男がほとんどいない世界に来(てしまっ)たロイ   作:ロイ1世

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前回 NO あらすじ

アグネスタキオンを売ったメジロマックイーンの真の狙い、それは残党横七が計画した初期の『76』を完遂させるため、愛するトレーナーであるロイを討つことだった。

出撃する新生の部隊を見ながら、彼女自身もまた愛する人の最期を看取るため、重装備に身を包んでその場に臨む。


卑怯者共

「5つ数えて0になったらぶっ放すぞ」

「了解、5、4、3、2、1、ぜr」

「撃ちかた始め!!」

 

 府中郊外の閑静な住宅街に出現した30輌にも及ぶ装甲車の集団。それらは新生のスポンサーが新生の為だけに用意した特別な装甲車で、砲の規格は12.7mm、必要な人員は運転手と砲撃手と通信手を兼ねる車長の二人のみで、しかも作業量も機械の補助によって削減されており、やろうと思えば一人で全てこなせる、頭数を平和な日本に揃えることが難しい新生横七にとっては最高の兵器だった。

 

 そんな車両軍団がその矛先を向けるのは、府中郊外に聳え立つ巨大な中世ヨーロッパの城郭都市を彷彿とさせる建造物群。横七の防備によって侵入者を拒んできたそれを、今日、完全に撃ち滅ぼそうとしていた。

 

 20輌の軍団による40秒に及ぶ一斉射撃。計8000発の弾丸が発射され、否応なしに壁は穴だらけになる。搭乗員の経験則から出た答えだったが、相手はいつもの同類(横七の後継者を自称する者たち)ではない。ORIGIN(横七)なのだ。

 

「…全く壊れていないな」

「こっちもだ。確認した箇所で、破壊できた地点はない」

「正面から壊して入城できないならプランBだ。空気を入れて風船を膨らませろ。壁を越えるぞ」

 

 時間と弾だけを無駄に消費してXCOMと対決することになると判断した軍団長は、事前に聞かされていた車両の機能である気球を膨らませる。エアバックと同じ要領で即座に膨らんだ風船4つを車両の四隅から出現する。車長はそれを確認すると、風船に入れる空気とガスの量を微調節して車両を傾かせ、壁へと進む。

 

「見えた。衛星写真通りだ」

 

 壁の上に出た車両の中から頭を出した車長は、事前に見せられた資料と実物が同じであることを確認すると、命令にあった優先して破壊する建物がどの建物かを判断する。

 

「あれが本棟か。的がデカくて助かるが、角度がな…」

 

 仕事のやりやすさに喜んで再び車内に戻り、風船を徐々に萎ませてタイヤを陸地に着ける。

 

「よーし、全車照準」

 

 軍団長の号令に合わせて、本棟を囲むように着地した車両群がその銃口を向ける。

 

「ぶっ殺せ!!」

 

 その一言の後、閑静な住宅街は再び銃声が轟くヘビメタのライブ会場となった。銃弾が壁に当たって貫通するときもあれば、弾かれて跳弾になり予想外の方向へ飛んでいくこともある。だがそれらを一切気にすることのない軍団の一斉掃射は、銃身が熱による融解を避けるために設定されていた安全装置が作動するまで続いた。

 

「へ、流石にここまでやりゃーな」

「3から9号車の車長は降車して建物を調べろ。死体を探すぞ」

「残ってるのか? 大方、ミンチになって瓦礫と一緒に埋まってるだろ」

「それならそのミンチ肉を探してこい、これは命令だ」

 

 通信機から嫌そうな声で返事が来るのを聞き流しながら与えられた命令を実行する軍団長は、車両から出て来た軽装備の車長たちを見ながら、内通者を介して壁の外を見張る。女二人(アグネスタキオンとエアグルーヴ)の排除には過剰すぎるこの戦力はあくまでも、XCOMの陽動のために与えられている。残弾も、死体を探す時間を作るためにかなり使ったが、少数精鋭の4から6人で構成されるXCOMを相手にするなら十分。

 

「そろそろ来る頃だが…」

 

