前回までのあらすじ
新生横七にメジロ家、XCOMなど、立ち向かうには強大な敵を前に、二人は誰一人として横七消滅後立ち入った者はいない府中郊外にあるトレーナーの邸宅兼横七の日本支部に行く。そこには、かつてトレーナーと共に行動した三人のスパルタン、アリス、ダグラス、ジェロームがいた。
事を行うには十分な戦力を得た二人だったが、喜ぶのも束の間、スパルタン『アリス』から買い物をするよう言われた。
「あなたに買ってきてもらいたいものは、このリストに」
買い物に行くため、変装をした私たちに話しかけて来たのは、同じく変装をしたアリス君だった。私やグルーヴ君が瞬きも口呼吸も、加えて言えば汗もかける変装マスクで顔を変え、髪も変え、ボイスチェンジャーで声を変えた一方で、アリス君はそもそもの背丈がかなり縮んでいた。スパルタンの平均が2m弱だったはずだが、今のアリス君は1.5m程だ。
リストにはそこらへんのスーパーや雑貨店で買えるもので、その成分から考察するに、おそらくはハンドメイドの危険物を作るのだろう。スパルタンには知識があるだろうし、設備も
「だが、私には使えるお金が無いんだ。現金は逃亡生活中に使い切ってしまった。口座もクレカも監視されている。小切手なんて以ての外だ」
「私も、タキオンと共に行動する様子が見られていたら、足のつく支払いは出来ない。どうする」
「それなら問題ありません。こちらを」
与えられたのは免許証、大手カード会社のクレジットカードが複数枚、そして現金が二人合わせて20万弱。カードの契約者名と免許証の名前は同一だし、写真は変装マスクの顔と同じだ。
「用意周到、だね」
「必要であれば保険証や住民票も渡しまずが…」
「要らないよ」
「分かりました。別の出入り口に案内しますから、付いてきてください」
エレベーターを降りた先には、4人乗りの車両が複数連結されてたモノレールが待機していた。
邸宅地下をモノレールで移動する間、渡された偽の身分の生年月日と名前を覚える。本来の私とは歳は違うが、それでも成人している。アルコール類や煙草は問題なく買える。車も、レンタルすることが出来る。
「ここが出入り口です。あなたたちはこの先から外に出て用意された車に乗り、買い物を済ませたらまたここから戻ってきてください。いいですね? フォーオンフォー*1」
「任せたまえ。そうだろ? 二―ディーギャル*2」
「ああ。不足はない」
「無事を祈っています」
モノレールを降り、エレベーターに乗る。上がった先は…。
「なんだ、ここは?」
「見たところ、民家のクローゼットのようだね」
たくさんの服がハンガーラックに掛けられた防虫剤の臭いが強いクローゼットだった。
「なるほど、ここも横七ということか」
「引っ越す前の家の区画も、全て横七の物だったらしいからな。つまりはここ一帯はゴーストタウンか」
「早速車に乗ろう。ガレージはこっちだ」
清掃が行き届き、それでいてまだ乾いていない使いかけの塗料缶と新品未開封の塗料缶やオイル缶が棚に並んでいるガレージには、大手自動車メーカーである佐藤の四人乗りの車があった。流石にもう整備が表側ではされていない横七自動車の車は出さないようだ。
「運転を頼めるかい? 自動車免許は取ってはいるが、ずっとバイクでね。
「そんなところだと思っていたさ」
助手席に乗り込み、二―ディー君がエンジンを掛けたら直ぐにUHKのニュースを見る。私の捜査状況がどう報道されているのかが気になったからだ。
番組はどうやら生中継のようで、リポーターたちは空港にいた。どうやら何かを待っているようだ。テロップも『あの大物が続々来日』としか書いていない。こういったドラマの煽るような文言をニュースでは使わないでほしいが、それを思ったところでどうしようもない。ただ画面に噛り付く。
「ほう…ジェントルマン・ジョニーXCOM司令官か」
「近くにグラスワンダーはいるのか? 隊長の彼奴もいるはずだが」
