呪術廻戦に酒呑童子   作:アークナイツと東方にドはまり

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やっと酒呑童子がでます


酒呑童子

□月□日

 

京都へ向かって、旅に出た

 

ポケットには祖父のヘソクリ約10万円

 

持ち物は服だけで、移動手段はこの足のみ

 

順調にたどり着いたとしても10日ぐらいはかかる

 

『A...aa...aiA...』

 

気を抜けば頭を満たす呪いの声

 

「…急ごう」

 

周りが畑だらけの田舎道

 

人のいない寂れた道路

 

都会の裏街道

 

俺は初めて、気のままに走り始めた。

 

 

□月ーー

 

呪霊を祓う、

 

見回りが出来ない場所に、俺の呪力を残しておくわけには行かない、

 

放置すればここに呪霊が集まってくる。

 

溶けた呪霊ごと呪力を吸収

 

「…おぇ…」

 

定期的に訪れる吐き気

 

身体の拒否反応だろうか、嫌な汗をかく

 

「…温泉…見つかるといいなぁ」

 

気を紛らわすために言ったこの言葉は正当なものだと思いたい

 

 

□月ーー

 

朝食としてコンビニ飯をかっ喰らう。

 

金を無駄遣いしないためにもおにぎりのみ。

 

呪霊を祓うための体力が必要だから飯を抜くことはないが…

 

「さぁさぁ皆さん!どうですか~、ーー産ご当地グルメっ!○○だよぉ~♪」

 

どうもこの世界は俺の腹を減らすのが得意らしい。

 

こちとら四歳児の肉体、欲求には誰よりも忠実なのだ。

 

しかし、現実は厳しい。

 

少ない手持ちの金、念のためにと残そうと働く理性

 

行き場のない怒りは、人気のない道に入ると出てくる呪霊へと向けられた。

 

「…不味い…」

 

吸収して身に感じるのは、胃を刺激する異物感

 

実際に味がするわけではないが、込み上げる吐き気から美味しいものではないとは理解した。

 

「はぁ…」

 

諦めからのため息

 

もう前に進むしかない、

 

擦れた靴が鳴らす砂利の音

 

「…イラつく…」

 

口から出たのは無意識の言葉だった

 

 

 

□月ーー

 

夜、橋の下で野宿していたら見回りの警察に見つかりそうになった

 

なんとか事前に気づき、その場から逃げ出したからよかったものの、やっぱり日本の警察は優秀だ。

 

遠巻きに観察していたら、俺の足跡に気づいている様子だった

 

子供の足跡だからか警官は大騒ぎ

 

これは…これから寝床も気にしなくてはいけない様子

 

「…つくづくこの世界は…」

 

溢れた言葉は恨みか怒りか

 

俺はその場を後にした

 

 

□月ーー

 

呪霊を祓った

呪霊を取り込んだ

それを繰り返さなきゃいけなかった

 

他人に気を付けた

怪しまれちゃ駄目だった

傷つけたら駄目だったから

 

『ーーー』

 

頭が痛い

目が重い

身体が鈍い

 

『ーーー』

 

…呪いが大きくなっているのだけが分かる。

 

今まで単調な声だったのに、今では渦のように頭を侵食してくる

 

吐き気だけが増していく。

 

「…行かないと」

 

しかし、止まれない。

 

目的を果たすために、もう俺には時間がない。

 

痛む頭を抑えながら、俺は前に進み始める。

 

それしか、俺には出来なかったから

 

 

□月ーー

 

それは旅に出て約数日が経った頃のこと

 

「…頭、痛い…」

 

俺の身体はそろそろ限界に近くなっていた。

一応、呪力はあれど肉体は四歳児

休憩中に寝て頭も一緒に休んではいたが、不眠不休の活動に気絶しそうなぐらい眠気が押し寄せていた。

 

「…寝れるとこ、行かないと…」

 

俺は寝るために人の来なさそうな廃墟へと立ち寄る

 

