それと、今回は流石に前回のあらすじはいりませんよね?
えっ、いる!? 仕方ないな。
前回のあらすじ
少し上にスクロールして、<<前の話 をクリックすれば分かるぞ!!
「すいません。迷惑を掛けますが今日はもう帰ります」
「大丈夫ですよエアグルーヴさん。…帰り、気を付けてね」
「はい。それでは失礼します」
学園を卒業して大学では園芸について学んだ私は東京にある大きめの造園会社に入社した。元ではあるがトレセン学園生徒会の副会長として、女帝として、そして何よりも常勝軍団であった彼のチーム『スパルタン』の最初のウマ娘として、その名に恥じないよう職務に励んできた。勤務態度や仕事の出来、社員との関係などで最善を尽くした私だったが、今日初めて、体調不良以外で仕事を早退した。
「アグネスタキオンめ…何を考えている」
学年としては私と同じで、デビュー順で言えば後輩。問題児としてトレセンで有名だった彼奴だが、彼の死後はトレーナー代理としてチームを率い、最後の世代であるトウカイテイオーを無事に走り切らせた。*1
そのアグネスタキオンが、トップニュースとして全国の茶の間にその名前を馳せた。学生時代以来実に十数年ぶりになるそれだが、内容はあの頃とは全く違った。
元『スパルタン』、トップウマ娘アグネスタキオン。新生横七の国防軍基地襲撃に関与で逃走中。他にも多くの事件に関係が!?
朝の支度をする際にルーティーンとして付けていたニュース番組から流れて来た衝撃の内容。昨日の国防軍基地を新生横七が攻撃した事件に彼奴が関与していると知り、度肝を抜かれた。それから今日は調子を大きく乱し、仕事中もらしくないミスをした。マスコミが集まってフラッシュを焚かれないことだけが不幸中の幸いだった。
「ダメだ、これでは」
まだ昼過ぎで定時までにはまだ時間があるにも関わらず既に集まっていたマスコミを避けるため、裏口から建物を出て無理を言って立ち入り禁止にしてもらい隠していた車に乗る。シートベルトを着用してエンジンを起動しようという時だった。
「動くな。エンジンを付けず、カバンをこちらに渡せ。ドライブレコーダーも車の非常用通報装置も切ってある」
「貴様…」
車の中に入り込んでいた人物にため込まれていた怒りが頂点になり、爆発する。
「アグネスタキオン!! 貴様、何をやっている!!」
車内用ミラーに映る後部座席に座っていたのは、再び世間でその名を轟かせたアグネスタキオンだった。
「静かにしてくれ!! 私だって理由があって動いているんだ。今私がここにいるのは、君の助けを借りたいからなんだよ」
「私の助け?」
「そ、そうだ。取り敢えず聞いておくれよー」
沈黙する。そうだ。アグネスタキオンは問題児だが、愉快犯ではない。チームの解散式のときに初めて聞いたように、脚が脆い体質でそれを改善するために研究と称した問題行動を行っていた。三つ子の魂百までと言うんだ。今もそれは変わらないはず。何らかの行動は、聞いてからでも遅くない。
「君は、シエラレオネ神話について知っているかい?」
「なにをたわけたことを…」
「その中には、『神の復活』という章がある。私はそれでトレーナー君が生き返ると考えている」
「な…、貴様はそんな御伽噺を信じてあんなことを…」
大昔の話を信じて本気で実行するなんて、海の底に竜宮城があると信じて海底探査に行くのと同じこと。そんなバ鹿げた話があるものかと激昂しそうになるが、アグネスタキオンはそれを「この話の正当性については、後で詳しく話す」と差し、話を続ける。
「私はメジロ家の仲介もあってトレーナー君の復活を志す新生横七に加入し任務を果たした。そこでこれを手に入れた」
「USBのメモリ?」
「ここには『神の復活』の章の原文、つまるところ石碑に記されている通りの全てが入っている。一昨日までの私はこれを研究していたのだが、その甲斐もあって復活の儀式を知ることが出来た」
