時は昭和16年の師走、最新鋭の陽炎型駆逐艦二十番艦として建造された駆逐艦「潮風」は、連合艦隊の艨艟が集う択捉島単冠湾に居た。寒空の下、鋼鉄の城に掲げられた旭日が靡く。冷たい風がビュウビュウと吹く中、揺れる「潮風」の甲板に佇む男が一人。
「いよいよこの時が来たか…」
この男は「潮風」水雷長 木村貴志。港町で生まれた生粋のシーマンであり、大の酒好き、それ故に中尉を四年続けるという伝説を作り上げた。しかし魚雷戦となれば艦長より頼りになると言われる水雷屋だった。
「水雷長、艦内に戻れ。今、司令部より出撃命令が出た。まぁ当分は、出番が無いであろうし、魚雷でも磨いておけ。」
髭を蓄えた、やけにガタイのいいこの男は「潮風」艦長の田村正剛中佐。先日、戦艦「扶桑」から転任してきたばかりで士官との交流を深めようと必死であった。
「艦長、もう二百は磨いてますよ。早く敵の戦艦にぶち込んでやりたいもんです。」
「ハッハッ、ならば早く貴様の獲物を見つけてやらんとな。さぁ中に入れ、もうすぐ空母らも動く。」
士官室に入り、遅めの昼食を摂った。しばらくし、艦内に艦長の声が響き渡る。
「諸君、艦長の田村だ。何故こんな寒い所に栄光の連合艦隊が勢揃いしているのか…優秀な諸君らには分かるだろうが、祖国日本は今、未曾有の危機に陥っている。今から始まる戦争はこの危機から祖国を救うための聖戦となるのだ。そこで諸君らの腕が必要となる。どうか、日本のために一肌脱いでもらいたい。」
「長くなってしまったが、最後に先の英雄の言葉を諸君らに伝える。」
「皇国の興廃、この一戦にあり。各員一層奮励努力せよ!」
艦内から歓声が湧き上がった。駆逐艦「潮風」の士気は一気に上がり、まるで艦が踊っているかのようだ。
「出港よーい!」
「抜錨!機関微速前進!」
ついに艦が動き出した。それにつられ、空母「赤城」「加賀」戦艦「比叡」「霧島」といった巨艦らも前進する。観艦式のような軍楽隊の賑やかな行進曲は無いが、この光景だけでも見る者を魅力する。駆逐艦には無い、黄金色の菊の花が空母や戦艦のイカつい灰色の船体に映える。次第に大型艦らが白波を蹴るようになり、「潮風」も大きく揺れ始める。やがて、旗艦の「赤城」を先頭に艦隊は単縦陣を組むことになった。
「潮風」はネームシップである駆逐艦「陽炎」の後ろに付いた。道のりは険しく、波が異常に大きい。シールドがある魚雷発射管はまだマシだが、露出している旗甲板等は地獄だろう。艦橋が無事である事を祈りつつ、家族との思い出に酔いしれるのだ。
駆逐艦潮風の艦生は、まだ始まったばかりである。
小説の大体のイメージは付きましたか?この世界は現実と同じで恐慌や満州事変といった出来事を踏み、ついに戦争を始めるという感じになっています。余談なのですが、作者は飽きっぽく、投げ出してしまう可能性がありますのでご了承願います。次回はついに開戦します。でも駆逐艦なのでトンボ釣りになるかも…?