呪霊がいないか気配を探り、安全と分かり次第、警察がきても逃げられるような場所を探す

 

探索の末、埃はあるが割れたガラスや尖った石がない二階のとある部屋を発見した。

 

ここなら安心だ、

 

眠気が強く熟考は出来ないが直感を頼りに安全を計る。

 

「…っ」

 

後は呪霊を誘き寄せるであろう溢れでる俺の呪力をどうにかするだけ。

 

内に貯めるのであれば呪霊の心配はないが、俺の呪力は思いの丈次第で勝手に増える。

 

発散が出来ていない俺では、弁を塞いでも溢れでることだろう。

 

「…駄目、だ…頭が…もう、働かない…」

 

どうにかしようと思案するが、安心を得たために眠気が脳を支配する

 

身体が倒れた時点でもう難しいことはなにも考えられない。

 

「…今日だけは…これで…い…ぃ…」

 

目蓋を閉じるまでの数秒間

 

俺は身体にある呪力の弁を開け、呪力の回路の効果を呪霊だけが効く毒性の強化に設定

 

「おやすみ…なさい…」

 

気絶するように、俺は意識を手放した

 

 

□月ーー

 

朝、目が覚めると…

 

「あ、起きた」

「…っ?!」

 

目の前に小学2,3年生ぐらいの少女が俺の顔を覗き込んでいた。

 

その少女の名は『津美紀』

 

どうやら家が近くらしく、散歩がてらここに寄ったら俺を見つけたとのことだった。

 

「ねぇ、貴方はなんでここで寝ていたの?」

「え…え、えっと…」

 

流石は子供ながらの好奇心

飛び起きた俺は寝起きのせいか頭が働かず挙動不審に

 

「教えて?」

 

しかしその一瞬の油断が、彼女に俺の手を取らせてしまった

 

「…っ、触らないでくださいっ!」

 

今だ甦るトラウマ、彼女の安全のため、俺は彼女を振り払う

振り払った後になって、悲しませたのではないか、そう思考が生まれた。

 

しかし、彼女の表情に見ると落ち込んだ様子はない

 

それどころか、柔らかな笑みを浮かべ、穏やかな声を尋ねて来た

 

「お名前は?」

「…蛍、です」

 

母さんに似ていたその声音に俺は逆らえなかった。

 

「聞いてもいい?蛍はなんでここで寝ていたの?」

 

答えるべきか、黙るべきか、逃げ出すべきか

 

実際のところ答えない理由はない

 

答えたところで困ることもない

 

「…ひ、一人旅をしてて、疲れて、ここで休んでました」

 

だからと言って正直に答えた自分には驚いた

警戒心があるのに口が溶かされような気分だ。

 

「一人旅?女の子が?その年で?」

 

恐らくその年でって言うのは、見た目から判断される年齢のことを言っているのだろう

なぜか性別を間違えられているが、その他の内容に一切間違いない。

 

俺は迷いなく、頷いた

 

「へぇ~…」

 

津美紀と言う名の少女は、俺の足先から頭の天辺まで流しみる。

なにかを確認するように観察してくる、

 

「頑張ったんだ…凄いねぇ~~~!」ワシャワシャワシャッ

 

一通り見終わると嬉しそうな笑顔になったかと思えば、突然俺の頭を撫でてきた。

乱暴だが優しい手付きでぐちゃぐちゃにされる髪の毛

 

「…」

 

突然のことで動けなかった

 

懐かしい想いに胸が熱くなった

 

無意識に体がはね除けるのを拒んでいた

 

「おりゃおりゃおりゃ~~~♪」

 

恐らく今の俺は、それはもうすっとんきょうな顔になっていることだろう

 

さっきまで警戒心全開だったのに急な全身の脱力

 

改めて考えれば取るに足らないことなのに、この時の俺にとっては一番欲して止まないものだった

 

「おりゃおりゃおりゃぁぁぁ......って、あ、嫌だった?」

 

温もりが終わりを告げる。

正常な判断を取り戻した俺は、咄嗟に彼女と距離を取った。

運良く大丈夫だったものの、いつ俺の呪力に当てられるか分かったものじゃない。

彼女の安全を確保するために、距離を取った

 

(早く離れないと…っ!)