「それでは、トレーナーの復活は目前ということか!?」
「そうだ。だがここで私はあることに気付いた」
くしゃくしゃに丸められた紙が投げ渡される。それを広げてみたところ、全文はところどころ間違っていた下手な字と幼稚な単語のドイツ語で書かれていた。第三言語として軽く履修し、それ以来使うこともなく忘れていた私でさえ読めたほどだ。
「新生横七の総帥直筆の指示書だ。内容はロイ・ヴィッフェ・ヒドルフの復活の儀式の方法。詳しくは言わないが、これは誤りだ。これではトレーナー君は復活しない」
「それは…どういう…。貴様が新生に碑文のコピーを送ったなら、向こうも同じものを持っているはずだろ。翻訳も進んでいる今なら、誤った結論を出すとは…」
「それだよ。私もそう思ったさ」
やや含みのある言い回しに、私はある可能性を思いついた。考えれば考えるほど現実味を帯びてくるその可能性に、思わず驚く。
「まさか新生は、トレーナーの復活を初めから考えていない!?」
「その通りさ。新生の総帥は子供でね、世界が自分の物だと本気で思い込んでいるのさ。だからその障害になる横七の提督を蘇らせようなんて、考えているわけが無かったのさ」
「待て、だが貴様は、新生に入ったのはメジロ家の仲介があってのことだと…」
「ああ。だから…だからこそ私は、罪を背負わされたのさ。不思議に思わなかったのかい? ただのウマ娘である私が、なぜ襲撃に関与したと断定して報じられたのか。防衛省ですらまだ正式な発表はしていないのに、どうして私を関係者として名前を出せたのか」
「まさかだが…」
「そうさ!! 私は売られたんだよ、メジロ家に!!」
大声を上げたアグネスタキオンはその身を乗り出して私を揺さぶる。
「メジロマックイーンは裏切り者だ!! 彼女もまたトレーナー君を完全に抹殺しようとしている!! 私がいたら新生まで利用した計画が破産する、だから私を潰そうとしたんだ!! これを見たまえ!!メジロ家のサーバーにハッキングして調べたところ、私がデータを盗む前からメジロ家には『神の復活』のデータがあった。この意味が分かるかい? 私は何も知らなくても必ず計画を邪魔すると判断されたんだ。私にデータを盗ませたのは前科づくりのため。私を排除するための口実づくりのためさ!!」
鼻と鼻が触れ合うほどに近づいたとき、私はようやく闇に隠れていたアグネスタキオンの顔を見ることができた。
「裏切られるというのは、とても辛いことなんだよ…」
本来であれば白いはずの白目は真っ赤に染まり、目尻は泣き腫らしたことを示すように膨らんでいた。そして幾ら拭いても止まることのなかった涙の軌跡が、ほぼ一日に亙る逃亡生活で汚れた顔に明確な跡を残していた。
当然だ。アグネスタキオンとメジロマックイーンは恐らく、チームが解散した後に最も頻繁にやりとりしていた間柄だった。マンハッタンカフェの店に訪れる回数よりも、メジロ家に研究資金を無心することの方が多いといつぞやの同窓会で零していたのだから、必然だ。そんなパトロンと科学者たちの、先輩後輩という学園での関係は、きっとどこかで生きていたはずだ。そのおよそ二十年にも及ぶ関係が、裏切りと言う形で終わったのだ。
悲しみに暮れていたアグネスタキオンがいたという事実。しかし私は、アグネスタキオンというウマ娘が立ち直らない軟弱者ではないことを知っている。
「今、新生とメジロはトレーナー君を完全に葬り去るために動いている。私はそれを良しとしない。君もそうだろ?」
「勿論だ」
狂気の炎が、彼女の目の奥底で燃え滾っている。。
「周知のとおり私は新生とメジロとXCOMと日本国に追われている。しかしそれでもやらなければならないことがある。協力したまえ、同じ
その炎が、また一人、別のウマ娘に火をつけた。
別の世界線ではメジロ家に兵員輸送車を突っ込ませて最終的には当主様が大発狂するような裏切りをしたアグネスタキオンがいるらしい。