ありふれた職業は零でも世界最強   作:うぇいうぇい

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零原作の少なさに悲しみを禁じ得ない

僕はもう疲れたよパトラッシュ……


ユエとミレディが出会ったら 2

 

 

 ハジメ達がどうにか収まり、茶会の準備が終わった。

 

 大きく丸いテーブルは、ハジメの目から見ても、欧風の円卓と言って差し支えない大きさだった。

 

 それもそのはずで、解放者六人と、現代トータス組五人の計十一人も居るのだ。

 かのアーサー王の円卓もかくやという人数だろう。

 

 さてお茶会を……という所でオスカーが、何か忘れていたものを思い出したかのように手を叩いて、ポケットから取り出したそれをナイズに手渡した。

 

「む、これは……何かの入れ物か?」

「スーシャちゃんとユンファちゃんからだよ。二人も、君にお守りを作ったんだ」

「そうなのか……」

 

 ちなみにこのお守りだが、ケースはルースが錬成したものだ。その中身は手作りらしいのだが、内容物*1をオスカーがそれとなく伝えると、ナイズは恐怖した。

 

 茶会は、波乱の中でも進んでいく。

 

「おい、確かアビスゲートとか言ったな?」

「うん、もうそれでいいよ……んで、ヴァンドゥルさんだったか」

「普通にヴァンで構わん。……それより、貴様のその存在の希薄さ、とても人間とは思えんぞ。今も気配を薄くしてるだろう」

「……これ、生まれつきっす。別に隠形してたりも、アーティファクトも使ってないっす。昔から、親とか先生にも忘れられるくらいなんで……」

 

 遠藤お得意の自虐ネタで、茶会が静まり返った。ヴァンドゥルらの目が暖かい。

 

「……アビィちゃん、さっきから忘れててごめんね」

「……自分も長く一人で居たが、忘れられるのは心底同情する」

「常に放置プレイ状態……なんて羨ましいんですの」

「リュー、黙りなさい」

 

 この樹海に来る前と比較しても、随分と大所帯になってしまったものだとミレディは苦笑する。

 

 樹海潜入の直前に仲間に加わった規格外な神代魔法使いで、やる事なす事が鬼畜なやべぇ奴こと、ハジメ。

 そのハジメの正妻を公言し、かつ自分を優に超える魔法の使手である吸血鬼族のユエ。

 竜人族だが、あまりの変態ぶりにミレディも真顔にならざるを得ないハジメの嫁、ティオ。

 規格外な〝作農師〟で同じく、ハジメの嫁、しかし自分と同い年かそれより下にしか見えない見た目の教師、愛子。

 そして、Gが友達の外見詐欺な変態女王ことリューティリス。*2

 

 いずれもあまりに個性的過ぎて、そろそろカオスどころでは済まなくなってきているが……

 

(皆がいれば、きっと神に辿り着ける。不可能が着実に可能へと近づいていっている……そんな、気がするよ、ベル)

 

 口元を綻ばせて、来たる神殺しへと思いを馳せる。それが、絶対に叶うだろうと信じながら……

 

 

 しかし無情にも、嵐の前の静けさは、唐突に終わりを迎えた。

 

 

「……チッ、そう来やがったか」

 

 席からいきり立ったハジメは、顔を顰めて毒づいた。ミレディも「へ?」と、ハジメの方を見て……

 

 

「「「「「「──!?」」」」」」

 

 六人が一斉に、金縛りにあったかのように硬直した。

 

「この魔力……間違えようもない。神の使徒じゃ」

「……私としたことが。完全に油断してた」

 

 ミレディ達が驚き動きを止める中、ティオが大樹の方へ視線を向けて、忌々しげに、樹海を侵す者の存在を告げた。それと同時に、リューティリスが悲鳴じみた声を上げる。

 

「そんなっ、有り得ませんわ!?」

 

 その瞬間、霧が跡形もなく消え去った。

 

 それは、樹海を護っていたはずの〝霧の結界〟が失われたことを意味し、これまで獣人族側にあった優位性も無くなったということ。

 

 ハジメは、上空で旋回させて待機している〝オルニス〟からの視覚を見ると、西の戦場平原には、既に教会と連邦の連合軍が大挙として迫ってきているのが確認出来た。

 

 最初から、この一連の流れを仕組んで居たらしい。

 

「バトラムの分体から報告だ。樹海全体で霧が消えて、おまけに総攻撃が開始されたらしい」

「なんだって……!?」

 

 驚きと焦燥に駆り立てられるオスカー。神の使徒の攻撃と、軍隊の侵攻……あまりに出来すぎた展開だ。四面楚歌の状態に、ミレディらは慌て、リューティリスは動揺しつつも、大樹の方へと向かおうとしている。それらを、メイルの一喝が押しとどめた。

 

「しっかりしなさいっ、貴方達! 不測の事態なんていつものことでしょう!」

 

 張り上げられた声は、ミレディ達の頭を冷やすのに足る程に耳から深く伝わっていた。一呼吸おいて、改めて状況の整理を行う。

 

 向かうべきは、神の使徒の居るであろう大樹と、大勢の敵勢力が集まる外の平原。

 

「大樹には、私とハーちゃんとユエちゃん、リューちゃんで行く。ナイズとメイルは普段通り、負傷者の救出と治療を頼むね」

「愛子は木々を操って樹海を防衛しつつ、余裕があればナイズ達に支援をしてくれ。オスカー、ヴァンドゥル、ティオ、遠藤で、俺達が来るまでの時間稼ぎだ。……いけるな?」

 