 

しかしその行動が、彼女に申し訳なさそうな表情をさせる

 

「あー、ごめんね?弟と同じ接し方しちゃったみたい」

 

彼女の性格的にあまり気にはしないだろうが、心優しい彼女を傷つけたことに罪悪感がわく。

ゴメンと謝りたくなる。

 

「駄目だねぇ~私、可愛いものをみるとつい愛でたくなっちゃうんだ。

弟にも可愛いからって猫とか拾ってくるなって前に怒鳴られたこともあって」

 

少女が初めて見せる反省の顔。

俺は咄嗟にそんなことないっ!と口を開こうとした

 

『お~いっ!津美紀ぃーーー!どこだぁーーー!』

 

が、外から響く声に、その言葉は喉で詰まった。

喉から先へと、出ることはなかった。

 

「あ、噂をすれば」

 

代わりに彼女が窓から外へと身を乗り出した。

 

「恵ぃ!ここだよぉーーー!」

 

完璧に視線は俺から外れる

 

それどころか背が向けられる。

 

今ならここからバレずに離脱できることだろう

 

(彼女には大切に思ってくれる人がいる…)

 

となれば俺が取る行動は一つ

 

「…有り難う」ボソッ

 

俺は静かにその場から消えた。

 

 

 

「なんでそんなとこいんだよ...飯出来たぞ!早く帰ってこい!」

「うん、わかったー!今行くぅー!あ、蛍も…ってあれ?」

「ん?どうしたーーー?」

「……いやー!なんでもないぃーー!今降りるねぇー!」

 

 

「また会えるよね、蛍」

 

 

 

□月ーー

 

…分かった気がする

 

俺がなんでこのひとり旅に出たのか、その理由が。

 

元々はこの呪いが裏返ることを期待して飛び出したのは間違いない。

 

母さんのように、人を呪わずして生きれると思ったから足を出したのは本当だ。

 

でも呪霊を払いつづけて今、俺にはこの疑問が沸き上がっていた、

 

『人を呪ってはいけないのか?』

 

頭では分かっているんだ、この問いに正当はないことを。

ただ、俺が人として、感情に任せその縛りを課していることを、

呪霊と自分を比較して、俺の人としての部分を少しでも守ろうとしていることを。

 

しかし、いつしかその『人の境界線』は崩れかけていた

 

俺が悪いとはいえ、俺を害する人間と接し続けて、その基準が崩れかけていたんだ。

 

つまり、そいつらを人としてみるべきなのか分からなくなっていた

 

沸き上がった感情はただ一つ

 

 

『人間の皮を被った化け物なら呪い殺してもいい』

 

 

けど、理性はそれを抑止した

前世により得た常識が阻止した、

外道に落ちることを無意識に理解した

 

何もかもが中途半端で、外と内で渦巻くからこそ逃げ場のない呪いの声

 

断言していい、俺は『壊れかけていた』

 

でも前日、久々に人の優しさに触れた。

人の温もりに触れることが出来た。

人としての幸福を思い出した。

 

母が俺に注いでくれた愛を思い出した

 

そうだ...俺は、人が好きなんだ。

 

人の優しさを愛しているんだ。

 

人の温もりを感じていたいんだ。

 

物語の主人公のように、誰かのために生きてみたいんだ!

 

まだ俺は何一つ変わってない

呪いの声は消えてない、

何も精算出来ていない、

 

でも、俺の決意は固まった

 

それでも俺は生きると決めた

 

ならば...