わき見運転を出来ない二―ディー君が私に頼み込んでくるが、該当する人物は見当たらない。しかしそれとは別に驚くべき人物を発見した。
「なッ、メジロマックイーン!?」
「今はドイツで経済会議に出席しにいたはずだ!? それを欠席して緊急帰国したのか!?」
「それよりも重要なのは、同じ空港にその二人がいることだ。メジロ家と新生の繋がりをXCOMが捉えているかは分からないが、私のことをタレコミしたのは彼女だ。その二人が同じ場所にいるということは…」
「事前に発表された共同声明によりますと、XCOMとメジロ家は新生横七に協力していたアグネスタキオン元選手逮捕のため、一致団結してことに当たるとのことです。そのためXCOMは作戦指揮をメジロ家と共有するため、午後からメジロ家本邸に移動し、本格的に活動を始めるとのことです」
「おいおい、冗談じゃないぞ。これでは一対三じゃないか」
「それどころかこの動きを警察が止めない時点で一対四だ。スパルタンがいるとはいえ、かなり不利だぞ」
「詳しい作戦は後でアリス君に聞こう。今は買い物だ。一つでも落とさないようにしないと」
リストを見る。ハンドメイドに必要な物以外にも、カモフラージュのための食料品や生活雑貨があった。これらは多少は買い忘れてもいいのかもしれないが、首都圏で極悪犯が逃亡中の今、少しでも不審がられることはするべきではないだろう。
「着いたぞ。手分けして当たろう。こっちのリストは私が買ってくるから、貴様はそっちを」
「ふむ…となると私が行くのは百均や電機屋だね」
「生鮮食品を持ってそんなところに行くたわけがどこにいる。買い物が終わったら連絡を入れろ」
「分かったよ」
――
「二―ディー君。買うものは買ったよ。君の方はどうだい?」
「レジが混んでいる。しばらくかかるから、少し時間をくれ」
「分かった。一番車に近い出入り口の休憩スペースにいるから、声を掛けてくれ」
自販機で買った紅茶ボトルをベンチに腰掛けながら満喫する。味は改善されたかもしれないが、それでも自分で茶葉から淹れたものには遠く及ばない。しかし必要な道具は全て研究室に置いてきてしまっているのだから諦めるしかない。
そう思い悩んでいると、隣に誰かが据わった。ウマ娘だが二―ディー君ではない。
「一週間後の深夜零時…」
私にしか聞こえない程度の声量でそう呟く青鹿毛のウマ娘。マスクと帽子で顔は分からないが、その声色で誰か分かった。
「グラスワンダーッ!?」
本来であればメジロ家にいるはずの彼女が今、私と同じように変装をして隣に座っていた。
「新生横七はあなたが滞在しているトレーナーさんの邸宅である府中郊外の横七支部に討ち入りを行います。ですがそれは足止め。本命はトレセン学園にいるトレーナーさんの抹殺です。しかし私たちXCOMは陽動部隊に対処するため、学園に到達するのが遅れます」
「君は…」
「私は新生に手を貸したあなたが嫌いです。ですが同時に、偉大なる先輩として、あなたのことを信頼しています」
「トレーナーさんのこと、任せました」
そう言い切ったグラス君は、こちらに目をくれずに去っていった。それならばと、こちらも彼女だけにしか聞こえない程度の愚痴をこぼす
「君も彼と同じで不器用だね。だがまだ君の方がましさ。彼はどんな問題も自分だけで解決しようとする。私たちは一体何が起こっていたのか、最新の情報を知ることが出来なかった。私たちが彼を助けようとしても、彼は決して求めなかった。内心では隣で戦ってくれる
「同意です」
風のように私の耳を通り抜けていったその声は、グラス君の言葉だったかもしれない。ただ背中しか見えないため、それは別の客の声だったかもしれない。そうさ、ここはショッピングモール、一日に何百何千という人が出入りする場所。偶然席を共有した人間のことなんて、数秒後には忘れている。
「フォー、遅くなって済まない」
「大丈夫さ二―ディー君。用事も済んだことだし、帰ろうか」
「そうだな。買って終わりではない。準備することも多い」
X-DAYは一週間後。そのときにどうするかを、話し合わなければ。