 全員が頷き、各々動き始める。

 

 一つは、外から来る連邦及び教会戦力に立ち向かう、ティオとヴァンドゥル、オスカーのコンビ。

 二人は既に竜化していて、浩介がティオ、オスカーがヴァンドゥルの上に乗っている。

 

「……先の戦場では、お前の戦い方を見る事は叶わなかったからな。噂には聞いていたその手並みとやら、是非とも拝見させてもらおう」

「ほほう? 妾も侮られたものじゃ。良かろう。空の覇者はいずれにあるか、ここで明確させておかんとのう」

「フッ……掛かって来るがいい。易々と空は渡さんぞ」

「……二人とも、さり気なく僕を除け者にしないでくれるかい?」

「……では行くか」

「うむ。行くかの」

「僕を無視しないでくれるかい!?」

「……オスカーさん。これで俺の心の痛さが分かっただろ?」

「分かりたくなかった……!!」

 

 オスカーが弄られるという滅多に無い機会がありつつも、四人は戦場へと飛び立っていった。

 

 そして一つは、ナイズとメイル、愛子の支援メンバー。

 ナイズの空間魔法を通してメイルの再生魔法を戦場へ届ける他、重傷者を転移させ、メイルに集中治療させたり、擬似守護杖を持つ愛子が森全体を把握する事で、負傷者を炙り出す。樹海戦力の継戦能力を支える重要な役回りだ。

 

「お二人のお役に立てるかは分かりませんが、精一杯やらせて下さい!」

「いいのよ。寧ろ、愛子ちゃんはいるだけで効果を発揮するわ!」

「……メイル、愛子は一応人妻だぞ。それくらいにしておけ」

「でも、ナイズくんもこれくらい小さなお嫁さんが二人も居るのに、酷いわ。他人には強制して、自分とハジメくんだけ可愛い子を好き放題だなんて……」

「おいバカやめろ、ハジメに殺されるぞ……!」

 

 愛子の目が死ぬ。

 分かっている。分かってはいるけども、やっぱり思わずには居られない。

 

「どうせ自分なんか、ただの見た目詐欺のエセ社会人ですよーだ……」

「「!?」」

 

 もうアラサー(二十九歳)なのに、未だに容姿の変わらない自分。

 リリアーナでさえ大人の色気が出始めて、小学生のミュウは自分の身長を追い越さんとばかりに急成長している。

 

 まだ後ろを見れたはずなのに、今は皆の背中を追う事もできない。

 

 ……とてつもなく、悲しいものがあった。

 

「子供の成長は……なんだか、寂しいですね。ふふっ、親心でしょうか……あはっ、親、もう親になっていい様な年齢……変わらない身長……あははっ」

 

 この様な変局であるというのに、トラウマスイッチがオンになる愛子。

 

 まあまあとナイズとメイル二人がかりで宥めつつ、三人が持ち場へと転移する。

 

 最後に、一つ。ハジメ達の使徒撃破部隊。

 大樹に起きた異変と、大樹地下に現れた使徒の対処を受け持つ。

 

 防衛の要たる大樹の霧生成能力を復活させる為の、最重要部隊と言えよう。

 

「私達は大樹に向かうよ。ハーちゃんとユエちゃんは、一旦使徒の相手をしてくれるかな? 私が隙を作って、ナっちゃんで戦場の方に転移させる」

「別に殺してしまっても構わなくないか?」

「……ん。道理」

「え、えぇ……?」

 

 それを聞いたミレディは引き攣った顔で答えた。

 

 それフラグでは……と思いつつも、こんな二人に絶対にそんなものが起きる気がしないので、尚更引き攣った顔が戻らない。

 頼もしいのだかなんだか……ミレディは不安になった。

 

「そりゃあ、殺れそうなら殺っちゃっていいけどさ。派手に暴れないでね?」

「善処はしてやる」

 

 明らかに頑張らなそうな発言をすると、ユエが転移を発動させる。

 

 視界が切り替わる。しかし、目の前に見えるのは巨大な樹の壁。玉座の間に飛ぼうした筈が、大幅に転移する位置がズレていた。

 

「……魔力レベルで干渉を妨害された。これ以上は転移で進めない」

「それは、恐らく大樹の防衛能力ですわ……しかも守護杖の能力も制限されていますわね」

 

 苦々しい顔で宣言すると、目の前の大樹は徐々に地面に沈下して、青々とした木の葉ごと、段々と弱り果てていく様子が傍目からでも分かった。

 

 ここから大樹の〝要〟への直通ルートに向かうには、玉座の間を経由するしかないと伝えられる。一刻の猶予も無い為、ミレディが重力魔法を行使し空へと落下した。

 

 玉座の間のテラスに到着すれば、宰相パーシャが配下に指示を飛ばしていた。リューティリスは彼女に国民の避難を任せると、去り際、チラリとハジメの方にパーシャの視線が動いた。

 

 ──陛下を頼みますじゃ

 

 そう言われた気がして、ハジメが肩を竦める。

 

 パーシャには、その反応だけで充分だったらしく、僅かに微笑んで、やがて目線を戻した。

 

 全員が玉座の元に辿り着くと、リューティリスが杖を振るった。木の枝で出来た玉座が解けていき、やがて、真ん中に大きく縦穴の空いた螺旋階段が現れてくる。

 

「時間が惜しいですわね……ミレディ、ユエ、お願いしますわ」

「オッケー! 行くよ」

「ん……飛ばしていく」

 