 

行こう……現状を変えたいから

 

進もう……自分を信じていたいから

 

走ろう……誰も呪いたくないから

 

山を越えた

 

遠回りをした

 

阻む呪霊を祓った

 

そうしてついに、俺は京都へとたどり着いた

 

 

 

□月☆日

 

五歳の誕生日

 

俺は今日、大江山を登る

 

特級呪物『神便鬼毒酒』を得るために

 

たしかな情報はない、あるのは一年前に会った胡散臭い男の口先の言葉だけ

 

何処にあるかも分からない、それどころかこの山には俺の第六感が危険だと告げるほどの寒気を感じる

 

仮に見つけられたとして上手く行く保証はない、しかし可能性があるならば俺はそれに掛けるしかない

 

『ーーー』

 

恐らくだが、俺はもって後一週間

 

それ以内に自分の中で増えていく禍々しい呪力をどうにかしないと、呪力の声に俺の精神は支配される

 

確証はなくても、もう俺に他の選択肢はない

 

恐怖はある、不安はある、死ぬ覚悟なんて全く出来ていない。

 

だが行かなくてはならない、生きるために進まなくちゃならない、全てを変えるために決意しなくちゃならない

 

俺は大江山へと、足を踏み入れた

 

・・・

・・

 

「…」

 

登山コースから外れた薄暗い木々の中

 

俺は枯れ木や落ち葉を踏みしめて進んでいた

 

「…多分、こっち、かな?」

 

道のりは直感頼り

 

正直、こんなんじゃ見つけられないだろと不安があるが、何となくこの選択は間違っていないと理解できる。

 

気配と言えば分かりやすいだろうか?

 

なぜなら肌を撫でる微かな呪いが、俺を『こっちに来い』と誘ってくるのだ

 

「はぁ、はぁ、はぁ、」

 

山の奥に進むにつれ、息苦しくなるこの感覚

そして、阻まれるかのように重くなる足

 

「…怖い…」

 

纏わりつくような恐怖は、俺にこれ以上は危険だと告げていた。

 

逆立つ鳥肌が感覚を鋭敏にして生存本能を刺激する

 

そして同時に…

 

「…進めない?」

 

見えない壁にも阻まれた

 

「帳、か」

 

恐らくこれは呪術師が用意した特級呪物を盗まれないための対策

 

俺みたいなやつを通さないバリア

 

「ごめんなさい...僕は行かなきゃいけないんですっ」

 

呪力を体に纏い、敬意をもって帳へと体当たり

 

俺が通る分だけの穴を開ければ最小限の被害で済む。

冷や汗をかきながら毒性を強化して、帳へと突進した。

 

「ぐ…っ!」

 

電流が流れてくるかのように痺れる体。

しかし、前に進めているからこそ、この選択は有効だったとわかる、

 

痛みには慣れている

 

苦しみなら慣れている

 

「ア"アァァァァァァッ!!」

 

抜けれた、そう喜ぶのもつかの間

 

帳を越える前とは比較にならない程の寒気に襲われた

 

…わかる、意識的に理解できる、このまま進んで無事で済むわけがないっ!

 

でも、それでも進む足

 

信じた道を裏切りたくない一心で進んでしまう足

 

呪霊に1匹も出くわさず、俺はとある洞窟へとたどり着いた

 

「…ここだ…」

 

人為的な洞窟の壁

 

奥に感じる異様な気配

 

目的のものがここにあると確信した、

 

さぁ、中へと入ろう

 

しかし、バチンっと言う音と共に、前のやつよりも強固な帳に阻まれた。

 

「…これは…」

 

これほどの帳、この先にありますと告げる変わりに何者も通さないと言う意志が強く感じられた。

 

これは生半可な呪力では突破は難しいと分かる。

 

(術式を使うしかない)

 

俺は呪力を毒に変える際、術式を使わなければない。

 

今までは微弱な毒だったから使う意識なく使えてはいたが、毒としてのレベルが高くなるほど割かなければならない意識は倍増するのが俺の術式だ。

それも人を溶かせるほどの強力な毒となると、意識を最大限その制御に当てなければならなくなる。

 

言い換えれば、全集中しなければ最強の毒は使えないのだ。

 

