0000Ⅰ%でも存在するのなら…
「私は新生横七に参加するよ」
私も悪魔に魂を売ろう。
少し悪い話
実は本編最終回のようにロイが無事タイムリープをした世界線以外のメジロ家は破滅する運命です。
横七を吸収した費用(土地代や横七の再興費用、敵対組織との戦いなど諸々を含む)に対し、得たのは雑魚の兵士だけ。運がいいと後継者認定BOTこと少佐が付いてくるが、結局巨万の富を生む横七の技術は得られず。
加えてマックイーンが横七のチーム全員への贈り物を独占したことによる、上流社会からのハブられ。
とどめに新造の模倣品だらけのセキュリティーが厳重な記念館建築などの浪費。
メジロ家の明日は暗いぞ!!