 空いた縦穴に飛び込んで、重力魔法で落下速度を急激に加速させる。その間にリューティリスが空中で杖を用いて、更に下の木の扉が解けて、更に地下へ地下へと落下していく。

 

 重力魔法で全員を着地させると、そこに広がる、一面が黒い鉱石と木の根で出来ていた小さな空間に、ハジメが真っ先に反応した。

 

「こりゃあ、アザンチウムと封印石を融合させた壁材だな。大樹のおかしなまでの耐久性も相まって、並の攻撃じゃ壊せない筈だが……〝分解〟には勝てなかったか」

「……あれは異常だから」

 

 しょっちゅう、香織に分解されまくっているユエが嫌な顔で言う。

 

 〝分解〟なんてこの世から消えてしまえばいい……と

 

「行きますわ! お覚悟なされませ──!」

 

 リューティリスの杖が振られる。最後の封印は、ダンジョンのボスと戦う前の扉のように、音を立てて開く……

 

 ……かと、思われた。

 

「…………そんな、まさか」

 

 扉はピクリとも動かず。周りにしっかりと根付いていた木の根に、ピキピキッと多くの亀裂が入り、瑞々しさを失っていく。

 

「樹が……死んでいく」

 

 張り詰めた様な声で、ユエが零す。

 この状況を最も如実に表していた。

 

 リューティリスの守護杖が反応しなくなったのも、既に大樹が死んでしまったから。それを悟ったミレディらの顔が一気に青褪めた。

 

 最悪の事態が起こっていることは間違いない。

 かつてないピンチに、ミレディも頭が真っ白になってきて……

 

(……落ち着け、ミレディ・ライセン。状況を呑み込め。策を考えろ)

 

 隣で焦燥の欠片も見せないユエや、既に錬成によって穴を開けようとしているハジメの姿が目に入って、自分がどれだけ危うい状態かを自覚した。

 

 リーダーがこんな体たらくでどうするんだ。

 

 冷静になれと自分に言い聞かせて、両頬をパチンッと叩く。

 

「ハーちゃん、今やってる錬成、この扉の壁ごと全部を取り外すみたいにできるかな。多分、使徒は複数体いる。狭いところで連携されたら厄介だ」

「ハッ、簡単に言ってくれるな」

 

 最高峰の錬成難易度だ。大樹本体の、神代魔法すら弾く強力な魔法耐性を破るというのだから、オスカーですら小さな穴一つ空けるのに苦心する事だろう。

 

 だが、その稀代の錬成師をも超えたという自負のあるハジメは、そんな無理難題を引き受けた。

 

「一分は掛けない、四十秒で終わらせてやる──〝錬成〟」

 

 紅の奔流が渦巻き、ハジメの魔法陣が壁全体を覆った。

 

 壁が形を変え、ぐにゃりと触手のように捻じ曲がってハジメの方へ集まっていくと、それが片っ端から〝宝物庫〟に収納されていく。

 

 それと共に、眩い光と途方もないプレッシャーがその身に降りかかった。

 

 ミレディでさえ呻きを上げてしまうそれに、一度も使徒と対峙した事の無いリューティリスは、ふらりと姿勢を崩してしまった。

 

「リューちゃん!? だ、大丈夫?」

「……大丈夫ですわ、ご迷惑をお掛けしました」

 

 にこやかに笑みを浮かべるが、顔は強ばっているし、杖を持つ手は震えている。

 

 普段は昇華魔法による後方支援が主で、前線に出るような事はしないのだ。無茶は明らかだった。

 

「……足手纏いはいらない。引くなら今のうち」

 

 突き放すような言葉は、ユエなりの優しさか。紅の瞳に問い掛けられたリューティリスは、それを叱咤激励と捉えたようだ。

 

「いいえ。ここは無理を押し通してでも、皆様と共に。女王はただ護られるだけの存在ではありませんのよ?」

「……なら、いい」

 

 暗に、自分の身くらい自分で護る、と覚悟の姿勢を見せつけられたユエは不敵に笑い、やがてハジメに視線を向けた。

 

 ユエからの謎の視線を受けたハジメだが、それがどういう意図なのかを測りかねつつ、あ〜、と意味もなく声を出して、

 

「何があろうと、お前に危害が行くのだけは防いでやる。……まぁ、なんだ。お前は何があっても、女王らしくしゃんとしてればいい」

 

 そう言って、リューティリスの頭をポンポンと撫でる。

 

 ぶっきらぼうな言い方ではあったが、ハジメの庇護というのは、それだけで強烈な安心感を伴う。

 

「……ありがとうございます、ハジメ様」

 

 全く慣れない呼び方をされて、頬を掻きながら、おう、とハジメが返せば、リューティリスもはにかんだように微笑んで、耳をピクピクと嬉しそうに揺らした。

 

 戦闘前だというのに突然流れ出す甘い空気に、ミレディがどんよりとジト目で睨む。

 

「……ハーちゃん、空気感考えてよ」

「いやなんでだよ。至って普通の事言っただろうが」

 

 意味分からん……と納得できなさげに眉を顰めていると、ハジメの手に集まる金属が潰えた。ついに全ての壁が剥がされたようだ。

 

 しかし今もなお、要のある部屋は銀の魔力光に包まれていて、目をやられそうになる。

 

「ボサっとするなよ。ここからは、簡単に死ねるぞ」

 

 ハジメの低く締まった声が、その場の全員に喝を入れた。

 