しかし、過去のトラウマで術式を使うとなると制御が出来なくなる。

 

罪悪感が戻ってきて意識がブレてしまう

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

今ですら、傷つけてしまった人達の苦しむ姿がフラッシュバックして息があがっている

 

「…くそっ」

 

実質、今の俺ではこの帳を越えられないのは明白だった。

 

(諦めるのか?…嫌だ、このまま終わりたくないっ)

 

なんとか術式を使うためにも、思考を整える

 

(ここで立ち止まるか?…嫌だ、ここまできた意味がなくなってしまうっ)

 

フラッシュバックするトラウマを、ただの記憶だと自己暗示する

 

(同じ過ちを繰り返さないためにっ!ここに来たんだろっ!)

 

俺は両手を引く

 

「諦めてっ...たまるかぁぁぁァァァァァァア"ア"ッ!」

 

全身全霊で帳に呪力を当てた。

 

(痛いっ!…痛い痛い痛いっ!!!)

 

強力な帳の作用で手の至る所が割ける。

 

(なんでっ、なんで俺がっ、なんで俺がっ!!!)

 

帳が壊れるまいと強烈な痛みを流してくる。

 

(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だっ!)

 

記憶の全てが人を苦しめたトラウマへ移り変わる。

 

(死にたくないっ死にたくないっ死にたくないっ……生きたいっ!)

 

手がブレる、呪力が揺らぐ、決意に亀裂が入る

 

「だからっ!だからっ!!だからっ!!!」

 

無意識でも涙が久しぶり流れた

痛みから来る死の実感に、生への執着が湧いたのだろう。

 

「このままっ、終われないんだァァァァァァっ!!!」

 

練った呪力は強固になり、帳を破ることが出来た。

 

「はぁっ...はぁっ...はぁっ.... 」

 

その場に足から崩れ落ちる。

 

体力や気力を諸々使いきったせいで体に力が入らない。

 

でも突破した、

 

突破出来た嬉しさに、久しぶりに達成感に浸ることが出来た

 

「…っ!」

 

しかし、それを噛み締める間も無く、奥から漂ってくる呪いの怖さ

とっさに前を向けば、洞窟の奥へと進めというかのごとく、壁の札が淡い光を灯す

 

「…行くしかない」

 

恐らく壁の札は呪術師が用意したものだろうが、呪いへと導く様は不気味が過ぎると言うもの。

 

しかし、光があるなら分かりやすい。

 

力の入らない体を支えるよう壁に手をつきながら、ゆっくりと奥へと足を進めていった。

 

「……」

 

カツ、カツっ、と足音だけが響く洞窟内

 

肌を撫でる呪いが寒気と恐怖を産み出していく

 

しかし、決意をした俺を揺るがすことは叶わない

 

光に導かれるまま進んだ先で…

 

「…瓢箪?」

 

見るからに封印されてますよと言いたげな、栓のされた瓢箪を発見した。

 

「これが神便鬼毒酒…」

 

鼻をくすぐる日本酒の甘美な香り

 

子供の身でありながら涎が出るほどに呑みたいと言う欲求を湧かせるそれは、勘であっても間違いなく神便鬼毒酒だと理解した。

 

俺は欲するままにそれを手に取る

 

「…っ?!」

 

取りあえず香りを嗅ごうと栓を抜くと、瓢箪の中かは高濃度のアルコールの匂いと、気を抜けば気絶するほどの呪いを感じ取った。

 

濃厚な死の香り

 

「これが…特級呪物っ、」

 

飲みたい欲求とは裏腹に、飲めば間違いなく死ぬことが分かってしまった。

 

呼吸を整える。

 

恐怖に飲み込まれないように、精神を整える。

 

「…ここまできたんだ、飲まない選択肢はないっ、」

『ー』

 

今、呪いの声はとてつもなく小さい。

 

呪力を吸収なく発散したことで弱まっているのだろう。

 