 輸送貨物の荷台や一度分解して現地で再度組み直すなどして揃えた車両部隊が姿を現してから、既に三時間は経った。メジロ家と共同戦線を張っているXCOMは国内にいるため、既にこの地域に到着していてもおかしくない。だが銃声もしなければ内通者からの報告もない。そのことに軍団長は不思議な違和感を感じていた。

 

「XCOMが私たちの出現に知らぬ存ぜぬで通すはずがない。あんだけ大胆に来日したんだ、出てくるはず。どこだ。どこからだ」

 

 壁が破壊できないことは私たちが身を以って証明した。となると空から壁を越えるしかないのだが、機影はない。かといって地下から来るかと考えても、横七なら地下に大要塞を築いているだろうから、穴掘りも出来ない。

 

「ん? 流星?」

 

 雲一つない新月の夜に、幾つかの火の玉が空を過った。

 

「流星群が近々通過するなんてニュース、無かったぞ。まさか…」

 

 頭に思い浮かんだ悪い予想は、的中した。

 

 流星群が徐々に角度を変えていき、この地域の上空で燃え尽きるようになると、大量の流星群…いや、軌道上にあるXCOMの衛星から発射された質量兵器が車両軍団を襲った。

 

「こちら12号車ッ!! 13号が流星にやられた!!」

「3号車運転手です、外の様子が分かりません!! 指示を!?」

「に、20号車は火に囲まれて…ふ、降って来た!?」

「卑怯者共めッ!!」

 

 キューポラから頭を出して空の様子を見ながら、運転手に落下してくる流星の軌道を伝え回避させる。パニックに陥っていない他の車両も軍団長の車を真似て回避行動をしだすと、流星群はその数を減らし、攻撃をやめた。

 

「卑怯すぎるぜXCOM。だがそんな軌道の読める攻撃、当たるわけがないだろ。現に車長のいなかった車両と冷静に判断できなかった車両以外は無事なんだから、陣形を崩す以外にできたことはなにも…」

 

 そこまで言って、軍団長はようやくXCOMの狙いに気付いた。

 

「全員対空戦闘用意!! XCOMの輸送機が来るぞ!!」

 

 本棟から離れたところにある壁を見てみれば、既にXCOMの輸送機が機体を壁に横付けして、隊員たちを降ろしていた。だがそれだけじゃない。

 

「どうなっているんだ? レーダーが壊れちまったのか?」

 

 統計上、XCOMは一度の作戦に投入する戦力は多くても6人。輸送機で作戦エリアに部隊を送り、目的を達成すれば輸送機が再度作戦エリアに進入して回収する。そのはずだった。

 

「数が10機、単純計算で10×6で60人も投入したのかよ…」

「こちら7号車長!! 建物内を捜索したが人っ子一人、血肉一片たりとも見つけられなかった!! ターゲットは建物内にいない!! 繰り返す、ターゲットは既に逃走し敷地外にいる可能性が高い!!」

「はぁ?」

 

 スポンサーが撮った衛星写真で人がこの建物に入ったことは分かっていた。入って以降、外には出ていない。事実、エアグルーヴの名義で登録してある車は外に放置されていた。きっと建物の掌握に時間が掛かっているのだろうと聞かされていた軍団長は、自分たちが単なる囮であり、しかも逃げることも叶わないと遠くにある僅かに光ったスコープの数から理解する。

 

 ヘルメットを外してキューポラから両手を出す。指が手から分離させられていないことを確認すると、今度はヘルメットで蒸れていたウマ耳、次いで頭と少しずつ車内から外へと体の露出面積を増やす。

 

 大きく堕ちた後、メジロ家に一度救われ再度地の底にまで堕ちた軍団長は、同じく車両から頭を出した運転手の顔が真っ赤に染まり、フラフラしていたこと、そして人間よりも優れているウマ娘の鼻がアルコールの匂いを嗅ぎつけた。

 

「前払金、もう少し豪勢に使うべきだったな」




軍団長 
メジロ家の黒服だったウマ娘 かつての経歴から新生に出向して戦闘指揮を行っていた。XCOMに逮捕されて収監された後、獄中であの大量の前払金は自分を新生の戦力を潰すための生贄にしたことに対するメジロ家なりの贖罪だったのではと気付く。世界線も、あるかもしれない。
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