 ミレディとリューティリスが力強く頷き、二人と共にそこに足を踏み入れよう……としたところで、ハジメが「あー……」と、気まずそうに声を漏らした。

 

「……まあ、ああは言ったが、俺達が居るからには、死にやしないさ。安心しろ」

「……ん。死んでも私が復活させる。安心して肉壁になるといい、ミレディ」

「いや安心出来る要素皆無!? 毎度ながらミレディちゃんの扱い酷くないかな!」

「ふふっ、つまりユエさんに頼めば、永遠にご主人様からの苦痛を受けられる訳ですわね……素晴らしいですわ」

「やだよぉそんな苦痛……」

「……残念だけど、変態に使う魔法はない。シッシッ、あっち行って」

「んふっ……!?」

 

 空気感また崩れたぁ……と呆れると共に、そんなノリにある種の安心感を覚える。

 

 私達なら、きっと勝てる。

 

 その思いを胸に、気合いを入れ直す。

 

「みんな、行くよ」

 

 全員が頷く。ゴクリと生唾を飲み込んで歩みを進めると、閃光が止む。

 

 ……そして、地獄を見た。

 

「「「来ましたか」」」

 

 並び立つ、神の使徒。比類なきまでの圧倒的な美貌と能力を持つ、主の命令を遂行する為だけに存在する心無き者達。

 

「使徒が……三体」

 

 これまで、使徒は呆れるほど現れたし、ミレディはその尽くをユエと共に圧殺してきた。

 

 だが、この三体は、これまで戦ってきたものとは別物の風格を備えていた。

 

 以前対峙した使徒エーアスト、それを超える力を感じて、身震いしてしまう。

 

「一人では分が悪いだろうと、主より神の使徒〝ツェーント〟と〝エルフト〟の増援を頂きました。本来、斯様な事態は起こりえませんが、これは新たなるイレギュラーを排除する為の特例……主によって、貴方達は主の遊戯の余興として認められたのです」

 

 神の使徒があれこれと喋る中、ミレディは怒りと緊張を抑えつつも、周りの様子をよく観察していた。

 

 神の使徒達の後ろに、大きく空いた巨大な穴があり、そこから侵入してきたのだろうと予想が付けられる。そして、中央の樹海の核……そこには、要となる何かがあったのだろう。神の使徒により完膚なきまでに破壊し尽くされ、消え去ってしまっていた。

 

 その視線に勘づいて、神の使徒は思い出したように付け加えた。

 

「少々遅かったようですね。既にこの大樹の核は破壊させて貰いました。別段、優先すべきものではありませんでしたが、盤上を盛り上げるには邪魔でしたので」

 

 遊戯の邪魔だった。ただ、それだけの理由で破壊されたのだ。

 

「……今、何とおっしゃいましたか」

 

 怒らないはずがない人物。顔を俯かせて、手に血が滲む程強く握り締めている。

 

「……少々遅かったようですね。既にこの大樹の核は破壊させて貰いました。別段、優先すべきものではありませんでしたが、盤上を盛り上げるには邪魔でしたので……と言いましたが」

 

 敢えて狙ったのだろうか。

 

 淡々と、言っている事を繰り返しただけなのに、それが酷く嫌味ったらしかった。

 

 神の使徒に感情は無いはずなのに、嘲笑われているような、見下されているような、そんな感覚を覚えていた。

 

 ミレディとて、歯を食い縛らずにはいられない。ドス黒い感情が心を覆って、形振り構わず〝黒天窮〟をぶつけてやりたいと思った。

 

 だが、ミレディよりも辛く、そして憤りを抑えられない人物は、ここにいた。

 

「……よくも、そんな理由でこの大樹を殺しましたわね……わたくしの、わたくし達の国の希望をっ!!」

「リューちゃんっ、ダメッ!!」

 

 リューティリスはかつてないほどの怒りを覚えていた。杖を構えて、神の使徒を強く睨みつけると、ミレディの制止も聞かずに、単身でそこに突っ込もうと歩み始める。

 

 神の使徒が大剣を構えた。リューティリスは、己に昇華魔法を重ねがけし、魔法を放とうと杖を向けて……

 

「待て、リューティリス」

「!?」

 

 頭に軽くない重みがのしかかった。それはとても温かく、大きなもの。数回往復するように撫でられて、自然と歩みが止まる。

 

 彼女にとって、それは今ある激情を鎮めさせる特効薬だった。

 

「……俺の言葉、忘れたとは言わせないぞ」

 

 刹那、真ん中にいた神の使徒の姿がリューティリスの目の前に現れた。

 

 振り下ろされる大剣に反応しきれず、あわや……という所になって、ハジメはドンナーで受け止めた。同時にヤクザキックで後方に勢いよく吹き飛ばされると、ハジメも紅い光を纏いながら追撃した。

 

 ドパンッという炸裂音と、カキンッという金属音がなりながら、狭い空間を紅雷と銀光が駆け巡る。それと同時に、二体の神の使徒も動きを見せて……

 

「そうはさせないよ」

 

 右にいた使徒が、目の前のリューティリスに飛びかからんとしていたのを、横から割って入ったミレディが重力球を手のひらに生成し、大剣と鍔迫り合いをする。

 

 神の使徒が、口を開く。

 

「主は望まれた。〝ミレディ・ライセン。汝が死してなお、人は集えるのか。見てみたい〟と」

「へへっ、残念だけど、こっちには死んでも死なせてくれない仲間がいるからね〜。殺すのは無理だと思うよぉ?」

「……では、復活もできぬよう、微塵も残さず消し去るまでです」

 