ならば、今こそが、呪いに飲まれることなく、神便鬼毒酒を飲む瞬間っ

 

「いただきます」

 

一口でも、瓢箪に口をつけ、呪いを体内へと呑み込んだ

 

『あんたはんも、やってしもうたなぁ~』

 

最後にみたのは幼さそうな少女の笑み

 

俺の意識はそこで切れたのだった

 

 

地鳴りが耳に響く

 

『うるさい…』

 

空気が震えるほどの振動が肌を伝う

 

『誰だ…?暴れてるのは?』

 

思考の発生にあわせて覚醒していく意識

 

『……?俺、寝てたのか?』

 

体が動いている違和感を確かめるために目を覚ます。

 

「…っ?!」

 

すると目の前に、体長約3メートルの呪霊…いや、『鬼』がそこにいた。

 

鬼は俺に向かって手に持つ棍棒を振るってきた

 

「危なっ!?」

 

俺は反射神経任せに、全力でそれを避ける

避けて地面が抉れ、避けて木々がなぎ倒されて、避けて命の危機を身に感じさせられる。

 

一撃でも当たれば俺の体は粉砕されるだろう、

 

しかし避けられるならその心配はない

 

今の間に思考をまとめられる。

 

取りあえず、現状分かることたった二つ、

木々の隙間から刺す月光から、今が夜であることと…

体が宙に浮いていたことから、俺は寝ながらにして鬼の攻撃を避けていたと言うことだけだろう

 

(どういうことだっ!?)

 

頭が疑問で埋め尽くされる。

俺のいる場所は森の中、

見覚えのある気があるため大江山にいるのは間違いないだろうが、俺はあの洞窟からでた覚えがない。

それどころか、こんな鬼とであった覚えすらない。

 

全てが奇怪

 

何かの策略が渦巻いていると思えて仕方ない。

 

『ウォアッ!』

「くそっ!どうなってるんだっ!」

 

しかし、原因を解明するのに回す余裕はない。

今は目の前の鬼が本気で俺を殺しているのだから、まずはこいつをどうかすることが先決だ

 

「っ!毒弾!」

 

俺は指先に呪力を集中し鬼へと発射するが…

 

「っ!?効かないっ!?」

 

当たりはしても俺の毒は溶けず、効くこともなかった。

それどころか、その平然な様子に、俺の作る弱い毒ではこいつは倒せないことが分からされた。

 

となれば、こいつの等級は特級クラス

 

俺が初めて対峙する強さをもった呪霊となる

 

「…ちくしょうっ…」

 

情報不足にもほどがある

 

自分がどんな状態なのか、どうしてこんな状況になったのか、神便鬼毒酒を一口飲んで俺はどうなったのか…

 

縄で腰に巻き付けられているこの瓢箪が神便鬼毒酒なのは間違いないだろう

 

が、なぜここにあるのかも分からないし、巻き付けた覚えもない。

 

「毒噴射っ!」

『アア"ぁ!』

 

極めつけはこの鬼の強さだ。

喋れてはいないが知性はあるのが、俺の出した毒波を棍棒で易々と振り払った。

しかも、力が今までであった呪霊の中で過去一に強い

 

毒の効かない知性ある何一つ嘘のない噂通りの鬼

 

(っ!)

 

加えて時間を掛けて術式を組まないと強力な毒を作れない俺

 

「ガぁ…っ!」

 

両腕クロスして防いだが、鬼の拳をもろに喰らってしまった

 

その殴りに勢いよく後退した俺は、後ろの木に叩きつけられる

 

「ごほっ、ごほっごほっごほっ!」

 

背中から響く衝撃に内蔵が悲鳴を上げた。

そして脳も頭蓋骨の中で震えたのか、意識もあやふやになってしまった。

 

しかし、視界だけはブレながらも正常に働いている。

 

鬼がこちらに近づいているのは見えていた。

 

「く、くそ…っ!」

 

祖父とは違う圧倒的なまでの暴力

 

逆らうとかそんな話ではない、一撃一撃が死に直結する

 

加えて、手足の痺れから体が自由に動かせないことから、このままでは死んでしまうと理解してしまった

 

「く、来るな…っ!」

 

混濁する意識、まともな思考が働かない。

感情だけが働き、体を恐怖が包む。

子供のような抵抗に、俺は近くにある小石を投げつけた。

 

取りあえず逃げなきゃ…!