 お互いが弾かれ合うと、使徒は銀羽を、ミレディは重力球を放ち、部屋の外にある大樹の空間で空中戦をし始める。

 

 ミレディが右の使徒の一撃を受け止めていた一方で、左の使徒はユエと対峙していた。

 

 こちらも神速の攻撃でケリをつけようとしていた。だが、頭蓋を割断すべく高速で迫ってきた大剣を、ユエは躱しはしない。

 

 なぜならその剣は、ユエの額すれすれで止まっていたから。

 

「っ、な、なぜ……」

「──〝大神剣〟」

 

 神の使徒が右大剣を手放し、片方の左大剣を盾にしながら全力で回避する。

 

 しかし、ユエの手に現れた光の剣は、大剣をすり抜けて右腕を斬り飛ばした。

 

 ──光・重力・空間・魂魄複合最上級魔法 大神剣

 

 光属性最上級〝神威〟を重力魔法で集束、空間斬撃と魂魄の宿る身体のみを認識して物質を透過するよう属性が付与された、防御不能の魔法剣。かつてエヒトが使っていた魔法を、自分なりに改良したものだ。

 

 近接戦闘が不得意、などと言っていた過去の自分は既に無い。こちらの間合いに入った時点で、武器は空間ごと固定され、自分に辿り着く事は有り得ないのだ。

 

 それにやろうと思えば、ユエは香織と同等レベルの双大剣術を披露できる。トータスから帰還後、香織とのキャットファイトが激化の一途を辿っているのも、これが原因の一つに違いないだろう。

 

 フッ、とユエは鼻で笑った。

 お前達のレベルは、とうに超えているのだと。

 

 それに対し、少し考え込む素振りを見せた神の使徒は、翼を大きく広げ、大剣を下段に下ろした。

 

「……なるほど。では、こちらも本気にならざるを得ないでしょう」

 

 溢れ出す銀の魔力。魔力の流入量上昇による擬似的な限界突破。

 

 戦争に駆り出した使徒は使ってこなかった事から、やはり目の前の個体が特別であることを認識した。

 

「神の使徒ツェーント。貴女を打倒する者の名です」

「……やってみるがいい、神の木偶」

 

 そして、両者が激突する。

 

 

 

 

 三者がそれぞれの使徒と鎬を削り合い始めた一方で、リューティリスは、自分のすべき事を全うすべく、魔法を展開していた。

 

(結局、皆さんに護られてしまった……わたくしは、愚かでしたのね)

 

 その愚かさを自覚してなお、リューティリスはここに立っていた。

 

 まだ、大樹の事は受け止められていない。この森の女王として守護杖を授かっておきながら、大樹を護り切れなかった事への後悔と、使徒に対する激しい怒りを胸に秘めながらも、いま自分には優先すべき事があるのだと悟ったからだ。

 

 何がなんでも、この手を止める訳にはいかない。

 

『お前は何があっても、女王らしくしゃんとしてればいい』

 

『俺の言葉、忘れたとは言わせないぞ』

 

 今も耳朶に、その言葉が響き続けている。

 

 自分が成すべきこと。自分がここに居る意味。

 

 自分もまた、彼らと手を取りあった、同じ〝解放者〟なのだ。仲間であると、胸を張ってそう言うには、時間も経験も覚悟もまるで足らないが、それでも、ここで立たなくてはならない。

 

(樹海の女王として……私は、この国を、民を、そして仲間を護るのです!)

 

「──〝禁域解放〟」

 

 守護杖のタクトを振り、静かに詠われたその魔法は、波紋のように拡がって、ハジメやミレディらの身体を包み込む。

 

 しかし昇華魔法だけでは、ただの支援。

 

 自分だけでは、多少の足止めにしかならない。

 

 ……友の力が、今は必要だった。

 

「行きなさい……ウロボロス!」

 

 その名を呼ぶと、彼らは大挙として現れた。

 

 黒の渦。鳴り止まない羽音。大蛇か、あるいは龍のような形を取りながら、彼らはミレディの対峙していた神の使徒エルフトに体当たりした。

 

「なっ──カハッ!?」

 

 数万、数億と折り重なった彼らの質量攻撃は、昇華魔法で強靭に進化した甲殻も合わさり、エルフトに血反吐を吐かせた。

 

 彼らの正体は、リューティリスの使役するゴキ――〝蠢動暗黒のウロボロス〟だ。

 

 リューティリスは、その高貴な身分と昇華魔法という特異性故に、幼い頃からずっと同族の友達が作れずにいたが、彼女は天職を持っていた。蟲心師という、虫と会話し心を交わす天職だった。

 

 なので、暇なときの話し相手は虫しかいなかったのだ。そうして、リューティリスはたくさんの友達を作っていった。

 

 その記念すべき話し相手一号にして、彼女と幼い頃から共にある親友。

 蟲心師と昇華の力で、異常なまでの進化を遂げたゴ〇ブリ。それが彼らウロボロスなのである。

 

「や、やめなさい!!」

 

 ウロボロスという思わぬ奇襲を受けたエルフトは、目の前に映る地獄絵図から逃げ出そうと、翼を広げて分解砲撃を放った。

 

 疎らに放たれた銀羽だが、即座に離散した事で被害を免れ、そして再集合し、縦穴に巻き付いた。

 

「あ、あれは……」

「あの様な大群を、どうやって……」

 

 既に戦場を巨大な縦穴の方に移していた使徒達は、大きくたじろいだ。これまで敵を相対して初めて、アレだけは相手にしたくない、という意志が湧いてきて、自然と目をそらす。自発的なエルフトの救出は諦めるようだ。

 

 ハジメもユエも、極力上を見ないようにしながら、苦々しい顔で頷いていた。

 

「ああー……そりゃあ、自衛できるわけだな、うん」

「……奴らを使役している時点で、リューティリスは無敵みたいなもの」

 

 だが、彼らは〝ウーちゃん〟である。敬礼をこなし、人との意思疎通はなんのその、そして礼儀正しく紳士な存在である。

 

 現代トータスの大迷宮にいる彼らの子孫……〝ウロボロス三世〟の事を考えれば、リューティリスの使役する彼らも寛大で礼節のある人格者なのだろう。

 それでも、あまり積極的に見たいものではないが。

 

「う、ウーちゃん!? えちょっ、待って視界の暴力ぅぅぅぅぅ!!」

 

 意味もなく逃げ回るミレディ。それでもエルフトから目を離していないが、当のエルフトは、ちょこまかと動いては腐食攻撃を仕掛けてくる彼らに悪戦苦闘を強いられていた。

 

 本来、ただの虫に嫌悪など抱くはずもない使徒だが、やはり彼らの見た目は、知性あるものからすれば不快感を催すものなのだろうか。

 

 一つ言えるのは、明らかに苦手意識というものが芽生え始めたこと。幾ら斬っても分解してもキリが無く、おまけに高度な判断力まで兼ね備えている。既に使徒の攻撃を学習し、慣れが生まれていた。

 

 このままではいけないと、エルフトは声を上げて救援を呼び……

 

「あ、アハト、ツェーント!! 手が空いているのならば、こちらの助力を────」

「いえ、こちらで手一杯ですエルフト」

「どうにか持ち堪えて下さいエルフト」

 

 盛大に拒否された。さっきまで攻撃の手を止めていたのに、慌ててハジメ達に大剣を振りかざした。結局見捨てる事にしたらしい。

 

「……ミレディ・ライセン、やはり貴女は生かしておけません」

「責任転嫁ってよくないよねっ☆ ──あばっ!?」

 

 エルフトが限界突破し、マッハを超える速度で斬撃が飛んでくる。

 

 なんとか、〝護天羽衣〟を眼前に展開して防げたものの、動きを捉えきれなかった。能力が数倍に上がるというのは、文字通り次元が違う。

 

 であるなら、こちらも強化するまで。

 

「使わせてもらうよ、ハーちゃん」

 

 〝宝物庫〟から呼び出した試験管の栓を親指で抜いてグビっと飲み干してから、ペンダントを首に着ける。

 

 ニヤリと口を裂いて、その力を口にした。

 

「──〝限界突破〟」

 

 蒼穹がミレディの周囲を染め上げ、〝絶禍〟と〝禍天〟の守護衛星が二つずつ、身体を守るように旋回している。

 

 銀羽はこの二種の衛星で完全に防御されており、ウロボロスの支援により攻撃を攪乱される。

 

 エルフトに、言い様のない危機感が募る。

 

 絶対強者だと思っていた自分が、追い詰められていくこの感覚を、認めたくなかった。

 

「チェックだ、神の使徒エルフト」

「っ……!」

 

 中指を立てるミレディに、エルフトは無言で風を切った。

 

 

 

 

 

「……ようやく〝チートメイトDr〟と〝ラスト・ゼーレ〟を使ったか」

 

 使徒と超接近戦を繰り広げる最中で、上空の魔力の気配を察知したハジメがそう独りごちた。

 

「他を気にする余裕があるのですか?」

「あん?」

 

 気が付くと、前にも後ろにも、使徒の大剣が迫っていた。

 

 サッと身をかわしてドンナー・シュラークで至近距離から連射する。

 得意のクイックドロウは、一発分の銃声でシリンダーの全六発分を、マシンガンの如く解き放つ。

 

 その破壊力を、左足の欠損という結果を以て知る使徒アハトは、ツェーントと示し合わせ、全力の回避行動に加えて、分解砲撃によって弾丸ごとハジメを消滅させようと動いた。

 

「チッ」

 

 だが、その寸前、ハジメを漆黒のシェルが覆いつくした、

 

 ハジメの持つ最大の防御手段、可変式大楯〝アイディオン〟。二十体以上の使徒の分解砲撃を食らっても耐える、折り紙つきの逸品だ。

 

 それが〝宝物庫〟に消え去り、無傷のハジメが現れる。余裕の表情で嗤っていた。

 

 二人掛かりでも打つ手なし。戦略を練ろうとする使徒たちだが、背後のほうで吹き荒れる魔力を察知して、翼を盾に受け身をとった。避けるには、展開された魔法の規模が大きすぎる。

 

 ならば分解を……と魔法を纏わせた直後、翼が、痺れるような、焼けつくような痛みに襲われる。宙に浮かんでいたが、殺到する衝撃に体を持っていかれる。

 

「まっ――」

 

 留まれず、押し切られて壁に叩きつけられる。

 

 土煙の向こうに見えたのは、意思を感じる瞳を持った雷の龍と、彼らの集合体と思われる〝人型〟*3を侍らせた二人の女性。

 

「……私に背を向けるなんて、いい度胸」

「わたくしも、嘗められたものですわね」

 

 ユエの雷龍が雄たけびを上げ、〝人型〟モドキが羽音を上げると、それぞれの使徒に肉薄する。

 