 

這いつくばってでも鬼から距離を取るが、あからさまに鬼の歩みの方が早い。

 

「来るなよ…っ!」

 

地鳴りのようになる足音は死までカウントダウンのようだった。

しかもそれが恐怖を煽っていくる。

 

「…っ!」

 

俺を影で覆うほどの巨体を前に、俺はこんな小石を投げる行為は無意味だと改めて理解させられた

 

圧倒的な無力感

 

でも俺に出来るのはなにかを投げることしか出来ない

 

来るなっ!最後の抵抗でそう叫ぼうとしたら、肘が神便鬼毒酒へと当たった。

 

「…これでもっ、喰らえっ!」

 

だからそれはただの思い付きだった。

今を生きるための選択だった。

これ以上どうしようもなかった。

 

俺は特級呪物『神便鬼毒酒』の入った瓢箪の栓を抜き、鬼へとぶん投げた。

 

瓢箪は鬼の体に当たり、地面へと神便鬼毒酒を溢す。

 

瓢箪を掴み取らない辺りこんなのでは鬼の気は引けないか、と思ったのもつかの間…

 

『ア"…アぁ…っ!』

 

鬼は獣のように地面へ浸透しない神便鬼毒酒を啜り始めた。

 

その姿に鬼としての尊厳はない

 

呪霊自体にそもそも羞恥心なんてものがあるのか疑問の余地はあるが、集中している今がチャンス

 

俺は痛む体を抑え、その場から逃げようとした

 

グチャ、バキっ、グチェっ

 

が、突如聞こえてくる生々しい血肉の音

 

(なんだ、これっ……体が…震えるっ…?)

 

この感覚、覚えがある。

 

今まで感じていた恐怖による身の震えと同じ。

 

だけど、その濃度は祖父やさっきの鬼とは明らかに格が違う。

 

(後ろで…何が起きてるんだ…っ!?)

 

振り向けない、振り向いたら最後、息つく間も無く死ぬと確信してしまう。

血肉が鳴り止むと同時に、声が辺りを包んだ、

 

 

 

「あ、あー、呪霊の体やけどぉ、肌で風を感じるのは心地えぇねぇ~」

 

 

 

 

俺はゆっくりと振り向いた

後ろにいる化け物がどんなやつか確かめるために振り向いた。

 

…見覚えがある

 

150cm並みの小さな身長

鬼特有の頭に生える2本の角

人間ではあり得ない肌の異様な色白さ

 

頭に浮かんだ名前は『酒呑童子』

 

彼女は恐怖から直立不動となった俺に近づいて、少女らしからぬ笑顔でこう言った

 

「あんたはんが、封印を解いてくれはったんやね?」

 

…俺は間違えた。

 

「おおきになぁ、」

 

こいつは両面宿儺同様、野に解き放ってはいけない類いのものだ。

 

「お陰で狭苦しいところから出られたわぁ」

 

こいつが社会に解き放たれたら最後、人間社会は跡形もなく消える。

 

「お礼にうちが自ら…」

 

再度言おう、俺は間違えた。

 

「あんたはんを、殺して上げるわぁ」

 

fgoで言う所の属性が悪の酒呑童子を、この世界に現界させてしまった。




主人公はトラウマと前世の記憶から、人と話すときは敬語になる設定です、

一人の時は影響されるのが前世だけなので男的な自我が優先されます。

なお、現在の主人公は自身の失敗から強制力ない縛りをかけてしまい、自我が薄くなっています。

次回は狂気的な主人公がみれるのでお楽しみに

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