「邪魔です」

 

 ツェーントが雷龍に銀羽の波をぶつける。その箇所だけ雷が抉られたが、雷龍は捨て身で顎門を開き、ツェーントは招き入れられるようにその中に入り込んだ。

 

「くっ……!? ぬけ、出せ……な……」

 

 雷龍の開かれた口が閉じた瞬間、ツェーントは灰へと変わった。

 

 その様を傍で見ていたアハトが息を詰まらせるが、腐食の突風が降りかかり、目の前の存在に目を向けざるを得なくなる。

 

 風の魔法で形作られた双剣と、使徒の体をも溶解させる腐食息、極めつけには高速戦闘も可能とする素早さを兼ね備えた、ウロボロス達の集合体。

 

「虫如きが我等の存在を真似るなど……」

「ふふ、驚きましたか? 彼らは最古参の親友たち……子供の頃よりわたくしと共に成長し、力を分け与えてきた特別な存在でしてよ」

 

 つまり、幼馴染ですわ。と笑みを絶やさず答えると、アハトは言い知れぬ威圧感を感じて、僅かに体を後退させる。

 

 〝人型〟モドキの姿がブレると、風の刃が双大剣と衝突する。

 

 剣の打ち合いでは、風の分解も追い付かない。しかも、如何せん手数が多い。剣での対応に追われ、距離を離す暇が見付からない。

 

「これでも……っ!!」

 

 それでもアハトは隙をみつけ、宙で鋭角ターン。分解の銀羽を牽制に散らし、視線の先の人物を捉える。

 

 それは、彼らウロボロスを使役する本体──リューティリス。

 

 本体はさして強くはない。これまでの戦争でも護られていた事からそれは明らかだ。

 

 再び音速の世界に突入したアハトは、斜め後ろからリューティリスに奇襲を仕掛けた。邪魔さえ入らなければ、魔法を使おうと、この時点で対応はできまい。

 

 その時、リューティリスと不意に目が合った。

 

 僅かに動揺する。しかし、ただの紛れだろう。アハトはコンマ1秒にも満たない時間に判断し、分解の一閃を繰り出した。

 

 ……繰り出した、筈だった。

 

「……まさか」

 

 幾重もの大樹の壁に、大剣は阻まれていた。

 既に、攻撃を仕掛けるべく突進した時点で、リューティリスの立つ地面……大樹の根は蠢いていたのだ。

 防御の準備は、アハトが留めの一撃を差そうとする前から始まっていたということ。

 

「っ、この!」

 

 食い込んだ両大剣は、分解魔法により容易く抜き取れた。しかし食い込んだ、という隙は大きなものだった。

 

 背後から五本、鋭利な根がアハトの体を突き刺して、ダメ押しとばかりに光属性の拘束魔法で縛られる。翼では分解できない。

 

 手詰まり。

 アハトの出せた結論はそれのみだった。

 

「いくら目に見えない速さとて、どこに、どのように攻撃してくるのかさえ解れば、防御できぬ筈も無し……攻撃そのものは単調ですから、非常に読み易かったですわ」

 

 柔和な笑みは絶えない。

 

 アハトは、言い知れぬ威圧感の正体を知る。

 

 いや、威圧感ではない。自分が単にそう感じているだけ。

 

 彼女自身に強さは無い。ただ、自ら恐れているだけなのだ。

 

 明確な、恐怖の感情だった。

 

「なぜ……」

 

 その疑問は、リューティリスに向けられたものだったのだろうか。はたまた……

 

 だがリューティリスは、それを『なぜ予測できたのか』という質問だと考えて、やはり微笑んだまま答えた。

 

「わたくしは指揮官なのですから、敵を具に観察し、分析するのは当たり前でしょう?」

 

 すべき事は終えた、とリューティリスが身を翻すと、アハトの心臓を大樹の根が穿いた。

 

 だらり、と腕が垂れる。

 

「結局、俺が護るまでも無かったな」

「ん……流石は〝解放者〟。初めて戦地に出たのに、神の使徒にまで対応してみせた」

「まぁ、それもそうだが……あの〝人型〟っぽいのを作るよう教えたのはユエだろうに」

「……ユエ先生は、教え子の指導に余念がないのです」

 

  そんな事を言ったからだろうか。

 勝手に教え子にされたリューティリスとは違う、本来の教え子の方も、遂に決着をつけようとしていた。

 

「──〝黒天窮〟!!」

 

 使徒エルフトが漆黒に呑まれて圧縮されていき、苦悶の声を上げて無に還ってゆく。

 

 苦しさのあまりか、恨めしい視線でこちらを睨んでいるようにも見えるその顔に、思いっきり口角を上げて、中指を突き立てた。

 

「ミレディ・ライセンが告げる────チェックメイトだ」

 

 渦が全てを呑み込み、その断末魔も無に消えた。

 

 最後まで見届けたミレディは、わざとらしく汗を拭いながら地面に下りてきた。

 

「ふぃ〜、手こずったぁ〜……お、リューちゃん! ハーちゃん! ユエちゃん! そっちも終わった?」

「ええ、無事に終わりましたわ、ミレディたん! ……親友たちも、助力に感謝致しますわ」

 

 蛇となっていた彼らの大群が、一斉にササッと動いた。よくよく見ると、一体一体が壁に足を引っ掛けながら敬礼をしている。〝人型〟モドキとなっていた者も、地面で綺麗な直立姿勢で右腕を挙げていた。

 

 だが、彼らはしきりに触角を動かして、何かを伝えようとしている様子だ。リューティリスはうんうんと首を頷かせ、 まぁ! と喜ばしそうに感嘆した。

 

「更に力をお貸ししてくれると? 嬉しいですわ!」

「う、ウーちゃんの助力ね……うん、多分かなり、活躍してくれるよ! うん!」

 

 ただ、そこに居るだけでもかなりの影響力をもたらす彼らの助力は、猫の手も借りたいミレディからすれば僥倖だ。

 

 ……視界には、あまり入ってこないで欲しいが。というか、じっと座っててもいいよ。マジで。

 

 そんな本音を包み隠すように、自然な流れで彼らから目を逸らした。

 

 逸らした先に見えたのは、大樹の核があった部屋。

 

 神の使徒をまたも打倒したという興奮感が凪いでいった。

 

『少々遅かったようですね。既にこの大樹のは破壊させて貰いました』

 

 先程の一幕を思い出して、奥歯をギシ、と強く噛む。

 

 ……守れなかった。

 

 もう少し、行動が早く取れていれば、助けられたかもしれないのに。

 

 守れなかったのだ。

 

 ……自分の、せいで。

 

「リューちゃん……その、大樹の事は、全部私が原因で」

「……ミレディたん」

 

 こんな情けないリーダーに、叱責や罵倒の一つもあるだろう。それが何なら、殴られる事も覚悟していた。

 

 それを、リューティリスは優しく受け止めた。

 

「良いのです。これは、元はと言えば、大樹の守護は、この国の女王たるわたくしの責務。それを果たせなかったのは、わたくしです。何より、あの敵……神の使徒は、我らでは抗いきれぬ存在。〝解放者〟の皆様が居なければ、ここで民草諸共、我が国は滅んでいた事でしょう。感謝こそすれども、糾弾など致しませんわ」

 

 瞼もギュッと瞑って、後ろめたそうに顔を逸らした。

 

「それでも……私は自分が許せない。だから、戦わないと」

 

 そう言った直後、ミレディが纏っていた蒼穹の魔力が儚く消え去った。〝ラスト・ゼーレ〟による〝限界突破〟、その効力が失われたのだ。

 

 急激な力の喪失と脱力感に、ミレディが片膝を突いた。

 

「そこまでにしておけ、ミレディ。〝限界突破〟をした以上、すぐ動くのは無理だ。後は俺達が片付けるから、お前はここで休んでいろ」

 

 そう言って試験管入り回復薬を投げ渡し、ハジメはミレディに背を向ける。

 

 ミレディの瞳が揺れた。大人しく、待っていろと言うのかと。

 

 それだけは嫌で、ミレディはハジメに反駁した。

 

「で、でも、まだ外は戦闘が広がってる。私だけ休んでる訳には……」

「今のお前じゃ、数打ちの神の使徒とも戦えないだろ。そんな状態で行ったって、いい的だ」

 

 正論だった。通常のままならまだしも、弱体化しているまま戦おうだなんて真似は自殺行為と言える。それはミレディの頭でも理解していた。

 

 理解は、しているのだ。

 

 認めないのは、〝解放者ミレディ・ライセン〟の本能と信条なのだから。

 

「それでも私が……リーダーの私が戦わなくてどうするんだっ!!」

「……ミレディ」

 

 ハッと、諌めるような声で名を呼んだ人物の方を見やる。

 

 頭に手を置かれて、そっと抱き寄せられると、優しい口調で

 

「……戦うのは、後ででいい。今は少し休んで。……ただし、絶対に来ること」

「え、ええと……?」

「……私はユエ。ミレディが相手なら、どんな容赦も捨てられる女。休んだまま来なかったら……私が全力で潰す」

「容赦はして!? あと。なぜか私が休む前提になってるんだけど……」

 

 む、と口を一文字に結ぶと、咳払いして重力魔法の黒玉を掌に出現させた。

 

「……因みに休まないまま来たら塵も残さず消す」

「ちょっと理不尽じゃないかなぁ……」

 

 塵も残さず、となれば思い当たる魔法は〝黒天窮〟のみ。

 

 絶対にやられたくない死に方トップ5には入る惨さがあるので、ミレディとしても遠慮願いたいところ。

 

 顔を引き攣らせながらも、ミレディは大人しく諦める事にする。

 

 それに、彼らには任せるに足る理由がある。

 自分が居ない時に、任せられるという確信があるから。

 

「……頼んだよ。ハーちゃんもユエちゃんもリューちゃんも、私は信じてる。だから、他の皆を助けてあげて」

 

 三人の頷きに、ミレディも笑顔で返す。

 

「あっ、でもでもぉ〜、十分に回復したら行くから、それまで最強の敵は倒さないように! そいつは真打の私が華麗にやっつけてやるからね☆ そこんとこ、よろしくぅ!」

 

 それから調子を取り戻したのか、ミレディはいつものようにうざったい笑みをして、三人にビシッと人差し指を差した。

 

 三人が苦笑しながら、転移で消えていく姿を見送りつつ。

 

「……待っててね。直ぐに行くから」

 

 

 樹海の決戦は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

 

*1
幼女姉妹スーシャ・ユンファの愛が籠った髪の毛

*2
「あの、俺は? ……うん、知ってた。いつもの事だよね、ハハッ」

*3
かつてハジメ達が挑んだハルツィナ大迷宮の最終試練にて初登場した最強のG。トータス旅行記㊷〜㊹より再登場する。




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